華麗なる新文化-8 全国行脚
本当に久しぶりというか、一年ぶりくらいに顔を見た気がする。
ここ食事処金剛、その閉店間際にマコーミックが来店した。
商会の若い衆5名を引き連れて、だ。
「なるほどそうですか。しかし、まだ問題は多く残っているのではありませんか?」
「さすがはマコーミックさんです。その、商売という点からどうすべきかを解決しないと……」
「ここまで大きな話になっちゃったので、私達だけでどうこうというのが難しいんじゃないかと……」
「そうですね。原料調達の段階からすでに共同企業体の様相を呈していますので、資本から利益分配までをどうするか、という所ですね?」
「はい。」
「もっとも、私達は利益の事はかんがえていなかったんですけど…」
「それはいけません。然るべき利潤は受け取るのが自然の摂理です。
私がこの子達に厳しく教えているのは、商売においてそこが最も重要であり存在意義だからなのです。
お金、つまり経済は回さなければ意味が無いのですから。」
「んでもさ、利益ってか収入なら俺達は店の売り上げだけで充分だぜ?」
「だな。まぁ、オレ達より手伝ってくれてる人達にはもっと豊かになってもらいたい所だけどな。」
「それも一つの見方ではありますが、これだけの大きなプロジェクトなのです。その点はきちんと押さえておくべきでしょう。
なにしろ現時点で関わっている国家がこれだけあるのですから、普通に考えれば貿易摩擦のような国際問題の火種にもなり得ますからね。」
流石にあの時代を知っているだけあって、その辺の懸念は持っていたのだろうな。
とはいえ今やコイツは悪魔ではあるものの商売の神様とまで崇められている大商人なのだ。
ディーナ達が抱えている問題はあっという間に解決する事となった。
「実際に動いてもらうのはトキワ様や関連国のトップです。もちろん、その為の決断もその方々に委ねるしかありません。」
「どゆこと?」
「反対意見が出た時点で、この話は振り出しに戻すべきなのです。この話は、誰もが納得した上で締結しないと意味がないからです。」
「なるほど……」
マコーミックの提案は、要するに株式会社化して関係する国家が株主になる、というものだ。
その配分は全て同一、利益は株主に分配する事とし、企業としてはどこかに本社、つまり本部を置き経理関係を一括管理、会計に関しては透明化が必須だから毎年各国持ち回りで担当する、というモノだった。
どこまでの利益が見込めるかは現時点で未知数ではあるが、たとえ赤字であったとしても需要が一つだけだとしてもそれに応えたいと言う話もある。
仮に、逆に利益が大きければそれらはそれぞれの国家の収入になるわけだから、結果として株主の国の減税や福祉充実にも手がまわせるだろう、と。
もちろん、各国の匙加減にもよるが製造に従事する人の給金も増やす事ができるだろう。
で、この子達に関していえば……
「当然ですが、勇者様達も株主となりますから配当金はこちらに流れます。」
「いや、でも、そんな大金は俺らは……」
「ふふふ、貴方達ならそう言うと思ってました。ですので、株主ではありますが配当金の分配は無し、と言う事もできます。」
「そうなんですか?」
「それだと株?を所持する意味って?」
「株主は経営に関与する為のツールでもあります。つまり経営者の一人として会社運営に関与できる『経営権』と言う事ですね。
それは発案者である勇者様達は所持すべきですし、恐らくは今後製品の拡充もあるでしょうから必須だと言えるでしょう。」
「そういうものなのですね……」
結局は立案者である【食事処 金剛】というクレジットを入れ、要するにロイヤリティを受け取る、という仕組みとなったようだ。
ぶっちゃけ言うと、株の配当よりもロイヤリティの方が金額は大きい可能性もあるのだが、流石にそこを伝えてしまうとこの子達の事だ、要らないと言い出すだろう。
そこはマコーミックもよく理解しているみたいだな。
こうして全ての心配事が解消された、ような感じになったので、ディーナ達にしてみれば一安心だろう。
もっとも、一番の問題というか懸念は何一つ解決されていないどころか始まってもいないのだが。
「ところで、皆さんはこの後世界行脚をするとお聞きしましたが……」
「お前、何処でそんな話を小耳にはさんだんだよ。」
「え?ウリエル様が言っていたじゃありませんか。」
「ありゃ?そうだったか……あ、アレか。」
「ですので、そこに私共も加えて頂けませんか?」
「お前、何企んでやがんだよ?」
「極々私的な意味もありますが、販売経路の確立という目的もあります。
一応、レイ商会にも一枚噛んでもらい、この商品を世界規模で展開したいというのが私の望みです。」
「あー、確かに、な……」
マコーミックはオブラートに包んではいるが、要するにディーナ達、あるいはトキワや各国の王では商品を売る、と言う事は無理だと言う事なのだろう。
それぞれがぶっ飛んだ能力の持ち主ではあるものの、こと商売に関しては素人の足元にも及ばないのだ。
そこをフォローしたい、というのがマコーミックの話なのだろう。
「これで、あのお方へ恩の一つは返せるでしょうか。」
とはその後コイツが呟いた言葉だ。
ともあれ、そうした事もありつつ、再びPR活動を開始したようだ。
前回と同じくディーナとタカ組、シャルルとヒロ組で交代で全世界を回るらしい。
それと同時に工場建設の進捗確認、製造現場の確認、などを精力的に行うそうだ。
特に製造現場の品質管理、つまりは衛生管理には、味以上に気を付けなければならない、とはカスミが指摘したのだ。
完全にクリーンな状態を維持し、清潔である事が絶対条件だ、とも。
一番怖いのは、その手の事故が発生した場合、大量生産故に一気に拡大してしまうから、らしい。
特にこの商品は食べ物だ。安全であることは絶対条件なのだ。
この辺はそうした問題が多かった時代をよく知るカスミならでは、だな。
と言う事で、先ずはシャルル達が行動を開始した。
前回は各国の首脳へのアピールだったが、今回は違う。
実際に手にして、あるいは調理して食べる市井の人達に対してのPRなのだ。
道端で出店のようなカタチで、道行く人々に試食してもらう。
この時点でもはや感想などを収集する意味は無いと思えるので、とにかく食べてもらって認識を広める事が目的だ。
当然だが、中にはスパイスが苦手な者、特定の食材にアレルギーを持つ者なども存在するので、その点はきちんと話を集めたいとか言っている。
そんな部分もありはするのだが、結果としてこのPRは大好評の内に終了した。
現物の配布はまだできないのでチラシを配ってこの製品の詳細、販売時期、製造元、作り方等々を広めたのだ。
活動を進めていく中で、最後のというか最大の問題に気が付いたらしい。
それは
「ねぇタカ、このカレーの製品名ってどうしようね?」
「あ、そうだなぁ、考えてなかった……」
「唯のカレー、じゃ何となくダメなような気がする……」
「シャルル、何かいい案が?」
要するに、製品の名称を付けるのをすっかり忘れていたようだ。
試作品のパッケージにも、その製品名は明記されていないのだ。
何だかんだと4人で考え、出した答えが
【ダイアモンドカレー】
だった。
そんなPR活動を進めていく内に、工場も本格稼働の目途が付いた。
結局は各国が精力的に進めてくれたお陰でもあるのだが、それをディーナ達は不思議に思っていたようだな。
実は、あの一連の騒動の結果としてディアマンテス、特に4人の勇者に対してはこの世界全ての国家が謝意を表したのだ。
謝意とは言うが、結局は報酬なのだが、やっぱりと言うか、感謝こそ受け止めはしたがこの子達は報酬をきっぱりと断った。
それはいつぞやのアイツと全く同じだと、ウリエルは言っていたな。
要するに、その受け取らなかった報酬が形を変えてこの子達に渡ったと言う事だな。
何と言うか、やっぱりアイツもムサシも、いや、イオリだったな、この子達もだが、勇者というのはその辺りの価値観が他の人間とは違うんだな。
そんな事を今更ながらに納得したよ。
で、その工場は試験操業の後、タカとヒロによる製品の品質チェックもクリアして開業の運びとなった。
アキナ曰く
「製造の設備投資に関してはイニシャルコストはどれだけかかっても、先々を考慮すればそこをケチる事など愚の骨頂、あり得ません。
耐久性と安定性、そしてランニングコストでどれだけ早く減価償却するか、拡張性をいかに高くすべきか、を熟考して製造ラインを構築したんです。」
だそうだ。
私以外の者には、何を言っているのかは解らないだろうが。
「そんでアキナさん、生産量ってどれくらいになるんだ?」
「えーっとですね、基本6時間操業でサイクルタイムが70秒程とすると日当たり300食ずつだから、3種類つまり3本ラインで900食ですねー。」
「おおー……」
「生産に携わる人の勤務時間は8時間程ですけど、内2時間は製造ラインの設備保守整備、清掃に充てなければいけないんです。」
「やっぱり衛生面が一番重要だしなぁ。」
「タカさんとヒロさんが言っていたからメンテナンス性、それをターゲットに製造設備の設計をしたんですよ。生産量を増やすなら設備の速度を上げる事もできますし、あるいは単純に操業時間を延ばせばいいだけですからね。」
「ギニーもかなりその辺は厳しく見てたもんね。」
「特にギニーには衛生面で色々とアドバイスを貰いましたよ。」
「へぇー、アキナもギニーも、凄いなぁ……」
新たな工場の稼働は労働人口の増加にも直結するから、その点でも各国は大歓迎なのだろう。
驚く事に、ウリエルのアドバイスもあってか工場で出る産業廃棄物などの処理も環境優先で高いリサイクル性を求めて進めたんだそうだ。
ウリエルがそんな事を考えていたのも驚いたが、それを実現してしまうアキナはもはやもう一人の勇者だろうな。
こうして、
様々な人や国を巻き込んだ末の、新たなる食文化の誕生の瞬間でもあったのだ。




