華麗なる新文化-7 更なる問題
カレールゥの完成により一段落したカレールゥ開発なのだが。
ディーナ達の顔は優れない。
その理由は……
「やっぱり、これだと日持ちしないよなぁ……」
「せいぜい1週間かそこいらだね……」
「油が酸化してんのかコレ。」
「みたいだね、香りも飛んじゃってる気がする……」
油紙で包み、木箱に入れていてもカレールゥは1週間程度しかその風味は持たない事が判ったのだ。
理由はルゥそのものが空気に触れる事で酸化が進行し、それがスパイスにも影響し違う味に変貌してしまうからだ。
さらには、湿度が高く気温も高ければカビも生えるし雑菌も繁殖する、そうなると食べ物として使えなくなるのだ。
もっとも、それは製造段階でも留意しなければならない問題でもあるのだが。
「ここから粉末にっていう手もあるけどな、そうなると味や風味は変わっちまうなぁ。」
「密閉した上で酸化を抑える、かぁ……」
「プラスチックっていう手もあるけど、あれはなぁ……」
「使えない…か……」
石油由来のプラスチックやビニールというモノはこの世界でも再び作られるようになった。
ただそれは、北米大陸でのみ石油採掘を行っており、希少性が高いのだ。
各国が出資した合弁企業なる形態での操業故に、製品開発や流通販売は関連国の合意が必要になる。
何より、それら石油製品は自然分解しない代物なのでタカヒロはその汎用性の高さを知っていても広く開発する事はしないようにと各国に話していた。
先々を考えれば、そうしたモノのゴミは環境に大きく悪影響を及ぼすからだ。
タカヒロが元居た時代、その時代のゴミ問題は既に回復不能な末期状態だったのだ。
なので必要最低限の、医療や工業用ケミカル、生活必需品での使用に限られていた訳だ。
「何か、いい手はないかな……」
「そういやさ、ジパングで魚介類の輸送で使ってた箱があったじゃん、アレ活用できないかな?」
「アレか……でも、けっこうかさ張るし結局高価だぜアレ。」
「ねぇ、アレって何?」
「発泡スチロールっていう、石油の成分でできた樹脂があるんだよ。」
「それって、あの白くて軽い箱?」
「シャルルは知ってたのか。」
「うん、見たことはあるしアキナにも聞いた事があるよ、でもさ、あれも……」
「コストもそうだけど、結局気密性は高くないし油で溶解しちゃうからなぁ……」
要するに、だ。
カレールゥそのものは完成したのだが、肝心の梱包というか、パッケージングで壁にぶち当たったという訳だ。
ルゥ開発の段階では、時間経過によるルゥの変質にまで気づかなかった事もあり、何よりスパイスの殆どが保存性に優れているモノばかりだったから、完全に盲点でもあった訳だ。
試食行脚の時はあのバッグに入れていたから、それも気付かなかった原因でもある。
がしかし。
作っておいたルゥを油紙で包んで紙箱で保存していた事で、変質に気付いたのが数日前、と言う事だ。
「こ、困ったな……」
「いっそ瓶に詰めるってのは……ダメかぁ。」
「ああ、瓶詰だとな、色々と問題も出てくると思うしなぁ。」
「うーん……」
「って事で、だ。」
「ウリエル様?……っていうか!」
「アキナ!?」
「何でウリエル様の腕に抱きついて!?」
「この位置は私の定位置なんです……」
「やめろバカ。それはさておきだ、アキナ。」
「あ、はーい。」
意外な事にウリエルの腕から素直に離れたアキナは一つの袋を見せた。
紙ではなくプラスチックやビニールのような袋だ。
「これって、ビニール袋じゃないの?」
「パッと見はそう見えるでしょ?でもこれはね、化石資源で造られたモノじゃないの。」
「石油製品じゃないってこと?」
「まず、この素材について説明します。」
アキナが持ってきた素材、それはいわゆるバイオプラスチックと言われていた素材だ。
植物などを原料とした天然素材で、再生可能資源という側面もあって、中には自然分解可能な素材もある。
かつてジーマの世界で使用していたから私にはわかるのだが、なぜアキナがコレを知っていたのかは謎なのだ。
今現在、この世界ではこうしたバイオ素材はそれほど流通していない。
その理由は耐久性や汎用性の課題が多く、製造コストが化石資源の同一素材と比較して割高だからだ。
もっとも、それは普及率が低い=大量生産していないから、なんだが。
ただ、その化石資源も潤沢ではなく、近い将来枯渇する懸念もあるわけなんだが。
「この素材の原理に関しては、やはりタカヒロ叔父様のアイデアでもあったんです。」
「「 お父様の? 」」
「「 勇者さんの? 」」
「はい。実際、叔父様の提案で北米での石油プラントでも、こうした素材は開発市販されましたが、長い目で見るとそれはエルデ様にとってあまり好ましくないのではないか、という所から、この手の素材の開発に着手したんです。」
「そうだな、石油由来のこの手の素材は分解しないし、再利用するにも焼却するにも有害な物質を発生させるからな。」
「もっとも、だ。化石燃料そのものは利便性を追求すれば必須な資源なんだけどな、それによる害を少しでも減らせればってのがアイツの考えだったんだよ。」
「その話やアイデアを叔父様から聞いて研究した成果がコレなんです。」
ほぼほぼプラスチックと遜色ない素材な上、気密性や密閉性も高く、食品の保存や梱包には適していると言って良い素材ではある。
だかしかし、難点で言えば……
「ただ、これを製造できるプラントは今の所カブトの研究施設だけ、なんです。」
「あ、あの例の場所ね。」
「はい。で、実際量産となるとかなり大掛かりな工場も特殊な設備も必要になります。
設備に関しては国家予算次第でどうとでもなりますが、原料と生産拠点を準備する必要があるんです。」
「そう言う事かぁ……」
「でも、だよ?」
「タカ?」
「この素材ならこの問題は解決できるよな。もっと言えば他の食材商品なんかにも水平展開できるし、そうなりゃ」
「ああ、食料の保存性に関しちゃ革命的なモノになるんじゃね?」
「そこに関しては私もそれを念頭に開発したので同意見ではあります。でも、やっぱり問題は……」
素材に関しては現状これ一択、といっても良いだろう。
なんだかんだ言ってこうした事を実行する分には、ウリエルとアキナはいいコンビなのだな。
とはいえ、結局はその製造工場と原料、それにコストの問題、か。
「なるほどなー。」
「あれ!?」
「トキワお兄様!?」
「いつの間に!?」
「てか何でここに!?」
「ああ、いや、食事しに来たんだけどね。」
キューキとナイナとロティットを伴って、トキワが来店していた。
丁度昼時のピークも去ったタイミングではあったのだが、4人水入らずというのは珍しい。
ここ数日、かなり忙しくトキワはまともに睡眠を取っていないとも聞いていたが。
「実はだな、先日ジパングから新たな工場建設、誘致の相談を受けてね、その話ついでにメシでも、ってなったんだよ。」
「ジパングから?」
「工場誘致?」
なんと、先日来店したキレン・ジャー・ダイタの用事とはその事だったようだ。
何でも、その工場の建築と操業に関する相談なんだとか。
で、それをエスト王国とラディアンス王国、モンテニアル王国で協議して資金提出と流通経路を決めたんだそうだ。
「その素材の生産拠点をね、エストとモンテニアルの近くにある港町に建設する事になったんだよ。」
「と言う事は、大陸東の国家共同でってこと?」
「それがね、運営はウチでってことになっちゃってね……」
「は?」
「ひとまず総責任者としてはディノブ様が就くんだけど、その後は……」
なんと、既にそれは決定し工場の建設に着手しているんだとか。
何か凄く先手を、というか急いでいるような気もするが、これは果たして何者かの暗躍があるのではないかと勘繰ってしまうな。
それをポロっとトキワに告げると
「ルナさんの読み通り、だと思う。俺もそんな気はしてたんだよ。」
との事だった。
まぁ、その何者かというのは大体予想はつくのだが、結果オーライとして受け止めておこう。
隠居したとはいえ、やはりアイツの妻達は恐ろしいほどの行動力をもっているのだな。
ともあれ、こうしてカレールゥ、パッケージ素材、梱包仕様が決定し、半年後の販売開始に向けてイワセ王国中心で動き出したのだ。
イワセ王国の宗主国であるラディアンス、モンテニアル、エスト、アリシア、ネリスに加え、ジパング、ロマリア連邦の各国と、結局はこの大陸全ての国家が協力体制を敷きこのプロジェクトを進める事となったのだ。
そして本丸のカレールゥ工場に関しては、何とアリシア王国に建設する事となった。
物流経路を精査した結果最適な場所がアリシア王国の東側だったからだな。
と言う事で、自然とカレールゥ工場の統括責任者は当面の間ティアマトが担う事になったのだ。
ちなみに、なのだが。
販売するにあたり梱包というか製品の箱にも一工夫加えたのだ。
印刷技術はとうにあの時代と同じレベルにまでなっているので、パッケージ表面にはカレーの写真を載せたのだ。
で、その裏面には要するに作り方をきちんと明記しておいたのだ。
基本的な手順と分量の表記なのだが、コレが有ると無いとでは雲泥の差だというのだ。
そんなこんなで、本格始動を前にして先行量産品ができたのだ。
その数、5,000個程。
この先行量産品で再び世界中でPR行脚をするんだそうだ。
何と言うか、この子達が精力的に行動しているのは久しぶりに見たな。




