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そんな私はヴァンパイア  作者: 松栄
第12章 番外編 華麗なる新文化
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華麗なる新文化-5 ソリッド化

 カレールゥの素となるカレーについてはひとまず完了したといえるだろう。

 ただ、最後に大きな問題も残ってはいるのだが。

 しかし、だ。

 昨夜の事だが、春も半ばを過ぎたと言うのにかなり冷え込んだ。

 季節外れの雪が舞う程で、これも数年ぶりの事だな。

 そんな名残雪舞う中、ヒロが思わぬ発見をしたと言うのだ。

 それが最後の問題を解くカギ、となったのだ。


 「脂……か。なるほどね。」

 「でも、それってヘット、つまり動物性油脂よね?」

 「うん。だから、それ自体はカレールゥには使えないと思うんだ。酸化より腐食というか腐敗、つまり日持ちしなくなると思う。」

 「となると、植物の油ってことよねぇ……」

 「植物油脂だとさ、凝固させるのって難しんだけど、オリーブオイルとかなら凝固させる温度は比較的高くて済むんだよ。」


 動物の脂というのは常温でも固まる性質がある。

 それは牛や豚、鶏に限らずだ。

 凝固剤として使うにはもってこいの素材ではあるが、大きな問題として腐りやすく雑菌の温床にもなるという面もある。


 ディーナ達が目指すところは、いわゆる世界中の小売店の店頭で販売できる事、だ。

 数日で腐ってしまうモノはとてもじゃないが製品化はできないそうだ。


 そうなると植物から採取される油に限定されるのだが、こちらも製造コスト故か動物性脂に比べ高価になってしまう。

 ただ、確かに安価な植物油もあるのだが、それでは凝固剤としては弱いのだとか。


 「何種類かを試したんだけどさ、結局はオリーブとゴマ、それからサンフラワーっていう花の油がベストだったな。」

 「サンフラワー?」

 「ああ、いわゆる向日葵だね。ウチで使っているのは主に菜種油なんだけど、それよりもあらゆる面で優れてるらしいよ。ウリエルさんが教えてくれたんだ。」

 「ウリエル様が?」

 「何でも、ルナさんがこういうのがあるはずだと言って、ウリエルさんが見つけてきたんだよ。」


 実を言うと、私もデータベースで見つけただけ、だんだがな。

 植物油の中でも飽和脂肪酸などが少なく、製油も比較的しやすいという情報だったのだが、それが何処にあるのかが解らなかったのだ。

 そこにウリエルがマコーミックの伝手を使い場所を特定、ネリスの南西部で買ってきた、という訳だ。


 「ルナ様、ウリエル様、ありがとうございます!」

 「ま、まぁ、な。こんな事くらいしか手伝えないしな。」

 「お安い御用だ。気にすんなよ。」


 「でも、その3つだとどれが良さそうなの?」

 「カレールゥとして使うならサンフラワーかな。香りが殆ど無いからカレーの風味を邪魔しないんだよ。」

 「確かにな、オリーブとゴマはそれぞれ香りの主張がはげしいもんな。」

 「そうよねー。でも、それがそれぞれの特徴だもんねー。」


 「んで、コスト的にもサンフラワーが最適だと思うんだ。この油はネリスの南やジパング、南米、デミアンとわりと世界中で栽培されているからさ。」

 「そうだね、安いし健康にも良いって言われてるしね。」

 「そんで、だよ。」


 そう言ってタカが取り出したのは、ボウルに入った固形のカレールゥだった。


 「カレーにさ、小麦粉とサンフラワー油を混ぜて撹拌してさ、常温で固めたのがコレなんだ。」

 「え?コレって!」

 「何コレ凄い!」

 「出来たなコレ。」


 少し固めの羊羹のような、あるいはチョコレートのような。

 ただ、漂う香りはまごうことなくカレーのそれだ。


 「これが、カスミ母さんの言っていた“ルゥ”だよ。

 これをさ、湯で戻すとカレーになる。でも、だ。」

 「何か問題が?」

 「うん、これを戻すと、ウチで出しているカレーとは少し違うものになるんだよ。」

 「あー、そうだよな……」

 「どういう事なの?」


 食事処 金剛で提供しているカレーはスパイスを挽いて粉末にし、それを直に配合調理して、小麦粉である程度のトロミは出している。

 が、このカレールゥでカレーを作ると、そのトロミというか濃度がとても強くなってしまうんだそうだ。


 「そもそも油と小麦粉で固めているから、その辺は過剰気味になっちまうんだよ。」

 「でも、その辺りは水、いえ、お湯の量で調節できるんじゃないの?」

 「そうなんだけどね、でも、それだと風味そのものも薄まる事になるんだ。」

 「そうなんだ……」

 「とはいえ、だ。ドロドロのカレーって訳じゃないから、実際コレが受け入れられるかは俺も判んないってのが正直な所かな。」

 「うーん、ひとまずさ、これでカレー作ってみようよ。」

 「オッケー、じゃあ今日のまかないで作ってみるか。」


 少し来客も落ち着いた夕刻、タカとヒロは賄いメシでルゥを使ったカレーを拵えた。

 店のカレーとは最初の作り方からして違っている様だ。


 玉ねぎを細切りにしてフライパンで色目が着くまで炒める。

 それとは別に串切りにした玉ねぎも準備している。

 人参は乱切りでやや大きめ、だな。

 肉は牛肉と豚バラの小間切れか、両方使うみたいだ。


 鍋に水を張り、串切りの玉ねぎと人参を放り込んで火にかける。

 一緒に入れているのは、あれはペースト状にしたコンソメ、だな。

 玉ねぎがやや半透明になった所で飴色玉ねぎを入れ、そのフライパンで今度は肉を炒める。

 煮込んでいる鍋には、今度は何かのスープを入れたようだ。

 あれは鶏ガラスープ、だな。ラーメンで使っているものだ。


 炒めた肉を、今度はそのまま鍋に投入し、同じフライパンでそのまま今度はジャガタライモを炒め始めた。

 ジャガタライモは煮込むと煮崩れしてしまうのだが、表面を炒める事で型崩れしないようになるんだとか。

 その間に鍋に何か葉っぱを数枚入れたようだ。

 聞くとその葉っぱはローリエというらしく、香味と肉の匂いを抑えるんだとか。

 しばらく煮込んだ後にジャガタライモを放り込み、またしばらく煮込んでいる。


 「何というか、この時点で美味しそうな匂いだよねー……」

 「あはは、まだ味は殆どないけどね。けど、出汁の風味はかなり強いよ。」


 確かにいい匂いを放っている。

 というか、だ。

 ここまでの段取りはシャヴィやアルチナのシチューと似ている、というかほぼ同じ感じだな。

 あの二人にシチューを教わったのだが、絶対にあの二人が作った味にはならなかった。

 あれはどう考えても謎だったな……


 煮込んでいる鍋の火を止め、そこに待望のカレールゥを入れ始めた。

 少しずつ入れ、溶けていくカレールゥ。

 いつしか鍋の中身は、濃いブラウンでとろみがあるカレーらしきものになっている。

 そこから再び火にかけ、頃合いを見て火を止めた。


 「完成デス!」

 「「「「 おおー…… 」」」」


 客が居なくなったタイミングで完成したカレー。

 皿にライスを盛り、そこにカレーをかけた所で、『量産型カレー1号』の完成だ。


 「ほほう、見た目はやはりウチのとは違うな。」

 「でもよ、前にコレ見たよな、確か。」

 「あー、アイツが作った奴だな。あれも美味かったがな。」

 「というか、凄くいい香り……」

 『栄養価も高いね。少しカロリーが高めでもあるみたいだけど……』


 ともあれ、全員で試食タイム、いや、晩ごはんだ!


 「「「「 …… 」」」」


 私もウリエルも、アフラもモイラもグリペンもホワグテルも、ディーナもシャルルもヒロも、作った本人のタカも、だ。

 誰一人言葉を発しなかった。

 いや、言葉が出なかった。


 一口、あるいは二口食べてしばらく固まった後に、皆無言でカレーライスを口へと運ぶ。

 それはもう黙々と、運ぶ、掻き込む、食べる、食べる、そしてお代わりを……

 あれだけあった賄いのカレーは、あっと言う間にきれいさっぱり無くなった。


 ようやく出た言葉が


 「お、美味しかったぁー……」


 全員一致の、心から発信された感想だった。


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