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そんな私はヴァンパイア  作者: 松栄
第12章 番外編 華麗なる新文化
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華麗なる新文化-4 スパイス

 目の下にクマを作り、やや元気も無い様な気がする。

 普通の人間や魔族とは比べ物にならない程の体力気力を持ち合わせている勇者が、だ。

 聞けば、あのキレンが来店した日以来、5日間も一切睡眠を取っていないのだとか。

 それはいかな勇者とてやつれるに決まっているだろう。

 私やウリエル、アルテミスは別としてもだ、身体や脳を休ませる睡眠は生きていく上で重要なものなのだ。

 

 しかし、だ。

 やつれ疲労困憊の様ではあるが、その表情は明るかった。

 何故かと言えば。


 「これでベースは完成だな。」

 「ああ、完璧だぜコレ。」

 「もしかするとウチの店のより美味しいかも……」

 「それはそれで良いのかな、きっと……」


 カレールゥの元になるカレーが完成したようだ。

 此処に至るまで、スパイスや薬味のバランス調整がことのほか難しかったそうだ。

 コクや味の奥行きに拘ったと言っていたが、その微妙な違いはこの4人にしか判らない。


 ディアマンテスのメンバーに“利きカレー”なる試食を頼んでいたのだが、その違いはあまり判然としなかった。

 ただ、ホワグテルとグリペンだけが微妙な違いに気づいたようだが、それがどうなのかは判断つかなかったそうだ。

 そんな中でも、甘口、中辛、辛口と3種の辛さははっきりと違いは判ったらしく、私もウリエルもそれはすぐに判ったのだ。

 総じて、全員が「旨い」という意見でまとまったらしい。


 で、その材料なのだが、ここイワセでは簡単に入手できないものもあるのだとか。

 中でも、アジュワン、サフラン、粉末コーヒーという材料は扱う問屋が居ないらしい。

 この店ではマコーミックの伝手で原産地から直接買い付けているので、ここイワセでは市販されていないそうだ。

 それ故に価格も高いわけだが。


 「結局は15種類のスパイスと7種類の薬味でまとまったな。」

 「配合はきちんとメモしてあるけど、これってさ……」

 「比率だけだねー、でもこれだとさ、私達以外この味は出せないんじゃないの?」

 「そうよね、目方じゃダメなの?」

 「うんとね、それはさ、」

 「今後の事も考えて、なんだよ。」

 「今後?」


 タカが言うには、商品として製造販売すると仮定した場合、数個の寸胴鍋で作る訳には行かないだろうとの事だ。

 何しろ、世界中に販売するとなると、その量はとてもじゃないがこの店の厨房で賄える規模ではないだろう、と。


 「ジパングの醤油や味噌もさ、酒蔵よりも大きな工場で作ってるんだよ。修行んときに見学させてもらったんだけどな。」

 「ジパングだけで消費するだけでも、そこでも足りないって言ってたよ。製造が追いつかないって。」

 「へぇー。てことはさ、大量生産ってなると比率表示の方が良いって事なのね。」

 「そう言う事か。」


 こういう所はタカとヒロは凄いと思う。

 大量生産という事でアルテミスがその点を懸念していた訳だが、杞憂だったようだな。

 ただし、それでも問題は多く残っているらしい。


 「スパイスん中でもさ、アジュワンとサフランって貴重だからどうやって調達するか、なんだよなぁ。」

 「あー、確かに……」

 「あれ、高価だしそんなに市場に出回らないものね……」

 「それにコンソメもさ、特に牛エキスと鶏エキスがな……」

 「それもあまり大量には、ねぇ。」


 どうやら、材料の確保が問題となるようだ。

 確かに毎日とはいえこの店で使う分には調達に難は無いのだろう。

 しかし大量生産となるとそうも行かないらしいな。

 まぁ、それは私も理解はできる。

 何しろ、工場で量産するというのは実際私もしたことがあるからな。

 もっとも、それは食べ物ではなく兵器ではあったが、資材の調達や管理に苦労するのは同じなのだろう。


 「あー、とりあえず、だ。お前ら。」

 「「 ん? 」」

 「「 ウリエル様? 」」

 「まずは寝ろ。」

 「そうだな、店の事は心配するな。明日は定休日なんだし、今日は仕込みも無しで良いんだろう?」

 「そ、そういえば、ここ数日寝てないね……」

 「どうりで眠いわけだな!」

 「タカ、目の下にクマあるしな。」

 「ヒロ、あなたもよ。」


 全くこいつらは、夢中になるとこうなるんだな。

 いつぞやのタカヒロもそうだったが、もしかして歴代勇者ってのはこういうものなのか?

 幸いにもモンスター出現の知らせは今の所ないのだし、いい加減休んでおかないと体に障るだろう。

 という事でこの日店はそれから私やウリエル、モイラ、ヌエ、グリペン、アフラで回した。

 大将不在ということで少し気が張ったが、何とかこなせたのは良かったな。

 こういう時の為に、料理のレシピは詳細に記されているし、代打の作り手となる私達も何度も修練してきたのだ。

 


 翌日。

 ディーナ達はトキワの所に居た。

 ヒバリの旦那の外務大臣、アヴェンシスに用が有るからだという。

 ヒバリの旦那は外交官としてはかなり優秀な逸材らしく、時にはトキワの代役も難なくこなせる程だという。

 官僚として仕事を始めた頃、20年程前だろうか、タカヒロに色々と教えてもらい真綿が水を吸うようにそのノウハウを吸収していったそうだ。

 

 「なるほど、そう言う事ですか。しかしこれは……」

 「アベちゃん、やっぱ難しい?」

 「難しいといえば難しい、ですね。でも、先方としても利のある話ではありますので、押してはみますが……」

 「お義兄様、何か問題が?」

 「アリシア王国の南方だと、農業に関してはかなり厳正な制令が敷かれているのですよ。

 国として主要産業となる農作物の管理は厳重にされていて、それも単なる輸出向けという訳でなく、自国の備蓄に対しても、だそうです。

 ですので、交渉の窓口は商業的ではなく国家間となる訳です。そうなると……」

 「要するに、国家間の貿易交渉が絡んでくる、という事ですか。」

 「はい。そうなると僕だけの交渉事ではなくなってきますので……」


 その手の交渉となると、国対国としての話だから時間もかかる。

 外務部だけでなく通産部、農水部などの省庁も同時に関わってくる話なんだそうだ。

 そうなると余計に時間もかかってくるだろう、と。

 ディーナ達としてもそれほど時間をかけるというのは本意ではないはずだ。

 もっとも、カレーそのものもまだ課題は山積しているので、結局は時間がかかるとは思っていたのだが。


 「ただ一つだけ、奥の手というか裏技があるのですが……」

 「お義兄様、それって……」

 「はい。ティアマト様の力、というか人脈を使う、という手はあります、が、それは……」

 「あー、そう…ですよねぇ。」

 

 「ん?俺がどうかした?」

 「あれ?ティアマト?何で?」

 「あー、ちょっと所用で明日からアリシアへ行くんだよ。トキワ兄とその話をしに来たんだ。」

 「「「「 へ? 」」」」

 「エッシ…エッセンス女王からの招聘でさ。何でも龍族駐屯の件で話があるとか。」

 「「 ティアマト!! 」」

 「な…何!?」


 何ともパーフェクトなタイミングではある。

 が、龍族駐屯の話となるとモンスター討伐の話だ。そこに農業の話を差し込んで良いとは思えんのだが。

 国家間の契約事はかなりナーヴァスなものだ。繋がりの深いアリシア王国と言えども、そこは慎重に行くべきだろう。

 が、その話を聞いたティアマトと言えば……


 「あー、エッシーも農作物の輸出に関して云々とは言ってたし、話はしてみるさ。」

 「ティアマト、あんた今…」

 「え!?あ、いや、そこは聞かなかった事に!」


 そういえばティアマトはあの女王とかなり親密な間柄だったな。

 

 「アヴェンシス大臣、外向的な交渉は後ほどできる様に話はしておきます、農務大臣との会談も視野に入れて準備をお願いします。」

 「わ、わかりましたティアマト様。トキワ王にもその旨提言します。」

 「お義兄様、ティアマト、ありがとう。」

 「アベちゃん、ティアマト、ホントに……」

 「あはは、良いんだよ。というかむしろ、義兄達や姉達はさ、勇者としての自分達のコネをもっと活用したほうが良いと思うよ。」

 「僭越ながら、僕もそう思います。」

 

 ともあれ、一つの懸念は何とかなりそうだな。

 もっとも、後から聞いた事だが、この話の裏にはカスミとヒバリの暗躍もあったらしい。

 あのスパイスの希少性は知っていたから、なんだろうな。

 この一族はやはり、先見の明は鋭いものがある、というか、もはやこの子たちはタカヒロよりも有能かも知れないな。


 残る懸念のコンソメに関しては、こちらはシャルルとヒロが何とか目途を付けたらしい。

 なんでも、廃棄されるはずの野菜くずや牛骨などから作れるようになったとか。ラーメンのスープ仕込みの技術が役に立ったんだそうだ。

 そうなると、残る問題としては……


 さて、ここは私とウリエルが一肌脱ぐ所だろうな。

 


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