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そんな私はヴァンパイア  作者: 松栄
第12章 番外編 華麗なる新文化
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華麗なる新文化-3 まずは作ろう

 今日も今日とて、【食事処 金剛】は大忙しだ。

 聞けば、遠く南米大陸の南から、噂を聞きつけてやって来たという客も居る。

 もはやこの店は、今や世界中から注目されていると言って良いのだろう。

 

 その客たちの目当てはそれぞれなのだが、ラーメンとカレーライスが一番人気であることは明白だった。

 それ故に、その味を求めるにはここに来るしかない、という訳なのだが。


 昼のピークを過ぎて少し落ち着いた厨房で、シャルルとヒロは一つの寸胴鍋に釘付けになっていた。

 私とウリエルは、それを眺めていた訳だが……


 「うーん、何か違う…かなぁ。」

 「ねぇヒロ、コレはコレで完成形のような気はするけど、これじゃダメなのね?」

 「だよなぁ……ここからどうするか、なんだよなぁ。」


 カレーそのものは、ひとまず完成はしたらしい。

 ディーナ達4人で試行錯誤を重ね、オールマイティなベースとなるカレーは出来たらしいのだ。

 ただ、問題はそれを固形に、あるいは粉末にする方法、という所で今詰まっているみたいだ。


 「それにさ、味としてもコレ一つじゃ何か足りない気がするんだよ。」

 「そう言えばカスミお母様が言ってた、辛くないカレーっていうのも必要だよね。子供むけの。」

 「うん、子供だけじゃなくて、辛いのが苦手な人もいるだろうし……」


 そこに午後の仕込みを終えたタカとディーナがやって来た。


 「なるほどなー。でもさ、コレがベースで決まりなら、ここからアレンジしてさ。」

 「うん、同じ味で辛さが違う3種類にしてみるのはどうかな?」

 「だな。それはスパイスの配合次第でできるな。」

 「そうだね。じゃ、まずはそこから攻めようよ。」


 かなり分厚い紙の束。

 その中にあるのが、この『ベースカレー』のレシピメモだ。

 この子達はこうして料理のレシピを全て書き記して残している。

 これは誰が教えた訳でもなく、自ずとそうしだしたんだとか。


 曰く、一般家庭ならともかく、お店としては一品一品の味は、私達の誰が作っても「この店の味」でなければならないから、なんだとか。

 材料、分量、作り方、仕上げ、盛り付けなどは標準化して均一になるようにすべきだと、タカとヒロが言ったんだそうだ。

 いわゆるマニュアルというモノだな。

 そういう所、大したものだと思うし、それで味が均一となっているというのも驚くべき点だと言えるだろう。

 もっとも、それを目分量で完璧にできるのはこの4人とモイラ、アフラ、グリペン、ヌエ、ホワグテルだけなんだとか。


 ちなみにこのレシピデータは極秘だと言う。

 そう言う割には厨房の隅に無造作に置かれて、カウンターからも覗き見できるのだが。

 事実、何人かの客はそれを手に取り見ていたらしく、おそらくはそれはどこぞの店の料理人ではないか、と。

 見られた所でタカ達も気にはしないらしい。

 極秘の意味とは?

 何ともおおざっぱというか、おおらかと言うか……


 そんな事をしているうちに、遅い昼食を摂りに来た客が増え始めた。

 カレー研究に関しては一旦ここでおしまいだな。

 

 いつものようにオーダーが入ってくる、のだが。

 みんな一件の注文が気にかかったようだ。

 『カレーライス大盛り3人前と豚カツ』

 これが一人のオーダーだという。


 大盛りは有ると言えば有るのだが、その量は普通の2人前もある。

 それを一人で3つともなると単純に6人前の量だ。

 しかも、それに加えて豚カツまで。

 どんな大食漢なのだろうと見てみると、いたって普通な、少し恰幅の良い男の客だった。

 一応、給仕しているディーナが再確認したのだが、その程度は大丈夫、との事だったらしい。

 もっとも。

 ディーナとシャルルも、その位はペロリと平らげてしまうのだが……


 「お待たせしました!大盛カレーライス3つと豚カツです!」

 「おお!待ってました、ありがとう!」


 その客は目を輝かせて、目の前に展開された大量のカレーライスを食べ始めた。

 他の客も驚きを隠せないようで、自分も食べつつ、視線はその男に注がれているようだった。


 「んまい!サイコー!」


 一皿目をペロリと平らげた男は二皿目に手を伸ばす。

 と、そこに豚カツをどさっと乗せたのだ。

 そしてカレーと豚カツとご飯を一緒に口へと運ぶ。

 その表情は至福の、という表現がぴったりだった。

 二皿目もあっという間に平らげ、三皿目も完食した。


 「あー!美味かったぁー……」


 見事な食いっぷりだった。

 見ていた周囲の客は、思わず拍手をしてしまった。

 タカとヒロは思わず「お代は結構!」と言いそうになってしまったらしい。

 それ程、この客のカレーの食べっぷりは見ていて感動したようだ。

 シャルルがお冷を注ぎに行くと、その客は話しかけてきた。


 「ご馳走様です、とても美味しかったですたい。」

 「ありがとうございます。それにしてもお客さん、良い食べっぷりでしたね。見ていてとても感動しましたよ。」

 「あはは、おいどんはね、カレーには目が無いんじゃけど、ここのカレーは他とは違うって聞いたんじゃ。

 ほいでね、来て実際に食べてみて、一気にこのカレーが大好物になったよ!」

 「その口調、ジパングからいらしたのですか?」

 「そうです。おいどんは、ある会社の技術者でして、トキワ王への書簡を届けに行った帰りなんです。」

 「そ、そうなんですか。ウチに……」

 「ウチ?」

 「あ!いえ。でも、気に入っていただいて私達も嬉しいです。」

 「おいどんの名前は“キレン・ジャー・ダイタ”と申します。

 また食べに来たいんじゃが、なかなか現場を離れられないのが残念じゃなぁ。

 これを気軽に家で、家内や子供と一緒に食べられたらなー……」

 「お客さん……」


 キレンと名乗ったその客は、そうして店を出て行った。

 お代を払うと、釣りは要らないとのたまった。

 何でも、カレーの虜になった事、素晴らしすぎる、美味しすぎるモノを頂いた事への感謝の気持ち、だそうだ。

 

 後に、彼が食べた二皿目の豚カツを載せたカレーは、『カツカレー』として定番メニューに追加されることになる。

 カレーのポテンシャル、つまり可能性の大きさというか広さを物語る重要な出来事だ。

 

 「……やっぱりな。」

 「ああ、そうだな。」

 「これ、絶対に形にしないとね……」

 「なら、だよ。」


 ディーナ達はこの夜、仕込みを終えてから一睡もせずに研究に没頭したのだった。



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