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そんな私はヴァンパイア  作者: 松栄
第12章 番外編 華麗なる新文化
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華麗なる新文化-2 珠玉の思い出

 それから2週間が経った。

 食事処金剛は基本水曜日が定休日であるが、ここ数か月はほぼ無休だったのだ。

 というのも。

 いわゆる冬から春先というのはここイワセ温泉郷も観光シーズン真っ最中で、特に桜が咲く今の時期は訪れる観光客も多いからだ。

 もちろん、その中には金剛の食事目当てという客も少なくない。

 せっかくはるばるここまで来てくれる人に残念な思いはさせられないから、というのが理由だ。


 と言う事で、ディーナ達にとっては久々のお休みとなった訳だ。

 もっとも、交代で休日を取っているので、お店としての休みが、という意味だが。

 で、そんな貴重な休息日だというのに、この子達は休まる暇もないようだ。


 4人と私、ウリエルはイワセの王宮、つまり領事館へとやってきた。

 歩いて2時間程の距離なので、ついでに桜並木を散歩しながらだったが。

 ディーナ達はその足で真っ直ぐにある部屋へと進んでいく。


 「おはようございます!」


 ディーナ達が元気よく挨拶したのは、母親達だ。

 今では完全に国の運営等はトキワ達が担い、サクラをはじめとした先代組は完全に引退というか隠居となったのだ。

 なので日々のんびりと過ごしている、と思いきや色々と忙しいのだそうだ。

 とはいえ、基本邸宅で家事をしているのが常だそうだ。


 で、ディーナ達がここに来た理由は、先のあの話だった。


 「カスミお母様に聞くのが一番かと思って。」

 「なるほどねー、手軽にどこの家庭でも、か……」

 「私も情報としてはそんなモノもあるのだが、実際に目にしてはいないのでな。カスミなら、とな。」

 「確かにねー。アレは私やあの人が居た時代は普通だったし、日本独自のものでもあったわねー。」


 「あの、カスミ母さん。」

 「ん?何、タカ?」

 「それって、具体的にはどういうモノなんだ?」

 「えーっと、簡単に言うとね、カレーの原料を固形に固めておいて、作る時に戻すというか溶かして完成させるモノだよ。」

 「固形にして、溶かす……」

 「ルゥって言うんだけどね、私達が言うカレーっていうのは、ほぼほぼそれを指してたわねー。」


 カスミは遠い目をして話を続ける。


 カスミやタカヒロが普通に暮らしていた時代、あの日本と言う国では一般家庭でも手軽にカレーを作って食していたんだそうだ。

 むしろ、具材を放り込んで煮込むだけなので他の料理よりも手軽だったとも。

 ただ、そのルゥなるカレーの素にも多くの種類があって、それぞれに味や風味が異なり、人によって好みが分かれていたんだそうだ。

 さらには、それぞれの家庭や個人によって、同じルゥでも完成したカレーの味は違うんだとか。


 「言ってみれば、家庭の味、お袋の味って奴だね。」

 「家庭の味……」

 「いつだったか、あの人はお母さんが作ったカレーは再現できない、特別な美味しさだったって言ってたわね。

 それが、カレーライスに関してはあの人の家庭の味、いえ、それ以上に家庭の思い出だったとも。

 カレーに限らないんだけど、家庭で、家族で食卓を囲んで食べたモノってね、その時の様子や雰囲気も含めてさ、何時までも記憶に残っていてね、大切な思い出にもなるんだよ。」

 「確かに……」

 「お父様のカレーとか、カルロのおじいちゃんのフェジョアーダとか、おかみさんのシチューとかそのまんまだね。」

 「かくいう私もね、お母さんの料理は今でも覚えているんだ、その時食べた記憶と共に。だからね。」


 カスミは語る。


 生前、つまり子供の頃の話だ、として。

 初めてカレーというものを食べた記憶は、7歳かそこいらだったと。

 父親が作ったカレーライスを食べたのが一番古い記憶だそうだ。


 両親とカスミが、楽しく食卓を囲んでいたのだが、見ると自分のモノと両親のモノは別の鍋で作った違うカレーだったらしい。

 両親が「美味しいね。」とか「辛いけど美味しい!」と言っていたが自分のモノは色も違っていて辛くもなかった。

 そこでカスミは「自分もパパと同じものがイイ!」と言い出し、父親のカレーを少し分けてもらったんだとか。

 すると、子供には刺激が強すぎる程辛かった。

 同じカレーで何でこんなに違うんだろう?

 なんでわざわざ両親と自分のモノを別々に作ったんだろう?

 それが理解できたのはそれからしばらく後の事だった、と。


 つまり、父親はカスミの為に、カスミが食べられるカレーをわざわざ別に作ったと言う事だ。

 同じ食卓で同じ食事を摂る、家庭では当たり前のようなそんな風景には、そうした作る者の気づかいというか愛情というものが詰まっていた、と言う。

 それに気づいた時にはとても幸せな気持ちになったのと、なぜか涙が溢れた、とも言った。

 カレー一つ取ってみても、人にはそれが大切な記憶、思い出になるんだ、と。

 何より、そのカレーがその家庭唯一無二の味ならば尚更なんだ、とも。


 そう話すカスミは遠い目をした。

 言わずもがな、カスミ自身が娘のマスミに同じような思いで手料理を作ってあげたそうだ。

 それはカレーライスではなかったらしいが。

 タカヒロがあれだけの大家族で仕事も忙しいにも関わらず、食事はなるべく全員一緒にしていたというのも、そういう思いがあったんだろうな。

 アイツらしいと言えばらしい、のだろう。


 「あなた達が今しようとしている事は、ある意味で人々に温もりを感じさせる、思い出を創出する大切な事なんだと思うわよ。」

 「そう…なのかな?」

 「んでも、俺達はそれも望みの一つだしなぁ。」

 「少なくともオレやタカは、そういうのって無いからな。じいちゃんの酒のつまみとかしか記憶になかったな。」

 「そ…それはそれでちょっと、ね。」

 「で、話を元に戻すんだけど……」


 結局は、カスミはそのルゥの事は知っていても、それをどう作るのかは解らないらしい。

 ただ、おおよその方向性、あるいは概要は理解できたとはタカは言う。

 それを実現させるには何が必要なのかを考えなくちゃならない、とも。


 仮にそのルゥとやらの現物があれば、この子達なら直ぐに解析と再現は可能だろう。

 しかし、それは望むべくもないのだが。


 「ところでさ、ルナってそういうデータとかは持ってないの?」

 「あ……そういえば……」


 うっかりしていたが、言われてみれば確かにその何某かのデータ自体は持っていたはずだ。

 と言う事で、自分の中にあるデータバンクやライブラリにアクセスして探ってみた。

 しかし……


 「具体的に役立つものはない、な……」

 「そうなのかぁ。」

 「リンゴと蜂蜜とか、大人の辛さとか、じっくりコトコト3昼夜とか、オーリエンタル何とかーとか、おせちも良いけどカレーもね!とか、そういうのばかりだな。」

 「あんたそれって、カレーの企業広告じゃないの。」

 「う、うむ、そのようだな……」


 結局、大事な部分の情報は得られなかった。

 ただ、カスミの記憶にもあるルゥとやらの外観は把握できたのだ。

 本当に固形物の、一見してチョコレートのようなものだが、それがどういう構成なのかがカギなのだろう。


 「ひとまず、だよ。カスミ母さんの話とルナさんの話から、そのルゥってのはさ。」

 「投入する前の原料のスパイスとかを固形にしておくって事だろ?」

 「そうみたいだね。なら、さ。」

 「まずは作ってみようよ、ね。」

 「あはは、あなた達、そういう所は流石よね。なら、私も協力は惜しまないわ。味見しかできないけどね。」


 何というか、だ。

 今ここに、新たな歴史の1ページが紡がれようとしている気がした。


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