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そんな私はヴァンパイア  作者: 松栄
第12章 番外編 華麗なる新文化
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華麗なる新文化-1 世界が恐怖した日

今回のストーリーテラーはルナです。

4人の勇者、その後のお話……

 切っ掛けなんぞ、本当にくだらない事だったようだ。

 当の本人たちにしてみれば、それは深刻な、というか大切な事なのだろうが。


 世間の日常では世界中でよくある事ではあるのだろう。

 私やウリエルでさえ、今ならそれはよく分かりはする。

 それが、傍から見れば本当にくだらない、犬でも食わないと言われるというのも。


 だがしかし、だ。

 こいつらに限っては、そんな犬すら食わぬモノでさえ、この星をも巻き込む危機に直結する大変な事だというのもイヤという程わかるのだ。

 なにせこの世から外れていると言っても良い超常の存在、勇者を超えた勇者なのだ。


 それは数日前の事。

 本当にどうでもいいと思う理由で、ディーナとタカは夫婦喧嘩をしたのだ。

 わずか一晩で収束はしたものの、こいつらが本気でケンカなんぞを始めたら、それはもう地表が消し飛ぶだけでは済まないだろう。

 もっとも、痴話喧嘩ごときでそんな激しい闘いなどは流石にしないだろうとは思うが。


 シャルルとヒロも仲裁の為に奔走したそうだが、同じような危機感を抱いたのだろうな。

 あの後、仲直りした二人をみて心底安堵したそうだ。

 その当事者といえば。


 「え、えへへ、みんな、ごめんなさい。」

 「ご、ごめんなさい。もうしません。」


 まったくこのアホどもは。

 お前達のソレはそんな謝罪で済むほど軽いモノではなかったというのに、当人たちは実にあっけらかんとしている。

 

 実を言うと、だ。

 こんな夫婦喧嘩というものは以前も何度か目にしていたから、それ自体については私としては少しは免疫があったのだ。

 それは他でもないタカヒロと12人の妻達の事だが。

 その殆どはタカヒロが平謝りして収まったものだが、それら全てがタカヒロに責があったという訳ではないというのも事実だった。

 理不尽とも思えるがアイツ曰く、「ま、夫婦っていうのはそう言うものだよ」とか言っていたな。

 よく分からんが。

 男と女では思考ロジックが違うから、同じ意見や些細な事でも行き違いが発生するんだとか。

 それについては今なら私もわかるが、そんな事はどうでも良いのだ。


 問題なのは。

 ディーナとタカの夫婦喧嘩が、思わぬ新たな課題の発端となったからだ。


 と言う事で。

 今日も今日とて、食事処金剛はてんてこ舞いの様相であった。

 繁盛するのは良いのだが、混雑し行列ができてしまうのは何だか居た堪れないと思ふ。

 店外で待ってくれる客に申し訳ないとはディーナ達の本心なんだろう。


 そんなこんなでようやく閉店となり後片付けも終えて一休みしている。

 客が居なくなった店内のテーブルには、昨日と同じくらいの封書が山積みとなっている。

 これが、新たなる問題の一つでもあるのだが……


 「今日もいっぱいきてるねー。」

 「うーん、どうしたもんかな。」

 「ご当地って言やそれまでなんだろうけどさ。」

 「この陳情の内容もすごく理解できるのよねー……」


 封書はこの金剛が開店してからしばらくして届くようになったのだ。

 中には再三送り付ける差出人もいて、その大半はここイワセから遠く離れた国からだ。

 その内容と言うのがまたアレだった。


 「ウチの店の料理を家庭で気軽に、かぁー。」

 「気軽にったって、仕込みで半日くらいかかるしねぇ。」

 「オレたちで半日だからな、普通じゃ丸一日でも仕込みが終わんねぇんじゃね?」

 「でも、すんごく良く解る、かな。ねー、タカ。」

 「だなぁ。でも、どうすりゃいいんだろな。」


 先の犬でも喰わぬ夫婦喧嘩の原因、それはお土産で頂いたスウィーツに端を発していたのだ。

 私達全員に配られたところで一つ余ったのだが、それをディーナにあげたのだ。

 ブルーベリーというジャムがディーナの大好物だったからだ。


 で、ディーナとタカ二人の所にお菓子が3つ。

 どうやって分けるかを相談したらしいのだが、それが結果として喧嘩の原因となったらしい。

 タカ曰く、ブルーベリーのケーキはディーナが食べるべきだと主張したんだとか。

 しかしディーナはタカと、その美味しさを分け合いたいと主張したんだとか。

 それが続いてしまいには言い合いになったんだとか。


 ホントに馬鹿馬鹿しい話ではある。

 ドタマをひっぱたいたろか!とも思ったが、よく考えればお互いがお互いを想った末の意見の食い違いだからなぁ。

 こういうのを、ノロケっていうのだろうな。


 それはともかく、だ。

 その際に折衷案として出た話の一つが、そのスウィーツを現地まで買いに行けば良いのではないか、と言う話だったそうだ。

 しかしそのスウィーツを売っているのは遠く離れたフラマン国の隣、花の都だ。

 もっとも、ディーナに限って言えば転移魔法で一瞬で行けるのだが、ディーナとしてはそう言う事じゃない、とのたまったのだ。

 何というか、それも今では理解できるのだが、うーん、やっぱりノロケにしか聞こえない。


 少し逸れたが要するにだ。

 食べたいのだがそれを成すには遠く離れた所へ赴かなくてはならないので何とかできないか、というのが、この封書が訴えている事なのだ。

 それが何なのかと言えば、カレーライスの事だ。


 今現在、カレーライスを食せる、いや、作れるのはこの地球上でここイワセだけなのである。

 ネリスの南西部に伝わる伝統家庭料理の“カリー”という、似たようなスパイス料理はあるものの、それとはまた別の代物なのだ。

 もっとも、タカヒロはそのカリーこそがカレーライスの元祖だとも言っていたな。


 イワセ温泉郷の、食事処金剛でのみで作れる、というか食べられる特製カレーライス、その理由は色々有るのだが、一番大きな理由はその製造工程の煩雑さと複雑さ、そして原料の調達が難しいという点だ。

 一般家庭で気軽に、というのは無理がありすぎる、というよりも実質不可能なのだ。

 独自の製法とレシピで作る金剛名物のカレーはやや特殊すぎる故に誰もその味を再現できない。


 単にスパイスをぶち込んでカレーを作った所で、金剛が提供するカレーにはならない。

 ネリス、つまりはかつてインドという所の家庭料理でもあったカリーとは全く違う食べ物なのだ。

 それはタカヒロが居た時代、日本と言う国で独自に発展したモノなのだそうだ。


 「俺としちゃぁさ、ウチのカレーが広まるのは良いと思うんだ。

 結果としてウチにそれを目当てに来る客が減ったとしてもさ。」

 「だよなぁ。オレ達の想いとしちゃ、皆にこの旨さを知って楽しんでもらいたいってのが目的だからなぁ。」

 「そう、よね。これを家族で一緒に食べるっていうのは、そこに幸せが感じられるでしょうしねぇ。」

 「家庭の味って奴よね。アルチナ母様や私のお母様のシチューみたいな。」

 「んだけどよ、実際どうすりゃ良いのか、だよなぁ。」

 「レシピ公開した所で、これ家庭で普通にできる代物じゃねぇからなぁ。」


 確かに、これを普通に作るのは大変だろうとは思う。

 以前にヌエやグリペンが作った時でさえ、仕込み始めてから丸一日ほどかかっていたのだから。

 さらにその時にはスパイスの下ごしらえとかはヒバリがしてくれていたから、一からという訳でもなかったのだ。


 ……下ごしらえ、か。


 「なぁ、お前達。」

 「ルナ様?」

 「カレーの事なら一番よく知ってる人物がいただろう?そいつに相談してみるっていうのはどうだ?」

 「あ!そうですね!」

 「一番って、ヒバリ姉の事か?」

 「いえ、もっとよく知ってる人が居たよ。」

 「あ、カスミお母様!」


 ひとまず、この問題に対してアクションを始められた事にはなるのだろうか。

 この封書の山の中で訴えてくる陳情は、切実なものもあるのは確かだ。

 それに応えようとするのも、この子達なら必然なのだろう。

 なぜなら、その切実なもの、というのをよく理解しているからな。


 ともあれ、くだらない痴話げんかによる世界の危機は去り、新たな問題に取り組む事になった、のか。

 何となく、だが。

 これはまた大きな事態になりそうな気はする。


 そんな思いを抱きつつ、私は明日用の仕込みの手伝いを進めるのだった。


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