テラの奇蹟-31 Assault Attack
「ただいま、ありゃ?」
「ディーナとシャルルは?」
ルナとウリエルは帰ってくるなりそう言った。
「ディーナ姉達はメイザスに行ったよ。」
「また変なのが出たらしくてさ、『行かなきゃ!』って。」
「あー、そうか。あっちでもか。」
「ま、直ぐに戻ってくるだろう。」
少し前の事だったのだ。
ルナとウリエルがレムリアへと向かった直後、ディーナが「あっちも出た!」と叫んだのだ。
聞くと、メイザスのクローだったか、あっちに何やら使い魔とかいうものを放って様子を見ていたんだとか言っていた。
もう、何を聞いても驚かないと思っていたが、やっぱり驚きではある。
ただ、状況が不明な今、俺も一緒に行こうと告げたのだがきっぱりと拒否された。
曰く、敵国でもあるし、俺とココロはまだ出るべきではない、との事だった。
どういう事なのかイマイチ解らない。
「あぁ、お前とココロは、いわば切り札だ。まだ切るべきカードじゃないって事だと思うぞ?」
「どういう事だ?」
「ケーニヒ様と私が……切り札?」
「その辺もこの後タカヒロが説明してくれるさ。休める今のうちに休んでおけ。」
「ほい、ディーナ姉が二人に、だって。糖分補給だとさ。」
そう言ってヒロが二人に出したのは、ディーナから預かったどんぶりプリンだった。
―――――
その頃ディーナとシャルルは、メイザスの城の奥深く、王でさえ近寄らぬ場所に居た。
その二人と対峙しているのは、あの時のダルシアだ。
ダルシアは人間とは違う、異形の兵を従えている。
その数、ざっと200程だ。
(ひとまずあの兵は無視、だね。)
(うん、速攻であのダルシアもどきを消さないと。)
ひそひそと話すディーナとシャルルに向かって、ダルシア、いや、アネティモラは兵を差し向けた。
が、それらはヴァイパーとイーグルの一振りで殲滅されてしまう。
「……貴様、いや、貴様達は一体……」
「ダルシア、いえ、アネティモラだね。悪いけどお前にはここで消えてもらう。」
「この前言ったでしょ。逃げられないって。」
「小癪な……人間ではないのは理解した、が、我の邪魔をすると言うならその存在ごと消してくれるわ。」
「あー、ごめんね。その前に、だよ。」
「お前を消す!」
瞬間、ディーナとシャルルは消えた。
ダルシアでさえ見えない速さで斬りかかって行ったからだ。
4分割されたダルシアの体は、消える事なくその場で崩れ落ち、しかしダルシアの意識はそのままだった。
「情報はルナ様達が取得したみたいだから、このまま殲滅でいいんだよね?」
「だね。あとはこっちの王様だけど、クローさんに任せておけば良いのかな?」
そんな会話をしている二人を見て、ダルシア、いや、アネティモラは何かに気付いたらしい。
初めて驚愕と恐怖に、残された顔は歪んだのだ。
「き、貴様達は!まさか!!……い、いや、ありえん、あってはならぬ!こんなこと!!」
「「 ?? 」」
「そんなふざけた存在など!!」
「何言ってんのかな?」
「わかんないけど、もう消さないと。」
「だね。」
ディーナとシャルルは、ミーティア戦で放とうとしたあらゆる物質も塵にし消滅してしまうあの極大魔法を、可能な限り小さくしてダルシアへと放った。
その上で、ブラックホールもどきでその残骸を閉じ込め次元の彼方へと葬り去った。
「ひとまず帰ろう。」
「うん、こっちは大丈夫みたいだしね。」
ディーナとシャルルはそのままオールージュへと戻る。
二人は知らない。
二人の放った強大な魔法の力、有り余るパワーのその余剰分はそのままこの世界に残ってしまった事を。
そしてこの後、その力はとある場所まで伝播し、その場所がこの世界にとってある種の“聖域”になる事を。
それはまた別の物語だ。
―――――
「「 ただいま! 」」
「おお、帰ったか。」
「居たか?ダルシア。」
「はい。というか、アネティモラ、だったみたいです。」
「消滅しました。」
そんな会話を聞いて、俺はもう何が何だか全然情報の整理が追い付かない。
聞けば、ルナとウリエルはレムリアでダルシアという者を消したという。
が、ほぼ同時刻にディーナとシャルルも、メイザスでダルシアという者を消したという。
何で同じヤツが同時に存在していたんだろう、という疑問と、『消した』というのは『殺した』とは違う意味に思える事だ。
しかし、ココロは判っているのだろう、驚きつつも納得したような感じで、安堵の息なのか、それを吐いたのだ。
「ココロ、これって一体……」
「ケーニヒ様、私も驚いていますが、これだけは理解できます。」
「な、何を?」
「この方達は、まごう事なくこの世界の救世主です……」
「なんと……」
「タカヒロももうすぐ戻ってくるだろう。こっちは今の内に休んでおこう。」
「ルナ様、この後って……」
「ああ、本格的に私達の出番だ。アネティモラの本体、そしてもしかするとハジュンとかいう存在との闘いだな。」
「各国の人達は大丈夫なんでしょうか?」
「上手くいけば問題はない、とは思うが、いかんせん人間だからな。どうなるかは私もわからないというのが正直な所だ。」
「そ、そうです…ね。」
それからしばらくの時間が経ち、タカヒロ達が帰って来た。
下準備は終わり、次の作戦のタイミングを待つ、との事だ。
レムリアでは今、ミナルディ将軍率いる反乱軍が軍部を掌握し防衛隊以外の部隊をレムリア、メイザス、ゲンバラ、そしてイルムシャーの4国が接する国境地域、コンコルドへと集結させているとの事だ。
そしてメイザスでは王直轄の暗部がこちらも軍部を掌握、再編し同じ場所へと進軍を開始したとの事らしい。
ルーフ連邦は、その連邦各国の防衛隊を集結させここオールージュを目指していると言う。
ルーフに限って言えばその戦力はレムリアに遠く及ばないほど心許ないが、ここオールージュのあるメルシュやブラバムを防衛するだけなら充分な戦力は集まっているらしい。
そしてイルムシャーだが。
イルムシャーが盾となり守っている国々から援軍が集まり、規模としてはレムリアやメイザスに迫る程の規模になったとの事だ。
もっとも、それでもその2国には及ばないのは仕方がないのだが、作戦の目的を考えればそれでも過剰だとタカヒロは言う。
そう、今ある一か所へと向かっている各国の軍は、互いに戦火を交える事がその目的ではないからだ。
この大陸全ての戦力といっていい、各国の軍すべてが目指す場所、コンコルド。
そこで、全ての準備が整った所で作戦、いや、この訳の分からない状況を全て終わりにするのだと言う。
この世界の未来を左右する、誰も知らない、しかし誰もがその渦中にある、未曾有の大戦だと、タカヒロは俺に言った。
散発的な合戦が勃発する程度ではあるが、既にこの大陸は国家間の戦争が起こっていてそれは継続中ではある。
が、この大戦はそんな人間同士の思惑のぶつかり合いなどとは次元の違うモノだと言う。
その切り札が、ココロ、そして俺、というのも、納得できないし信じられない、いや、信じられる訳がない。
だがしかし、だ。
肌で、直感で、感じる。
ここが、これからが正念場なのだ、と。




