テラの奇蹟-30 Armed And Ready
「ここまで来たらもはやお前達を生かしておく理由はない……死ね!」
マッシュ、いや、ダルシアはそう叫び異形の兵に指示を出そうとした。
しかし。
「あ、ちょっと待ってね。」
「んぐッ!?」
タカヒロは片手をあげて静止させた。
旨い具合に虚を突けたのか、何故かダルシアは止まってしまった。
というかだ、この男、この状況でもその振舞いは変わらぬのだな……
「ルシファーさんとアズラさん、こっちは良いから今度はあっちを頼めるかな?」
「ふむ、解った。」
「なかなかに人使いが荒いのですね、タカヒロ様。」
「あはは、ごめんね。」
「うふふ、良いですよ。でもこちらは大丈夫なのですか?」
「ま、サダコも居るし、邪魔がなければ大丈夫だよ。」
邪魔、というのは俺や王の事だろう。
確かにマッシュとあの兵どもは一筋縄ではいかない、と言うよりも手を出してはいけないような気もしてきた。
タカヒロ達ならばなんとか相手はできる、のだろう、そんな様子ではあるのだが……
「将軍、王妃と王子はまだ生きてると思う。けど、早めに救出しないとコイツは直ぐにでも殺しに行く。だから。」
「……あ、ああ。わかった。」
「場所はルシファーさんやアズラさんが探り出してくれる。王ともども保護してくれよ?」
「……すまん。」
「さて、主様。こ奴らは消滅、でよいのであろう?」
「だね。サダコ、ごめんな、余計な事させて。」
「くふふ、まぁ、たまには運動もせねばな。」
「もう良いか……」
「あ、ごめん、待たせたね。じゃあ、消えてくれ。」
そのセリフが最後だった。
俺と王は、その瞬間別の場所に居たのだ。
ミナルディと王が転移した事で、タカヒロとサダコはダルシアに正対する。
(さてと。ダルシアを名乗るコイツは本命じゃない、となると、コイツの本体が何で何処に居るかを探らないとな。
ダメ元で直接聞いてみるか。)
「ダルシア、一応聞くけどお前の本体は何処に居るんだ?」
「……どこまで知っているのだ……」
「そんな事はどうでも良いんだよ。探すのが面倒だから聞いてるんだ。」
「お前…どこまでもふざけおって……死ね!」
そう言うと、異形の兵はこちらへと襲い掛かって来た。
ひとまずタカヒロはサダコの前にでて一掃しようと構えた、その瞬間だった。
周囲が結界のようなモノで覆われた感覚の後、ダルシアの後方からルナとウリエルが突進してきて異形の兵を消し去ったのだ。
「ルナ!ウリエル!どうしてここに!?」
「本命が出たと聞いてな。が、しかし。」
「コイツも外れみてぇだな、ま、いいけどよ。」
「あー、使い魔、だっけ。あ、いや、ありがとう。心強いよ。」
どことなく力が漲ってくる、そんな感じでルナとウリエルはタカヒロを庇うようにダルシアと対峙する。
かたやダルシアは再び異形の兵を繰り出そうと、両手を掲げて何かブツブツと唱えている、のだが……
「……な、何だコレは……」
「説明すんのも面倒だ。無駄、とだけ言っとくぜ。」
「さて、貴様はダルシアの名を騙る“アネティモラ”とやら、だな。」
「なッ!!」
「とは言えその欠片のようだが、まあいい。情報を抜いたら貴様は用無しだ。さて、サダコ。」
「ふむ?」
「私とウリエルに、何でもいい、その神気とやらを纏った神通力、だったか、それを当ててくれ。」
「攻撃でも何でもいいぜ。」
「なるほどの。ならば、じゃ。」
サダコは二人に向かって淡く光る丸い球体を投げつけた。
魔法でもなく、何というか不思議なものだったが、その球体は二人のおでこにぶつかって消えた。
「いてっ!」
「んがっ!」
「あー、済まなんだ。ちょっと堅かったかの?」
「ま、まぁ、いいさ。ありがとうサダコ。」
そう言うと、ルナとウリエルはダルシアに向かって行き、二人とも何故か動けないダルシアの頭に両手を載せた。
「ありゃ、ここじゃねぇな。」
「こっちか。どこまでも異常な存在だな。」
と言うと、今度は前後から胸と背中に手を当てた。
わずか1分足らずの事だった。
「お前達……そうか、しかし、我が希望はこんなことで」
「あー、わりぃな。お前の希望なんざ知った事じゃねぇんだよ。」
「貴様こそ、だ。元の世界へ還れ。」
「な!!」
ダルシア、いや、減幻暗欲は一瞬でルナとウリエルによって切り裂かれ、そのまま消滅した。
そうして、結界のようなものは消えたようだ。
「や、やっぱり凄いな二人とも。」
「うむ、見事じゃの。」
「いや、これはサダコのお陰だ。あの力が理解できなければ消す事は出来なかっただろう。」
「つーかよ、タカヒロはワールド持ってこなかったんだな。今気づいたよ。」
「う、うん、忘れてきた、というか急だったんでさ、準備する暇がなかったんだよ。」
「……お前、あとでそっちのアタイに怒られるだろ?」
「あ、あはは、そうかも。まぁ、謝るしかない、かな……」
「そっちの私にも、な。」
「う、うん。」
「ふふっ、では、私達は一旦オールージュへ戻る。」
「後は頼んだぜ。」
「ああ、ありがとうな、ルナ、ウリエル。」
ともあれ、こっちはこれで一先ず最初の手は打てた。
あとはミナルディさんに頑張ってもらうとするか。
ひとまずルシファーさん達と合流し、次のステップへと進める事にした。
ルシファーさんとアズラさんのお陰で王妃と王子は発見できたのだけど……
「衰弱が激しいのぅ。治癒魔法だけでは完全回復はできぬな。」
「命に別状はありませんが、充分な食事と休養は必須かと思いますよ。」
「あー、そうみたいだね。王は良いとしても、どうしたもんかなぁ。」
「ふむ、ここで充分な食事と休息は難しかろうな。」
「仕方がないな。一旦お二人はイルムシャーへと送るか。」
「何と、敵国にか?」
「今後の布石にもなる。利用するようで悪いけどね。」
「なるほどのぅ。なら、ワシがひとっ走りしようぞ。こっちは後はミナルディ次第なのじゃろう?」
「だね。ごめんルシファーさん、頼めるかな。」
「任せるがよいぞ。」
ルシファーさんの手によって、王妃と王子はイルムシャーへと移送された。
ティレル王には予めそうした事態が起こる可能性も示唆しておいたので、何とかなるだろう。
というか、だ。
何となく敵対してはいるけど、各国とも単に野心だけで戦争している訳ではなさそうだなぁ。
もっとも、戦争の発端なんてそれが大元ってのは間違いないんだけどね。
けど、少しだけこの世界の行く末は希望が持てる要素もあるって理解できたよ。
ところで。
「アズラさん。」
「何でしょう?」
「ルシファーさん、何であの女性の姿のままになってんの?」
「ああ、あれは酒が完全に切れたからでしょう。あれが本来の姿なんです。しばらくはあのままですね。」
「へ、へぇー……」
不思議だけど、その辺も何か理由があるんだろうな。




