テラの奇蹟-27 滅幻暗欲(アネティモラ)
重苦しい雰囲気がこの場を支配していた。
俺は茫然と立ち尽くしていたのだが、ハッと思い出しココロの傍へ、つまり建物内へと飛び込んでいったんだ。
そこで目にしたのは……
「……コ…ココロ?」
「ケーニヒ様……」
顔の火傷の様な痕は完全に消えている、というより、少し顔が変化している。
肌の色も普通の人間と同じようになり、尖った耳も人間と遜色ないものになり、頭の角も消えていた。
ただ、どこからどう見てもココロだ。
「ケーニヒ様、ごめんなさい……」
「ココロ……そ、その、姿は…どう……」
その後、ココロからきちんと説明してもらったのだが。
納得するのにかなり時間がかかったのは言うまでもない。
そして、その頃外でも、タカヒロ達は同じように重苦しい雰囲気に包まれていた。
―――――
「け、結局はフィラフォサさんがココロさんだ、という事、なんですか?」
「それってどういう?」
「あー、たぶん違うとは思うが、例えるなら、だ。」
「アタイとワールド、あるいはルナとツクヨミ、みたいな関係だったんじゃねぇかな。」
「なるほどなぁ。」
ウリエルのいう事は、間違いではないが正解でもない。
ただ、それは理解しがたい現象ではあるが理解できる事ではある、とタカヒロ達は納得したようだ。
正確にはフィラフォサとココロが言っていた事そのままなのだが、タカヒロ達はその会話を聞いていないのだ。
困惑するのも無理はない事ではある。
がしかし、そこは普通じゃない事に慣れてしまっている者達だけに理解するのも早かった。
「まぁ、今はそれは置いておこう。本題はそこじゃないしな。」
「そうだな。で、サダコ、ツクヨミ。」
「うむ、まずはアレの正体、とまでは行かぬがの。」
「わかった事だけを教えるでありんす。」
「何か解ったのか?」
「端的に言うとでありんす。この世界におけるミーティアのような存在、でありんすな。」
ツクヨミは、ミーティアを知らないタカヒロとサダコにも、分かりやすいようにミーティアの概要を説明した。
そして、この敵はミーティアと以って異なる存在、言ってみればこの世界に巣食う破滅を求める別次元の存在である、と。
「それって、あのハジュンとかいう奴なのか?」
「いや、違うと思う。ハジュンは、もっともワシらの世界の話だが、こんな手の込んだ回りくどい事はせんからのぅ。」
「そうですね。かつてラグナロクにおいてそれを陰で糸を引いていたのがハジュンでしたが、シレっと陣頭指揮を執っていましたからね。」
「それにの、悪戯好きというか、悟りを開こうとしていた者を邪魔したりとな。こっちの話の方が有名じゃろうが。」
「そ、そうなんだ。ラグナロクねぇ。けど、違うとはいえ今までの話だと、この敵はそのハジュンに関わっているという事だよな?」
「あ、そういえば、そのハジュンを開放するとかなんとか!」
「という事は、この敵はダルシアって言う事ですか?」
「そう言う事だな。がしかし、だ。腑に落ちない点がある。」
「ルナ?」
「そのダルシアだが、人間ではない事は明らかだ、何しろ同時に数か所に存在していたのだろう?」
「だな。俺達とルナ達、別の国でほぼ同時に対峙したんだしな。」
「となるとだ。」
ハジュンの解放に関わっている事は間違いではないが、人間でもなければミーティアのような存在でもない、とルナは感じた。
もっとも、どのような存在があったとしても驚きはしない者達である。
ルナの言う腑に落ちない点というのは、その先にあるモノだという。
ダルシア、というのは単なるそのモノの手先、あるいは分身体、もしくは使い魔的なものだろう、と。
「そいつが取っている行動には無駄が有りすぎると感じるのだよ。」
「確かになぁ、回りくどいっていうよりも、無駄だよな。」
「もしかして、ですけど……」
「ディーナ?」
「その敵って、行動目的はミーティアと同じなんじゃないかなーって思います。」
「要するに、そのプロセスそのものを楽しんでいる、か。」
「それで、でありんす。」
「うむ。そいつはの、星の誕生以前に存在していたと言われている“無”そのものだと言われている存在に近い。」
「星の誕生以前って……それって46億年以上前からってこと?」
「そうでありんすな。わっちらも話に聞いていただけでしかありんせんがの。」
「ルシファー殿やアズライール殿も聞いたことはあるとは思うがの、人間には理解できない存在なのじゃ。」
サダコやツクヨミがいう存在。
地球は、あくまでディーナ達の世界からみて、の話だが46億年前に惑星としての形が出来上がったらしい。
しかし、その時すでに“人類”は存在していた、という。
にわかには信じられない、というか理解できない話ではあろう。
ただ、その可能性はあるとルナやディーナは思う。
それはノアの民やロティット、あの大悪魔という、別の星の事を知っているからだ。
そうでなくとも、自分たちが今この瞬間別世界にいる、という現実そのものが、その根拠の一端とも言えるから、だろう。
とにもかくにも、そんなモノが古来より、地球誕生以前より存在していたという所が一番信じられない事ではあるのだろう。
何しろ、それは神々でさえ存在していない時空の話なのだから。
「その存在とは滅幻暗欲、またの名をアネティモラと云ふ。」
「アネティモラ……」
「アズラ、知っているのか?」
「……聞いたことがあるだけ、なのですが……」
「こいつはの、もしかするとウズメやオーディンも知っているとは思うがとにかく厄介な奴らしくての。」
「厄介、とは?」
「アネティモラには魔法は通じん。物理的な攻撃も効かんらしいのじゃ。」
「何だそりゃ?」
「そういえばさっきの闘い、タカやヒロの魔法があんまり効いていない感じはしましたけど……」
「俺とヒロはさ、ちょっとおかしいなぁって思ったからさ、あんまり魔法は使わなかったんだよ。」
「んでもさ、途中なんか変な力が乗ってきて、なあ。」
「ああ。ディーナ姉達もそうかなって思ってさ、ちょっと焦った。」
「そういえば、そんな感じは受けたけど……」
「じゃから、じゃ。ワシらがサポートしたんじゃ。」
「へ?」
サダコが言うサポート、それは魔力でも妖力でもない別の力の発現だという。
それはツクヨミ曰く“神気”という力なんだそうだ。
「実はの、この力は大なり小なり、人間でも所持はしておる力でもあるのでありんす。」
「神気……か。」
「ただ、じゃ。それを“扱える”者というのは限られるのじゃ。今ここで言えばワシとツクヨミ様、主様とディーナ、シャルル、タカ、ヒロ、そして」
「そして?」
「あのココロ、という者だけじゃろうな。」
「いやでも……」
「オレらそんなん知らないぜ?」
「私も……」
「そう、よねぇ……」
「まぁ、それはまた後で説明するでありんす。今はそれがカギという事だけ覚えておく事じゃな。」
「要するに、その滅幻暗欲ってのはフィラフォサ姫とココロが最大の脅威だったから、あるいはその力を欲したから狙っていた、という事なのか。」
「今までの話を纏めると、そう言う事になるな。」
「てことはだ、今はそれを阻止できてるって事なら、アタイらが今すべき事ってのは……」
「だな。という事で、今後の事をまず考えようか。って事でモーゼルさん。」
「は……は!?」
もうモーゼル達には理解できる状況になかったようだ。
タカヒロ達の話も、上の空状態であっただろう、何しろ理解が及ぶレベルを遥かに超えた内容なのだから。
とはいえ、これが今危機的状況にある事だけは肌で感じている。
それはモーゼルだけでなく、ミナルディ、イーシャ、クローも同じと言えた。
特に、戦争真っただ中の国に居るミナルディとクローにとっては、自身が考えるその戦争の意味合いがガラッと変わる可能性があるからだ。
「イルムシャーが、この大陸の戦争を止める。その為の犠牲になってもらうぞ。」
「な、なんだとー!!!」




