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そんな私はヴァンパイア  作者: 松栄
第1章 勇者の航跡
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第2話 やっぱり故郷は良い所

 3時間程電車に揺られ、イワセ温泉郷の玄関口であるハグロ駅に到着した。

 すると、改札を出たところで呼び止められた。

 

 「おかえり、ディーナ、シャルル。」

 「トキワお兄様!ただいま!」

 「お兄様、久しぶり、会いたかった!」


 見た目は20代中頃くらいの男性、私達の一番上のお兄様であるトキワお兄様。

 お父様とサクラお母様の長男だ。


 「お疲れ様だね。どうだ、あっちでの生活は問題ないか?」

 「うん、相変わらずだね。静かに勉強できて楽しい毎日だよ。」

 「私も毎日、研究に没頭できるからね、楽しいよ。」

 「そうか、安心したよ。」


 「お兄様が迎えに来てくれたのね。」

 「ああ、みんな明後日の準備でちょと忙しいみたいだからね。」

 「お兄様は忙しくないんですか?」

 「おっと、そこは気にしたらイケナイよ?」

 「うふふ、お兄様は変わらないんですね。」

 「ほんと、そういう所はお父様そっくりね。」

 「あはは、よく言われちゃうな、それ。」


 お兄様はお父様亡きあと、この温泉郷の領主兼国王を継いでいる。

 ここは元々独立した自治区だったけど、今は周囲5カ国の属国でもある準国家だ。

 理由はあまり解らないけど、属国とはいえ一応の独立国家でもある。

 ややこしい感じもするけど、これは昔のお父様と5カ国の首長たちとの約束事みたい。


 属国、と言うけれど、実質ここを含めた6カ国の中心は紛れもなくイワセ温泉郷らしい。

 属国と領主国との関係は、当初から逆転している、というよりも事実上そんな関係は無いみたい。

 理由は色々有るみたいだけど、周辺のどの国もそれで納得しているんだとか。


 そんな領地の舵取りは難しいみたいだけど、お兄様は苦も無くこなしている。

 やはり、そういう所がお父様と同じなのね。


 馬車に揺られて、駅から領主邸を目指す。

 200年前に建てられた領主邸は今も新築同様に奇麗なままだ。

 故郷の我が家。


 「お兄様、もうみんな帰ってきているの?」

 「あー、ルナ様以外はな。」

 「ルナ様って、今どこにいらっしゃるの?」

 「それがさ、エイダム様とシヴァ様の所を行ったり来たりしているみたいだよ。」

 「うーん、相変わらず行動が読めませんねぇ。」

 「でもさ、どっちかって言うとシヴァ様の所に居る事が多いんだって。」

 「あ、やっぱりそうなのね。」


 ルナ様は一応の家族だ。

 一応、というのは誰一人として血縁もなく、お父様と結婚した訳でもないから。

 それは当然の事で、ルナ様は性別が無い。


 というか、ルナ様は人間でもなければ魔族ですらない。


 これは私達家族やシヴァ様、エイダム様などの関係者しか知らない事。

 お父様は、ルナ様はもしかすると天上に住まう者になるのかも知れない、と言っていたけど。


 「ねぇ、ディーナ、そういえばお土産持ってくるの忘れてたね。」

 「あ、そうだった。でも、私の所って、そういうモノ自体無いような所だからねー。」

 「私の所も似たようなものだけど、なんか、ね。」

 「二人とも、そんな気遣いは要らないよ。というか、その気持ちだけで充分だし、帰ってきた事、無事な姿を見せる事がお土産なんだよ。」

 「トキワお兄様……」

 「お兄様……」

 「むしろ、お世話になっている人にココの名物を土産に持っていくんだね。」

 「うん、そうだね。」

 「やっぱり兄様、お父様にそっくりね、そういうトコ。」

 「あはは、そうか。」


 駅からの道はとても奇麗に整えられている。

 側道との境には色とりどりの花が植えられて街を彩っているし、その両脇に建つ建物も色彩は統一されているもののキレイにされていて見ているだけで楽しい街並み。

 行きかう人も多くて、ここが観光地なんだという事を実感する。

 

 「ねぇ、トキワお兄様。」

 「ん?どした?」

 「私、久しぶりにあれが食べたい。」

 「あ、私も!」

 「おお、そうか。じゃ、ちょっと寄っていくか。」

 「「 うん! 」」


 地元の人や通な観光客しか知らない、この街の隠れ名物がある。

 “サツマイモ”という穀物を切って干した“干し芋”という食べ物。

 絶妙な甘みと歯ごたえ、三つ程度ならそれほどお腹にも響かないオヤツ的なもの。

 こことジパングでしか食べられない、ご当地グルメだ。

 地味な食べ物だけど、これが大好き。


 「あら、ディーナちゃんとシャルルちゃんじゃない、帰ってきたのね!」

 「久しぶりモイラさん。」

 「久しぶりだねモイラさん、元気してた?」

 「ああ、お陰様でね。じゃ、あれ食べる?」

 「「 うん! 」」

 「トキワ様もどうぞ。」


 モイラさんは人間と魔族のハーフだ。

 私が子供の頃から、ここで総菜屋を営んでいる。

 かつてお父様に干し芋の作り方を教えてもらって以降、ずっとここで作って売っている。

 なんでも、お父様はモイラさんのお母様に特製シチューの作り方を教わったので、そのお返しなんだとか。

 

 「今日はコロッケも美味しいよ。食べていきなよ。」


 そう言って、干し芋とコロッケ、そして“ペッパー医師”っていう飲み物を出してくれた。

 ペッパー医師は、お父様が10年かけて再現した古の炭酸飲料で、お父様の大好物だった。

 ちょっと独特な風味がクセになる飲み物、私も好きなんだ、コレ。


 お代を払おうとすると


 「なに、要らないって。久しぶりに二人の顔を見られたんだ、おつりが出るくらいさ!」


 もう、いつもモイラさんはこんな事をいってお代を受け取らない。

 それじゃ悪いという事で、トキワお兄様やヒバリお姉さまの側近が庁舎の人たちへの差し入れをここでいっぱい買うんだけどね。

 小を捨て大を得る、とか言っていたな。意外と商売が上手いみたい。


 「んふふ、それも昔、タカヒロ様から教わったのよ。」


 とは本人の弁だ。


 お店の前のテーブルで、3人で軽く寛ぐ。

 心地よい程度の雑踏、抜けるような青空と白い雲、それを強調する山々の緑、時折響く鳥の鳴き声。

 肌で感じる、故郷。


 やっぱり故郷って、安らぐなぁ。

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