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質問ぜめ

質問攻め


「では、いよいよスキルのことを教わりたいのですが、さっきネガティブスキルとか言ってましたけどスキルにも良いものと悪いものがあるんですか?」


「あるわよ。ネガティブスキルとかマイナススキルとか、言い方は色々あるけど『悪い』影響を与えるスキルと、ポジティブスキルとかプラススキルとか、『良い』影響を与えるスキルがあるわ。単に『スキル』って言えば普通はポジティブスキルのことね。クス」


「ポジティブスキルとネガティブスキルは大抵セットで存在するんですか?」


「そうね。大抵あるわ。例えば【賢者】スキルのネガティブに【愚者】っていうのがあるわ。愚かになる訳じゃないんだけど、あらゆる魔法を習得できなくなるの。あとは【幸運】のネガティブに【悲運】とかね。クスクス……意味は大体分かるでしょ?」


「ネガティブスキルを取るメリットは全く無いんでしょうか?」


「普通は無いけど……中には、取ると見返りにポジティブスキルを取れるものがあるのよ」


「ふむ?」


「例えば【俊足】は20ポイントのスキルだけど、ネガティブスキル【非力】をセットで取るとスキルポイントを使わずに取得することができるの。クスクス……その代わり【非力】のせいでいくら鍛えてもほとんど筋力をつけることができなくて、本当にただ走るのが速いだけになるってこと」


 あれ? 俺はあることに気付き、女神に再び質問をした。


「【非力】がネガティブスキルってことは、ポジティブスキルもありますよね? たとえば怪力とか剛力とか……?」


「どっちもあるわよ。人外の膂力を得られる【怪力】は100ポイントね。常識の範囲内で力持ちになれる【剛力】は20ポイント。【俊足】と同じ位の人気ってことね……クス」


「……例えば、【俊足】と【非力】をセットで取得した後に【剛力】を取得するとどうなりますか?」


「え……? ダメなんじゃない? もう【非力】が付いちゃってるんだから……」


「なるほど。先に取得したものが優先するってことですね?」


「そうじゃないかしら?……多分……」


「じゃあ先に【剛力】を取ってから【俊足】と【非力】をセットで取ると【非力】は無効になりますか?」


「う……んと……」


 女神は言葉に詰まったまま動かなくなった。


「……? そういう、スキルの効果が重複や矛盾した場合のルールを知りたいのですが、秘密ですか?」


「…………うぅ……」


 女神が、目を半開きにして唇をかみ締めている。


「……?」


 俺は、また女神を怒らせてしまったかと一瞬焦ったが、先ほどのような威圧感を感じることはなく、どちらかというと参った様子の女神を見て心配になった。


「うぅ……ごめんなさい。分からないわ……」


「へ……?」


 ガックリと肩を落とす女神を、俺は驚いて見る。


「今までそんなことを聞く人はいなかったし、そんなリスクのある選択をする人もいないし、どうしても矛盾するスキルを取らざるを得なかった人も、転生しちゃえばそのことは忘れて何事も無かったように成長するから問題になったことないのよ……」


「そうか。転生したら記憶を失うんでしたね……でも気になって調べようとしたことは無いんですか?」


「う~……忙しかった……それに、滅多にあることじゃないし、聞かれることもなかったし……。大体、あたしの仕事は転生であってスキル付与は周辺業務というか、本業じゃないし!」


「うーん……」


 確かに女神は全てを知らないとは言っていたが、俺が思いつく程度の疑問には答えられるものだと思っていた。しかしこの様子では方針を変える必要がありそうだ。


「……スキルの資料、自分で読む?」


「え? いいんですか?」


 女神が無表情な声で提案したのですぐに応じた。


「正直に言うわ。私、神格者の中ではスキルに詳しくない方なの。だからあなたが直接資料を読んでちょうだい。それで分からなかったら諦めること。どう?」


 多分、俺がスキルを理解できるとは思っておらず、それらが難しいことを理解させ、諦めさせようとしているのだろう。

 

「【言語理解】を付与していいかしら? Dランクスキルで5ポイントくらいなら構わないでしょう? いらなくなったら返せばいいんだし」


「さっきも気になったんですけど、他言語を理解するのってすごく便利なのに何で5ポイントなんですか?」


「考えてみて。生まれ変わって赤ちゃんからやり直すのよ。あれば便利だろうけど別になくても平気でしょう? わざわざ取る人はいないわ。例外が転生じゃなくて転移の場合ね。これは、無いと致命的だから一番最初に与えることにしてるの」


「転生先の世界って国によって言葉が違ったりしますか?」


「方言はあるけど基本的に共通よ。クスクス……だから益々【言語理解】なんかいらない訳。ただ、種族が違うと言葉が通じなくなるみたいね。それは【異種族言語】っていうスキルが必要で20ポイントね。これを取れば動物とも話ができるわよ」


 なるほど。人類は一つの言語か……と俺は納得した。それならここでしか役に立たないスキルである。俺は女神から【言語理解】スキルを得た。


「あれ? さっき、資料は神々の文字で書かれてるって言いましたよね? 人類と神様って異種族にはならないんですか? ていうか、そもそも、何で女神様と俺が会話をできてるんです?」


「私達神格者を種族と考えるかどうかは難しいけど……もともと神々と人間って魂のレベルだとそれほど違いがないのよ。あたしたち転生神は【言語理解】も【異種族言語】も持ってるけど、人に対しては【言語理解】だけで大丈夫なの。今は私が【言語理解】を持っているから会話ができるってこと」


 質問にしっかりと答えられたためか女神は胸を張って得意げに微笑んだ。


「そうですか……」


「ちょっと、それ以上難しいことは聞かないでよね! 私が何でも答えられると思ったら大間違いよ!?」


 俺が口に手を当てて俯いたのを見た女神が次の質問を怖れたのか声を荒げた。俺が最初に感じた女神への畏怖と敬意は段々と失われていく。


「まあいいわ。これが転生者に関係しそうなスキルの解説書よ」


 女神から手渡された重厚な書籍は前世で言う大型辞典ほどの大きさがあった。


「うわー、これに全部のスキルが載ってるんですね?」


「ううん。これは転生者相手に一番よく使う一冊よ……クスクス、全部見たい?」


 女神がイタズラっぽく笑ったので不思議に思いながらも『資料』なら何でも好きな俺は見たいと答えた。


「じゃあ、こっちね。ついて来て」


 女神に連れられてドアの向こう、隣の部屋へ行くとそこは小さな書庫だった。


「うわあ……これ、全部スキルに関する資料ですか?」


 小さいとは言っても大きめのリビングほどはある広さの部屋全てにぎっしりと書架が備えられ、その全てに本が収められていた。


「そうよ。スキル以外にも、各界に関する資料もあるわ。これが、私が見せることができる資料の全てよ。クス……これで分からなければ諦めなさい」


「はい!」


 俺は膨大な資料に心が弾んだ。元々資料を読んで何かを勉強することは好きだったし、特に自分が知らない新しい分野の資料を読むことは大好きだ。


「クス。この部屋に入った人間は初めてだけど、そんな嬉しそうな表情をするとは思わなかったわ……。私は他の仕事をやってくるから好きなだけ読んでていいわよ。疲れたらさっきの部屋に帰ってきなさい」


 女神が出て行くと、俺は部屋の隅にあった小さな机に向かって座り、まずは女神が最初に貸してくれた資料に目を通した。


 目次を開くと『剣術系スキル』『魔法系スキル』『生活系スキル』……などスキルにも系統が分かれていることがわかった。試しに剣術系スキルのページを開いてみる。


―――――――――――――――

――【剣技】刀剣類取り扱い技量倍加。刀剣類使用時の経験値倍加。剣術系。


――【剣術】刀剣類取り扱い技量5倍加。刀剣類使用時の経験値5倍加。刀剣類の指導力及び刀剣類使用者への洞察力5倍加。剣術系。

―――――――――――――――


「うん。影響の大きさが違うだけで効果は大体同じってことか。他には……」


 次に魔法系スキルを開く。


―――――――――――――――

――【火球】指定した任意の場所に火球を飛翔させる。発動時には火球の大きさ、速さ及び距離の積に正比例した魔力を消費する。消費できない場合には発動は失敗する。失敗した場合には魔力は消費されない。火魔法系。


――【回復】指定した任意の対象の生命力を回復させる。発動時には回復させる生命力の二乗に比例した魔力を消費する。消費できない場合には発動は失敗する。失敗した場合には魔力は消費されない。治癒魔法系。

―――――――――――――――


「なるほど。『魔法』もスキルを使って発動するのか。剣に比べて系統が細かく分かれていそうだな……そうか。発動に魔力が必要だから魔力が存在しない前世ではたとえスキルを持っていたとしても発動できないわけか……?」


 さらにページをめくると、系統の明示がないスキルもあった。


―――――――――――――――

――【スキルキャンセル】発動直後のスキルの効果を取り消し、直接的かつ可逆的な影響について発動前の状態に巻き戻す。このスキルは戦闘中に発動することはできない。神格者以外の者は神格者が発動し、または神格者が影響を受けたスキルをキャンセルすることはできない。


――【スキル無効化】任意の対象者の任意のスキルを一つ無効化する。無効化されたスキルは発動させることができず、スキルを有効化する操作を除き他のスキルの対象にもならない。神格者が神格者以外の者を対照とする場合を除きこのスキルの発動には対象者の同意を必要とする。このスキルによって第一界における神格者のスキルを無効化することはできない。


――【スキル有効化】任意の対象者の無効化されている任意の一つのスキルを有効化する。


――【自動反撃】あらかじめ指定した任意のスキルが自らを対象として発動されたとき、自ら所有するスキルの中からあらかじめ指定した任意のスキルを自動で発動する。このスキルによって発動されたスキルの影響は、発動の事由となったスキルに先んじて判定される。

―――――――――――――――


「面白いな。スキルそのものに影響するスキルか……スキル同士の戦いになれば面白い使い方ができそうだ。制御系とでも名付けるかな。それにしてももっとこう、初心者用の解説書ってないのかな……」


 俺はページを雑にめくっていく。すると、最後の方におまけのような『最近のスキル更新解説』と書かれた部分を見つけた。


―――――――――――――――

【咆哮】獣人補正及び半獣人補正を廃止(第113次更新)。


【器用】剣術系、魔術系、格闘系又は戦闘系スキルの経験値補正とは重複を廃止、補正値が高い一方のみを適用することに。技術系又は生存系スキルの経験値補正との重複は30倍まで有効とする(第117次更新)。技術系、生存系スキルとの経験値補正の重複により30倍を超える場合のうち、一つのスキルで30倍を超える場合には重複によらない経験値補正部分は有効であることを明示(第118次更新)。


【千客万来】迷宮内での使用を不可に(第117次更新)。町、村、その他柵又は壁で囲まれた非戦闘区域以外での使用を不可に(第118次更新)。

―――――――――――――――


「……これは、意味は分からないけどルール改正ってことだよな?」


 俺は詳細が理解できないまま読み進める。どうやらスキルに関するルールに問題が見つかると、その都度改正しているようだ。


「『最近の』更新情報ってことは今も継続的に行われてるって考えていいのか……? 大昔に書かれた『最近』の可能性もあるし、後で女神サマにスキルのルールが変わることがあるのか聞いてみれば分かるか……」


 気付くと俺の中で『女神様』よりも『女神サマ』の方がしっくり来ていることに一人笑った。が、そんなことよりも、もしも今も改正が行われているならば、それはスキルというシステムが完成されておらず、言わばチートの余地があることを意味する。また、ルール改正が過去に遡って行われるのかどうかも重要である。もしも遡って無効にされるのならあまり意味はない。俺がが女神サマたちの意にそぐわないスキルの使い方をしてもすぐにスキルの効果を修正されてしまうだろう。


「……まずは詳細なスキルの調査よりも、やっぱり全体的なスキルのシステムの把握だな。時間制限がないってのは有り難い。じっくり調べていこう。全体的な話なら女神サマも何か知ってるかもしれないし」


 俺は転生とスキルという巨大な仕組みのなかで、チートの余地がないか探るという楽しそうな目標を見つけて嬉しくなった。気付くと自然と笑みがこぼれた。


「うん。チートスキルがもらえないならチートをすればいいんだ。本物の『スキルチート』だな」


 俺は女神から借りた資料を閉じると書庫にある資料を眺めた。そのうちの一冊、『スキル~概論と総論~』に手を伸ばすと書庫の前でそのまま読み始める。


「……なんだ。入門書があるじゃないか……うん、読みにくいけど何とか理解できそうだ」


 どうやら、俺が前世でゲームや小説などで馴染んでいる『スキル』と同様に考えて良いようだ。そして、更に読み進めると男が女神に尋ねた疑問の回答も見つけることができた。


―――――――――――――――

 ……同一のスキル系統に属し、又は互いに干渉する複数のスキルが有効である場合、プラス側とマイナス側のそれぞれ最も強いスキルによる影響の絶対値を相殺して判定する。その余のスキルは有効であっても効果を生じない。

―――――――――――――――


「つまり、一番影響が大きいポジティブスキルと、一番影響が大きいネガティブスキルの効果を相殺……絶対値ってことは引き算か……あれ!?」


 俺はとんでもないことに気付き目を見開いた。何度も読み返して考えが間違っていないか確認する。


「例えば腕力が100あったとして、ポジティブスキルで2倍、ネガティブスキルで二分の一になるとしたら、プラス側が200のマイナス側が50で、絶対値は100と50だから……プラス50で150になるってことだよな!?」


 俺は誰もいない部屋でブツブツと自分に確認するように考えたことを声に出す。


「うん。少し分かりにくい文章だけどそう理解するしかないな。これって、普通に計算したら2倍と半減でプラスマイナス0になるはずなのに、相当プラス側に有利だよな……」


 俺は自然と口に手を当てて考えを整理する。。


「絶対値ならマイナス側には限界があるけどプラス側には限界がない。一つでも倍加スキルを取れば、その系統のネガティブスキルはいくら取ってもマイナス側にはならないってことだ! それを利用すれば相当な数のスキルを見返りに取れるんじゃないか?」


 俺は、早速見つけたチートの余地に興奮した。そして、たった数十分資料を読んだだけでチートの余地に気付いたということは意外と穴が多いシステムなのではないかと資料を読み進めることにした。資料にはスキルシステムの原理原則が雑多に羅列されている。


―――――――――――――――

――スキルを得、または与えられることができるのは知性ある個体のみである。ここで知性の有無は自己と他者を弁別できることを以って別せられる。


――スキルの名称及び効果は界によって変わらない。故に特定の界によっては一部のスキルが無効または無意味となる。また、スキルの個体への影響の多寡はその界の創造神によって決められる。ただし、全てのスキルが全く影響しない世界は構築できない。


――発動型スキルの使用法はスキルを得、または与えられた時に認識できる。自らのスキルに無自覚である場合には発動型スキルを発動することはできない。常時型スキルは自覚の有無に寄らずスキルの効果を受ける。


――自ら所持するスキルに無自覚である場合とは主にスキルの影響により記憶が失われた場合に生じる。転生に伴うスキルの付与と記憶の喪失は典型である。


――無自覚のうちに所持しているスキルがある場合、そのスキルを対象としたスキルの影響を受けることでスキルの所持を自覚することができる。【スキル鑑定】を受けた者がスキルを使えるようになるのはその典型である。


――取得したスキルは相当困難な環境又は対象への使用即ち質的条件又は相当困難な数量又は期間における使用即ち量的条件により上位スキルにランクアップすることがある。質的条件は第三者的観点により、量的条件は使用者観点により評価される。


――個体が同時に所有できるスキルの合計は七の七倍である。それを超えるスキルは取得できない。

―――――――――――――――


 スキルチートの可能性を見出した俺は、ますます夢中になり次々に資料を読み進んでいく。それらは意味が分からないものもあったが【物覚え】スキルによってスムーズに俺の記憶に蓄積されていった。


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