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スキルの説明

「あなたたち転生者には、転生に際してスキルを与えるわ。これは、異世界転生に限らず、全ての転生者に平等に与えられるものよ」


「あるんだ!? スキル!」


「そりゃあるわよ。持って生まれた才能ってやつね。それに、あなたのように他の界から転生する場合にはスキルを自分で選ぶ権利が与えられるわ」


「おお~! つまり、人よりも優れたスキルを貰えるんですね!?」


「それは前世しだいね。あなたの場合は……100ポイント分ね」


「ポイント?」


「そう。スキルポイント。前世で得たスキルは、その生を終えたときに全て清算されるの。全てのスキルは失われ、代わりにスキルポイントを持ってここに来るってわけ」


 女神が慣れた様子で説明をする。要は前世で持っていた才能や技術とをポイントに清算して、今度はそれを使ってスキルを取得して転生できるのだ、と俺は理解した。女神によると、さらに前世での過ごし方や世界への貢献によってポイントが増えたり減ったりすることもあるらしい。それらを全て計算して俺が得られたポイントは100ポイントだという。


 そして、同じ世界で転生する場合には、大体同じような人生を歩むことが多いので前世に問題がなければと同じスキルを与えることが多いのだという。しかし、俺のように別の世界から転生した場合には、本人と相談して希望するスキルを与えるのだそうだ。


「100ポイントって多いんですか? 少ないんですか?」


「普通ね……クス」


「普通っていうのは?」 


 俺は、女神のクスクス笑いは無視することにした。


「特別良いスキルを得たわけでもない、かといって何もスキルを得られなかったわけでもない。そして特別良い行いをしたわけでもない、大きな悪事を働いたわけでもない、そんなつまらない人生から転生した場合の標準が100ポイントよ。あとはその界の神様の裁量で足されたり引かれたりするわ」


「100ポイント分のスキルって、転生先でどれくらい役に立ちますか?」


 俺は、女神からの前世へのネガティブな評価も無視することにした。


「うん……それも併せて説明するわね」


 女神は俺が挑発に乗らなかったせいか、つまらなそうな顔をして続けた。


「100ポイントあれば、『一生食うに困らない』程度のBランクスキルを一つ取れるわ」


「一つですか……」


「ええ。例えば、【剣術】スキルを取れば一生を剣士として不自由なく暮らしていけるし、【学者】スキルを取れば王室の研究員の末席くらいにはなれるわ。『一生遊んで暮らせる』訳じゃないから勘違いしないでね」


「なるほど、でも【剣術】はともかく【学者】って言うのはスキルって言うより職業とか身分なんじゃないですか?」


 前世であればこのスキル名称はプレイヤーから突っ込みをうけるだろうなと思った。


「知らないわよ。私が決めたんじゃないし」


 つまり少なくともこの女神よりは上位の存在がいるって訳か……


 俺は前世でも会話や文章から、その裏にある情報を集めようとする癖があった。別に理由は無い。ただ、情報を集めることが好きなだけだ。女神は当然そんなことには気付かず説明を続ける。


「前世でもっと頑張って沢山スキルポイントを持ってればAランクの【剣豪】スキルで地域最強の剣士になるとか、【博学者】スキルを取って研究員の主席に立つなんてこともできるんだけど、100ポイントじゃムリね。クス」


「それは何ポイント必要なんですか?」


「どっちも150ポイント。『普通の努力家』とか『普通の善人』が取れる限界が150ポイントって言われてるわ」


「今からそのポイントを増やす方法はありますか?」


「無くはないけど……無理ね」


「どんな方法ですか?」


「神格者だけが持てるスキル【転生神の慈悲】を使えばあなたにスキルポイントを与えることも、スキルポイントを使わずにスキルを与えることもできるわ。でもこのスキルは乱用できないから……」


 女神がゴメンね、という表情をした。


―――――――――――――――

――【転生神の慈悲】任意の対象者に任意のスキル又はスキルポイントを付与する。このスキルによってスキルを与えられた対象者のスキルポイントは変化しない。このスキルは神格者以外の者は所有できない。

―――――――――――――――


「ふむ。現実的には100ポイント分でスキルを構築するしかないってことですね。あ、例えば俺が【剣士】のスキルを取ったとして、転生後にそのことは分かるんですか?」


「いいえ。転生するときには全ての記憶を消しちゃうからここでのやり取りも前世の記憶も全て消えちゃうの。だから自分がどんなスキルを選んだか、思い出すことはできないわね」


「なるほど……」


「でも、スキルの中には他人のスキルを調べる【スキル鑑定】なんていうのもあるから、そのスキル持ちと出会えれば自分のスキルを知るチャンスはあるかもしれないわね……無いかもしれないけど、クス。」


―――――――――――――――

――【スキル鑑定】任意の対象者が所有する全てのスキルの名称を認知する。対象者が自らのスキルについて無自覚である場合、このスキルの使用により自覚し、スキルを使えるようになる。

―――――――――――――――


「すると、どんなスキルを選べば転生後に活かせるのかどうか、全く分からない訳ですね?」


「そうでもないわよ? 記憶は失うけど魂というか、性格のようなものは引き継ぐから……。同一界では転生前と転生後の職業は同じことが多いの。異世界転生の場合には……まあ似たようなものよ。今のあなたが興味を持つことは転生後のあなたもきっと興味を持つわ」


「スキルは持っていれば必ず効果が出るんですか? さっきの話しだと女神様のスキル【転生神の慈悲】は意図して使用する必要があるように聞こえたんですが……」


 俺が手を口元に当てながら質問をすると女神が目を丸くした。


「あなた、すごいわね。そうよ。【転生神の慈悲】は発動型のスキル。意識して発動しないと効果が出ないわ。でも、例えば、【剣士】は常時型のスキル。所持しているだけで効果が出るの。スキルには色々な分類法があるけど、『発動型』と『常時型』は有名な分類の方法よ」


「スキルを持てば発動の方法は分かるんですか?」


「スキルを所持した時とスキルを所持していることを認知した時、この2つのタイミングで発動方法を理解できるわ。つまり……」


「ああ。スキルを所持して転生すると記憶を失うからその時点で発動できなくなる。そして誰かに【スキル鑑定】をかけられてスキルを持っていることを知ると発動できるようになる……と。でも常時型のスキルは発動する必要がないから、無自覚でも所持しているだけで恩恵を受けられる。こういうことですね?」


「うん……そうなんだけどさ。私に説明させてよね」


 女神は俺がすぐに話を理解したこととこの環境に馴染んだことに感心したようだったが、自分が話を主導できないことに少し不満げな様子だ。


 もしかしたら話好きなのに女神という立場が畏れ敬われすぎて対等の会話を楽しむ機会があまりないのかもしれない。


「あなた、面白いわね。他にも聞きたいことはあるかしら?」


「では、スキルについて具体的なことを教わる前にいくつか聞いておきたいことがあります」


「何よ?」


「あなたは、スキルの全てを把握していますか? 全てとは一つ一つのスキルについての詳細と、スキルというシステムに関して全てという意味です」


「全ては知らないわね。私達が転生者に授ける候補のスキルが大体200~300個くらい。それに【大賢者】のような高位スキルが何十個か。さらに普段はあまり使わない低級スキルが1000個くらいかしら……それに加えて種族限定のスキルとか私達のような神格者にしか付与できないスキルなんてのもあるし、私達ですら知らないスキルもきっとあるんでしょうね」


「なるほど。知らないスキルについて調べる方法はありますか?」


 女神が手をかざすと、何も無かった空間からぶ厚い本が現れる。女神はそれを重そうに両手で抱えた。


「全てのスキル……違うわね。私達が扱える全てのスキルはこの本で調べることができるわ。大抵の疑問はこの本のどこかに答えがあるわね。これはそのうちのほんの一冊よ」


「僕があなたを通さずに、その本から直接スキルについて学ぶことは可能ですか?」


「可能よ。私が許せば読むことができるわ。でも、全部で1000冊以上あるわよ。それに神々の文字を覚える必要があるわね。クス」


「多分、異世界の文字を読むためのスキルもありますよね? ああ、一つ目のスキルを与えてもらってから残りのスキルを選ぶっていうのは可能ですか? それとも一括じゃないと?」


「……可能よ。【言語理解】スキルがDランクの5ポイントスキルだからそれを取ってスキルの解説書を読んで残りを決めることもできるわよ。転生前なら取り消しもできるしね」


―――――――――――――――

――【言語理解】このスキルの所有者と同種族の他の言語を理解できる。自身の第一言語の語学力には影響しない。自身の第一言語で理解できない言葉はこのスキルを用いても理解できない。読み書きにも同様に作用する。

―――――――――――――――


「え? 試しにスキルを取ってみて変更もできるんですか?」


「できるわよ。転生前ならね。【スキル交換】を使えば別のスキルに変えられるし【スキル返納】を使えばスキルの取得を取り消せるわ。ポイントが返ってくるわよ」


「ふむ……それだとかなり時間が……転生するまでに許される時間に制限はありますか?」


「時間の制限はないけど、ここにずっと居座ろうとするのはダメね。そのときは強制的に転生させることになるわ。スキルを選ぶという行為そのものに時間がかかるならいくらいても構わないわ。何日かかっても平気よ」


「では、スキルについて教わる前の最期の質問。あなたの機嫌を損ねたり、怒らせたりして嘘を教えられることはありますか? あと、あなたの答えが間違っていてスキルの選択に影響があった場合には何か補償をしてもらえますか?」


「……クス…………クスクスクス」


 女神が俯いて腕を組みながら笑う。だがその笑いは先ほどまでのような冗談めいた笑いではなった。俺はすぐに今の質問が失言であったことを感じる。


「第三界の神はよほど温厚なのね。たかが人間が神にこんな質問をするなんて……クスクス」


「あ、あの、スミマセ……」


「気に入ったわ。あなた。その質問に私が何と答えようがその答えが嘘であれば意味を成さない。つまり質問ではなく私への挑戦でしょう? 神格者なんて信用できないという!」


「いえ。あの、決してそんな……」


 さっきまではむしろ少し残念なキャラであった自称女神は、今や多くを語らずとも口調と雰囲気で自らが人外の存在であり、対等に話をするなど普段なら到底許されないであろうことを十分に伝えていた。


「クスクス、心配しなくてもいいわよ。スキルの説明も兼ねてその質問を解決してあげようじゃない。今からあなたにスキル【口約束】を与えるわ。本来は20ポイントスキルだけど【転生神の慈悲】によりタダで与える。感謝するがいいわ」


―――――――――――――――

――【口約束】このスキルを用いて任意の対象者と任意の事柄について約束をすると、対象者が約束を違えた場合にそのことを認知できる。発動には対象者の同意を必要とする。

―――――――――――――――


 女神が俺に手の平を向ける。


「【転生神の慈悲】! この男にスキル【口約束】を付与!」


 すると、何かが身体に入ってくるのを感じた。


「うん。これであなたは【口約束】スキルを使えるようになったわ。私に対して約束を求めてごらんなさい。嘘をつかないことを求めるもよし。私が応じれば約束が成立するわ」


 俺はおびえながらもこれ以上女神を怒らせないよう言われたとおりに約束を求めた。


「えーと、俺に対して、嘘をつかないと約束して下さい!」


「いいわ。約束しましょう。それに、私の説明が間違ったせいであなたに不利益があった際、転生前であればこの部屋に入室した時点まで時間を巻き戻すと約束するわ」


「あ、それならついてに記憶は残したまま巻き戻すって約束してもらえますか?」


「……あなた、やっぱりすごいわね。少しとは言え苛立ちを覚えた神格者にそんな態度を取れるなんて、クスクス……いいわ。あなたの望み通りに約束をしましょう」


 女神が応じた瞬間、俺は『約束が成立した』と確信できる不思議な感覚を味わった。


「どうかしら? 確かに約束が為されたことを理解できたでしょう? もしも私が嘘をついたらどうなるかしら?」


「たぶん、すぐに解ると思います。なぜそう感じるのか、説明はできませんけど……」


「そう。この【口約束】スキルは対象者が約束を破ったとき、そのことをすぐに探知できるスキルよ。これで、あたしが嘘をつく心配も、スキルの付与でミスをしたまま放置される心配もいらないわね。なかなか上手くスキルを使ったと思うわ。……言っておくけど神格者……言わば神々に対してこの【口約束】スキルを使ったニンゲンはあながた初めてかもしれないわ。そしてあたしはそれを受け入れた初めての神格者かも……クス」


 あとから聞いた話だが、女神は神として契約や約束には敏感であり、たかだか人間と対等に約束を結び、それに縛られているこの状態に新鮮な恥ずかしさを覚えたらしい。だが好奇心が強いのでそれはそれで楽しんでいたそうだ。


「あなた、前世のスキルに【探求】と【算術】があったのね。今【転生神の詮索】で見たわ。スキルそのものは失われているけど、その影響でさっきからしつこく質問をしてきたのね。まあ、私も楽しめそうだから何でも聞きなさい。そしてあなたが納得するスキルの構成が決まったら転生させてあげるわ」


 女神が、まだ恐ろしい雰囲気は残しながらも、段々と機嫌が戻り、笑顔を見せ始めながら言った。


「俺、前世でもスキルって持ってたんですね!? 他にどんなスキルを持ってたんですか?」


「そりゃスキルはどの界にもあるでしょ? えーと、あとは【小食】【耕作】【抜け道】、ネガティブスキルで【畏怖】【小心者】【体力低下】……クス。まともな構成じゃないわね。相当雑にスキルを与えられたのかしら……このスキル構成でよく100ポイントをもらえる人生を過ごしたものね」

 

「俺が持ってるスキルってどんな効果があるんですか?」


「【探求】は気になったことを調べるための技術が向上しやすくなるの。性格にも影響するわね。【算術】は大体分かるでしょ? 計算が早く正確になるわ。【小食】、少ない食事で満腹になれる。【耕作】は畑仕事全般に役立つスキルね。生まれた世界によっては救世主になれるわ。【抜け道】は近道を見つけたり、正攻法じゃない手法を思いつきやすくなる。役に立つポジティブスキルはそんなところかしら。混乱が多い世界なら生きやすそうなスキルね」


「なるほど。多分役に立ってたのは【算術】くらいですね。農業なんて考えたこともなかったもんな~」


 俺は、もしもちょっと昔に生まれていたらこのスキルで大成功を収めたのだろうかと少し想像してみた。


「そういうものよ。飢餓に苦しむ国で【大食い】スキル持ちなんて酷いものよ……。で、あなたのネガティブスキルだけど、【畏怖】はおびえやすくなるわ。【小心者】は冒険ができなくなる。そして【体力低下】で体力が落ちるわ。第三界なら基礎体力が普通の人の四分の三くらいに落ちるだけで済むけど、転生先の第二界だと半分以下よ。そして鍛えても増えにくくなるわ。良かったわね。クス」


「なるほど……ところで、もう怒らせたくないので、聞いてはいけないこととか言ってはいけないことがあれば教えてもらえませんか?」


「あなたが悪いんじゃないけど、私達神格者は契約や制約に敏感なの。それに嘘をつくことは物を盗んだり他人を殺すことよりも道徳的に重罪なのよ。さっきのあなたの質問は、初対面の相手に『あなたは機嫌が悪いと誰かを殺しますか?』って聞いたようなもの……ううん。初対面で母親殺しの言いがかりを付けたようなものね」


「すみません」


「道徳観の違いだからいいのよ。ただ、もう一度やったらもっとイラっとするわよ? 別にあなたとの約束を違えることなくひどい目に遭わせる転生方法なんていくらでもあるしね……クス」


 女神がイタズラっぽく笑ったので俺は二度と女神の機嫌を損ねないと誓った。

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