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スキルチート

 落ち着け私……私は第二界を管轄する転生神。スキルについてはあまり詳しくないけど、転生については今まで大きな失敗をしたことがない。一体何が起こったというの!?


 その少年は草原に倒れていた。


「これ、本当にアイツなの!?」


 私の声が聞こえる訳はないけどちょうどそのタイミングで少年が気付き、身体を起こした。


 少年は立ち上がり、身体をひねって自分の姿を確認し、両手を握ったり開いたりして自由に動かせるか試している。すぐに納得したようで、小さな手で拳を握り喜びを示すと、近くにある大きな葉っぱを摘んで腰に巻きつけた。


「まあ……そりゃ裸になるよな」


 少年がそう呟いた。アイツだ。【転生神の遠視】を通して聞こえてきたその少年の声は別人のものだったが、喋り方や表情、しぐさはアイツのものだった。


 私は何が起きているのか分からないまま、視界の先にあるアイツ……少年になったアイツから目が離せなくなっていた。


「さてと……女神サマ、見てるかな?」


 アイツが私のほうを見上げて話しかける。私はとっさに隠れるようなしぐさをしてしまったが、私のことが見えるわけはない。なのにどうして私のいる方がわかるのよ!


「女神サマ、うっかりしてなければ見てくれてますよね? これで俺が【スキル付与】を発動できればチート成功です」


 アイツが何やらスキルを発動すると、スキル【防御力上昇】と【攻撃力上昇】、そして【徒歩】を取得しちゃった。


「何で!? え?」


 それはアイツにとっても確証がなかったことらしい。スキル取得に成功したと確信できた瞬間、アイツは右手を握り締め、高く振り上げて喜んでいた。普段は控えめに喜ぶアイツがこんなにはしゃぐとは、本当に嬉しかったのだろう。


「成功です。実はですね、俺たちが第一界以外の場所で【スキル付与】を無効化されるのって、【スキル無効化】をかけられるのと同じ力だったんですよ。この間女神サマと第二界に行った時に実験して確かめました」


 アイツが、いつも私に新しいことを教える時のようなニコニコした表情で説明する。でも、だから何? 結局無効化されるんだから同じじゃないの?


「スキルで無効化されるのであれば【自動反撃】を使う余地があります。【スキル無効化】が俺に発動されたときに【スキル付与】を割り込みで発動できるように設定した後で、【スキル付与】に【スキル有効化】を使えばいいんです」


―――――――――――――――

――【自動反撃】あらかじめ指定した任意のスキルが自らを対象として発動されたとき、自ら所有するスキルの中からあらかじめ指定した任意のスキルを自動で発動する。このスキルによって発動されたスキルの影響は、発動の事由となったスキルに先んじて判定される。

―――――――――――――――


「何よそれ! そんな事ができるなら神格者以外に誰でも【スキル付与】を使えちゃうじゃない! ていうか、それも大変なことだけど、それより、何で、記憶が、消えてないのよ!」


「では、どうやって記憶を残したか、スキル付与を持ち込んだか、教えますね。女神サマに最後に会う前、いくつかのスキルを【自動反撃】で発動できるようにセットしておいたんです」


 アイツが説明をし出した。私の声が聞こえたみたいなタイミングがちょっとイラっとした。アイツが言うには転生前、私が【忘却】を使う前に複数の【自動反撃】で入念に下準備をしていたらしい。最初の反撃は私が【忘却】を使った時。アイツ自身が【忘却】を自分にかけ記憶を失うように設定したのだという。


「【自動反撃】は確かにスキルを『割り込み』で発動させられるけど……それって何か意味があるのかしら?」


 私はアイツの説明を頭の中で繰り返し考えてみたけどあまり意味があることとは思えなかった。



「それで、女神サマから【転生神の幇助】で【環境適応】を発動されたときに【自動反撃】で【スキルキャンセル】を発動して俺が発動した【忘却】の効果を取り消したんです」


 アイツが淡々と説明する。聞いている私は理解をするのが追いつかず、時間がかかってしまっている。その間、アイツがそれを予想したように待っているのが腹立たしかった。そして気付いた私は両手で頭を抱えた。


「あああー!! そんな手があったのね!」


「もう分かったと思いますけど【忘却】は、その時点で保持している記憶にしか作用しません。つまり俺の記憶を消したのは女神サマが発動した【忘却】ではなく俺が発動した【忘却】になります」


―――――――――――――――

――【忘却】任意の対象者が保持する任意の記憶を失わせる。神格者以外の者は神格者に対して発動することはできない。

―――――――――――――――


 頭を抱えたまま床に突っ伏した私は少しだけ顔を上げて、アイツの顔を見る。アイツは楽しそうに解説を続けていた。


「俺が発動した【忘却】なら【スキルキャンセル】で取り消せますよね。だから【忘却】の影響である記憶の喪失も取り消されて記憶が元に戻るわけです。……まぁ、これは実験できなかったんで『解説書』を信じるしかありませんでしたが、正しかったみたいですね」


―――――――――――――――

――【スキルキャンセル】発動直後のスキルの効果を取り消し、直接的かつ可逆的な影響について発動前の状態に巻き戻す。このスキルは戦闘中に発動することはできない。神格者以外の者は神格者が発動し、または神格者が影響を受けたスキルをキャンセルすることはできない。

―――――――――――――――


「ここまでが、記憶を保持したまま転生するチートです。ですけど普通に赤ん坊からスタートするとせっかく保持できた記憶を結局失ってしまう可能性がありました。なので転生時にある程度の年齢になることが必要でした」


「そうよ! 転生時点で……ううん。どんなタイミングだろうと年齢を上げるスキルなんて聞いたことがないわ! どうやったのよ!?」


 私はガバっと顔を上げ男に向かって叫ぶ。もちろん聞こえはしないが叫ばずにはいられない。そうなのだ。転生後に年齢が上がるスキルなんて聞いたことがない。


「例によって【自動発動】を利用して、女神サマの【転生神の幇助】で【環境適応】が発動されたとき、【束の間の孤独】が発動されるように準備していたんです」


―――――――――――――――

――【束の間の孤独】発動者と同じ種族を認知できず、かつ認知されることもない最も近い場所へ転移する。このスキルは迷宮内では発動できない。このスキルは戦闘中には発動できない。


――【環境適応】発動時に発動者が置かれている環境に心身を適応させる。

―――――――――――――――


「転生直後が胎児なのか生まれた直後の赤ん坊なのか分からないけど【束の間の孤独】を使えば母親が迷宮内にいるというレアケースじゃない限り一人ぼっちの環境に転移します。そして【環境適応】の効果で、その状態でとりあえず死なないように適応します。予想ではある程度成長するか、それとも赤ん坊のまま自力で移動する程度の力と頭脳を得られるかのどちらかだと思いました。普通に成長するほうで良かったです」


 アイツはそれに追加して、スキルを連続で発動させるために【環境適応】のカウンターとしてまず【束の間の孤独】を発動させ、さらにそのカウンターとして【スキルキャンセル】を発動させる小細工をしたとか言ってるけどもうそんな細かい話はどうでもいい。


 限度があるとはいえ、【スキル付与】を扱える人間が存在するなんて、限定的とはいえこの世界のバランスが……


「それと俺、コツコツ成長させたスキルを【スキル返納】でポイントにしたんで3000ポイント以上持ってるんです」


 とどめとばかりのアイツの発言に、私はその場をゴロゴロと転げまわって悶絶する。


「もーー!! 何か企んでるとは思ったけどさー! 何なのよアイツ! どうするのよー! 軽く第二界全体の支配者になれちゃうじゃない!」


「でも、【スキル付与】を他人に使う気はありません。俺自身に大層なスキルを付ける気もありません」


「?」


 私は悶絶を止め男のほうを見る。


「まあ、何かのピンチになった時には使うかもしれませんが……、俺、この世界で色々な人に【スキル鑑定】を使って皆にスキルのアドバイスをする仕事をしようと思います。たぶんこの世界で一番スキルに詳しいですよね……俺」


「……そりゃあね。これから上級神になる私よりは間違いなく詳しいわよ。神格者以外なら間違いなく一番詳しいわ」


 私は、あきれながら、聞こえるはずのない返事をする。


「そんな仕事をしてれば、そのうち女神サマがこっちに降りてきたときに会えるかもしれませんしね」


「は!?」


 アイツが、少し照れたような、ふざけたような笑顔で言った言葉に私はただ驚いた。転生者と転生神が再会するなど、考えてみたこともなかった。転生者は記憶を失うし転生神は転生後の人など見ることもない。たとえ見たところで誰もが同じような赤ん坊だ。


「でも、それって……」


 アイツとまた会えるかもしれない。私はその可能性を考えて嬉しくなったことに驚いたが、すぐにそんなことが許されるわけがない。神々の決まりで禁止されているに違いないと思った。


「あー……俺たちみたいなのは例外だから、たぶん禁止するルールもないと思います。こういうの、誰かがやって初めて禁止されますよね。だから俺たちが会うまでは禁止されないと思うし……まぁ会ったところで誰にも迷惑かけませんしね」


 そんなことでいいのかしら……と私は額に手を当てて悩みこむ。


「だから、もし、こっちに降りる機会があったら是非来てください。俺もそんな儀式が行われると聞く度に参加することにします」


「……クスクス……知り合いの神様を探す人間なんて聞いたことないわよ……まったく……これじゃあまるで……」


 私が黙り込んだところでアイツが口を開いた。まるで互いに見えている者同士の会話のようだった。


「俺、たぶん、女神サマのこと、好きですよ」


「……クス……神格者たる私が、たかだか人間のことを好きになるなんて、そんな馬鹿なこと……」


 あるわけがない。目の前のアイツの映像に向かって私はその言葉を口にすることができなかった。


 【口約束】によりアイツと結んだ契約は未だ有効であった。




 ――私は、アイツに対して、嘘をつけない。




 どうやら私にとっては映像の中のアイツに対しても有効なようだ。そのことに気づき、私は真っ赤になってしまった顔を両手で覆いやり場のない感情を込めて足をバタバタと鳴らした。


「もう……何なのよ……」


「いいわ……暇な時には行ってあげる。ちゃんと見つけてよね。クスクス……楽しみにしてるわね」


 次に私が第二界に降り立った時、私がビックリするような方法で私のことを見つけるであろうアイツを想像すると可笑しくなって笑いが止まらなくなった。


「私も頑張って上級神をつとめないと! いっぱいスキルのこと勉強したらもうちょっと私のことを畏れ入ってくれるかしら……クスクスクス」


 私は上級神としての日々を迎える覚悟を決めた。


 私の呟きなど聞こえるはずも無いアイツは歩きながら何かつぶやいている。


「さて……次はどんなチートを見つけられるかな……女神サマを見つける方法も探さないと……正攻法じゃつまらないよな……女神サマを驚かせるようなチートで見つけるか……」


 私が見守る中、少年の姿となったアイツは、何かのスキルで草木から簡単な服を作り、一番近い……おそらく本当はそこで生まれるはずだった村を目指し歩き始めた。


 第二界の誰よりも、そして勉強不足の上級神よりも遥かにスキルに詳しい少年となった、アイツの第二の人生が始まったのだ。



――終わり

最後まで読んでくださりありがとうございました。

また、たくさん評価をいただいていることに気づきました。ありがとうございました。

この物語はこれで終わりです。他に書いてみたい物語がありますので時間を見つけてコツコツ書いていきます。今後ともよろしくお願いいただければ幸いです。

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