厳選
俺は慎重に確認しながらスキルを選択していく。チートで蓄えたスキルポイントを使えばAランクスキルを何個も取ることができるけど、女神サマとの約束でBランク以下という制限がある。そのためにこの数十年で蓄えた知識を駆使してチートなスキルの組み合わせをするのだ。
「うん。大丈夫……なハズだ。念のため、【スキル鑑定】!」
念のため【スキル鑑定】を発動すると自分自身のスキルが俺に伝わる。
【強制】
【環境適応】
【言語理解】
【スキルキャンセル】
【スキル鑑定】
【スキル】
【スキル付与】
【スキル返納】
【自動反撃】
【自動反撃】
【束の間の孤独】
【記憶術】
【忘却】
【算術】
【スキル偽装】
【スキル隠蔽】
「さて、こんなにスキルを抱えてたらいくら偽装しても女神サマに怪しまれちゃうからな……少し寂しいし不安だけど……【スキル返納】【スキル返納】【スキル返納】……」
【強制】
【環境適応】
【言語理解】
【スキルキャンセル】
【スキル付与】
【スキル返納】
【自動反撃】
【自動反撃】
【束の間の孤独】
【忘却】
【スキル偽装】
【スキル隠蔽】
「さてと、偽装の重ねがけをすれば【スキル偽装】と【スキル隠蔽】ももういらないな。スキルを失っても偽装と隠蔽が持続することは確認してあるし……女神サマとの思い出もあるけど【口約束】からランクアップさせた【強制】も消すか。Aランクスキルは持ち込むなって言われたしな……」
【スキル偽装】を使えばAランクスキルの【強制】を持ち込むこともできるだろうけどその後でペナルティがあるかもしれないし、何より女神サマとの約束を破るのは気が咎める。
「あれ? ランクアップしたってことは俺、もう【口約束】は持ってないのに効果は続いてるな……【強制】を返納しても効果は続くのか? ……【スキル返納】!」
俺は【強制】を手放したものの、女神サマにかけられた【口約束】スキルの効果がまだ感じられた。ただ、彼女がこれまでの付き合いで一度も嘘をついたことがないことを考えると、その効果が残っていてもいなくても、実際には影響はないだろう。
【環境適応】
【言語理解】
【算術】
【木登り】(本当は【スキル付与】)
【穴掘り】(本当は【スキル返納】)
【村人】(本当は【自動反撃】)
【剛力】(本当は【自動反撃】)
【物覚え】(本当は【自動反撃】)
【口約束】(本当は【忘却】)
【昼行灯】(本当は【スキルキャンセル】)
【スキル鑑定】(本当は【束の間の孤独】)
「うん。これなら全てCランク以下で、怪しいスキルは含まれてないから大丈夫だろ……【穴掘り】とか【木登り】はちょっと無理があるかな。まあいいや」
俺はもう一度スキルを確認し、目をつぶってこれからの手順を確認した。その後、俺自身を対象としていくつかのスキルを発動した。もちろん転生に際して行うつもりのチートの準備だ。
「準備できました」
部屋を出ると、女神サマが待ち構えていた。いつものように仕事をしながらではなく、部屋の中心に佇み、俺が出てくるのをじっと待っていた様子だった。
「じゃあ、転生を始めるわよ」
「はい。ですがいくつかお願いがあります」
「何よ?」
こちらに近寄ろうとした女神サマが、俺の言葉で立ち止まる。
「はじめに、約束していた【転生神の幇助】ですが、俺の持ってるスキルの中から【環境適応】を発動してもらえますか?」
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――【転生神の幇助】任意の対象者が転生した時、対象者が所有するスキルの中からあらかじめ指定した任意のスキルを一つ発動させる。このスキルは神格者以外の者は所有できない。
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「……いいけど、たぶん何も起きないわよ?」
女神サマが少し眉をよせて不審そうに尋ねる。
「もう素直に言います。俺、転生の時にチートするつもりです。【転生神の幇助】で環境適応の発動があれば上手くいくはずなんです」
「約束したからね。分ったわ。あなたの転生時に【環境適応】が発動するよう【転生神の幇助】を使ってあげる」
「ありがとうございます。もう一つ、【忘却】で俺の記憶を消した後、すぐに転生してもらえますか?」
「別にいいけど、なんで?」
「えーと……女神サマのことを忘れてしまう時間を短くしたいから……ってのはどうですか?」
「……クス。それも何か企んでるんだろうけどまあいいわ。でも何度も言うけどあたしたち神格者が発動するスキルは妨害できないの。まあ、それで納得するならいいわ。やってあげる」
「ありがとうございます。最期に一つ、これはできればって程度なんですが……俺が転生した後、どうなるか見ててもらえませんか? チートが成功したかどうか、女神サマには見届けてもらいたいです」
「うーん、転生直後は新たな生命として胎児になっちゃうから……生まれる頃に見せてもらうわ」
「それならせめて10分だけ、まだ生まれていないとしても、転生直後の俺を見ててもらえませんか?」
「そこまで言うなら……あたしもお世話になったしお礼だと思って付き合ってあげる。飽きるまでね。クスクス」
「ありがとうございます。尊敬してます」
「クス。ウソばっかり。じゃあ、いいかしら? そろそろ転生するわよ。最初に約束から果たすわ。転生後に【環境適応】が、あなたに対して発動するよう指定して……【転生神の幇助】!」
女神が声を張ると俺はスキルがかけられたことを感じた。これで俺は転生時に【環境適応】のスキルを発動させることができる。
「そういえばあなたにスキルをかけるのって何十年ぶりかしら?」
「たしかに。女神サマからスキルを頂けるなんて感謝感激です」
「最期までふざけた男ね。クスクス。じゃあ、いよいよ記憶を消して転生させるわよ。何か、最期に言いたいことは?」
「別にないっす」
「……ふーん、ま、色々とありがとう。楽しかったわよ。【忘却】!」
――俺もですよ、と言いかけたところで女神のスキルが俺を襲う。女神は首をかしげる。
「あれ? 何か手ごたえが違う……? ここに来てからの記憶量が多いからかしらね?」
ここはどこだ? 目の前の女性……少女? が、少し不安そうな、それでも納得したような顔をしている。
「じゃあね、もう会うことはないけど、気をつけて。【転生】!」
俺が、この見知らぬ部屋と見知らぬ女性に何から尋ねたらいいのか考えている間に、俺の身体がどこかに飛ばされる感覚がした。いや、本当に俺の身体か? まるで身体ではなく魂だけが飛翔するような感覚。女性の声がだんだんと遠くなる。何かつぶやいているようだ。
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あーあ、行っちゃった……。変な奴だったなー。大体、初めて会ったときから、神格者である私に何の畏れも抱かないなんて……。
「……ふう、この部屋に来てから転生するまで一番長かったわね……クスクス。きっと上級神になってもアイツのことは思い出すんだろうな」
気付くと放心していた私は、そうつぶやいて気を取り直した。
女神になってから、いや、それよりも前、天使になってからだろうか、他人と感情のある会話などずいぶん長い間していなかった。アイツが来てからは私にとって砂漠の中のオアシスのような、違うわね。神格者ぽく言うならば第七界で形ある生物に出合ったような貴重な時間だったわ。
「いけない。転生後を見て欲しいって言われてたっけ。と言ってもまだ生まれてもいないからどんな家に生まれてくるのかだけ見てあげるわ……【転生神の遠視】! クスクス……もしかしたら生まれを選ぶようなスキルをコッソリ発動したのかしら……って……え? えええ!? これ、アイツぅ!?」
スキルを通して私の目に入ってきたのは10歳くらいの少年だった。場所は人家から少しだけ離れた草原の中。その少年はひとり、全裸のまま倒れていた。
「え……え!? 何? 何かミスした? あたし!?」