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昇進

 俺が女神サマと第二界に行ってからもう数年が経った。


 あの時、『実験』が成功したことで俺はスキルチートのコツを掴み、あれからの数年間でさらにスキルについての情報を集め続けた。もう女神サマにも情報量では勝ってる気がする。


「うん。これなら何とかなりそうだ……」


 目の前にあるのは、俺が転生する時に所有するべきスキルの構成と発動タイミングを綿密に書いたノート。この十数年の研究の成果だ。


「できることならもう一度、実験をしたいところだけどな」


 スキルのシステムの少なくとも表面的な部分については全て知り尽くしたと自負しているが、チートを成功させるためにはその裏の部分も知る必要がある。もう一度、『現地』で実験ができれば完璧にチートを成功させる自信があった。


「もう一度くらいチャンスがあるだろ。二回目の実験が成功したらいよいよ転生の準備をするかな」


 俺は、そろそろ自分自身の転生のためのスキルを構築しようとしていた。もちろんただスキルを組む訳はない。スキルチートをするのはもちろんのこと、この記憶を持ち込むつもりである。果たして次の実験の機会はいつ来るのか……


 ゴンゴンゴン!!


「ちょっとー! 大変! お暇でしょーー!?」



 ドアをノックというか殴打された音と女神サマの叫び声で俺は椅子からずり落ちる。何年経っても慣れない。


「はいはい。開けますよ。開けますから騒がないで下さい。今度はどんな難題ですか?」


 女神サマが俺を呼び出すときは決まっていた。転生者にふさわしいスキルを与えるためのスキルポイントが足りないとき、スキルの組み合わせが難しいとき、そして極まれにだが、異世界転生者が面倒なスキルを希望した場合など、要は解決に複雑なスキルの構築を必要とするときだった。


「違うのよー! 大変! 私ね、上級神になれるって!」


「何です? それ」


 女神サマが俺に説明する。転生神である女神は神様たちの中では現場職であり、その評価が上がったことによって言わば『管理職』である上級神になれる見込みだと『上司』である神に言われたのだという。今後、上級神からさらに『昇進』すると創造神となり、好きな所で自分の世界を作り出せるのだという。


「女神サマは上級神になりたいんですか?」


「え? なりたいって言うか、神様からそう言われたんだから、なるでしょ?」


「……偉いですね。立派な組織人っす。昇進おめでとうございます」


 俺はパチパチと手を叩く。


「何だか馬鹿にされてるような気がする……。あっ、そうだ! それでね、この部屋には新しい転生神が来ることになるんだけどね……」


「ああ。そういうことですか。大丈夫です。俺もそろそろ転生の準備ができそうなんで、女神サマが交代する前に、いなくなりますよ」


 女神サマは『自分がいなくなるまでにとっとと転生しろ。そうしないと後任に引き継ぐのが面倒だ』と言いたいのだろうと思った俺はすぐに出て行くと答えた。できればもう一度実験をしたかったけど今のままでもスキルが組めないわけじゃない。これほど猶予をもらったのだからこれ以上迷惑をかけるのも悪いだろう。


 ところが、俺の答えを聞いた女神サマの表情が変わった。


「ええ!? そんなぁ! 予想外だわ!」


 嘆く女神サマ。


「あなたに後任を頼もうと思ってたのに!」


「は!?」


 女神サマの話によると、転生神の引継ぎルールはごく単純。女神サマがこの部屋を去った後、最初にこの部屋に入ったものが後任になるという。昔は、空いている部屋を見つけて入り込んだケースや上級神が天使や下級の神を派遣するケースもあったらしいが、現在は抜ける神が後任を指名するのが暗黙のルールになっているのだという。


「もちろん強制はしないわ。でも、正直に言ってあなたは転生神に向いているだと思うの。もちろん一番の天職は創造神のごく一部が担うと言われるスキルの創造だと思うけどね。クス」


 女神サマが俺を説得し始めた。スキルに関する俺の知識は女神が知る他の神々と比べて遜色がないどころか頭一つ抜きん出ていること、後任になれば神々にしか使えないスキルをいくつも取得できることなど。そして……


「人が神格者になるには普通、まず天使格を経ないと無理なのよ。私も元天使だしね……クス。それをいきなり神格者になれるなんて、数えるほどしか例が無いと思うわ。どう? 神様になってみない?」


 女神サマが面白そうに俺に尋ねた。


「残念ですが……」


 俺は頭を下げた。


「俺がスキルの情報を集めたのは俺自身がスキルチートをするためです。もちろん神様しかもてないスキルにも興味はありますけどね。ここで転生をやめたら今までのことが全て無駄になっちゃいます。いるんですよ、チートを探ることが目的になってクリア目標を見失う奴って。俺は本来の目標に向かって正しくチートを使います」


 俺は率直に話したつもりだったがこの感情は通じないだろうなと思った。でも女神の後任を断り当初の予定通り転生をしたいという気持ちは通じただろう。


「そう。分かったわ。残念だけど諦めるわ」


 女神サマは少しだけ残念そうな笑顔で了承した。


「それならそろそろ転生の準備をしてね。私が上級神になったとき、あなたがこの部屋にいたら後任者になっちゃうわよ。クスクス」


「それは困りますね。どれくらいの時間がありそうですか?」


「第三界でいう三日間くらいかしら? 念のため早く転生しちゃったほうがいいわよ」


「分かりました。もう取得するスキルは考えてあるんで少しだけ待っててください」


「いいわ。約束どおりあなたが選んだスキルは全て追認するわよ。あなたが約束を守ってくれれば。クスクス」


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