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持ち込み成功

「では、あなたのスキル【売買】を消去してそれで得られたスキルポイント……スキルを得るための対価のようなものです。それを使って【村人】スキルを与えましょう。よろしいですね? では準備をしますので少しだけお待ちください」


 【スキル返納】には対象者の同意が必要である。同意は取ったので準備に取り掛かる。


―――――――――――――――

――【スキル返納】任意の対象者の任意のスキルを一つ消去し、引き換えにスキルポイントを付与する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。

―――――――――――――――


「まあ、失敗したら女神サマが戻ってくるまで待ってもらえばいいからリスクは無い……よな? 怒るかな……」


 俺は頭の中を整理してこの女性に迷惑をかけないかもう一度確認する。最初は自分自身で実験をしようと思っていたのだが意外とその余裕が無いことと、失敗した場合に収集がつかなくなる可能性、それに女神にバレる可能性があったので現地の人で実験をすることにした。


「相手もスキルを代えることを望んでる訳だからまあ、お互いのためってコトで……」


 俺自身を納得させるように言い訳をした後、大きく上を向いて思い切りをつける。


「よし。まずは偽装して持ち込んだスキルを確認しよう。一つ欠けても失敗するからな」


―――――――――――――――

――【スキル付与】任意の対象者にスキルポイントと引き換えに任意のスキルを一つ与える。スキルポイントの不足などで対象者がスキルを受けられない場合には付与は失敗する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。


――【スキル有効化】任意の対象者の無効化されている任意の一つのスキルを有効化する。


――【自動反撃】あらかじめ指定した任意のスキルが自らを対象として発動されたとき、自ら所有するスキルの中からあらかじめ指定した任意のスキルを自動で発動する。このスキルによって発動されたスキルの影響は、発動の事由となったスキルに先んじて判定される。

―――――――――――――――


 俺は実験に必要なスキルが間違いなく揃っていることを確認するとスキルの発動を始めた。


「まずは【自動反撃】! 発動条件は『【スキル無効化】が俺に向けて発動された場合、目の前の女性を対象として【スキル返納】で【売買】スキルを返納するよう発動する』……と」


 俺は【自動反撃】の発動に成功した感覚を受ける。これで、俺に【スキル無効化】が使われた場合その『反撃』として【スキル返納】が発動することになる。予想では、このあと俺が【スキル返納】を有効化した瞬間に無効化されるはずだ。そしてその『無効化』の方法が、俺を対象とした【スキル無効化】と『システム上』同等ならば【自動反撃】が発動され、【スキル返納】が無効化されるまでのわずかな時間に【スキル返納】を目の前の女性に発動できるはずである。はずなのだが……


「準備はこれでよし。いよいよだ……俺自身が所有する【スキル返納】を対象として【スキル有効化】!」


 発動した瞬間、俺は所有する【スキル返納】が使えるようになった感覚を確かに感じた。が、すぐにそのスキルが無効化されようとする感覚に襲われる。まるで自らが開いた本を誰かが閉じようとするかの不愉快な感覚。感覚を研ぎ澄ましているからこそ、その一瞬に何が起きているのか感じることができる。


 そして【スキル返納】が【スキル無効化】に襲われ無効化されるまでの間、体感としては一瞬の半分にも満たない僅かな刹那に【自動反撃】が起動した。それによって発動されたスキルは、発動事由のスキル即ち【スキル無効化】よりも先に判定される。そして【自動反撃】により【スキル返納】が目の前の女性へと発動されその効果を発揮しようとしていた。


 なるほど。スキルの攻撃を受けてから効果が出る間に無理やり割り込んでこっちのスキルを発動する感じなのか……【自動反撃】が成功したってことは……よし! このチートも成功したってことだよな。この使い方を一般化すれば【スキル付与】も含めて、『第一界以外では無効化される』系のスキルは全部持ち込めるってことだ!


 濃縮された時間の中で最も鈍足なのは俺の思考と感情だった。俺が成功を確信し喜びで鼓動が早まるのを感じながら心を目の前の現実に戻すと、先ほどと変わらない部屋に先ほどと変わらぬ姿勢で女性が待っていた。


「【スキル鑑定】! うん。【売買】スキルは消えてますね。では次に【村人】スキルを付与します」


 念のため女性に【スキル鑑定】を使ったあと、俺はもう一度チートのための準備を行う。女性のスキルポイントを確認する手段はないが、【売買】スキルを失ったことで20ポイントの余裕があるはずだ。


「【自動反撃】発動! 『【スキル無効化】が俺に向けて発動されたとき、目の前の女性を対象として【スキル付与】で【村人】スキルを与えるよう発動』……【スキル有効化】発動!対象は俺の【スキル付与】」


 先ほどと同じように一瞬の間に様々なスキルの効果が入り乱れ、最終的に狙い通り【スキル付与】が発動され女性に【村人】スキルが与えられた。その経緯を全て理解できた俺が成功を確信すると同時に、女性もまた自らが【村人スキル】を得たことを感じられたはずである。


「どれどれ、ちょっと確認させてもらいますね、【スキル鑑定】! ……大丈夫。無事に【村人】スキルを取得できましたよ。え? 自分でも分かる? それはよかった。これで今までよりもずっと効率よく村での仕事をこなせると思います。いえ。そこまで畏まらなくて大丈夫です。え? 泣くほど嬉しいんですか? それはよかった。 ……ちょっと! おでこを地面にこすり付けないで下さい!!」


 目の前の女性の、俺からすると過剰な喜びと感謝は『この世界』の住人が神々に向ける当然の感情なのかもしれない。それを見た俺はこの世界でスキルがいかに重要か、そしてそれを自由に扱えることがどれだけ有利か、そして神々と同様とも言えるスキルの知識がいかにとんでもないチートとなりえるかを強く感じた。


「【スキル付与】も【スキル返納】も持ち込めるし使える! あとはこの記憶をどう持ち込むか……だな」


―――――――――――――――


「ごめんねー! 一人で大丈夫だった? あなたも一休みしていいわよ」


 女神が戻ってきたのはそれから一時間以上も経ってからだった。すっかりリフレッシュしてすっきりした表情をしている。


「女神サマ、集中力が無さ過ぎです。急がないと夜までに終わりませんよ?」


「え?」


「え? って何ですか? 俺、神様じゃないし初めての作業ですから女神サマに頑張ってもらわないとこの列、終わりませんよ?」


「わあぁぁ~! しー! それ言っちゃダメ!!」


 女神サマが俺の元へ走り寄り、口を両手で塞ぐ。幸い部屋からは住民の一人が去り、次の一人が入る合間だったので誰も聞いていない。もっとも、そのタイミングを見計らって女神サマが入ってきた訳だが。


「あなたはここでは神様なんだから! 聞かれたら困るでしょ。それにこんな大勢、一日で終わるわけないでしょ!」


 女神が呆れたように俺を叱る。今度は俺が驚き聞き返した。


「え?」


「え? って何よ?」


「このペースなら女神サマがちゃんとやってくれれば終わりますよ。列の先頭になった人がこの部屋に入るとき、その次の人に【スキル鑑定】をかけておくんです。そうすればこの部屋に入るときには自分のスキルを自覚した状態になってます。そこでスキルの詳しい説明をして、相談やアドバイスをすればスムーズになりますよ。俺から何もアドバイスを聞かないで、お礼だけ言って帰っていく人も多いですよ」


 俺は『このペースでは一日で終わらない』と踏んで作業を効率化していた。神官を通して住民達にその流れを伝え、流れ作業として列を捌いていた。そのうちに俺も住民達に何をどうアドバイスしたら良いのか分かるようになり更に効率的に列が流れていった。


「そんな雑でいいのかしら? もっとこう……厳かな感じにしないと」


 女神サマは少し不安げだったが、本当は二、三日をかけて行うはずの作業を一日で終わらせるという快挙にも興味があるらしく、結局俺の話に乗ってきた。


「じゃあ、私もそれでやるけど……そういえばスキルを入れ替えなくちゃいけない人たちは? 一人もいなかったの?」


 女神サマが、二人以外誰もいない部屋を見回しながら聞く。


「あ! ……えーと、うん。大丈夫でした」


「大丈夫って何よ? 一人もいなかったってこと?」


「えーと、だから、大丈夫でした……」


 俺のことを胡散臭そうにジーっとみる女神サマ。曖昧な笑顔で終わらせようとする俺。


「まさか、またズルして変なスキルの使い方をしたんじゃないでしょうね?」


「それはホントに大丈夫です。スキルの解説に書かれている通りの使い方しかしてません」


 俺の答えから何かしら正攻法ではない使い方でスキルを用いたことは感じだ様子だったが、他の神の領域であまり面倒は起こせないらしい。目をつぶることにしたようだ。


「まあいいわ。じゃあスキル鑑定を続けましょう」


「はい。頑張ります!」


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