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第二界へ

「これでどうですか?」


 俺は両腕を大きく広げ、服を女神サマに見せる。


「うん。まあ、いいんじゃない?」


 俺が着ているのは女神と同じような白くゆったりとした服。だが女神サマは俺の見た目はあまり気にしていない。見ているのは服ではなくその内側の内側。俺のスキルだ。


「【算術】と【読書】がちょっと気になるけど……それ以外は【転生神の慈悲】【記憶術】【言語理解】【スキル付与】【スキル返納】【転生神の簒奪】【転生神の詮索】【スキル鑑定】……うん。スキルはそれでいいとして……向こうでは普通にしててよ?」


「たぶん女神サマたちの普通と俺の普通って違いますよ? 良く分からないからずっと女神サマの隣にいます」


「え!? あ、ああ。うん。第二界にいる間はね」


 女神がビックリした様子で返事をした。


「あのね、神格者同士で『ずっと一緒にいる』っていうのは縁組を意味するの。だから間違われないようにその言葉は使わないほうがいいのよ?」


「それは人間でも使うことありますけど……文脈の問題だと思います。今の流れで求婚にはならないでしょう。言葉の勘違いが多いって言われたことありませんか?」


「う……最近あなた私に対する惧れが無くなってない?」


「親しみにある女神サマとしてとても慕っていますよ? そうだ。ちょっと待っててください」


 うっかりしていた俺は書庫に戻り【スキル付与】でおれ自身に【自動反撃】を付与した。わざわざ書庫で付与したのは女神サマに見られてチートの実験を企んでいることがバレるのを避けるためだ。


―――――――――――――――


…………

……


 女神サマの【転生神の跳飛】で、俺は女神サマと一緒に第二界へと降り立った。俺は巨大な石造りの神殿の中で一人、興奮している。


―――――――――――――――

――【転生神の跳飛】第一界の自身の拠点から他の界の任意の場所へ、又は他の界の任意の場所から第一界の自身の拠点へ移動することができる。移動には近接範囲内の任意の対象者を随伴させることができる。第一界への随伴の対象は第一界から随伴して移動した者に限る。このスキルは神格者以外の者は所有することができない。

―――――――――――――――


「おおー……本当にファンタジーの世界だ!」


 俺の目に入ってくるのは祭壇の前にいる神々。俺が着てきた物と同じゆったりとした白い服を着ている。そしてそこへ向かって続いている長い長い人の列。老若男女といった感じだ。スキルの鑑定を求める人々の列であろう。そしてこの場を規律している神官らしき人たちとその神官を護衛しているのは騎士か兵士か……帯剣した革鎧の男達。お、女性もいるのか。カッコいいな。


「ちょっと、あんまり大声で驚かないでよ! 目立っちゃうでしょ!」


 女神サマが俺を引っ張り神殿の隅にある部屋に押し込んだ。部屋と言っても扉は無い。ただ石造りの壁で区画されているだけなのでちょっと首をのばせば周りの様子が良く見える。


「いい? 絶対にここから動かないでよ?」


 女神サマはそう言うと祭壇のほうへと歩き出す。堂々とした歩き方。通り道にいた人々が深く頭を下げ、中にはひれ伏す者もいた。女神サマはとても優しい笑顔でそれに応える。


「うーん、こうしてみるとやっぱり女神サマって神様なんだなぁ……あ、誰かと話し始めた。あれも神様かな?」


 扉がない入り口から首を伸ばして見ていると、女神サマが男神と話を始めた。お互いに畏まった態度で、周りの人々からは神々同士の神聖なやり取りに見えていることだろう。


「ん? こっちを見てる……? 俺のことでも話してるのか? あ、帰ってきた」


女神が先ほどと同じように神々しい歩き方で帰ってきたが、その表情は少し不安げだ。普段から表情を見ている俺にしか分からないとは思うが。


「うーん、思ってたよりも大変かも……」


 女神サマが言った。言わなかったとしても分かるくらい表情が困っている。


「どうしました?」


「私達の仕事なんだけどね……【スキル鑑定】で持ってるスキルを調べてあげて、今後のアドバイスをするんだけど……」


「別にいいんじゃないですか? 俺も手伝いますよ?」


「それに加えて、スキルが偏ってたら【スキル返納】と【スキル付与】でスキルを整理しても良いって言うのよー! あなたは【スキル返納】も【スキル付与】も使えないから結局私一人になっちゃうー!」


 女神が頭を抱える。


―――――――――――――――

――【スキル返納】任意の対象者の任意のスキルを一つ消去し、引き換えにスキルポイントを付与する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。


――【スキル付与】任意の対象者にスキルポイントと引き換えに任意のスキルを一つ与える。スキルポイントの不足などで対象者がスキルを受けられない場合には付与は失敗する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。

―――――――――――――――


「それなら【スキル鑑定】とアドバイスは俺がやりますから、女神サマはスキルの入替が必要な人だけ対応すればいいのでは?」


 男が女神をなだめるように言った。


「あのねえ、【スキル鑑定】で見えるのはスキル名称だけだから、無名なスキルだったらそのスキルの効果を調べなくちゃいけないの。それに今の職業とか生活とかを聞いて、スキルをどう活かすか考えてあげるだけで大変なのよ? スキルの入れ替えができるとなるとさらに選択肢が広がっちゃうし……」


「なら本人に決めてもらえばいいのでは?」


「え?」


「俺、大体のスキルの効果は覚えてますからそれを本人に伝えて、それを受け入れるならそれで良し。気に入らない場合や、俺たちから見て明らかに変えたほうが良いときはスキルの入替を提案してみましょう」


「スキルの決定に本人を関与させてもいいのかしら……それって異世界からの転生者だけの恩恵のはず……」


「俺が調べた限りではそれは神様たちの文化というか……慣例であって明確な決まりごとでは無いですよね? アドバイスも、相手の職業を聞いたりしないでこっちからスキルの効果を一方的に伝えるだけにすれば簡単になりますよ」


「うーん……まぁ、大勢いるし仕方ないか……」


「じゃあ、俺が【スキル鑑定】とアドバイスをすればいいですか?」


「それは私もやるわよ? あなたが見てスキルの与奪が必要な人はあなたのあとに私が見るわ」


「わかりました。上手くいかなかったらまた考えましょう」


 俺と女神サマは覚悟を決めた。俺は初めて他人にスキルを使うことにワクワクしていた。女神が厳かに神官に近づき声を掛ける。


「スキルの鑑定を受けたい者、啓示を受けたい者を、これへ」


 俺と話しているときとは違う、凛として神々しい声であった。


 神官が素早く動くと、俺たち二人の元に1本の新たな行列ができた。俺は女神サマと共になるべく威厳が出るように立つと、早速最初の青年に【スキル鑑定】をかけ、その結果を伝えた。女神サマ以外の他人にスキルを使うのは初めてだったが、特に問題はなく目の前の青年のスキルが俺の頭に飛び込んでくる。


「えーと、あなたのスキルは【剣技】と【徒歩】ですね。剣を扱うことと長時間歩くことが得意なハズです。え? 剣は持ったことが無い? 今からでも持ってみるといいと思いますよ。普通の人よりも倍覚えられてさらに倍上手く使えます。それに長時間歩くことが得意なので兵士や護衛など向いているのではないでしょうか。……いえ。私は鑑定しただけですからそんなに畏れ入らなくて大丈夫です。はい。お気をつけて」


―――――――――――――――

――【剣技】刀剣類取り扱い技量倍加。刀剣類使用時の経験値倍加。剣術系。


――【徒歩】徒歩で移動する場合の疲労が五分の一となり、荷物の携行や運搬によって移動速度が低下しない。

―――――――――――――――



 一人目の鑑定を終えた俺が女神サマの方を見ると、丁度女神も一人目の鑑定を終えたところだった。


「もうちょっと神様っぽくって言うか、厳かな感じを出せない?」


「うーん、俺には無理っす。多分すぐにボロが出ると思うんで話し方はこのままで」


「まあ、仕方ないわよね。」


 次に俺の前に現れたのは若い女性だった。十代半ばといったところ。この世界では成人していてもおかしくないが、俺の感覚ではまだ少女といえる見た目だった。


「えーと、あなたのスキルは……【火球】と【水流】!? 魔法使いさんですか? え、違う? 家で家事を手伝ってるから役に立つスキルが欲しくて来たんですか……なるほど、でも家事をやるにはもったいないスキルですね。いえ、家事を馬鹿にする訳じゃないんですけど……」


 俺は悩んで、手が空いた女神に相談した。話を聞いた女神は優雅な動きを忘れグルンと少女の方を向く。


「うん。確かに【火球】と【水流】を持ってるわね。……コホン。あなたには魔法使いとしてのスキルが与えられているわ。火の魔法と水の魔法、両方を使える人はすごく珍しいの。2系統以上の魔法系スキルをランクアップさせていくと【魔術師】にまでたどり着く可能性があるしね。……え? いいのよ。細かいことは分からなくても。あなたは今から魔法使いを目指しなさい。どうしても耐えられなければ家事手伝いに戻るも良し。まあ火と水を自由に出せるだけで家事は楽になるしね。クス」


 話しすぎて普段の女神サマになっちゃってるなと俺は思った。


「女神サマ、彼女はこのあとどうすればいいんでしょう? 訳が分からなくて泣きそうになってますよ?」


「神官に話をするから付いて行きなさい。神官殿はおられるか?」


 女神が外に向かって尋ねるとすぐに神官がかしこまりながらやってきた。女神がニッコリと笑いながら、しかし厳かに伝える。


「その者は火と水の魔法を使えるスキルを持っています。成長できるように計らいなさい。……しかし彼女自身が望まない時には元の生活に戻してやるように。よろしいですね? ……では、あなたはこの神官について行きなさい。大丈夫。心配は要りません」


 女神が再びニッコリ笑うと少女は意を決したように神官について出て行った。


「なるほど。レアなスキルの時は神官に言えばいいんですね」


「レアなスキルが無駄になりそうなときにはね。国にとっても貴重だから活かせるように計らってくれるわ」


 俺はその後も訪れる人々を次々に鑑定し、スキルの効果と活かし方を伝えていった。中にはどうにも不便な組み合せのスキルを持っている人たちもいたので、その時には女神に頼んで【スキル返納】と【スキル付与】で有用なスキルと交換してもらった。


 逆に女神がスキル構成に悩んだ時には男がアドバイスをした。どちらかというと、俺が助けてやった人数の方が多いことは気にしないことにした。


 そして二時間ほど経った。


「外がどうなってるか見てくる。しばらく一人で捌いててくれる?」


「いいっすよ」


 女神サマは部屋を出ると例の神々しい歩き方で先ほどの男神のところへ向かいながら神殿全体を見回している。まだまだ人々の列は続いているものの、終わりは見えてきた……といったところだろうか。もう女神サマの集中力は切れており、他の神々のところを回りながら気分転換をしているのだろう。


「まあ、多分しばらく帰ってこないよな……もう飽きてるみたいだし」


 俺は、暫く一人になるチャンスだと思い、持ち込んだスキルで実験をすることにした。もちろん、人々に【スキル鑑定】をしながらである。


「うん。やっぱり【スキル付与】は無効化されてて、【スキル有効化】を使ってもダメだな。でも何ていうか『手ごたえ』はあるな……一度有効化されてすぐ無効化されてる気がする。【スキル無効化】を使われてる感じだな。それならチートの余地はあるか?」


 そんなことを呟きながら次に現れた若い女性を鑑定する。


「えーと、あなたのスキルは【売買】ですね。頑張ればランクアップして【商人】になることもできますよ。え? 困る? ああ。お子さんを育てながら村の雑用をやって生活してるんですか。何かちょっとしたものを売ってみるとか。え? なるほど。村での商売は商人さんが独占しているんですね……村から出ることも難しいと……なるほど……」


 俺が思いついた解決策は【売買】スキルから【村人】スキルへの入れ替えだった。


―――――――――――――――

――【売買】手に取った物品の金銭的価値を知ることができる。売買の相手が望む取引額を知ることができる。


――【村人】このスキルは、自らが拠点とする町・村その他の非戦闘地域に限り【掃除】【飯炊き】【薪割り】【徒歩】【子育て】【耕作】【酪農】スキルを包含する。

―――――――――――――――



「……女神サマは暫く帰ってこないよな。やってみるか」


 俺はワクワクする感情を隠しきれずに呟くとチートを試す心地よい緊張感を楽しむことにした。


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