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抜擢

「うーん……現地で実験……したいよなぁ……」


俺は、腕を組んで椅子に座ったまま大きく仰け反り呟く。


「露骨に女神サマに聞けないこともあるしな」


 目の前には俺がまとめた疑問集とも言えるメモが広げてある。


―――――――――――――――

――【スキル付与】任意の対象者にスキルポイントと引き換えに任意のスキルを一つ与える。スキルポイントの不足などで対象者がスキルを受けられない場合には付与は失敗する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。


――【スキル返納】任意の対象者の任意のスキルを一つ消去し、引き換えにスキルポイントを付与する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。


→無効化に用いられるのは【スキル無効化】と同等の力か? それとも全く違う別の力か? スキルと同じ力なら【スキル有効化】は使えるか? 

→有効化してもすぐに無効化されるならば検証が難しい。【自動反撃】を使えば検証だけなら可能か?

―――――――――――――――


この二つが、俺が転生先に最も持ち込みたいスキルだ。だが、もし持ち込むことができたら、間違いなく世界のバランスが破壊される。。そして、そのような力を持つスキルほど、セキュリティも厳重になっていることは予想できる。


「少なくとも有効・無効の判定を無限ループに持ち込むことは可能か……その状態でどっちに傾くかは、やってみないと分からないな。やっぱり実験がしたい……」


 俺が前世でゲームのチートを見つけていたときには、思いついた仮説をすぐに実験することができた。いくら計算では可能であっても、実験で再現できなければ意味がないし、計算では不可能でもやってみるとできたことは珍しくなかった。


「一番可能性の高い方法に絞って本番に賭けるしかないか……」


 ドンドンドンドン!!


「おわ!?」


 書庫の扉が激しく叩かれた音で、俺は椅子からずり落ちた。前世ならば椅子の座面で背中を擦りむいたところだろう。だがこの空間ではこの程度のことで一々身体が傷ついたりはしないのだった。


 ドンドンドン!


 再び激しいノックの音。


「ちょっとー! お暇でしょー!?」


「暇じゃないけどいいですよ! そんなに激しく叩かなくても開けて入ってくればいいじゃないですか」


 俺がドアを開けると女神サマが入ってくる。


「あのね、ドアを外側から開けるって神々の作法としては相当な無礼者よ? 第三界で言うと……服の中に用があるからって勝手に脱がせる位の無礼かしら。クスクス」


「それはもう無礼じゃなくて犯罪ですよ。何ですか、『服の中に用』って……」


 俺は呆れながら、ふと思いついて提案してみた。


「そうだ。それなら女神サマの部屋が内側で俺がいる書庫を外側って事にすればいいじゃないですか」


「え? それだとあなた、私が開けないと出入りできないわよ?」


「いや? 俺は別に気にしないんで。勝手に開けますよ?」


「うわー。最低だわ。アンタ」


 女神サマが大げさに自分の身体を抱きしめる。


「じゃあ今までどおりでいいですけど、もうちょっと静かに呼んでください。で、何です?」


「そう。アンタの無礼に構ってる場合じゃないのよ」


 女神サマが再び表情を焦らせて説明する。


「第二界の神様たちにお手伝いを頼まれたの。第二界の人たちにスキルを与えるの、手伝ってくれないかって」


 第二界では『スキル』がとてもに重要なので、神々は積極的に関与し、時折神格者が地上に降りて人々のスキルを鑑定したり、必要に応じて役立つスキルと交換して助けるのだという。また、【転生神の慈悲】を使って高位のスキルを授ける儀式を通じて、神々の権威を高めることもあるという。そして、【スキル鑑定】のような比較的簡単な仕事については、第二界の神々だけでなく、他の神格者たちも協力することが多いらしい。


「最近私が担当した転生者のスキル構成を見て、神様たちが私に頼みたいんだって……」


「良い事じゃないですか。女神サマ評価されたってことですよね? 良く分からないけど鑑定するだけなら簡単そうですし」


「でもさ、私が与えたスキルを見て頼んだってことは、スキルの構築に関する知識を求められてるってことじゃない?」


「……? まあそうかもしれませんね」


「最近私が転生させてる魂って、半分くらいはあなたがスキルを組んでるのよね。……特に組むのが面倒そうなのはほとんど」


「え!? よく相談されるなーとは思ってましたけど俺そんなに関わってたんですか?」


 俺は驚いて目を見開く。女神サマは何かを誤魔化すように曖昧な笑顔でやり過ごそうとした。


「うんうん。いつも感謝してるわよ? それでね、私のスキル構成が評価されたってことは半分はあなたの知識が評価されたってことじゃない?」


 女神サマが何か遠慮がちに話を続ける。


「だからさ、それならあなたも一緒に降りたほうがいいのかなーなんて……ね?」


 つまり、女神サマが地上に降りて他の神々の手伝いをするとき、俺に傍にいて欲しいのだ。そしてスキルの構成で困ったときに、俺に相談したいのだろう。それを理解した俺はつい興奮しそうになるのを抑えて確認した。


「え? 俺も行っていいんですか? それ、俺がいずれ転生する世界に一度行けるって意味ですよね!?」


 それを見た女神サマが安心した表情になる。


「でしょ!? 行きたいでしょ? ね、ね、じゃあ一緒に連れて行ってあげるわ。クス」


 このタイミングで一度地上に行けるというのは俺にとって願ってもないことだった。地上に降りたら隙を見つけていくつか試したい実験ができる。そのほとんどは大して時間もかからないはずだ。


「あー、でも本当に大丈夫なんですか? 何かその、だいぶ問題がありそうな気がするんですが……」


 しかし、一度地上に降りてもう一度ここに戻って来られるのか、そもそも転生前に地上に降りることに問題は無いのか、ちょっと冷静に考えると疑問は沢山ある。


「クス。大丈夫。例のあなたが見つけた【スキル偽装】のズルい使い方で神格者しか持てないスキルを持ってるように見せればそれ以上は確認されないわ」


 俺が乗り気だと分かった女神サマは安心して、今度は俺を安心させようと説得を始めた。転生前に地上に連れて行くことはあまり良くないことだけど明確に禁止されてはいないこと。過去にも例はあること、もし見つかっても怒られるのは女神サマだけであること、しかし見つかる理由が無いことを熱心に話した。


「なるほど。分かりました。お手伝いしましょう。女神サマもずいぶんと小賢しくなりましたね? そういうの、好きですよ」


 俺は【口約束】の効果で少なくとも女神が嘘をついてはいないことが分かっているので危険が少ないと分かり、ついて行くことにした。


「準備するものは……スキルの構成ぐらいですかね。スキル鑑定を持っていけばいいですか? それと『転生神の○○』シリーズを適当に付けていきますよ」


 俺が書庫に戻ってスキルを構築しようとすると女神が呼び止める。


「あなたのスキル、【口約束】は隠したほうがいいわね。それに【スキル偽装】と【スキル隠蔽】は一度手放しなさい。かなり違和感があるわ……それ以外はまあ、大丈夫でしょ」


「わかりました。じゃあ【口約束】を【転生神の慈悲】に、【スキル偽装】を【転生神の簒奪】に、【スキル隠蔽】を【転生神の詮索】に偽装すればいいですね」


「え? それは無理でしょ?」


 俺の提案に女神が即反応する。


「【スキル偽装】自体を偽装することはできないのよ。知ってるでしょ?」


―――――――――――――――

――【スキル偽装】自身が所有する任意の一つのスキルの名称を他のスキル名称に偽装する。偽装中にスキル鑑定または同等の効果を受けた場合、偽装されたスキル名称が相手に伝わる。このスキル自体を偽装することはできない。

―――――――――――――――


「はい。でも【スキル偽装】を2つ取得して、例えば【スキル偽装(1)】と【スキル偽装(2)】って考えると、【スキル偽装(2)】を発動して【スキル偽装(1)】を偽装することはできるんですよ。その後で【スキル偽装(2)】を【スキル返納】で消せば偽装された【スキル偽装(1)】が完成します。ああ。もちろんチートで二重がけしておきますよ。【スキル看破】を使われる可能性もあるでしょうから」


「そういうの、どうやって見つけるの?」


 俺が説明すると女神サマが呆れと驚きが混ざった表情をする。


「うーん、スキルの解説とか読むと『あれ? こういう場合はどうなるんだろう?』って疑問に思うこと、あるじゃないですか?」


「ないけど?」


「……そうですか。それより見た目のスキル構成を考えてくださいよ」


「うーん……あんたの考えたのでいいと思うんだけど……もしそれを使って欲しいって言われたら困るわよね……」


「大丈夫だと思いますよ? 【転生神の慈悲】はあまり使ってはいけないんでしょう? 使うのを嫌がっても不自然じゃないと思います。【転生神の簒奪】は神様たちが地上に行く目的からして使わないでしょう。どうしても使うことがあれば女神サマに頼みます。【転生神の詮索】は【スキル鑑定】で対応できるはずです」


 男が何のことは無いという様子で女神の不安を払拭すると書庫に入っていった。


「何でそんなにすぐに解決できるのよー……」


 女神サマが、問題が解決されてスッキリしながらも俺が簡単に解決したことに不満を持った複雑な声が扉が閉まるまで聞こえた。


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