数年後
数年が経った。
…………
……
「お暇~?」
「暇じゃないけど……いいっすよ」
女神サマに呼ばれた俺は書庫から出た。
「これ、この人。スキルポイントが10ポイントしかないのよー!」
紙の束を見せられる。女神サマが担当した転生者の情報だ。スキルについて女神サマと対等以上に話ができるようになった俺は、時々女神サマからアドバイスを求められ、スキルの構成を提案するようになっていた。俺のスキルを組む時の練習になるし、何より俺にとっては面白いパズルのようなものだ。
「うーん、この魂を引き継ぐとしたら冒険者や戦闘家業向けのスキルはいりませんよね……」
俺は椅子に座らせてもらい女神サマから受け取った転生者の情報を見ると片腕で大きく伸びをしながら言った。
「マイナススキルの【ドラ息子】をセットにすれば【富者の血脈】がポイントなしで取れますよね? そこに【親孝行】と【守銭奴】を与えれば一応形になるんじゃないでしょうか?」
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――【ドラ息子】親に庇護されている間は能力上昇が五分の一倍となり、新たなスキルの取得ができない。
――【富者の血脈】このスキルの所有者は富者の子として転生する。
――【親孝行】このスキルの所有者は親孝行になり、親は病気になりにくくなる。
――【守銭奴】このスキルの所有者は金銭の支払いに厳しくなり、蓄財に喜びを感じる。
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「……ああ! 自分で生きていくんじゃなくて親の力に頼るってことね? さすが小賢しい組み合わせを思いつくわね。クス」
女神サマが俺から紙の束を受け取ると嬉しそうに微笑んだ。
「あとは……マイナススキルの【貧者の血脈】をセットにして……いや。これは危ないので止めましょう」
「え? どんなの?」
女神サマが興味津々な表情で促す。この様子では絶対に話を聞くまで許してくれそうにない。近頃、女神サマもスキルの組み合わせに関心を寄せるようになり、俺が提案するアイデアに楽しそうに耳を傾けることが増えた。俺もその話題について語るのが楽しいので、まあ互いに満足していると言えるのだろう。
「【貧者の血脈】をセットにすれば【学業】が手に入りますよね? そこにマイナススキルの【酷烈たる四囲】をセットにして【環境適応】を与える。さらにポイントを使って【物覚え】と【読書】を与えればどうでしょう?」
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――【貧者の血脈】このスキルの所有者は貧者の子として転生する。
――【学業】戦闘・魔法以外の座学学習時に限り記憶力三倍加、疲労度が二分の一となる。
――【酷烈たる四囲】町・村・その他の柵で囲われた非戦闘地域以外での戦闘・災害遭遇率が三倍加。
――【環境適応】発動時に発動者が置かれている環境に心身を適応させる。
――【物覚え】任意の情報または出来事を覚えやすくなる。このスキルにより覚えた事柄は忘却率が十分の一となる。このスキルで他のスキルの影響による忘却を妨げることはできない。
――【読書】文字による情報の読み取り速度5倍加。
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「うーん? ごめん。どういうこと?」
「【環境適応】って灼熱や極寒に対応するために使われてますけど、もう少し守備範囲が広いんです。多分貧しい生まれに適応することはできると思います。そして勉強で身を立てることができればいいのですが……」
「……何よ?」
「まず最初に問題となるのが、【酷烈たる四囲】の効果ですね。村や町から一歩外に出ると、さまざまな厄介事に遭遇するでしょう。モンスターに襲われたり、毒の沼に行く手を阻まれたり……それ故に、彼は一生を町の中で過ごすことになるかもしれません。ただ、彼の前世の性格からして冒険者や行商人を志す可能性は低いでしょうし、人生で数回他の町へ行くくらいなら、護衛を雇うなど何らかの対策がとれるでしょう」
「そうね。町人として暮らすならば【酷烈たる四囲】は大したハンデにならないと思うわ」
「もう一つ問題があります。【環境適応】を与えたとして、それを理解して使えるようになるかってことです。運よくスキルの鑑定を受けられるか、神様の啓示を受けられれば良いですけど……この組み合せは【環境適応】を発動させられなれければ相当危ないのでやめたほうがいいでしょう」
「それならあたしが発動させれば良いんじゃない? 【転生神の幇助】で」
女神サマが何でもないという風に提案したので俺は驚いた。
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――【転生神の幇助】任意の対象者が転生した時、対象者が所有するスキルの中からあらかじめ指定した任意のスキルを一つ発動させる。このスキルは神格者以外の者は所有できない。
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「それってそんなに簡単に使っていいんですか?」
「【転生神の幇助】は簡単に使えるわよ。【転生神の慈悲】はダメね。使いすぎると怒られちゃう……」
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――【転生神の慈悲】任意の対象者に任意のスキル又はスキルポイントを付与する。このスキルによってスキルを与えられた対象者のスキルポイントは変化しない。このスキルは神格者以外の者は所有できない。
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「それならアリ……ですかね。この組み合せ」
俺はもう一度考えながら言う。
「うん。親頼みのスキル構成よりもこのほうが形になってていいと思うわ。さすがね。クス」
「じゃあ、息抜きもできたところでまた研究に戻ります」
「またあたしの仕事を息抜きって言った……」
悔しそうに唇を噛む女神を残し、俺は書庫へ戻った。