研究
俺はスキルに関する多量の資料を読み勧めていき、スキルチートに応用できそうなものを書き出していた。これらを組み合せて転生先で楽に生き抜くためである。
「人は楽をするためにはどんな苦労も厭わないって……本当にその通りだな。うん。初心を忘れないために目標を書いておこう」
第一の目標
記憶を保持したまま転生すること。
第二の目標
転生先で楽に生きられそうなスキルを持つこと
第三の目標
転生後が面白くなりそうなスキル構成にすること
俺ははそれに続けて、資料から抜き出したスキルの解説に矢印を引いて研究や考察を記していく。
――【スキル偽装】自身が所有する任意の一つのスキルの名称を他のスキル名称に偽装する。偽装中にスキル鑑定または同等の効果を受けた場合、偽装されたスキル名称が相手に伝わる。このスキル自体を偽装することはできない。
→二重に使用するか、一回使用後に【スキル隠蔽】を仕様することで【スキル看破】を欺くことが可能。
――【スキル隠蔽】自身が所有する任意の一つのスキルを隠蔽する。隠蔽中にスキル鑑定または同等の効果を受けた場合、隠蔽したスキル名称は相手に伝わらない。このスキル自体を隠蔽することはできない。
→二回かけようとしたが二回目は失敗。隠蔽されたスキルにはスキルをかけることができない?
――【スキル看破】任意の対象者の偽装され又は隠蔽されたスキルの偽装又は隠蔽される前の名称を認知する。神格者に対しては発動できない。
→偽装と隠蔽に対して直前のスキルのみを知ることができる。二重掛けで欺ける。
――【物覚え】任意の情報または出来事を覚えやすくなる。このスキルにより覚えた事柄は忘却率が十分の一となる。このスキルで他のスキルの影響による忘却を妨げることはできない。
→【読書】系統のスキルと組み合せて一気に情報を覚えることですぐにランクアップ可能。楽にスキルポイントを稼ぐ方法として有効か?
――【記憶術】任意の情報または出来事を記憶する。このスキルにより記憶した事柄は他のスキルの影響による場合を除き忘却しない。このスキルは【追憶】スキルを包含する。
→このスキルを失ってもそれまでの記憶は残る。何かに利用できそうなのだが……
――【追憶】過去に記憶した任意の情報を確実に追憶する。記憶に失敗し、またはスキルの影響により失われた記憶に係る情報を追憶することはできない。
→スキル取得前の記憶も鮮明に思い出せる。このスキルを応用することで転生先に記憶を持ち込めないものか……
――【忘却】任意の対象者が保持する任意の記憶を失わせる。神格者以外の者は神格者に対して発動することはできない。
→女神サマが俺の記憶を失わせるのに使うスキル。これ以外に他人の記憶を失わせるスキルは見当たらない。阻害するスキルを見つけたい。
――【スキルキャンセル】発動直後のスキルの効果を取り消し、直接的かつ可逆的な影響について発動前の状態に巻き戻す。このスキルは戦闘中に発動することはできない。神格者以外の者は神格者が発動し、または神格者が影響を受けたスキルをキャンセルすることはできない。
→文脈にやや違和感があることから過去の更新によって神格者のスキルを破棄できないよう修正されたか? だとすると他のスキルも神格者の発動するスキルには干渉できないよう修正がなされた可能性が高い? 残念。
――【スキル付与】任意の対象者にスキルポイントと引き換えに任意のスキルを一つ与える。スキルポイントの不足などで対象者がスキルを受けられない場合には付与は失敗する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。
→文脈からはスキルを所有したまま転生できそう。転生後に【スキル有効化】を用いても直ちに再度無効化される可能性が高いか?
――【スキル返納】任意の対象者の任意のスキルを一つ消去し、引き換えにスキルポイントを付与する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。
→【スキル付与】と合わせて転生に際して所持できれば相当有利になる。何とか無効化されない方法を見つけたいところ。
――【スキル無効化】任意の対象者の任意のスキルを一つ無効化する。無効化されたスキルは発動させることができず、スキルを有効化する操作を除き他のスキルの対象にもならない。神格者が神格者以外の者を対照とする場合を除きこのスキルの発動には対象者の同意を必要とする。このスキルによって第一界における神格者のスキルを無効化することはできない。
→有用な使途が見当たらない。スキル有効化との組み合わせで何かチートに用いる余地はありそうだが……。
――【スキル有効化】任意の対象者の無効化されている任意の一つのスキルを有効化する。
→【スキル付与】を転生先で使うために優先的に研究したい。
――【転生神の幇助】任意の対象者が転生した時、対象者が所有するスキルの中からあらかじめ指定した任意のスキルを一つ発動させる。このスキルは神格者以外の者は所有できない。
→『転生神……』から始まるスキルは全て女神サマが持っているらしい。頼めば使ってくれそう。転生時に無条件で発動するならばチートのトリガーとして使えるか?
――【転生神の慈悲】任意の対象者に任意のスキル又はスキルポイントを付与する。このスキルによってスキルを与えられた対象者のスキルポイントは変化しない。このスキルは神格者以外の者は所有できない。
→色々検討してみたが利用の可能性なし。研究対象外。
――【転生神の簒奪】任意の対象者の任意のスキルを消去する。このスキルによってスキルが失われた者にはスキルポイントは付与されない。このスキルは神格者以外の者は所有できない。
→利用の可能性なし。
――【スキル代替】予め指定した任意のスキルが失われ、又は無効化された場合に、別の予め指定したスキルを取得し、又は有効化させることができる。スキルの所有可能数を超えるスキルを取得することはできない。
→自動でスキルを取得する点においてのみチートに利用できる可能性はあるか? 研究の優先度は高くない。
――【口約束】このスキルを用いて任意の対象者と任意の事柄について約束をすると、対象者が約束を違えた場合にそのことを認知できる。発動には対象者の同意を必要とする。
→気付いたら【契約】スキルにランクアップした。どうやら女神サマに使ったことで、効果が続いている間はずっとランクアップのための実績値(?)がたまり続けているらしい。このままいけば【強制】にランクアップさせることも現実的に期待できる。【スキル偽装】の二重掛けでしばらくは女神サマに秘密にする。
――【契約】このスキルを用いて任意の対象者と任意の事柄について契約を結ぶと、対象者は契約を違えないようその意思を矯正される。発動には対象者の同意を必要とする。
→今ココ。
――【強制】任意の対象者に任意の事柄を強制する。強制する事柄が実行不可能である場合には失敗する。神格者以外の者は神格者に対して発動することはできない。
→調べたら150ポイントのスキルだった。転生先に持って行きたいスキルの一つ。多分時間の問題で所有は可能。
――【束の間の孤独】発動者と同じ種族を認知できず、かつ認知されることもない最も近い場所へ転移する。このスキルは迷宮内では発動できない。このスキルは戦闘中には発動できない。
→使いこなせれば強力な瞬間移動の手段となるか?
――【環境適応】発動時に発動者が置かれている環境に心身を適応させる。
→どの程度の適応か不明。他のスキルの効果と比較すれば、炎の中や水の中程度は耐えられるか(?)
――【読書】文字による情報の読み取り速度5倍加。
→転生後は不要になるだろう。
――【読解】文字による情報の読み取り速度10倍加。文章の理解力5倍加。未知の単語又は構文における意味の推察力5倍加。
→転生後は不要になるだろう。
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俺が書庫で今までの研究結果を整理していた頃、女神サマが部屋に戻ってきていたらしい。
「ちょっとー! 何でいないのよ!」
女神サマのが息が上がった声が聞こえたと思うと同時に書庫のドアがガンガンと叩かれた。
「うおっ!?」
驚いた俺は椅子からずり落ちる。起き上がり慌ててドアを開けた。
「早かったですね?」
「急いだのよ!」
「修正されそうですか?」
「200年後にね! 神様たち全然気にしてないのよ。結構大変なことだと思って急いで教えてあげたのに!」
「じゃあ、チートを見つけても教えない方がいいっすか?」
「……ううん。教えてくれると助かるわ。神様に報告すると私の評価が上がるかもしれないし……クス」
「それって、見返りに俺に対して便宜をはかる的なことには繋がりませんか?」
「うん。私も勉強になってるからあなたの転生には便宜をはかってあげてもいいんだけど……そんなに権限がないのよねー。クスクス」
女神サマが悪戯っぽく俺を見る。
「あ、じゃあ転生をする時の具体的な手順と、使うスキルを教えてもらえませんか?」
いつか聞こうと思っており、しかし秘密の可能性もあるよなと思っていた質問である。
「え? それは別に見返りじゃなくても教えてあげるわよ。聞かれたのは初めてだけど……クスクス」
女神サマは、何てことないという表情で応じる。
「えーとね、【スキル鑑定】と【スキル看破】の結果を転生者に伝えて希望通りのスキルになってるか確認するでしょ。【忘却】で前世の記憶と第一界の記憶を消すでしょ。【転生】で……あなたの場合は第二界に転生させる……これだけよ?」
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――【スキル鑑定】任意の対象者が所有する全てのスキルの名称を認知する。対象者が自らのスキルについて無自覚である場合、このスキルの使用により自覚し、スキルを使えるようになる。
――【スキル看破】任意の対象者の偽装され又は隠蔽されたスキルの偽装又は隠蔽される前の名称を認知する。神格者に対しては発動できない。
――【忘却】任意の対象者が保持する任意の記憶を失わせる。神格者以外の者は神格者に対して発動することはできない。
――【転生】任意の、転生可能な対象を任意の界に転生させる。このスキルの発動は妨害できない。このスキルの発動はキャンセルできない。このスキルは神格者以外の者は所有できない。このスキルは第一界以外の場所では発動できない。
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「なるほど……もし女神サマに対してこの間教えた【スキル偽装】のチートを使ったら怒りますか?」
「……まぁ……あんたが見つけたんだし目をつぶるわ。でも私以外の神格者には絶対やっちゃダメよ? 神を欺こうとする……その企図だけで罰を与える神様もいると思うわ」
「このチートを見抜く方法ってありますか?」
「……思いつかないわね。でも私よりスキルに詳しい神様たちもいっぱいいるから、やめたほうがいいわ。まぁ転生まで私以外の神格者と会うことはないと思うけど」
女神サマが考えながら答える。
「分かりました。もし他の神様と会うことがあったらチートはやめておきます。もう一つ質問です。【忘却】をかけた後にその効果を確認することはありますか?」
「ないわね。もし明らかにスキルが効いてないって思うような事態が起これば別だけど……もしかして【忘却】を防ごうとしているなら無駄よ。私達神格者が発動したスキルはキャンセルできないの。諦めなさい」
「じゃあ、もし俺が、【忘却】を防ぐ方法を見つけたら挑戦してもいいですか? 成功したら目をつぶってもらうってコトで!」
俺は、少し身を乗り出して勢い良く言ってみる。
「うーん、まあ別にいいか。防げるわけないし」
「ありがとうございます!」
俺は喜んだ。これで、チートを見つけたのに女神サマに邪魔をされるという一番厄介な事態は避けることができる。
「クス……不安だったら【口約束】スキル、使ってもいいわよ?」
「いえ。怒らせるといけないのでやめておきます」