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チート成功

「よし。ここまでにするか」 


 数ヶ月が経ち、俺はすっかりスキルの研究を進めるペースを掴んでいた。一週間に一回程度、女神サマのところに顔を出す以外はずっとスキルの研究を続けていた。そして、当初の目標である『スキルチート』。その取っ掛かりを掴んだ手ごたえがあった。


「ちゃんと週一で女神サマに顔を見せておかないと本当に呼びに来るからな……それに……うん。やっぱり教えたいよな」


 俺は数ヶ月前、女神サマから借りたスキルポイント一覧を一日で記憶し、返却しに行った時のことを思い出していた。


―――――――――――――――

「えー? そんなに簡単に覚えられるなら私も【記憶術】とか欲しいなー!」


「今から取ればいいんじゃないですか?」


「神格者は転生しないからスキルポイントを得る取る方法がないのよー。必要なスキルだけ、上級神から直接もらえるの」


「使わないスキルを【スキル返納】で手放すとか?」


「あのね、上級神から頂いたスキルなのよ? 『要らないから【スキル返納】して欲しかったスキルを取りましたー』って許されると思う?」

―――――――――――――――


 俺はその時の女神の驚きと悔しさと呆れを同時に表した顔を思い出して笑った。三つの表情を同時に表現できることを初めて知った。


 そんなことを思い出しながら書庫から出ると、女神サマが書類の束から顔を上げる。


「あら? もう一週間経ったっけ?」


 一応、体感時間は存在するものの、厳密な時計やカレンダーが存在しないこの部屋では時間的な約束事は自然と大雑把になる。女神の性格も関係しているかもしれないが。


「たぶん、そろそろだと思います。それよりスキルの組み合わせで、解説とは違う効果が起きることを見つけたので見て欲しいんですけど……」


「ん……? 鑑定をすればいいの? 【スキル鑑定】! ってあんた、どんなスキル構成よ。面白いからそのまま転生してみる? クス」


「実験中なので構成は気にしないで下さい。女神サマに頂いた【口約束】【言語理解】【スキル付与】【スキル返納】。それに【物覚え】からランクアップした【記憶術】、【計算】からランクアップした【算術】に加えて、自分で取った【スキル偽装】と【スキル隠蔽】があるはずなんですけど、見えますか?」


「クス。もちろんはっきりと見えてるわよ。言っとくけどね? スキル偽装とスキル隠蔽は転生神には効かないわよ? そのスキルを持ってるって分かった時点で【スキル看破】を使うから」


―――――――――――――――

――【スキル看破】任意の対象者の偽装され又は隠蔽されたスキルの偽装又は隠蔽される前の名称を認知する。神格者に対しては発動できない。

―――――――――――――――


 女神は、俺がスキルの偽装や隠蔽を駆使して取得スキルを誤魔化そうとたくらんだと思ったのだろう。そんな手はお見通しだよ、と微笑む。


「ですよね。それを試して欲しいんです。一つ隠蔽してあるスキルがあるんですけど見えますか?」


「……【スキル看破】!……クス、もちろん丸見えよ。【追憶】スキルを隠蔽したのね」


「それだけですか? もう一つ隠しているスキルがあるのですが……」


「え!?」


 俺が尋ねると女神サマは驚愕で目を見開く。本当に表情豊かで面白いなと思った。だが直後、女神サマが表情を緩めて言った。


「クス。驚かさないでよね。私、スキルに詳しくないって言ったけど転生神として必要なスキルの効果ぐらい理解してるわよ」


「【スキル看破】を阻害できるスキルは存在しない。間違いないはずよ。このスキルが信用できないってことになったら転生神の仕事が揺らぐほど大事な前提よ」


「はい。女神サマのスキル看破はちゃんと効果を出しています。ただ、【スキル隠蔽】を発動する前に【スキル偽装】をかけたらどうなるかと実験してみたんです」


「……?」


 女神が首をかしげる。まったく理解できていない表情だ。


「つまりですね、『あるスキル』に【スキル偽装】をかけて【追憶】に偽装して、その偽装したスキルを【スキル隠蔽】で隠したんです。女神サマの発動した【スキル看破】は隠蔽されたスキルの隠蔽前の名前が分かるスキルですよね」


「え? あ……ああー!? 偽装したあとに隠蔽すると元のスキル名称は分からなくなるってこと!?」


 女神が目を見開いて悲鳴をあげた。


「ちょっと! それ本当? 冗談だったら怒るよ?」


 女神が、俺の両肩に手をかけてゆすりながら迫る。


「痛てて、本当っす。 【スキル隠蔽】解除! 【スキル偽装】解除!」


 俺が偽装と隠蔽のスキルを解除すると本来のスキルである【買い物】が現れた。それを確認した女神サマはやっと手を離す。


「私の目の前で一つのスキルを放棄してさらにスキルを取得するなんてできるわけないわよね……これは、本当にスキルを隠す方法が……」


 女神はやっと俺の話を信じてくれた。


「ごめん! ちょっと神様のところに行ってくる!」


「またですか? この間も……」


「うるさい! 今回のは重大よ! 神格者の優位性が崩れちゃう! 界によっては神格者が下界に降りることもあるから……うん。やっぱり早く伝えないと!」


「あ、それならもう一つ……」


 俺は女神サマを引きとめようと手を伸ばしたが女神はダッシュで部屋から出て行ってしまった。


「まあいっか。【スキル偽装】を二回かけても同じ現象が起きるんだけど……問題の大きさは一緒だろ。でもスキルの解説を見るとバグっていうよりは仕様の問題だよな。少し表現的に解釈が難しいところではあるけどちゃんと解説どおりの動きはしてるわけだし……」


―――――――――――――――

――【スキル看破】任意の対象者の偽装され又は隠蔽されたスキルの偽装又は隠蔽される前の名称を認知する。神格者に対しては発動できない。

―――――――――――――――



 俺は、問題を報告した女神が『それは仕様です』の一言で撃退されてくる場面を思い浮かべ、一人笑った。


「女神サマが帰ってくるまでは研究を進めないほうが無難だな……情報を整理するか」


 俺はまた書庫に戻った。



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