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10/19

順調

「うん。やっぱりスキルシステムは完璧から程遠い状態だな」


 俺はスキルポイントを増殖する手段が存在することを知り、チートの余地が相当広いであろうことを確信した。


「1系統で15ポイント稼げるとしたら、10系統も見つければ150ポイント。それに、もしかしたらランクアップで100ポイントまで上げられるスキルもあるかも……今日はスキルごとの必要ポイントをざっと調べてみるか」


 俺は来る日も来る日も全く飽きることなくスキルについて調べ続けた。が、調べれば調べるほどそのシステムの膨大さが分かり、終わりのない情報量に圧倒されていった。結果、俺が至った結論は……。


「とにかく気になったところを片っ端から調べるしかないかな」


 その日俺が気になったのはどのようなスキルがどの程度のポイントで取れるのかということ。女神との会話で、あまり人気のないスキルは5ポイント程度で取得でき、多くの人が欲しがるスキルは100ポイント以上必要であることは分かった。


「逆に、誰も欲しがらないスキルの中に、超便利な性能が紛れ込んでる可能性もあるよな。うん」


 俺は前世で、そんなスキルを探し出すのが得意であった。ゲームのメーカー、それもゲームデザインの担当者でさえ気付かないようなスキルの組み合わせで難易度の高いクエストをクリアし、時にはゲームバランスを破壊してしまうことも珍しくなかった。


 俺は女神に、必要スキルポイントの一覧が欲しいと頼んだ。


「絶対に無くさないでよ! これを無くしたら転生者のスキル計算ができなくなっちゃう!」


 女神にとって相当大切な物らしくかなり念を押した後、分厚い二冊の資料を貸してくれた。俺はその場でパラパラとページをめくる。


「なるほど。スキル名称と必要ポイントだけが羅列されてるんですね。覚えるのは大丈夫そうですが目で追うのが大変だな。そうだ。確か【読書】ってスキルありましたよね。人気なさそうだから5ポイントで取れますよね。それもらえますか?」


―――――――――――――――

――【読書】文字による情報の読み取り速度5倍加。

―――――――――――――――


「あるけどさー、何ていうか、もっと私の方からスキルを提案したいっていうかさー、まあ今のところおかしなスキルは要求してこないから別にいいんだけどさー。あなたにスキル【読書】を与えます……【スキル付与】」


 スキルポイントの一覧をもう一度眺めると、格段に読む速度が上がっていた。何というか、流し見ているのに文字がはっきりと認識でき、それらは【記憶術】と併さってまるでデータをコピーするかのように俺の頭に吸い込まれていった。


「良い感じですね!じゃ、篭って全部覚えてきます!」


 俺は片手を上げるとウキウキしながら書庫へと入っていった。


「もう! もうちょっとお話していってもいいじゃないのよ!」


―――――――――――――――


「女神サマは何であんなに話が好きなんだ……? あれじゃあ話好きの女子と一緒じゃないか」


 女神サマが最後に何か不満そうに叫んでいたが、そんなことよりも借りた資料を読みたかったので無視していた。そういえば転生前にも女性よりも趣味や仕事を優先していたなーと思い出しながら椅子に座り、机の上に女神から借りた資料を開いた。


「うーん、スキルが羅列……その隣が必要なスキルポイントか」


――【剣技】20

――【剣術】100

――【剣豪】300

――【剣聖】700


――【まじない師】20

――【魔術師】100

――【大魔術師】500

――【賢者】1000

――【大賢者】1500


「なるほど。上位のスキルは一気に必要ポイントが増えるな。それにしても、これはスキルの解説を読むよりも退屈になりそうだな……」


 そうは言ってもページをめくる速度は一向に落ちなかった。


――【鑑定】20

――【威圧】30

――【探求】5

――【器用】5

――【合気】20

――【咆哮】10

――【商人】20

  ・

  ・

  ・

「ふむ、ファンタジーの世界で主役になれないスキルはポイントが少なくて済むってことだな。人気で決まるって言ってたし」



――【悪運】3

――【買い物】2

――【掃除】2

  ・

  ・

  ・

「5ポイントより下もあるのか」


――【顔見知り】1

――【改悛】3

――【木登り】3

――【穴掘り】2

――【折り紙】1

  ・

  ・

  ・

「まだ内容を知らないスキルも沢山あるな……、必要ポイントが少ないスキルは大穴としてチェックしておくか……」


 俺はさらにページを進める。


――【束の間の孤独】2

――【束の間の惰眠】2

――【束の間の休息】3

――【束の間の威風】2

  ・

  ・

  ・

「何だこの『束の間シリーズ』は? ネタスキルかな? 面白いから後で調べておこう」



――【スキル鑑定】10

――【スキル偽装】20

――【スキル隠蔽】20

  ・

  ・

  ・

「スキルに関するするスキルか。チートのヒントになるかもしれないな。あとで効果を調べておこう……お?」


――【スキル付与】0

――【スキルキャンセル】20

――【スキル返納】0


「これが、女神サマが無駄って言ってたスキルだよな……なんとか取得できないかな~」


 女神が俺にスキルを与える時に使っていたスキルを見つけ、俺は手を止めた。読んでいた資料に折り目をつけようとして、ああ――この資料は女神サマが大事にしてたなと思った俺は白紙の紙を細長く折って栞代わりに挟むとスキルポイントの資料を閉じた。


 名称の通りスキルを与えたり消したりするスキルであるのか、気になった俺はスキルの解説書を取り出してザクザクとページをめくっていく。


「この辺かな? 俺が名づけた『制御系スキル』の一部だな。


―――――――――――――――

――【スキル鑑定】任意の対象者が所有する全てのスキルの名称を認知する。対象者が自らのスキルについて無自覚である場合、このスキルの使用により自覚し、スキルを使えるようになる。

―――――――――――――――


「うん。これは女神サマが使ってたスキルだな」


―――――――――――――――

――【スキル偽装】自身が所有する任意の一つのスキルの名称を他のスキル名称に偽装する。偽装中にスキル鑑定または同等の効果を受けた場合、偽装されたスキル名称が相手に伝わる。このスキル自体を偽装することはできない。


――【スキル隠蔽】自身が所有する任意の一つのスキルを隠蔽する。隠蔽中にスキル鑑定または同等の効果を受けた場合、隠蔽したスキル名称は相手に伝わらない。このスキル自体を隠蔽することはできない。

―――――――――――――――


「なるほど。相手のスキルを見る能力とそれを欺く能力か。使い方によっては役に立ちそうだけど……あぁ、複雑に組み合せればチートに使えるかも知れないな」


 気付くと、俺は悪い笑顔になり手を顎先に当てながらつぶやいていた。さらにページをめくると、目的のスキルを発見した。


―――――――――――――――

【スキル付与】任意の対象者にスキルポイントと引き換えに任意のスキルを一つ与える。スキルポイントの不足などで対象者がスキルを受けられない場合には付与は失敗する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。


【スキルキャンセル】発動直後のスキルの効果を取り消し、直接的かつ可逆的な影響について発動前の状態に巻き戻す。このスキルは戦闘中に発動することはできない。神格者以外の者は神格者が発動し、または神格者が影響を受けたスキルをキャンセルすることはできない。


【スキル返納】任意の対象者の任意のスキルを一つ消去し、引き換えにスキルポイントを付与する。失敗した場合には対象者のスキルポイントは変化しない。神格者以外の者は発動に対象者の同意を必要とする。神格者以外の者がこのスキルを所有している場合、第一界以外の場所では無効化される。

―――――――――――――――


「……質問案件だな。【スキル付与】と【スキル返納】は思ったとおりのスキルっぽいけど、『任意の対象者』ってのは自分自身も含むのかどうか……、それに第一界ってのはここのことだよな? 確か女神サマが一番最初に言ってた気がする」


―――――――――――――――

「こんにちは。はじめまして。私は転生を司る女神。そしてここは転生のための第一界……世界と世界を絆ぐ神々の居場所よ。第三界からここに来たってことは異世界転生って聞いたこと、あるわよね?」

―――――――――――――――


 【追憶】スキルを使うとすぐに思い出すことができた。たしかにここが第一界というらしい。


「つまり、転生先では使えないけど取得はできるしここでは使えるってことだと思うけど……」


 俺はスキルの解説文を睨みながらブツブツと呟く。言葉をそのまま受け止めれば俺の理解が正しいのであろうが、明文化されていない常識を前提に書かれている可能性もあるので念のため女神に質問することにした。


「【スキルキャンセル】は他人が使ったスキルをキャンセルできるってことか。スキル同士の戦いなら相当有利に使えそうだけどな。記憶を持ち越せないんじゃ持ってても上手く使えないってことか。 ん!? 女神サマが俺達の記憶を消すのに何かのスキルを使うんだとしたら……あぁ。ダメか。神格者が発動したスキルは破棄できないって書いてあるな。……ってことは過去に試みた奴がいるってことかもな。考え方は間違っていない……のか?」


 俺は資料から目を離すと上を向き、腕を組んだまま目をつぶった。頭の中では【記憶術】により蓄えられた大量の情報が、【計算】スキルによって処理されていく。そして出された結論は……


「よし。一時中断。女神サマに聞きに行こうっと」


―――――――――――――――


「あら? 今回は早いじゃない。さすがにスキルのランクと必要ポイントだけをだけを読み続けるのは飽きたのかしら。クス」


 女神サマに質問をしようと俺が女神の部屋に戻ったのは書庫に篭って僅か半日後だった。どうせ数日は戻ってこないと思っていた女神が驚きと少しの喜びが混ざった表情で俺を迎えた。


「女神サマに質問しに来ました」


「う……、今度は何?」


 急に警戒の表情に変わる女神。俺が【スキル付与】等々についての疑問をぶつけると一転して余裕の表情に変わる。そして堂々と男に助言をした。


「クス。その通りよ。【スキル付与】はあなたでも取得できるし、あなたがあなた自身にスキルを与えることも可能だわ。そして第一界、つまりこの場所では使えるけど転生してこの第一界から出たらもう使えない。まあ私の仕事が少し減るって程度の効果しかないわね。クス」


 俺は表情を変えずに女神の回答を記憶に刻む。女神が続けた。


「【スキルキャンセル】の効果もあなたが理解したとおりで間違いないわ。あなたの記憶を消すために私が使うスキルは【忘却】。神格者たる私が発動する以上、あなたが【スキルキャンセル】を使ったとしても取り消せないわよ。過去に試みた人もいたけど無駄だったわね」


「それでも……」


「……?」


 俺は言葉を区切る。女神が次の言葉を待つ。


「それでも欲しいといったら【スキル付与】と【スキル返納】を貰うことはできますか?」


「うーん、まあ、別に禁止されてるわけじゃないからいいんだけど……、なんで? 欲しい時も手放したい時も私の所に来れば済む話じゃない?」


「今後、解説を読み込んで疑問が次々に湧いて来ると思います。その時に自分自身で実験をできるようにしておきたいんです。その都度女神サマの手を煩わせるとなると……さすがに神サマに対して畏れ多いもので……」


「あら。ずいぶん敬虔なことを言うじゃない。クス」


 女神が嬉しそうに微笑む。


「スキルを貰うたびに女神サマと話してたら集中力が途切れちゃうんだよなー」という俺の呟きは女神には聞こえなかったようだ。


「二つ、約束をすれば与えてあげるわ。一つ、転生前に私の【スキル鑑定】を受けること。転生者にどんなスキルを与えたか、その人がどう過ごしたか、記録をする必要があるの。いい?」


「はい。もちろんです。もう一つは?」


「もう一つ、最低でも一週間に一度は私のところに来ること。どう?」


「え? はい。守れますけど、何でです?」


「ほ、ほら……万が一、疲れて動けなくなったり、狂っちゃったりした時に気づくのが遅れて退廃の魂になってからじゃ遅いでしょ? あなたを無事に転生させるのは私の役目だからさ。ね?」


 俺は違和感を感じる。【口約束】スキルの効果かと思ったが多分違う。


「で、本当は?」


 俺は、早口で喋っていた女神を遮り切り込む。


「う……」


 ピタッと喋るのを止めて女神が固まる。


「た、たまには神格者以外の話し相手がほしいなー、なんて……」


 女神が俯きながら恥ずかしそうに答える。俺は、【口約束】スキルの効果でこれが女神の本心とすぐに分かった。


「ああ。それなら俺も質問がどんどん出てくるでしょうから最低週一で帰ってきますよ」


 俺は、何だそんなことか、と思い応じることにした。


「ほ、本当ね? じゃあ、約束を守れると誓ったことだし、【スキル付与】と【スキル返納】を与えます……【スキル付与】!」


 女神が【スキル付与】を発動し、俺はスキルを手に入れた感覚を味わう。何度経験しても不思議な感覚だなと思った。このスキルをどう発動すればいいのかも直感的に理解できる。


「ああ。そうだ。自分や他人が持っているスキルポイントを見る方法ってありますか?」


「え? 無いんじゃないかな? この部屋に【転生神の召還】で呼び出したときには自動的に分かるから調べる必要もないし、もし計算を間違えても【スキル付与】が失敗するからすぐに分かるし……」


「そうですか。わかりました。じゃあ、また篭ってきます」


「ちゃんと帰ってきてよ? 帰ってこなかったら呼びに行くからね!」


 女神が心配そうに叫ぶのを聞きながら、俺は書庫に戻った。


―――――――――――――――


「さてと……」


 俺はちょっとだけ悩むと、意を決したようにスキルを発動した。


「【算術】を手放せ……【スキル返納】!」


 俺の身体からスキルが失われた感覚があった。俺は両手を握り締めて喜んだ。


「【計算】から【算術】にランクアップしてスキル抹消で20ポイント獲得。そして……【計算】を与えよ……【スキル付与!】」


 俺は再び【計算】スキルを手に入れた。差分の15ポイントを手に入れた形である。


「女神サマは一回だけって言ってたけど、俺が自分でやる分には構わないだろ……それに【計算】スキルは思ったよりも早くランクアップするな。記憶術との相性がいいのかもしれない……念のためあんまり派手にはやらないほうがいいだろうけど……これでスキルポイントの心配はしないでスキルの組み合わせとチートを探せるようになったな」


 俺は会心の笑顔で呟く。この世界に来て初めてのチート行為の成功であった。とりあえず、【計算】スキルを使いまくって早く【算術】にランクアップさせて女神サマにばれないようにしなければならない。俺はスキルの解説書を開くと、スキルの研究を再び開始した。


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