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一日は24時間。




 生まれてきてからこれまで、男の子との思い出なんて一つもなかった。




 ――私の生きる意味って、なんだろう。


 最近、一人になるとつい考えてしまう。


 夜、布団の中で眠れない夜を過ごすとき。


 登校中、息を殺すように静かに目線を下げて歩いているとき。


 学校で、誰からも関心を向けられず‥‥教室の隅で一人、静かにご飯を食べているとき。


 ――そして、今。


 ここは私の住んでいる場所からほど近く、このあたりの街を一望できる小さな山の中。


 唯一心が休まるこの場所でも……時々。


 周りの大人の人たちは、生きてさえいれば、きっと……()()()幸せは見つけられると言うけれど。


 そのいつかは、いつくるのだろう。


 私はいつまで、この辛く、苦しい日々を過ごさなければいけないのだろう。


 今までの事は全部嘘で。


 私にかかっていた魔法がとけて、思わず誰もが見惚れてしまうような、綺麗な女の子になるのは……


 ――あぁ


「お願いだから」


 明日までに、してほしい。


「せめて」


 一年後でも、いいから。


 こんな世界で、こんな顔で生まれてしまって……


 誰か、早く私を、この地獄から救ってほしい。


 でなければ……心が、死にそうになるから。



「お願いします、神様」



 一度でいいから、男の子とお話をしてみたい。


 嫌がられても、泣かれてしまっても。


 少しの時間だけでもいいから。


 私の事を知ってほしい。


 私は空気ではないのだから。


 ちゃんとここにいて、頑張って生きているのだから。


「……」


 ――そう、願っているのに。



「死にたいなぁ」



 思わず口から洩れるのは、もはや何度目とも知れない私の口癖。


 初めて口に出した時は、本当に悲しくて、苦しくて。でも、言っているうちにそんな感情は薄れていって――今ではもう、本当に、何も感じない。


 死んだように呼吸をするしかない日々の中で。


 生きることに疲れて、心が摩耗する日々の中で。



 ――私は



「なんだか、疲れちゃった」



 いつの頃からか、気付けば私はここに居る。


 そうして、今日も変わらず。


 人の気配のしない、開けた景色が広がる山の中腹で――私は、今日も一人。




◇◆◇◆◆




 幼少期、物心がつく頃には既に施設にいた。


 児童養護施設ひまわり園。


 昔建てられた大きめの民家を改修して造られたらしく、外側は黄色いペンキで明るく塗装されている。


 扉は赤色で、屋根は茶色。


 閑静な市街のはずれにポツンと建っているその建物は、まるで昔見た絵本の中に出てくる魔女の家みたいに不思議な雰囲気を醸し出していて、けれど、そんなところを私は気に入っていた。


 老朽化が激しく、少し床を踏みしめるだけでギシギシと音が鳴るような……そんな場所だけど。


 優しい先生と、よく、積み木遊びをしたことを覚えている。


 その時はまだ、母親という存在でさえあやふやで。


 私がこれから先、どれほどの苦労を経験するのかも知らないで。


 施設という、あまりにも小さい世界の中で幼い私は、未来が明るいものだと疑いもしなかった。


 たくさん笑って、たくさん泣いて。


 だって――周りの子も()()だったから。


 私だけじゃない。みんなみんな、それが当たり前の日常だと、信じていたのだから。



『ごめんなさい』



 ――けれど



『こんなこと、本当なら……まだ幼い貴方達に伝えるべきではないのに』



 日常の終わりは唐突に。



『でも、これだけは知っておいてほしいの。これから先、周りの人たちが貴方達になんて言ったとしても、先生は……先生だけは、貴方達をいつまでも愛しているわ』



『……』



 ()()()()()子供達。



 私が小学校に上がる頃。泣きそうな顔の先生に告げられたのは施設の外の、広い世界のことだった。


 どうやら、私達のような子供には本来、"親"というべき大人がいるようで……


 今まで気にもしなかった私の顔は、いや、私達の顔は、かなり悪いということで(もう少し優しい表現はなかったのだろうか)。


 テレビや絵本の中で見た男の子とはこれから先、きっと――話すことすらできないだろうと。


 話の途中で何度も「ごめんなさい」と言っていた先生を、当時の私は呆然と見ていることしかできなかった。


 先生は何も悪くないのに。


 謝られても、どうすることもできないというのに。


 あの時、私と同じように話を聞いていた雫と奏は泣いていた。


 昨日の夜まで、小さな子供部屋で3人、男の子と会えたらと仮定の話で盛り上がっていたことが嘘みたいだ。


 夢にまでみた小学校。


 真っ赤なランドセルを背負って。


 同い年の私達3人で、誰が先に男の子と話せるか、競争しようと――



『恨みっこなしだからね!』


『分かってるもん』


『たっ、楽しみだね!』




 ―――ああ、なんてバカなんだろう




『……ひぐっ…』


 雫


 将来はお嫁さんになることが夢なのだと、瞳をきらきらと輝かせながら語っていた。


『……うぅぅぅぅ』


 奏


 顔を真っ赤にして、男の子と手を繋いでみたいと、もじもじしながら言っていた。


 そんな二人が今はただ、声を押し殺して泣いている。


 いつもみたいに、おままごとで喧嘩した時とは違う。


 本当に、心の底から悲しくて――どうしようもなく、苦しくて。


『……』


 あぁ、今なら分かる。


 私達より先に学校へと通っていた年長のお姉さん達も、だから笑わなくなったのか。


 それまではよく遊んでくれていたのに、今はそれぞれの部屋に籠ってばかりで……学校での話をせがむ私達を見て、悲しそうな顔をしていたのも、きっと。




◆◇◇◇◇




「死にたいなぁ」


 眼下に広がる街並みは、やっぱり、今日も変わらず物寂しい。


 くたびれた建物に、小さなベンチ以外はなんにもない公園。


 シャッターの下りたコロッケ屋さんに、ペンキのはがれた服屋さん。休業の張り紙が貼ってあるパン屋さんに、なにか落書きのされているピアノ教室。


 辺りに漂うどんよりとした雰囲気も相まって――


 ひまわり園を含むこの辺り一帯は、本当に、全てが寂しい。


 まるで世界からここだけが切り離されたみたいに、時間が停滞しているようにも感じる。


 確かに人はいるはずなのに、まるで誰もが息を殺してじっとしているのかと疑いたくなるくらい、ここには生気がない……人の営みがない。


 一度だけ、不思議に思って先生に尋ねたことがある。


 あの時、先生は言っていた。


 ここには私達と同じように容姿に恵まれなかった女の人たちがたくさんいるのだと。


 傷ついて、悲しんで、苦しんで……それでも何とか一日一日を懸命に生きている女性たちがいるのだと。


 苦しんでいるのは、私達だけではないらしい。


 まだ出会ったこともない、仕事以外では滅多に外出なんてしない彼女達も、どうか――いつか救われますように。


「……ぁ」


 気付けば辺りはオレンジ色に染まっている。


 いつの間にか、また随分と長い時間をここで過ごしていたみたいだ。


 そろそろ帰らないと先生が心配してしまう。


「もう帰らなきゃっ!」


 地面に置いたままのランドセルについている雑草を軽く手で払う。


 確か、今日は私が洗濯の当番だったはずだ。


 遅れたら先生に怒られてしまう。

 

 感傷に浸る間もなく、踵を返して急いで山を下りようと背を向けて――




 ―――瞬間、時が止まった―――




「――――えっ」




「「……」」




 いつからそこにいたのか、振り返った先。私の目の前には2人の子供がいて。




「………え……ぇ」




「「……」」




 一人は私よりも可哀そうな顔をしている女の子。どこかで見たことがあるような気もするけど、いやいやっ、今はそんなことよりっ!!




「……あ…あぁっ」




 その女の子の小さな手の先、同じく小さな手で握り返しているのは紛れもなく……




「お゛っ……おぁ、おっ」




「「……」」




 紛れも………なく……




「おとこのこおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっっっ??!!!!!!!!!」












 ()()()が、きたかもしれない。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「おとこのこおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっっっ??!!!!!!!!!」



「……」



 4月×日 pm 3:00 曇り


 夕焼けに赤く染まるのどかな市街を背景に、場違いに大きな声が響き渡る。


 突然の大声に驚いた周りの鳥たちが次々と木々から羽ばたいていく中、私は思わずこぼれそうになるため息をなんとか堪えた。


「ナ……ナナなっ!! なんでっ?!!」


 小さな山の中腹で、なぜか目の前にいる(少し背が高く、ランドセルを持っていることから恐らく小学校高学年であろう)女の子が私を見つめながら叫んでいる。


「てっ……手?!」


 目元までかかっている長い前髪に、小さな顔には不似合いな少し大きめの黒縁眼鏡。


「つな……つななななっっ……ツナイ、デル!!!」


 かなり猫背気味なこともあって、一見しただけでは顔を判別することが難しいかったが、なるほど。


「あ゛あ゛っ、あぁぁぁぁ!!」


「……」


 驚きの表情で私を見ている女の子は、しかし、とても綺麗な顔をしている。


 している、のだけれど――


 髪は好き放題に伸びていて、ここからでも分かるくらいに寝癖がついている。服もかなりダボついていて、わざとそうしているのかと疑いたくなるくらい……違和感しかない。


「――――!?!!!」


「……」


 いや、今はそれよりも。


 ぐぐぐぐぐ……


 一周回って口をパクパクさせはじめた女の子を尻目に、先程から私の右手を強く引っ張る山城さんをチラッと確認する。


「……」


「…む」


「……」


「……う!」


 どうやら早く家に行きたいらしい。


 決闘前の武士のように厳しい目つきで女の子を睨みつけている山城さんは、既に足を公園の方へと向けている。


 まあ私も彼女を早く家に帰すことに異存はない。


 帰って読みたい本もあるのだし。


 というか、なんで私はこんなことをしているのか。


 今日はせっかくの臨時休校だったというのに――


「……はぁ」




◇◇◆◆◆




 臨時休校。


 そう、入学式から早2日目。


 小鹿の群れに、木霊する泣き声……そんな慌ただしい1日目をなんとか乗り越えて、帰宅後は久しぶりにお祖母さんとも会えて、さあ今日も学校だと自分を鼓舞して起床した午前7時。


 顔を洗ってリビングへとたどり着いた私を前に、母から伝えられたのはなかなかに衝撃的な話だった。


「学校の近くで不審者が出たみたい。全く、本当に物騒なんだから。あ、だから今日の学校はお休みよ。さっき電話があったの」


「……」


「女の子は午前中だけ授業があるみたいだけどね」


「……」


 こんなにいきなり不審者って。


 しかしどうやら、悲しいことにこの時期の不審者は特段珍しいことでもないらしく。


 小学校への入学、それまで基本家に籠っていた男の子の中には、刺激的な外の世界に興味を持ってしまう子もいる。


 そういった子を何とかモノにしようと、いい歳こいた女性たちが学校の周りを意味もなく散策しているのだ。


 中には中学生や市外の高校生までいることもあると……


 ここは世紀末かと……いや、男女比1:3だとそういうことも当然あるのか。悲しいことに。


 改めて人間の本能というものの恐ろしさを垣間見た私だったが、しかしそういうことなら突然の休日を満喫させてもらおうじゃないか。


 こっちは昨日1日だけで相当に心身を疲弊させているのだ。それで不審者に感謝することはないけれど――


 というかそれなら……


「それなら、休むのは男の子だけでいいんじゃ」


「……え?」


「ん?」


「男の子のいない学校に行く意味ってなに?」


「……」


 世も末だな。




◆◆◆◇◇




 ――――ペラ


 それからしばらくして。


 途中お昼ご飯を挟んで、少し日も傾き始めた昼下がり。


 多少の眠気を感じつつも、久しぶりにゆっくりと本を読むことができていた私の気分は右肩上がりに上昇していた。


「……」


 外はあいにくと曇っているけれど、まあ少し暗い部屋で読む本というのもなかなかに乙なものだ。


 ――――ペラ――


 本日2冊目の長編ミステリー小説ももうすぐ読み終わる。まだ時間にも余裕があるし、今日はもう一冊くらい読んでおこう。


 と、そんなことを呑気に考えていた時のことだった。



『……』



「喉が渇いた」



『……』



 リビングに何かあったっけ、ココアでも飲むか。



『……』



「ん?」



 なんだろう



『……』



 違和感。


 先程から、なにやら強烈に視線を感じるような――


 おかしい、ここは家の中なのに……母は絶賛仕事中、お祖母さんも昨日の内に遠方の家に帰っている。であればどうして。


「……」


 気になって辺りを見回してみても、特に変った事なんて何もn――


『……』


「……」


 何も、ない……なんてことはなかった。残念ながら。


 目の前。私のいる書斎には、少し大きめの窓ガラスが設けられている。私が気分転換に近くの山へと抜け出した時に使っていたのも、ここだ。


 お昼ということで、今は少し薄めのレースカーテンがかけられているその先に、一瞬座敷童かと見間違えるほどに不気味な雰囲気を醸し出している女の子、否、変質者がいた。


 まあ、山城さんなんだけど。


『……う!』


 いつからそうしていたのか……窓ガラスに顔面を押し当てて私の事を凝視していた山城さんは、私が気付いたことに気付いたのか、自分の行動を反省するなんてこともなく、気軽に右手を上げて挨拶(?)、をしてきた。


 ここは居酒屋じゃないんだが。


「本当に、バカ」


 私が小鹿君だったら山城さんはもう社会的に終わってるなと思いながら、突然現れたこの変態をどうしようかと頭を悩ませる。


「……はぁ」


 というか、とうとう家がバレてしまったのか。


 まあ普段の彼女の行動からそうなることを考えなかったわけではないけども。それでも……ほんの少しでも、彼女にはまだ理性が残っていると信じた私が愚かだった。


 彼女の家から山を経由してここに辿り着くのも、その短い手足ではなかなかに苦労するものとも思うのだが……その無駄にすごいバイタリティをもっと別の事に生かせないものか。


『あしょぼ』


「……」


 窓ガラスの外側から気軽に話しかけてくる彼女に呆れつつも、誘いを断ってこのまま大人しく帰ってくれるとは到底思えない。


 昨日の事もある、このままフラストレーションを溜められると面倒だな。


「…むぅ」


 一先ず、この現場を母に見られては相当にまずいということだけは分かっている。


 本当なら迷わず警察に突き出す場面ではあるのだろうけど、彼女とは不思議な縁もある。まだ自制の効かない子供でもあるのだし、大人として、正しく導いてあげるべきか。


「……」


 いや、前言撤回。そこまでは面倒だ。


『むぎゅうぅぅぅぅ!!!』


「……」


 ガラス窓に体当たりをし始めた山城さんとは会話をすることすら難しいのだ。ここは前回と同様。今回は彼女の家で遊ぶと言って、途中で抜け出してしまうのが無難か。


 勿論、それが一時しのぎにしかならないことは十分に分かっているが、そういう面倒はきっと明日の自分が解決してくれるはず。


 明日の不安より今の平穏の方が遥かに重要なのだ。任せたぞ、明日の私。


「さて」


 よし、そうと決まれば手早く済ませてしまおう。


 時間もないのだし。



「行こうか」


『……う!』



 あぁ、この時の自分を殴りたい。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「……」


 回想終わり。


 はい。そういうわけで…黒縁眼鏡の女の子と、山城さんと私。山の中腹ということも相まって、この世界の人からしたらなんとも奇妙な出会いを果たしてしまったのである。


 誰もこんな奇跡は微塵も望んではいないのだけれど。


「いく」


「……」


 未だに口をパクパクとさせている女の子を前に、とうとう焦れて歩き始めた山城さんに従って、私もその場を後にする。


 去り際に一応ペコリとお辞儀をすることも忘れない。私は礼儀正しいのだ。


 ちなみに、山城さんと手を繋いでいるのは窓ガラスを開けた途端引っ付いてきた彼女をなんとか引き離すための妥協案だ。端的に言って詰んでいる。



「「……」」



 気のせいだろうか、私の手を握る彼女の力が強くなっているような――


「いしょぐ」


「……?」


 疑問を浮かべる私を他所に、山城さんは進む。


 目の前にどれだけ雑草が繁茂していようと、クモの巣があろうと、彼女の歩みは止まらない。


 一体何をそんなに急いでいるのか、山を下りてすぐの公園、その先のアパートを目指して直線距離で進んでいく彼女は、きっと前世が本当に猪だったのだろう。


「はぁ」


 仕方がないので彼女の頭に付いた雑草をとってあげながr……汚いから頭を押し付けないでほしい。


 気付けば、もう少しで森を抜ける所まで来た。


 さて、そろそろ逃げる時の算段を考えておくかと、そんなことを考えようとした時の事だった。



「――あ、あのっ!」



 すぐ後ろから、声が聞こえたのは。



「……っ?!」


 突然聞こえた女の子の声に慌てて振り返った私の目には、やはりというべきか……先程別れたはずの黒縁眼鏡さんが映っていた。


 帰り道が同じなのか……いや、それよりも声をかけられるまで全然気づかなかった。


 そんな私の驚愕など露知らず、なぜか頬を硬直させている黒縁眼鏡さんは話を続ける。


「わたしっ! あかねって言います!!! 才原(さいはら) (あかね)、桜花小学校の5年生でっ! 趣味は絵本を読むことと、綺麗なお花を見ること! あとっ…料理が得意です! それと、あとはっ! えっと……えぇと…」


「……」


「顔には自信がないけどっ!!! でもっ、わた‥私はっ!!」


「……」



 突然の自己紹介からさらに……黒縁眼鏡さん、改め才原さんは尚も続ける。


「と、友達からなんて贅沢はいいません!!! お話をっ! 少しだけでもいいからっ!」


「……」


「ゆっ、夢…なんです! お願いしますっ!」


「……」


「お願いしますお願いしますお願いします!!! 私を見て下さい! お金も払いますっ!! 私にできることならなんだってしますから!! お話をしてください!! お願いします!」



 あまりにも必死な彼女の形相に、私は思わず足を止めてしまう。


 山城さんは変わらず私の右手を強く引いているが――今はそれよりも。


「お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますっ!!!!」


「……」


 それよりも、この……今にも壊れてしまいそうな女の子を…早く


「お願いじますっ! い゛かないでくださいっ!!!」


 早く……助けてあげなければと




「――っ」


 手が、引かれる。



「う゛う゛ぅぅぅ!!!」


 目の前で泣き出した才原さんを複雑な表情で見つめながらも、手を。


 山城さんは、やはり……私の手を引いていて。




「わ゛だしをっ!! み゛でぐだざいっっ!!!」




 才原さんの慟哭に、涙で真っ赤に充血した大きな瞳に……



 入学式、私と再会した時の山城さんの泣き顔を思い出した。






この世界に生きる不細工な女性達は基本的に異性と話すことはありません。できません。

ただでさえ女性が多く、なにより本能的に恐怖心を抱いている男性は多いので。

良くて無視、ひどいときは嘔吐までしてしまいます。そのレベルです。

だからそういった女性たちは大人になると、一縷の望みをかけて男の子を生んでみたいと考えるようになります。息子とはいえ、異性には違いないですから。

でも、生まれてきたのが女の子だった場合。自分と似ている女の子に対して、自分と同じような惨めな人生を歩ませてしまうことに罪悪感を感じて、最後には手放してしまう女性も一定数います。

……という設定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白く一気に読んでしまいました 続き待ってます!
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