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パパイヤ、パパ嫌



 今から遡ること1年と数ヶ月。


 入学式での問題行動から1週間の謹慎処分を言い渡されていた少女はその日、鼻歌を歌いながら小学校までの道のりを歩いていた。


「――――♪ ――♬♫」


 初めて出会ったあの時から、ずっと探し求めていた男の子。


 入学式で再会できた時はとても嬉しくて、思いっきり抱きしめた。


 直ぐに引き離されてしまったけれど、必死に抵抗した。せっかく会えたのに、その手を離したらまた彼がどこかへ消えてしまうような気がして、それがたまらなく嫌だった。


 朝起きて1人でご飯を食べている時も、お母さんが借りてきてくれた絵本を読んでいる時も、何にもないお部屋の真ん中でお昼寝をしている時も……ずっとずっと、不安でいっぱいだった。


「楽しみ」


 少女は決めていた。


 今日から始まる学校生活、ずっと彼の傍にいようと。


 会えたら直ぐに抱きしめて、一緒にお勉強をして、お昼は2人でご飯を食べて……放課後はザリガニ取り。


 そもそも別なクラスであることなど知るわけもなく、件の少年が聞けば頭を抱えて溜息を吐いてしまうような妄想をしながら意気揚々と校門を通り過ぎていく。


 この(けだもの)はまったく反省していなかった。



「だからここに呼んだのよ」



 昇降口で上履きに履き替えて、少年の匂いがする方向へと足を進めようとした少女はしかし、突然後ろから現れた黒服の女性に変な部屋まで運びこまれてしまった。


「変な部屋ではなく、校長室です」


 不思議そうに部屋を見回す少女を苦々し気に見つめながら、彼女をここへ招いた老婆は訂正する。


「その様子だと、自分がどれほど非常識なことをしたのかも分かっていないのね」


「……う?」


「貴方、本来ならこの学校を退学になっていてもおかしくなかったのよ」


「たいがく?」


「そう、退学。もうこの学校には通えなくなるという意味です」


 あの日、少女が犯した罪。


 どの国にとっても貴重な男性、それも精神がとても不安定な時期の幼い男の子を入学式の初日に襲うという暴挙。


 退学だけで済むのならばまだマシだ。この事態がメディアにでも取り上げられてしまったら彼女は勿論、その母親、親戚に至るまで白い目で見られ続け、等しく尊厳を失い、その後死ぬまで後悔を抱えて生きていくことになる。


 被害に遭った少年がトラウマを抱えてしまい、登校すら難しくなってしまった場合には直接少女に危害を加えようとする者が出てきてもなんら不思議なことじゃない。


 ……のに


「貴方は今もこの学校に通うことができている。それはひとえに、本来被害者であるはずの少年にそう頼まれたからです」


「……」


 長年多くの少年少女を見送ってきたこの校長をもってして、彼はあまりに不思議な子だった。


 将来が期待される整った顔立ちに、およそその年齢には似つかわしくない落ち着いた佇まい。


 会場にいた大人や子供達に取り押さえられ暴れている少女を無表情に見つめながら、彼が口にしたのは彼女に対する擁護の言葉だった。


 抱き着かれたことで泣き出すことも、まして発狂することもなく、強いて言えば駆け寄ってきた大人達が言葉を失う姿を見て少しだけ気まずそうにしていたことくらいで……


 であれば、どうしてこの少女を罰することができるというのか。


「今回だけです。彼に免じて、貴方の起こした一切の非行を不問とします」


「……」


「ですが、今後同じ過ちを二度と起こさないための対策も必要です」


 そう言って少女の後ろに立つ黒服へと視線を向ける。


「子供1人に過剰だとは思いますが、知人に頼んで特別に派遣してもらいました」


「……む」


「この学校にいる間は彼女が常に貴方を監視しています。くれぐれも()()()を起こさないよう、お願いしますね?」


「……」


 有無を言わせぬ老婆の言葉に、拒絶の言葉を示そうとした少女も黙り込んでしまう。


 言葉の意味を全て理解したわけではないが、この学校で彼と接触することを禁じられてしまったということは分かる。


 そして、いつものように駄々をこねてもそれが通用する相手ではないということも。


「話は以上です。もう出ていってもらって結構ですよ」


 机の上に積まれている書類に目を移し、最早少女のことなど気にも留めていない様子の老婆。


「……」


 少女としてもこの居心地の悪い空間に長居はしたくなかった。このお婆さんは危険だと彼女の本能が告げていた。




 後日、事の顛末を説明した時の少年の心底嬉しそうな表情が少女にはとても不服だった。




◇◇◇◆◆




 ()()()()()()()()()()()



 自分でも正気を疑われるような発言をしていることは重々自覚しているつもりだが、私の目の前で宙を舞っているのは確かにクラスメイトの女子達だった。


「なにこれ」


 おかしい。絶対におかしい。


 先程までは暇を持て余した主婦達が大好物の昼ドラが繰り広げられていたというのに、突然誰かの言葉が聞こえてきたかと思えばチャンネルが男の子達の大好きな戦闘モノに切り替わっていた。


 最早私の腕を掴んでいた松下さんも、その松下さんと言い争っていた篠田さんもいない。


 2人は早々に()()()にやられてしまった。


「ラスト3人ですね」


「いや、い゛やだあ゛あ゛あぁぁぁぁ!!!!」


「ごわ゛いぃぃぃぃ!!!」


「おがあ゛あざあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!!!!


 教室から逃げ出そうとする幼女達を無慈悲にぶん殴り死体の山を量産する黒服の女性。


 そしてその女性の小脇に抱えられている少女、()() ()()




 うん、意味が分からない。




◆◆◇◇◆




「たすけにきた」


 開口一番、放心状態の私に向かってそうドヤ顔をかましてきたのは、相も変わらず黒服さんの小脇に抱えられたままでいる山城さんだった。


 カンガルーの子供よろしく飛んでいく幼女を興味なさげに眺めていただけだというのにこの態度……この子の面の皮の厚さは一体何cmあるのだろう。


 視線を彼女達の背後に向けると、そこにあるのは死屍累々(※死んでないです)の幼女達の山。壮観だな(※主人公はとても疲れています)。


 これではもう学校どころではないだろう。


 先生も一向に戻ってくる気配はないし、帰っていいかな。


「……む、いっしょ」


 そんな私の気配を察したのか、腕の中で暴れて私と一緒に帰ろうとする山城さん。お前はエスパーか。


「むうぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」


 腕の中から必死に脱出を試みる山城さんに対し、先程から一言も喋らず私の方を凝視している黒服さんに私が学校から帰るまでは拘束を緩めないようにお願いしておく。


「……」


 彼女と話すのはこれが初めて――というか、その姿を見たことすら今日が初めてだったりするのだけれど。


 山城さんからの話に聞いていた通り、その素顔は長い前髪で隠されていて、彼女の表情を窺い知ることはできない。でも、小さく頷き了承の意を示してくれた。今はそれだけで十分だ。


「やあぁぁぁぁぁあ!!!」


 暴れる山城さんを横目に見ながら帰り支度を進めることにする。


 あぁ、母には当然迎えの連絡を入れておいた。


 疲れたから帰りたいなどというふざけた理由に2つ返事で了承する母には罪悪感を感じてしまうが、実際とても疲れたのだからしょうがない。


 帰ったらまずは本を読もう。


 倒れているクラスメイトのことや、既に避難してしまった小鹿君達のことは先生に丸投げでいいだろう。私を見捨てて逃げたのだから、それくらいは甘んじて受けてほしい。


 幸い明日は隔日休日制度でお休みだ。明後日までに沢山の本を読んで嫌な事はすべて忘れてしまおう。うん、それがいい。



『私と結婚してください』



「……む」


 いや、嫌な事……は、言い過ぎか………


「……」


 今もなおピクリとも動かない死体の山の端に、重要な過程をすべてすっ飛ばしていきなり結婚してくれと伝えてきた件の女の子が見える。


 正直、()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()だった。


 告白するとき、身体が震えていた。


 かなり緊張していたのだろう。


 それでも、身だしなみには気を使い、背筋を伸ばして、ちゃんと私の事を見ていた。


 告白された時は私が男だからだろうと、そんなことを思ってもいたのだけれど……冷静になった今なら分かる。


 少なくとも、彼女はその場の勢いや冗談なんかで告白してきたわけではない。ちゃんと本気だった。


「……」


 だからこそ、不安を感じる。


 今回のことがきっかけで、彼女を取り巻く環境はどう変化していくのだろうか。


 あまり考えたくはないが、子供の社会というのは純粋ゆえに残酷だ。容姿が醜いと、ただそれだけの理由で排斥し、陰口を叩き、つるし上げる。


 前世の世界でも似たようなことがあった。


 私の家の近所に住んでいた同い年の男の子。


 彼は幼いながらに努力家で、真っ直ぐで、一生懸命で……私なんかとは正反対の男の子だった。


 クラスメイトの男子からは信頼され、先生の覚えもよく、誰に対しても優しかった。


 クラスに馴染もうとしない私に対しても積極的に話しかけてくれ、同じく人付き合いが苦手な弟のことも気にかけてくれていた。まあ、私達にとっては有難迷惑な話だったのだけれど。


 それでも、幼いながらに尊敬すべき人だと思ったし、実際彼のことはそこまで嫌いではなかった。



『告白、しようと思ってるんだ』



 ある一点さえ除けば、彼は本当に完璧な人間だった。


『自分のことはよく分かってるつもりだ。でも、どうしても伝えたい』


『……』


『その心底興味なさそうな目、結構傷つくんだけど……』


 なんとなく、今でも覚えている。


 中学2年生のあの時。


 放課後、その日読んでいた小説が思いのほか面白く遅くまで教室に残っていた私の隣には、なぜか滔々と告白の決意を語る彼がいた。


『何で自分にって、どうせそんなこと考えてるんだろう?』


『……』


『俺さ、分かるんだよ』


『周りの奴ら、表面的には俺のことすげー褒めてくれるのに、心の底では下に見てるんだ』


『容姿に恵まれなかったことは自覚してるよ、でも、そのことで親を恨んだことはないし、自分のことを可哀そうだと自虐した事もない』


『これが俺だって、胸を張って言える』


『でも、やっぱり少しは気にしてたんだな。あいつに好きだって伝える前に、お前にだけは聞いておいてほしかったんだ』


『お前は容姿なんて関係なく、本当の意味で俺を見ていてくれたから』


『感謝してるんだ。それこそ、お前が女の子だったら何度も告白してるくらいには』


『死ね』


『あっはは、すまん。半分冗談だ』



 それじゃあと、語るだけ語って彼は教室を出ていった。


 その後ろ姿はとても晴れやかで、まあ、私に話すことで少しでも迷いがなくなったのなら悪い気はしなかった。


 彼の恋路の行方なんて私にはなんの関係もないことなのだけれど。


 一向に昇降口に降りてこない私に焦れた弟に腕を引っ張られながら、それでも、うまくいくといいなと心の片隅で願っておいた。










 彼が学校に来なくなったと聞いたのは、それから数日後のことだった。











「……のぞみくん?」


 不意に声がかけられる。


 昔のことを思い出して、少し感傷に浸ってしまったらしい。


 私の目の前では、いつの間にか目を覚ましていた女の子が心配そうに私を見ていた。


 教室の外からは誰かがこちらに向かってくるような足音が聞こえる。


 これから騒がしくなってしまう前に、きちんと伝えておかないと。


 自分で振っておいて傷つかないでほしいなんて、なんとも虫のいい話ではあるのだけれど。


「あの、さっきは「ありがとう」」


「……え?」


 あれから会うこともなくなってしまった彼が、一体どんな言葉を返されたのかは分からない。


 傷ついて学校に来れなくなってしまった彼に対して、あの時の私は何もしてあげられなかったから。


 目の前にいる彼女は、彼ではない。


 彼に対する贖罪の気持ちは、彼女には何の関係もないことだ。


 それでも、きちんと伝えてあげないと。



「好きになってくれてありがとう」



「――うぇ?!」


 私の言葉に動転する彼女の様子を面白いなと感じながらも、言いたいことは伝えたので、私は教室を後にすることにする。


「え、ま、待って!!」


 今も前世の世界で懸命に生きている彼の、これからの幸福を願って。



 さて、帰って本を読もう。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 駐車場で私を待っていた母の喜び様は、それはもう凄いものだった。


 どうやら小学校に上がったばかりの我が子が家恋しさに早退することは息子を持つ母親にとってはとても誇らしいことらしく……そんな馬鹿なことを嬉々として語る母を見たくはなかったな。


 家に帰ってからはいつものようにストックしていた本を読みこんだ。これだけでその日あった疲労感が消えていく、やっぱり趣味は人生を豊かにするらしい。


 途中出前で取ったお寿司を食べて、また本を読む。


 そうして、時刻は15時を少し過ぎた頃。


『きた』


 窓の外で元気よく挨拶をする山城さんを前にして、やはり人生は思い通りにはいかないことを悟った。


 まあ、薄々そんな予感はしていたが。


『あそぼ』


 1年前からここ最近まで、黒服さんのおかげで山城さんから学校で話しかけられることも、付き纏われることもなかった。それが誰の配慮かは私の知るところではないけれど、確かに私の学校生活は守られていた。


 しかし今日、イレギュラーが起こったことで学校で対面することになってしまった。


 山城さんは喜んだのだろう。気持ちが昂ってしまった。会いたいという欲求を抑えられなかった。


 だから普通に学校からダッシュでここまで来てしまったのだろう。


 本当にアホだ。


『いれて』


 背中にはボロボロのランドセル、手にはザリガニ取り用のタモ。額には玉の汗が噴き出して、着ている服も身体に張り付いてしまっている。


 思ったことは口に出し、有無を言わせずこちらに迫ってくる彼女は間違いなくこの世界のバグだろう。


『おなかすいた、おみずのみたい』


「……」


 それでも、私の窮地を救ってくれたことは確かか……あまり認めたくはないけれど。


 クラスメイトを叩きのめしたのは黒服さんだが、そもそも彼女は山城さんの監視役。そんな彼女があの場にいたのは間違いなくこのアホが原因と考えるのが自然。


 だから聞いておきたかったのだ。山城さんは一体どうやって私の危機に気付いたの『かん』――そうか、勘か。


『あそぼ、おなかすいた』


 お腹をぐーぐーと鳴らしながら遊ぼうと誘ってくるこの子に助けられた自分が情けない。


 でも、借りは借りだ。


 助けられたのだから、お礼はしよう。


「まってて」


『……う?』


 いい加減、毎回ザリガニ取りに付き合わされるのにも飽きていたところだ。


 どうせこれからも付き纏われるのだし、お礼も兼ねて今日は趣向を変えてみようじゃないか。


◇◆◆


「というわけで、今日はホットケーキを作ろうと思う」


「あい!」


 場所は変わって、ここは山城さんが住んでいるアパートの一室。


 あの頃から変わらず何もない部屋の中央にあるちゃぶ台に先程スーパーで買ってきてもらった材料を並べて、私は助手の山城さんにそう宣言する。


 そう、ホットケーキ。


 遊びの度に私を外へ連れ出そうとする山城さんにインドアの良さを知ってもらうために私が考えていたことだ。


 ホットケーキならば前世の世界で弟にもたまに作っていたので作業に不安はない。加えて、この世界にもホットケーキミックスはあった。


 資金はお祖母さんからのお小遣い。1年前から会うたびにくれるのだ。有難く使わせてもらった。


「おぉぉぉぉ!」


 目の前にはホットケーキミックスの山。


 今回唯一失敗したのは材料の買い出しを山城さんに頼んでしまったことだろう。


 お金とメモを渡してスーパーに向かわせたのはいいものの、先にアパートで待っていた私の目の前に瞳を輝かせながら大量の材料を置いてきた。もう二度と彼女には頼まない。


 まあ、怒ったところで仕方がない。


 時間も限られているので、直ぐに作業に取り掛かることにする。


「おなかすいた」


 先程から隣でうるさい山城さんのことは無視してボウルの中にホットケーキミックス・牛乳・卵と手早く入れていく。


 狭いキッチンなので、当然コンロは1つ。


 それでも折角これだけの材料があるのだからと、思い切って生地となるタネを大量に生成していく。


「たべたい」


「お腹壊すよ」


 驚いたことに山城さんはホットケーキを食べたことがないらしい。というか、甘いものも駄菓子を食べたことがほとんどで、スイーツ全般のことをまったく知らないようだった。


 そんな彼女が初めて食べるホットケーキ。果たしてどんな反応をするのだろう。


「さて」


 そんなこんなで、準備はできた。


 満を持して弱火で温めておいたフライパンにタネを投入していく。


「いいにおい」


 小さな室内は甘い香りで満たされて、山城さんのお腹もあり得ない音を響かせている。


 生地の表面にもぷつぷつと気泡が出てきた――そろそろ頃合いか。



 ―30分後―



「あgkwのあうがをえぐあお!!!!」


「やり切った」


 私達の目の前にできたのはまさしくホットケーキタワーと呼ぶにふさわしいもの。


 途中興が乗ってしまって思わずこんなものを作ってしまった。山城さんもよく耐えた。


 もはや人語を忘れてしまった彼女のためにも、早く食べさせてあげよう。


 タワーの天辺にバターを乗せて、最後に大量の蜂蜜をかける。


 最早言葉はいらない。


 無言でタワーへと突っ込んでいった山城さんを横目で見ながら、私は追加のホットケーキを作る作業に戻ることにした。


 めでたしめでたし。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「「「「「「「――――っっ!!」」」」」」」



「……」



 突然だが、池にいる大量の鯉に餌をあげる光景を見たことがある人はいるだろうか。あぁ、実際に見ていなくても、動画やテレビでもいい。


 今はとにかく、あの光景を見て何を感じたのかを尋ねたい。


 ちなみに言っておくと、私が感じたのは恐怖だ。


 本来、生き物に餌をあげる行為というのは微笑ましさを伴っているものだと思う。


 家で飼っているペット然り、動物園での餌やり体験然り。


 けれど、数匹程度なら微笑ましく思えるそれも、相手が数十、数百の規模となると話が変わってくる。


 欲望のままに他者を押しのけ、餌を求め、一心不乱に口を開き続けるあの光景は、全くもって微笑ましくはない。


 だから、そう。


 今、私の目の前で繰り広げられているこの光景も、だから全然微笑ましくなどないのだ。


「はぐはぐっ」


「あまうま、うまうま」


「あぁっ、それわたしのぶん!」


「あたしのだよ!」


「おかわり!!!」


 9……10……山城さんも含めて14人か。


 いつの間にか増えていた幼女の群れを見て、私は本日2度目の絶望感に襲われていた。


 何がめでたしめでたしなのか、全然めでたくないじゃないか。


 なんでホットケーキ―を焼いているだけでこんなことになるのだ。



「はぁ」



 取り敢えず、明日は絶対に家から出ないと心に決めた。







あのアパートに住んでいるのは山城一家だけではないです。

似たような境遇の親子は結構います。

それこそ近くのアパートにも。

そして全ての親が山城母のように愛情を持って不細工な娘を育てることができるわけではありません。

この世界、そんなことはありえないんです。

むしろネグレクト気味な母親の方が多いのです。

あれ、前にもこんなこと書いた気がする。

まあつまるところ、みんなお腹が空いているのです。


……だからしょうがないよね!

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