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呪血恋譚〜人を呪う鬼と、鬼に恋した人の物語  作者: 春好 優
1章 黄昏時に君と出会う
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1-5 見えない壁が分かつのは

「こりゃ酷いな。誰がこんなことをって…あいつらだよな多分」


 壊された社が散乱していた。いくつものそれはついさっき壊されたみたいだ。こんなことをする奴らにさっきあった気がするが今は重要じゃない。

 俺はできるだけ社を踏まないようにしながら先に進んだ。

 

「これはしめ縄か?」


 羅漸を追ってきた先にたどり着いたのは何かを隔てるようにして囲んでいるしめ縄が目の前に立ちはだかった。

 その大きさに唖然としたがそれ以上に、そのしめ縄の先がどす黒い何かに侵されているのに驚いた。瘴気のようなもので溢れている。

 一目見ただけであれが良くないものだと理解出来る。どうやらしめ縄はあれとこちらを隔てているみたいだ。

 あの先に美咲さんがいるのか?そんな可能性の疑問を思いながら、俺は恐る恐る近づいた。

 しめ縄の目の前まで着いた。

 この先に入ると考えたら、背筋がゾクッと疼いた。

 この先に入ったらどうなるんだ?もしかしたら入った瞬間に死んでしまうのかもしれない。それでも俺は止まる訳には行かない。約束したから。何よりも俺自身が助けたいから。だから俺はこの先に進む。

 意を決した俺はその先に行こうとした。


「これ以上来ちゃダメだよ智汐くん」


「美咲さん!無事だったんですね!」


 突然、黒い瘴気の中から突然美咲さんが現れ俺の足は止められる。

 美咲さんに怪我の様子はなく無事のようで安心しホッとため息を履いた。俺や翔八のように何かされたということでは無いようだ。


「さあ美咲さん。早くここから逃げないと」


 俺は美咲さんと一緒に逃げようとする。しかし美咲さんは俯いて動こうとしなかった。

 俺はそんな彼女に疑問を抱き困惑する。


「美咲さん?」


 そんな呟きと共に俺の疑問は彼女に向かう。しかし美咲さんは俯きながら何か焦っている様子だった。

 俺は何故、美咲さんがそんな風になっているか想像もつかなかった。

 逃げればそれで終わりのはずなんだ。あいつらだって居ない今がチャンスのはずなのになんで?


「智汐くん、翔八を連れて早くここから離れて欲しいの。もう時期この場所の封印は解ける。そうすれば恐ろしいことがきっと起こるはず。翔八を連れて行ってくれれば、そうすれば全て上手くいくの」


「美咲さんを置いて行けるわけないでしょ!?何言ってんですか!!」


「私のことはいいの…彼らと契約してしまった。私は逃げられない。もう今日から私のことは忘れて。私はもう貴方たちに会うことは絶対にない。だから絶対に私を探そうとしないでね」


 美咲さんの口から出た拒絶の言葉に俺は思わず固まる。

 そんな俺にお構い無しに美咲さんは強引に別れの言葉を口にする。

 

「バイバイ智汐くん。ここでお別れだよ。翔八にもよろしく言っといてね」


 そう言って美咲さんは顔を見せずに背中を見せて遠ざかる。


「待ってくれ!美咲さん、美咲さん!そんな勝手なことあるか!何も説明しないで消えるなんて…貴方らしくない!行くな!何か脅されてるなら俺が」


「うるさい!貴方に私の何が分かるの?今、何も出来ない貴方に何が出来るの?はっきり言ってこれ以上は迷惑よ。これ以上付き纏われても目障りでしかない!早く消えて。今日この限りで私と貴方は赤の他人よ」


 その言葉に唖然と固まってしまった。その冷たい目線に本当に拒絶されたのだと理解させられた。


「……ごめんね」

 

 なんで?どうして?俺は貴方のためにここまで来たのに…なんで美咲さん…俺はなんのために…

 俺は美咲さんを引き止めるために、しめ縄の先に行こうとするが、見えない壁のようなもので防がれているのか進むことが出来なかった。

 そんな物だけで諦めがつくはずもなく、俺は何度も、何度もその見えない壁に手を叩きつけた。

 手が赤く腫れようとも、血が出ようとも俺は痛みを感じなかった。

 そんな俺の行動虚しく、美咲さんは暗黒の世界に消えていった。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」


 山に俺の絶叫が木霊する。雨音にも負けないぐらいに。

 こぼれ落ちる涙は雨とともに地面に消えゆく。雨は強くなり俺の虚しくなる心に響いた。

 俺は…どうしたらいいんだ?翔八と約束した。美咲さんを助けると…でもあの人は俺を拒絶して消えてしまった。

 死にかけの兄すら後回しにして助けに来たのに意味なんてなかったのか?分からない。誰でもいい俺に答えを教えてくれ。


「クソ、クソ、クソ、クソ、クソクソクソクソクソクソクソクソクソ、クッソォォオオオオ!なんで!なんでなんでなんで!」


 地面を何度殴っても何も晴れない。心に出来た痼が治ることもない。手は何度も傷をつけて、血が流れる。

 行き場を失った感情は何処かに出ることも無くただただ心に混沌を産み、虚しい思いに支配される。

 俺はどうすればいい?もう何もしたくない。何も考えたくない。これ以上俺は…

 そんな虚無に支配されかけたとき、後ろからパキッと言う音が聞こえた。


「誰だ!」


 思わずイラつきを乗せた言葉を吐き捨てて、後ろを振り向く。自分でも八つ当たりなのは分かっているのだがなかなか気持ちが抑えられない。

 俺の視線の先に先程の幼女がいた。

 何故ここに?

 当たり前の疑問を抱く。がそんなことも束の間、今度は後ろからパキッと言う音が鳴る。その音は段々と重複してくる。

 急いで後ろを振り向けばしめ縄がボロボロに朽ち始め、見えない壁に亀裂が生じ始めていた。

 やばい!

 そう思った俺は急いで幼女の元へ向かうと庇うように覆いかぶさった。

 次の瞬間、見えない壁は砕け、抑えられていた黒い瘴気が溢れ出し、周りのものを飲み込んだ。

 辺りの雰囲気が変わる。空は元々雲が覆って暗かったのがどす黒く覆われ、空気はどんよりとした黒い何かに包まれ、不快感と恐ろしげな気配が周りに充満していた。

 そこからなにか嫌な予感がした俺はすぐに幼女を抱えて物陰に隠れた。


「ギャハハ!現世だ!人の世だ!幾時の間、この瞬間を待ち侘びたのだろうか!我らを封印し虐げた人を喰らい再び暴虐の限りを尽くしてやろうぞ!」


 黒い瘴気の中から何かやばいものが出てきた。さっき見た幽霊と違って実態があるように見える。がそれは人では決してない。あんな瘴気の中から出てきた奴が普通なわけが無い。羅漸とか言うやつよりかは気配は弱い感じがする。でもあんな危険そうなやつとわざわざ戦う必要は無い。あの時は翔八が居たから飛び出したが避けられるなら避けるべきだ。

 服装はおそらく和服と言えるものだが風浪者みたいにボロボロの服を着ている。その口から見える歯は人のような平らな歯ではなく尖った獣のような歯で、その爪は鋭かった。何より纏う雰囲気は普通とはかけはなれていた。


「そして常世とは違う人の匂いが感じられる。あぁ、そこに隠れているのはわかっているぞ人間。なんの力のないお前が抵抗できずに俺に喰われるのは……さぞかし甘美なものを見せてくれるのだろうなぁ。ああ、楽しみだ」

 

 バレてるのか!?

 てかめちゃくちゃ1人で話してるけど、めっちゃ関わりたくないような人種だ。いや、人では絶対ない。あれは多分、幽霊とかの実態がない存在じゃない。あれはきっと妖怪とかそんな感じの生物?だと思う。

 前の俺じゃ信じられなかっただろうけど、今日一日で常識が崩壊したんだ。これくらいは理解出来る。

 あぁくそ。感傷に浸る暇すら与えてくれないんだな。

 考えろ俺…匂いとか言ってるけど俺たちの居場所自体は把握出来てないはずだ。そことか言ったのは俺を騙して出て来させようとしたんだろう。その証拠に奴はキョロキョロしてるし、まだ俺自体は見つかっていない。でもこの場所に居ることだけはバレている。

 今すぐ逃げるべきか?だがそれだと確実に見つかるだろう。ダメだあいつのことが何も分からない状態でそんなことするのはリスクがありすぎる。なら機会を伺ってこっそり行くべきか?それならまだ可能性がある。

 よし一か八かやるか!

 チラリと抱き抱える幼女を見ると俺は決意を固める。

 チラリと奴を見てから様子を伺い

 ゆっくりと、ゆっくりと背を低くして、バレないように抜き足差し足忍び足を意識して足を動かした。

 心臓がバクバクとなり苦しい。何とかバレてはいないが油断はできない。

 俺は苦しい胸を抑えながら奴らの動向を確認しながら俺は物陰に隠れながら移動をし続けた。まるでホラーゲームをしているみたいな…いや実際にホラーゲームみたいな状況に実際にあってるんだけどな…

 あははと現実逃避気味に心の中でこぼす。

 順調に少しずつ距離を空けることが出来ていた。このまま行けば安全に逃げらられる。そう思っていた。

 しかし、そんなもう少しということで、モゾっと動く何かを突然感じた俺は悲鳴をあげそうになるのをどうにか我慢して下を向いた。

 俺の足に小さな気持ち悪い黒い何かがまとわりついていた。

 キモっ!なんだこいつ!

 思わず足を振ってそいつを離そうとする。しかしなかなか取れないそいつは段々と足から上に這い上がってきた。それに大してゾクゾクゾクッと背筋に寒気が襲った俺はそいつを手で掴み思いっきり木に投げつけたあと足で踏み潰してやった。ほとんど自分の意思と言うよりは条件反射の動きだったので本当に自分でも何が起きたかよくわかっていない。

 ハアハアと焦りと不快感が息と共に吐き出される。

 気づくとその黒い奴は霧散するやようにするとまた再生したが俺から遠ざがって行った。

 そんな様子に清々したのだが、そいつが去って行った場所を目で追っていた。


「みーつけた。ぎゃは」


 黒い何かはあの男の元へと帰っていた。

 そして男は嬉しそうにこちらを向いていた。

 淡い希望なんてなくてすぐに俺は幼女を抱え直して走り出した。


「おーおー逃げるのか!追いかけっこか?いいなぁ。きっと楽しくなるなぁ」


 楽しくなんかねぇよ!命懸けのリアル鬼ごっこだわ!クソッタレが!

 きっと捕まれば俺は無惨にも食い殺されるのだろう。

 そんなの嫌だしごめんだ。絶対に逃げ切ってやる。

 だが、不思議と恐怖を感じなかった。きっと俺はこの幼女を助けることを理由に一時的にでも美咲さんのことを忘れようとしていたのだと思う。そうすることで俺は絶望から意識を逸らしていたんだ。

 この子だけは守らなければ…そんな強迫観念に近い思いを抱きながら俺は雨降る森を駆け抜けた。

 あれほど強く降っていた雨はいつの間にか止んでいた。

 


あと1話程で1章は終わります。

思ったよりも長くなってしまいました。


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