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呪血恋譚〜人を呪う鬼と、鬼に恋した人の物語  作者: 春好 優
1章 黄昏時に君と出会う
2/8

1-1 運命の始まる日

はじめまして。

どうも春好と申します。

結構不定期で更新していくと思うんですが、頑張って書いて行こうと思うんでよろしくお願いします。

運命の日は雨上がりの曇天で既に日が沈みかけ、薄暗い世界が広がっていた。

 天気予報が外れ、突然の大雨に見舞われた俺は山の中で怪異に襲われ、大切な家族を奪われた。

 助けるはずが、差し出した手は拒まれ、理不尽な者に抵抗できずに蹂躙されるはずだった俺に手を差し伸べてくれる人がいたことを俺は忘れない。まあでも、彼女はきっとそんなつもりは一切なくて、俺の事なんてただ利用するだけの存在だと思っていたのは間違いないだろう。それでも俺は彼女に対して抱いた気持ちは間違いではないと断言できる。

 最低最悪なんて言葉が似合うあの時、その場所で俺は人生最大で唯一な運命の出会いをしたんだ。

 薄暗い世界の中で、雲の隙間から黄昏色が俺達を照らす中で見た君の姿は俺の人生の中で1番輝いていた。

 どれだけ月日が流れようと、どれだけこの身体が老いようと、あの日の出会いは俺の記憶の中で色褪せることは決してないだろう。

 辛い記憶でありながら、幸福にもなり得る矛盾の思い出を俺は大切に心にしまっておこう。

 記憶の中にある思い出の山はどこまでも昏く輝いていた。


 

 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

20XX 10月

 


 季節は秋。空は快晴、天気は晴れ、どことなく甘い香りが漂う日立。少しだけ肌寒いものの、それは太陽の日差しによって解消できるので、どこを取っても最高の天気だと言える。天気予報も一日晴れだと言っていたのでいい一日になるだろう。

 そんな日に俺、汐花智汐とその兄、汐花翔八とその嫁の汐花美咲さんとともに山菜採りに向かっていた。

 一応目的の山まで車で向かっていて、運転席に兄、助手席に兄嫁の美咲さん。後ろの席に俺が乗っている構図だ。

 俺自身大学生ではあるのだが、今日は暇だったので美味いもの食いたさが目的ではあるのだが、一応手伝いと言うことでここまで来た。はは、疲れたあとの兄貴の料理は絶対に美味い。今から楽しみだなあ。

 そう思いながらスマホをいじっていると車が止まった感覚を感じる。


「着いたぞ」


 兄がシートベルトを外しながら言う。

 どうやらスマホをいじっている間に目的地に着いていたようだ。

 俺もそれにつられてシートベルトを外して車の扉を開いて外に出る。

 外に出ると強い日差しに照らされるが暑すぎるということはなくちょうどいい日差しの強さだった。

 そんな中車後方で体を伸ばしながら深呼吸をする美咲さんが話す。


「ん〜いやぁ心地いい日差しだね」


「確かに。肌寒いと思ってたけど太陽のおかげで暖かいですね。これなら結構快適にできそうですね」


「そうだね。これならそこまで厚着してこなくて良かったかもね」


「いやいや、山の中なら肌は隠さないと危ないですよ?美咲さん」


 長袖を脱ごうとする美咲さんを手を振って美咲さんの考えを訂正する。

 こんな山奥で半袖なんて自殺行為…なんて言わないけど結構危ない。肌がむき出しだと虫刺され、擦り傷などの恐れがある。なのでこういう山中や森林などでは肌を見せるような半袖など絶対にダメ。ほら美咲さん言うてる傍から脱がない。


「おいおい、俺の居ないとこで二人楽しくお話してるのか?そんな暇があったらさっさと手伝え智汐」


 1人でせっせと荷物を下ろす兄貴が少し不機嫌になりながら俺に行ってくる。

 嫉妬する男は嫌われるぜ兄貴?と彼女いない歴年齢の俺は心の中でつぶやく。

 美咲さんと仲良くしてるからってそんなに睨まなくてもいいと思うけどな。だって義姉は普通に姉として甘えてんだからいいだろ別に?まあ美咲さんにお姉ちゃんと呼んでと言われても今まで1回も言ったことないんだけどな。恥ずかしいし絶対言わない。

 と早く行かないと兄貴がまた不機嫌になるから早く行かないと。

 そう思ってすぐに荷物を下ろす兄貴の手伝いを始める。

 山菜採りに必要なシャベルや山菜を入れるための袋などを車中から地面へと下ろす。

 荷物を下ろしたあと俺たちはすぐに靴を履き替え、服を着替える。準備万端な美咲さんと違って俺たちは普通にラフな格好をしている。

 流石にこのまま山に入るのは危ないしアホだ。そんな馬鹿でもないので準備はしっかりする。

 肌の露出をできる限り控えた服装になると兄貴は虫除けスプレーを取りだした。


「おーい美咲。虫除けスプレーやるからこっちこい」


「はーい。すぐ行くね」


 山の方を眺めていた美咲さんを兄貴が呼ぶと美咲さんは笑顔を浮かべて兄貴の元へ来る。

 ほんと見てると仲睦まじい夫婦だ。俺もあんな人できるのか?いや、美咲さんみたいにできた人にはそうそう会えるもんじゃない。兄貴はあんないい人見つけられてよかったよ。

 最初は振られてたのに何回もアタックしてOKされた兄貴の気概は凄い。それで付き合って10年ほどして結婚。ここまでおしどり夫婦になるなんてほんと純愛だよ兄貴は。

 そんな兄貴の歴史の少しを考えていると兄貴が俺にスプレーを向けてきた。

 吹くぞと一言言って兄貴は虫除けスプレーをかけてきた。それに合わせて息を止める。冷たいスプレーの霧が俺の体の露出度部分にかかった。

 少し背筋がゾクッとなるが我慢してそれを受止める。


「スマホとかは置いてけよ〜無くしても知らないからな?」


「はは、そんなのわざわざ持ってかないよ」


 俺は率直に自身の服が入っている袋にスマホとか財布を入れる。こんなの持っていっても汚れるし、無くす可能性もあるし必要は無い。

 さてと、これで準備は整い、あとは道具を持つだけだ。


「さてと、じゃあ頑張って色々取りますか」


「あいよー」


 少し気だるげに兄貴へ返事をするが横の美咲さんが元気よく挨拶した。

 あれ?この人こんなテンション高い人だっけ?


「そうだねぇ。翔八の友達も楽しみにしてるだろうし頑張ろう!」


 美咲さんは手を上に向かって挙げてやる気を見せていた。


「おっ?結構やる気だな美咲。」


「せっかくこの山で山菜採りを許してくれたんだからお返ししないとね」


「そうかそうか。それでテンション高いんだ?そういえばあいつ今月誕生日だったな。今回取れたもの全部上げてもよさげ?」


 ニヤニヤしながら兄貴は美咲さんに言う。

 うわぁいじ汚ぇ。攻めれるところ見つけたらすぐにイジりに行くんだから。まあいじめてる訳でもないから俺が何か言うこともないけどな。

 そしたら美咲さんは狼狽えたように答えていた。


「そ、それは多すぎても食べきれないし良くないんじゃない?」


「で、その本音は?」


「美味しいものをいっぱい食べたい!って何言わせてんの翔八!」


 そういえばこの人結構食に関しては目がない人だった。舌も肥えてるし、結構グルメ巡りとか兄貴としてた気がする。

 そんなことしてんのにこの人太る気配ないから不思議だ。

 ……俺なんて結構頑張って体重維持してんのにな。

 それにしてもそんなに恥ずかしがることでもないような…自分が結構食べること気にしてるのかな?そんなの気にしないんだけど。


「フッ別にそれが本音ならいいんだぜ?だって俺も美味いもん食べたいしな。それともあれか?別にそんなことない?俺の料理も食べたくないのか?」


「むぅ。そんなこと言ってないよ私は。意地悪だね今日の翔八は。智汐くんもそう思うよね?」


「えっ?ああ、そうですね。」


 美咲さんは俺に話を振ったあと、兄貴が顔を近づけるとぷいっと頬を膨らませてそっぽを向く。

 可愛い。なんだろう小動物みたいな可愛さが漂ってる。

 少しだけわざとらしさを感じるから多分狙ってやってるんだろうけど、ほんと目の前でこんなもの見せないでくれよ。

 それに兄貴嫉妬でこんなに言ってんじゃないだろうな?弟に嫉妬なんてする必要もねぇだろてめぇ。

 

「そんなむくれんなよ。帰ったら俺が美味しいものいっぱい作ってやるからさ」


 兄貴は美咲さんの頬をむにっとつまみながら笑う。

 しかし美咲さんはそれを怒ることなく逆に嬉しそうに頬を緩ませた。


「ほんと?やったー!翔八の料理美味しいから楽しみだね血潮くん」

 

「そこで俺に話振るの?まあ楽しみなのは確かだけど……ほんと仲睦まじいようで良かったよ。兄貴達は」


 ほんと苦笑いしか出ない。目で見せる惚れ気はやめてくれ。見てるだけで甘くなってくる。

 美咲さんの言うように兄貴の料理は美味い。贔屓目抜きにしても相当なものだ。昔は調理系の職につこうか悩んでいたぐらいだ。

 簡単に言えば美咲さんは兄貴、翔八に胃袋を掴まれているのだ。まああの美味さなら仕方ないだろうけど。

 会話を続けながら今日は何が取れて何を作るかなどの話を二人は続けながら兄貴はシャベルを肩に担いで美咲さんと山へと入っていく。俺もシャベルを背負ってすぐにそれ追う。

 今日来た山は兄貴の知り合いが所有する山だ。一応は、取れた山菜の1部を譲るってことで許可を貰った。だから今日はいっぱい取らないと自分たちの文が少なくなるから頑張らないと行けない。

 まあ焦ってもどうにもならないし、普通にするだけだけどな。

 自然の中に入りながら兄貴が美咲さんに説明をしている。どれをとってどうすればいいか。そんなことをだ。

 俺と兄貴は慣れてるからいいけど美咲さんに関してはこういうことに誘うことはあまりない。

 今回は気晴らしにということで誘っている。仕事で大変なミスをして落ち込んでたから、だからたまには息抜きしないと持たないだろう。

 最近はずっと仕事に張り付いていたからこういうことするのは久しぶりで、しかも美味いものが食べられる。元々兄貴に胃袋を掴まれているのだ。そんな兄貴の料理が食べられる。期待大な状態。そのため、今回美咲さんは軽く取るだけでいいよと兄貴と2人して車の中で言っていたがそれでもやっぱり美咲さんはやる気十分になっているのだ。


「よし、じゃあ俺はもうちょっと奥の方見てくるよ。智汐も美咲の事見ながら頼んでもいいか?」


 おっいつの間にか教え終わっていたみたいだ。

 2人の足元を見ると見ると既に袋に山菜が数種類入っている。茸に銀杏に山栗まで入ってんじゃん。いつの間にそんなに。


「あいよ。わかったよ兄貴。俺はここら辺で探せばいいんだな?」


「ああ、奥の方は俺が探す。だが、美咲とばっか話してやることサボるなよ?」


「やらんわバカ。どんだけ心配症なんだよ」


「どうだか。じゃあ行ってくるよ」


「いってらっしゃーい」


 なんだよ。俺が美咲さんを取るとでも思ってんのか?馬鹿め。どんだけ言っても、どんな行動を取っても、例え絶対にないだろうが美咲さんが誘惑してきても俺は絶対に美咲さんを女としてみることは無い。俺にとって美咲さんは本当の姉のような存在だからだ。まあ、美咲さんが美人であることに否定する余地はないから心配することは不自然では無いと思うけどな。

 そんなに心配なら残ればと言いたいのだが、同じ場所を2人で居てもの取れる量なんてしれてる。なら動ける方の兄貴が動くという考えだ。まあ、兄貴は運動神経が昔からいいのだから仕方が無い。……それに言ったら言ったで後が怖い。

 まあそんなこんなで俺は先に行く兄貴の背中を見送ったあと、美咲さんの様子を見ながら目的のものを探す。

 辺りを探していると木に巻きついている蔓を見つける。左巻きの蔓だ。葉っぱは…細長いハート型。あった目的のものが。


「へぇ結構近くにあったな」


 俺はその蔓を追って地面との繋がりを探す。

 すぐに蔓の元も見つかり、俺は直ぐにシャベルを使ってそこを掘るのではなく少しそこから距離を空けて掘り始める。

 横を掘りながら少しずつスコップで掘って狙いの物である自然薯の肌を見つける。

 そしてそれに沿いながら少しずつ、少しずつ地面をほっていく。途中大きめの岩とかがあり、なかなか進めなかったり下がなんとかそれを掘って退けまた掘りだす。最後には180近い身長の殆ど入るほどまで掘りようやく全容を確認することが出来た。 ようやく現れた自然薯をすぐに取り出すことはしない。

 こいつらは脆くすぐに折れる。慎重に行かなければならない。まあ少しぐらいならいいかもだけど。

 少しずつスコップで周りを削り、自然薯を取りやすいようにする。

 俺の努力もあり、折れることなく自然薯を掘り出すことが出来た。

 自身が掘ったために穴になった場所から出て自然薯を袋に入れる。

 うわぁ、めっちゃ泥だらけだ。服もそうだけど頭にも砂が乗っている。こりゃ家に帰ったら真っ先に風呂だな。

 それにしても、たった1回だったけど結構疲れてしまった。もう少し取りたいからもっと探す気ではいるが少し休まないと次は無理そうだ。そう思って近くの木の根に腰を落ち着かせる。


「お疲れ様智汐くん。はい、お茶だよ」


「おっありがとうございます!フゥー生き返るぅ」


 本当に気が利く人だ。ちょうど喉が乾いていたから良かった。

 ごくごくと喉を鳴らして乾きを潤す。

 それにしても美咲さん俺が掘ってる間に結構取ってる。うわぁ袋いっぱいじゃん。

 そう思っていると美咲さんは笑って俺を見ていた。


「ふふ、そんなに嬉しそうに飲んで、ほんと智汐くんは心から嬉しいって気持ち伝わってくるから嬉しいね」


「そうですか?そこまで顔に出してるつもりないんですけどね」


 そんなに表情変わってるのだろうか?自分では自覚もないしポーカーフェイスを気取ってるのに。

 いやまぁ、感情が顔に出てるのは分かりやすいってことだし恥ずかしくもあるな。なんか頬が暑い。


「んーそれは自覚がないんだねきっと。それに顔だけじゃなくて雰囲気?とか声からよく伝わって来るものなんだよ」


「へぇーそんなんですね。そこまで意識したことないんですけど」


「うん。それは智汐くんのいいところだと思うから誇ってもいいんだよ」


「いやいや。誇るようなものじゃないでしょ」


 何言ってんだこの人。悪意とかなくていじってる訳でもなくて、ただ純粋に褒めてくるから強気で否定できない。

 と言うか、顔に出やすいって誇るものと言うよりは直したいところだ。

 そう思っていると美咲さんが隣に座ってきて少しニヤついた表情で話題を振ってきた。

 

「あ〜ところで話が変わるんだけど」


「ん?なんですか?」


「智汐くん彼女さんとかできたの?」


「ぶっ、い、いきなりなんですか!」


 突然の話で思わず吹いてしまう。

 なんだ突然この人、いきなり俺の恋愛話ってどこに需要あるんだよ!いきなりすぎてびっくりだわ。

 というか彼女いない歴年齢の俺に聞くもんじゃないよ。

 そもそも俺人を好きになったことないし……


「いやぁだって智汐くん、色恋の話一切聞かないから気になるでしょ?私一応あなたのお姉ちゃんだから気になって」


 美咲さんは悪びれる様子もなく、好奇心の目を俺に向ける。


「いや義姉でしょ」


 動揺隠せなく、思わず全く違うところに突っ込んでしまった。

 あっちょっと失礼だったかなって思って美咲さんを見ると不快感とか感じてる様子もなく、安心した。

 美咲さんお姉ちゃんって呼ぶように毎回言われるからそこら辺気にしてるんでろう。


「あら?そんなこと言うの智汐くん。お姉ちゃん智汐くんが意地悪な子に育って悲しいわ〜」


「えぇ…あなたもう30近いのに何言ってんの」


「あっそんなこと言っちゃうんだァ。後で翔八に」


「すいません!ほんとそれは勘弁してください。…後で面倒なんで」


 兄貴は面倒だ。昔から勝てた試しがない。絶対後で組み敷かれる未来しか見えない。


「よろしい。ん?何か言った?」


 最後の方は小声で言っていたので聞こえてかなったみたいだ。

 聞かれて後で兄貴にでもちくられたらたまったものじゃない。


「そんなことないですよ」


「そんな真顔で言わなくても…普通に冗談だからね?」


 そんな様子で俺達は休息して、また山菜探しに戻った。

 そうして山菜採りをして移動しているとこの山に相応しく無いものが見て取れた。

 缶やお菓子の袋にペットボトルなどのゴミの山だ。それを見た瞬間に怒りが込上げる。


「なにこれ?酷い…」


 美咲さんも眉間に皺を寄せて不快感を露わにしていた。それはそうだ。自然にゴミの不法投棄なんて酷いことをする。ここは私有地の山でこの山を管理してる兄貴の知り合いだ。美咲さんも顔を知ってるみたいだし思うところはあるんだろう。こんなことするやつに山を貸してあげるなんて思えないし不法侵入か?

 にしても真新しい、まるでついさっきまでここに人がいたような…

 そう思っていると近くからゲラゲラと笑い声が聞こえてきた。

 それに少しだけ様子を伺おうとすると、新しくゴミが同じ場所に投下され、犯人は直ぐに特定出来た。


「はあ、近くに居たのか…さすがにこれは見逃せないな…」


「そうだね。人の私有地でこんなことしてるなら注意しないとね」


 ため息を出して呆れてる俺の後にすぐに美咲さんは声の方に向かった。

 あっやべそう思って追いかけるが美咲さんは既に声の主に怒っていた。


「貴方達!ゴミを散らかして何してるの?今すぐに片付けなさい!」


 一斉に男女4人組の目線が美咲さんと後ろにいる俺に向いた。


「あっ?誰だよあんた。別に何処で何しようが人の勝手でしょ?」


 BBQをして楽しんでるパリピ共の中で金髪の威圧感がある男が敵意むき出しで美咲さんに応えた。たぶんあいつがボスなのは間違いない。今どきこんな分かりやすいやつ居るんもんなんだな。

 そんな感想を相手に抱く俺だが、それ以上に美咲さんを心配した。

 あの人怖いもの無さすぎるんだよ…けどやっぱり変わらない美咲さんの姿に笑みがこぼれる。

 優しいけど、怒る時は怒る人だ。ダメなことにはダメと言えるのは何年たとうと変わらない。俺も見習いたいな。


「勝手も何もここは私有地です。それにしたって不法投棄は犯罪ですけど?そもそも貴方達ここの所有者には許可を取ったの?」


「取った取った。これでいいでしょ?ゴミも後で片付けるからさ。だから早く消えてよ。普通に邪魔だから。」


「そうよそうよ!おばさんがこんな場所に居ても意味無いでしょ?早くお家に帰って寝ときなよ!」


「ギャハハそれただの歳いったババアじゃん!言い過ぎっしょ」


 一緒にいた軽そうな奴らが笑いながら同調している。

 これが目上の人に対する態度かよ…流石に失礼すぎだろ。こいつら礼儀知らずにも程があんぞ。

 まあ口喧嘩なら美咲さん強いから俺がわざわざ声をかける必要はないけど流石に俺も反論したい!美咲さんはおばさんじゃありません。これ大事なとこ。

 てか横目で美咲さんの事見たけど少し切れてるねこれ。


「取ったとしても貸してもらった場所をこんなに汚すのは人としてどうなの?それに片付けるにしても離れた場所にゴミを捨ててるなら信用ならないわ。少し待ってなさい。一応ここを所有してる人に話を聞くから。もし違ったら警察呼ばしてもらうわよ?」


 美咲さんは淡々とそういう。あっ怒られたなこれは。

 しかし流石に警察で焦ったのか金髪の男が立ち上がり美咲さんの目の前に近づく。


「もし許可とってたら?」


「その時は率直に謝るわ。でも貴方達みたいな人達が取ってるわけないわよねぇ?だって…あらごめんなさい?これ以上はやめとくわ。可哀想だから」


 美咲さんキレすぎて口調変わってます。ちょっとキャラも変わってるので気をつけて下さい。と心の中で注意するが、美咲さんはこっちを見ててへぺろとしている。えっ?エスパーですか貴方……

 あはは、やっぱりさっきの悪口気にしてんだ。と思って苦笑いする。

 相手の様子を見ると、美咲さんに言われた男はみるみるうちに顔が赤く染まっていった。


「あんま調子乗んなよアマが…こっちが下手に出てたら調子に乗りやがって。わかってんだろうな?よく見たら美人じゃん、へへ、あんた簡単に帰れると思うなよ」


「もぉ〜やめなよおばさんじゃん」


「でも可愛かったらよくね?」


「いいねぇ後で俺にも変わってよ」


「その綺麗そうな顔、傷つけてやるよ」


 そう言って金髪の男が美咲さんに手を伸ばした。

 その手を俺はガシッと勢いよく掴んだ。


「あっ何だよ兄ちゃん。この女の連れなら諦めな。今からこいつは…ッ!?いタっ!」


 男の手を美咲さんに触れそうになる前に止める。結構痛がってるが先に手を出してきたのはそっちだ。会話だけで辞めるなら俺も手を出す気は無かったが、美咲さんを狙うなら容赦しない。


「おいおい、話し合いだけで終わるなら俺が出る幕じゃなかったんだけどな…手を出すなら話は別だ。先に手を出したのはお前さんらだ。覚悟…出来てるよな?」

 

「ヒッ!!」


 鋭く睨みつけると男は小さな悲鳴をあげる。しかしそれを演技だと思っているのか他の奴らはまだ笑っている。


「ありがとね智汐くん。あと、口で言ってもダメみたいだから少しだけ懲らしめちゃって」


「美咲さん…最近翔八に似てきてないですかい?昔はそんなに喧嘩早くなかったのになぁ…まあ、俺も看過できなかったのでいいんですけどね」


「あはは、気のせいじゃないかな…あまりやり過ぎちゃダメだからね?少しだけだよ?」


「全く…俺を翔八と一緒にしないでくださいよ。そんな乱暴者じゃないですよ俺は」


 心配するように美咲さんが言う。そんなに信用ないかな俺?翔八なら容赦しないが俺は落ち着いてるからな。そんな怒ってる…こともないか。美咲さん馬鹿にするのは許せないしな!


「な、なんだよ!先にイチャモンつけて来たのはそっちじゃねぇか別に俺らは悪くねぇ。そもそもお前らだって許可とってねぇんだろ?警察なんてお前らの方が困るんじゃないか?」


「お生憎様、こっちはそもそも所有者に許可とってるんだよ。それにそのイチャモンの原因作ったのはおめぇらだろうが…今すぐゴミを回収して帰れ。その様子じゃ本当に許可も取ってないんだろ?こっちだって事を大きくしたい訳じゃない。ゴミをしっかり袋に入れて持ち帰るんならそれで終いな話だろ?」


 そう言うと男は歯ぎしりを立てながら黙り込んだ。やっぱりと言うべきか、許可は取ってなかったみたいだ。まあ翔八の知り合いがこんなヤツらに場所を提供することは無いと思うしな。それに…俺でよかったなお前ら。翔八なら絶対すぐに手が出てたよ。

 俺はそいつの手を投げるように離した。

 呆然としているそいつはどうやら俺に拳を受け止められたことがショックなのか固まっていた。


「もおーあんた何してんのよ?ボクシング経験者でしょ?かっこ悪いよ〜」


 そうBBQを続けていた女が煽る。その言葉を聞いて男は俺に殴りかかってきた、が俺はそれを難なく手のひらで受け止める。


「ちくしょう!なんなんだよお前!いきなり現れてこんなこと許されるのかよ!」


 ボクシングをやるようにジャブを数度するとストレートを打ってくる。それを一つ一つ丁寧に防御する。

 こちとら空手経験者の翔八によくしごかれてたんだ。それに比べたらマシな方だ。でも結構パンチ強くね?まあまだマシか。


「先に手を出したのはお前さんだ。穏便に済ませたかったが仕方がねぇな」


「ぐあぁっ!!!」


「あっやりすぎた大丈夫か?」


 1発軽く小突いてやるだけにしようと思っていたらこいつ、1発殴ってきてカウンターみたいになってしまった。俺の拳が綺麗にやつの顔面にめり込んだ。

 えぇ、自爆かよ…。思わずの出来事に俺は混乱した。


「おいおい嘘だろ?なんでこんな冴えないやつに負けてんだよ!」


 取り巻きが狼狽えて叫ぶ。驚いているとこ悪いけどこいつ自爆だよ?負けたとかそういう問題じゃないよ?

 てかてめぇ、自分から来たくせに何唖然としてんだよ。自分の頬を無心に撫でている男に思わず心の中で突っ込んだ。

 まあこれはチャンスか?この勢いで言ったらちょうどいいかも。


「今の見てわかっただろ?とっとと荷物纏めて帰れ。警察は呼ばないでやるから。あっゴミ掃除も忘れずにな。しっかり見てるぞ。わかったな?」


「わ、わかった。だからもうやめてくれ……お前らも帰るぞ」


「あ、ああ。わかった」


 戦意喪失した男の言葉に困惑しながらも取り巻きたちは従った。というかそこまで自信あったのか?俺にやられて結構精神的にダメージ食らった感じか。

 頬を赤く染めて痛そうにしているが男はビクビクとしながらもせっせと帰り支度を始める。

 少しやりすぎたかなと思いながらもあいつらがしっかりと全て終わらせて帰るのを見届けた。

 最中取り巻き共が睨んでくることもあったが睨み返したらビクッとなってすぐに作業に戻っていたのを思わず苦笑いしてしまった。


「少しやり過ぎちゃったね智汐くん。一応私無傷だったんだよ?私のために怒ってくれてたみたいだけどね」


「あはは、正当防衛でも過剰に取られるかもしれませんね。まあ俺自身もやり過ぎだと思ってるので仕方が無いですよ。まあだから警察を呼ばないと言ったんですけどね。アイツらも自分が悪いことしてる自覚あるなら何もしないでしょうから」


「悪い子だね智汐くん。まあでもそれなら安心かな。あんな人達よりも君に何かある方が怖いしね」


「それにしても何も考えずに動かないで下さい。結構心配したんですよ?」


「悪いことしてたのあの人たちだし私が隠れる必要も無いでしょ?それに私の隣には翔八の弟の君が居るんだから何も考えてなかった訳じゃないよ」


 ふふっと美咲さんが笑う。

 本当にこの人は肝っ玉が座ってる。自分の心配なんて何一つせずに俺の心配をしてくれる。

 流石ヤンキー時代の兄貴を真正面からしばいて止めた人だ。確かあの時の兄貴って地元じゃ結構恐れられてたんだよな…


「ありがとうね。手伝ってくれて」


「そんな気にすることじゃないですよ……ところでなんですけど、俺達の目的は山菜採り。早く続きやらないと翔八に怒られますよ」


「あっそうだね。じゃあ早くやろっか!」

 

 美咲さんは笑顔を浮かべながらせっせと山菜を探し始めた。それを見て俺もまたすぐに動き始めるのだった。

 それから数時間、ハプニングはあったものの俺は3つ(ひとつは小さかった)自然薯を見つけ、美咲さんも色々な山菜を採取していた。

 そして少し休憩し、また探し出そうとしていると、俺は何か空気?と言えばいいのか、気配と言えばいいのか分からないが、何かが変化したことを察知した。


「…空気が変わった?」


 そんな風にしか表現出来ないけどなんなのだろうかこの感覚は?身に纏う空気が引っ付くような、なにか粘着質のようなものを得たような、そんな初めての感覚に戸惑うしか無かった。

 そんなことを思っていると回りが暗くなってくる…気がした。

 そんなおり、美咲さんが俺に声をかけてきた。


「智汐くん。雨降りそうだし、引き上げよっか」


 美咲さんの声に引かれて見ると美咲さんが空を見上げていた。それにつられて俺もまた上を見上げる

 木々の隙間から見える空は青く、雨雲などひとつも見当たらない。雨が降る気配など一切ない。

 なぜそんなことが分かるのか聞こうと思って美咲さんに視線を向ける。


「あはは?不思議かな。何故か分かっちゃうんだよ。わたし。…やっぱり信じられないかな?」


 不安そうに笑う美咲さん。そんな美咲さんになんて言えばいいのか咄嗟に出てくることは無かった。


「あはは、やっぱり不気味だよねこんなの。今のは忘れ…」


 残念そう、いや、悲しそうに言う美咲さんの言葉に被せて俺は美咲さんに言葉を返す。

 美咲さんそんな顔しないでください。俺は貴方にそんな顔して欲しくないです。


「そんなことないです!美咲さん疑うなんてしません。不気味だとも思いはしませんよ。俺はあの兄貴の弟ですよ?それに美咲さんはおれの……」


「おれの?」


 俺はその先に言おうとしたことを認識するとはっとなり、言葉を止める。その後の言葉は恥ずかしくて出てこなかった。美咲さんはキョトンとして俺の方を見ている。


「いや、やっぱりなんでもないです」


 やっぱり言うのは恥ずかしい。これは絶対に言わない。


「えー気になるよ!そんな途中で切るなんて…ほら今なら誰にも言わないから言って?」


 1番貴方に聞かれれると恥ずかしいから嫌なんだよ。絶対に言わないから。ダメです、そんな上目遣いしても絶対言いません。


「ほ、ほら僕は兄貴探してきますから美咲さんは先に車に戻って置いてください」

 

「えぇ、気になるのに」


「無理なものは無理なんです!」


 俺は少しだけ強く言葉を言った。流石に恥ずかしいのだから本当のことを言えるわけが無い。

 まあそんなことを考えていると突然土砂降りになった。

 パラパラと身体に雨が降ってきたと思って上に顔を向けると顔に大量の水がかかりダメージを受ける。鼻や目に入ったら結構痛かった。

 思わず咳き込むと美咲さんが優しく心配してくれたがすぐに大丈夫と言って誤魔化した。そんな必要もなかったが、強がりたかったんだ…かっこ悪い姿なんて見せたくないだろ?

 でもやっぱり思うのは…


「本当に降ってきたんだ」


 気付けば口から出ていた。やべっと思ってすぐに口を手で塞ぐがおそかった。既に美咲さんに聞こえていた。

 別に美咲さんを疑っている訳では無い。でもやっぱり予言のように言っていたものが実現したら驚くのは仕方がない。

 美咲さんが別に天気予報の知識を習っていたとかは聞いたことがない。どちらかと言うと製菓とかのお菓子作りとかのはず…それにそこまで空を観察していた様子もなかったからこれは本当なんだと信じられる。だから決して美咲さんを疑っていた訳では無い!

 深く考え込んでいると心配そうに美咲さんが行ってきた。


「やっぱり怖い?」


 悲しそうに俺にそう言う美咲さんに罪悪感を抱く。俺は貴方にそんな顔をさせたかった訳じゃないのに…

 いたたまれなくなって俺はそれをすぐに否定した。

 

「そんな事言わないでください。ここからなら車に近いですから早く行ってください。俺は兄貴を探してきますから!」


「あっちょっとまっ!」


 申し訳なくてその場にいるのか気まずくなった俺は兄貴を言い訳にした。

 美咲さんの制止する声も聞かずに俺はそのまま兄貴が向かった方へと走り出した。

 しかし次の瞬間、大地が揺れて俺の足は止まってしまう。

 地震、そう直ぐに判断できた。


「智汐くん危ない!」


 立ち止まり倒れないように踏ん張る。そこまで強いものではなかったしどうに耐えられた。揺れもすぐに収まり、安心していると、すぐ美咲さんの切羽詰まった声が耳に届いた。

 慌てて振り向く。

 俺の目には焦る美咲さん、

 美咲さんの目線は俺に向いていなかった。なんだ?と思ってその目線の先を探す。

 揺れる大地。彼女の目線の先にあった物を視認すると黒い物体の情報が伝わる。俺自身何が起きてるか分からずに混乱する。

 次の瞬間、俺の意識は暗転し、それから先の記憶は俺にない。

 ただ強く印象に残っていたのは俺の方に必死に手を伸ばす美咲さんの鬼気迫る顔だけだった。

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