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「初めてだな、ミゴの方からフレンド登録申請なんて」
「ねぇー!私なんていっぱい話かけてよーやくしてくれたのに!」
「え、そうなんですか?」
確かに少しお硬い感じの人な印象は受けましたけど、彼女と親しそうな2人の様子から見るにそうなんでしょう。だったらどうして?私なんて本当に今日始めたばかりのプレイヤーなのに。
「最初に言っておきますと、ユズさんには申し訳ありませんが打算ありきでの申請ではあります。個人的な事情で『勘を育てる』訓練をしていまして。初日から何か特別な事を引き寄せる貴方の事とは接点を持っておくべきだと判断しました」
「“先生”からの指示か?」
「そういう事です。ユズさんに説明しますと、先生とは私の指揮官としての師匠であり、私達の所属するクランのトップの事です。一般的には組合長と呼ばれる事が多いかもしれません」
組合長…………?何処かで聞いた事ある様な気がします。しかも義兄さんの口から。
「私たち、生産組組合ってグループの一員なんだよー。私とデビちゃんは生産部で、フラミゴちゃんは戦闘部隊の“幹部”だから全然違うんだけどねー。フラミゴちゃんはすごいんだよ!2×Hのプロデューサーもしてるし、ヒーラーの取りまとめに1人でもあるんだから!」
「…………百さんとデビさんも幹部扱いでしょうに」
「生産組、組合…………生産組組合!?」
わっ、わっ、この人たちすごい人です。
確か義兄さんが言っていました。街で生産組組合に睨まれる様な事をしない方がいいと。
私は詳しくないのですが、ALLFOでは実際にモンスター達と戦う『戦闘』組と、剣や鎧などを作る『生産』組がハッキリと分かれているそうです。なので生産に従事するプレイヤーさんにそっぽを浮かれると装備も強くできないし強い薬も買えなくてなかなか強くなれなくなってしまうとか。色んなゲームの中でもプレイヤーが生産に於いて占めているウェイトがかなり重いゲームだそうです。生産だけで別のゲームみたいなもんだ、などと義兄さんは言っていました。
そして、その日本サーバー所属の生産担当系プレイヤーの大部分を取りまとめているのが『生産組組合』という非常に大きな組織なんだそうです。義兄さんはかなり要点を絞って色々と教えてくれましたけど、わざわざ生産組組合の話を出したという事は重要な話という事です。この生産組組合は今や世界のサーバー全体でも生産に関しては間違いなくトップを独走している組織であり、日本のトップ組織とも聞きました。それと、『アサイラム』という悪い組織を倒す事を目的としているいい組織だとも。
――――――――構成人数は膨大で、その中でも組織の方針に口を出せるプレイヤーはほんの一部。特に幹部と呼ばれるプレイヤーは高い能力を持っているプレイヤーばかりだな。と言っても柚木が接触する事はまずないと思うけど。
義兄さんはそう言っていたのですが、非常に珍しい事に義兄さんの言葉は誤りです!初めて1日目で遭遇しました!?わーー、えっと、でもその凄さが実は実感できていません。
でも言われてみれば、百さんは普通のプレイヤーではないのはわかります。ちょっと目を遠くにやれば他にも農場らしきものが目に入るのですが、百さんの農場だけサイズも広大ですし完全に魔境です。未知のジャングルです。何をどうしたらこうなってしまうのか。ゲーム慣れしてない私でも普通ではない事がわかります。
生産組組合が日本のトップ組織なのだから、その組織の中核であるメンバーは当然そのまま日本のトッププレイヤー層とも言い換えることができます。
ミゴさんへの視線が多いのはミゴさんが有名なプレイヤーだからでしょうか?けど実際に話かけてくるプレイヤーはいないみたいですね。
私が道の方に目を向けると、何かを察したのかデビさんが笑いました。
「そうなると結構有名人なのに声かけられないなって思ったか?」
「あ、えっと、はい」
私、考えてる事が顔に出過ぎなのでしょうか?ドキッとしました。
「それは……」
ミゴさんが何故か気まずそうに斜め下を向いて俯きます。余計にデビさんがニヤニヤしてます。
「フラミゴちゃん、ただただ声かけてくる人は片っ端からGMコールで通報してたから…………」
「まるで拳銃を突きつける様にな。わざとUI表示ONにしてGMコールに指を添えて『なんですか?』ってやるもんだからみんなビビっちまったんだ」
お、思ったよりミゴさんは気難しいみたいですね。けど綺麗な人っぽいし、それだけ声をかけられるが故に顔を隠しているのでしょうか。けどその割にはあまりに奇抜な格好な様な?
「まあそんなビビんなって。本当は優しいんだ。私達は幹部って言われても割と末端だからさ、結構アレコレ言ってくる奴がいっぱいいたんだ。窓口かボランティアか何かと勘違いしてんのか素材を寄越せとか意味わかんないこと言ってくる奴とか少なくない数いたんだよ。そうして困った事になった私達を助けるためにミゴは『自分達をNPCと同一視するのはやめろ!』って強気な態度で示した訳だな。ゲームだとしてもリアルと変わらないんだぞ!って。アレのおかげで前よりかは普通に街を歩ける様になった」
「ウチの農場に看板建てたのも、みんながスクショ撮るために立ち止まったり集合場所にしちゃって道が混雑しちゃったからなんだよね…………何回かその混雑で喧嘩も起きちゃったし。でもね、それをフラミゴちゃんが解決してくれたの!」
「別に、私は意味のわからない事を言われたり軽薄で中身のない話を聞くのが煩わしかっただけで…………」
百さんとデビさんから称賛されると、ミゴさんは恥ずかしそうに顔を背けます。凛とした印象がありましたけど、意外と可愛らしい人なのかもしれません。
なんだかタイプの違う3人ですけど、この3人が仲良いのは伝わってきました。考え方もテンポも違う3人だけど、上手くバランスが取れているのでしょう。
「声かけはハッキリとNO!って言っていいんだからね!毎回相手にしてるとそれだけで日が暮れちゃう!」
「私らの場合は有名税ってやつかもしれないけどな。自己解決が難しかったらGMコールに頼るのが基本的に1番早い」
「わかりました」
百さんも可愛らしい感じの人だし、かなり沢山ナンパをされたのかもしれません。声かけに対する意見にはとても強い実感がこもっていました。
「あ、そう言えば待ち合わせがあるとか言ってなかったっけ?」
「あ!?」
MMOはどんな人と出会えるかも大きな醍醐味。義兄さんはそう言っていましたが、確かにそうかもしれません。年齢も住んでる地域も超えて接点が持てるというというのは凄いことです。
思わぬ良き出会いに思わず話し込んでしまいましたが、そこで出し抜けに百さんから指摘が。大変です!現在地がよくわかりませんが待ち合わせまであと15分しかありません!
「教会前広場でしょ?だったらここから真っ直ぐ行って突き当たり右に曲がればでっかい屋根が見えるから大丈夫だよ。あっ、私もフレンド申請しておくね!」
「歩いて10分もあれば…………いや、今日は混んでるから15分もあればいけるな。これも何かの縁だ。私もフレンド申請しておこう。それとお近づきの印に」
そういうと、デビさんはインベントリから何かを取り出して渡してくれました。とても綺麗な指輪です。
「私の専門はアクセサリー系でな。完全受注しか今はやってないが、それは初心者向けのアクセサリーの実験で作ったものの1つだ。それなら初心者がつけていても問題ない代物だろう。いつかお得意様の1人になってくれれば幸いだ」
「あーー!?ズルいよデビちゃん!だったら私も、はい、これ!」
百さんが渡してくれたのは……こう…………危ないお薬を飲んだ時に見そうな…………えっと、たしか、サイケデリックというのでしょうか?色鮮やかだけどカラフルともまた違った妙に不安になる色彩のクッキーが沢山が入った半透明のぷよぷよした質感の袋でした。
「初期アイテムに戦闘糧食ってあるけど、あんなの食べちゃダメだからね!ほんっとーーーにまっずいから!」
「百ちゃんのクッキーは色は変だけど味だけは保証するから安心してくれ。というか初心者が食べるにはちょっとバフが多すぎるけどな」
「あ、えと、ありがとうございます!」
「私は特にあげられませんが、何か困った時はメッセージを送ってください。特にその卵に関しては」
「はい!お世話になりました!それではまた!」
急がないと!待ち合わせに遅れてしまいます!