表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

4:フレンド


「じゃあ卵出すね〜」

「えっ、ちょっと待っ」


 取引が成立すると私からちょっと離れた場所にホログラムの画面が現れました。


――――――――――――――――――

[取引成立]

販売者:?????

購入者:ユズ・イリオモテヤマネコ


支払い:40000MON

購入物:卵5個

――――――――――――――――――


 チーンという軽やかな音がした後、ジャラララと金属同士がぶつかる音と共に私の所持金が減っていく。この世界はゲームだけど、ALLFOのMONは仮想通貨みたいだからリアルでのお買い物と感覚的にはあまり変わらないのかも?

 それはいいんだけど、てっきり私がレバーを引くのかと思ったら女の子が自分でレバーを引きました。ガチャだから自分でできるのかと…………。


「どうしたの?こんなの誰がやっても一緒でしょ?下手にやって壊れたら困るし私がやるよ」


 せ、正論です……。何も言えません。

 女の子がローブの中から布袋を取り出してレバーの下に広げると、レバーを引いた後にガタガタ揺れていた樽の大きな蛇口から卵が五つ出てきました。


 2つは多分鶏の卵かな?サイズや白っぽい色から多分普段見ている卵と同じ。けど残り3つはちょっと違います。

 一つは形は鶏の卵。だけど赤い色で塗ってあります。なんででしょう?

 一つはガチョウの卵くらい大きな卵。昔お父さんが会社の取引先から貰ってきたから覚えています。割るのにドライバーとか使った気がしますね。けど色が不思議な色です。金色と白の中間?角度によっては透けて見えてそうな色味なんだけど、中身はよく見えない。というより、よくこのサイズの卵が入ってたなぁ。どう見ても蛇口の大きさより大きいのに。ずっと見てたはずなのに出てきた瞬間を見逃した?

 そして最後の1つは…………卵?これ卵なのでしょうか?真っ黒で金属光沢の様な光沢があって、卵型というより真球に近い形状。大きさは手のひらサイズだから一般的に想像できる卵サイズではあるんだけど、なんだか不思議。


「………………ふーん」


 しゃがみ込んで袋を覗き込んだ私と一緒に女の子も袋の中を覗き込んでいます。手の届く距離なのに相変わらずフードの中は暗くて顔は見えません。


「こ、これっていい結果なんですか?」

「それはおねーちゃんがどう取るかじゃない?」


 多分私の方が年上なのに……!完全に手玉に取られている……!

 なんとなく2つある白い卵はゲームに詳しくない私でも普通の卵だとわかります。卵が出る抽選でも白い玉って残念賞ですし。全部残念賞じゃないだけいいのかな。


「袋はサービスであげる。大事に使ってね。あ、ここから出る道はあっちだから」

「え?」


 女の子は袋を私の手に押し付け、私の斜め後ろを指差す。思わず私はそちらに振り向く。すると不思議な事に来た時に通ってきた道はもうなくて、代わりに噴水から見て右側の壁に道がありました。

 あれ?今私がいる場所が噴水で、それとお向かいの壁に私が来た道があって、ここに来た時には他に道なんてなかったのに。


「あの、この道、あれぇ?」


 一体何が起きたのかと女の子に聞こうと女の子の方を向いたら女の子は樽ごと居なくなっていました。


『じゃあね、変な物持ってるおねーちゃん』


 後ろから声が聞こえました。慌てて振り返る。けどやはり姿はありません。まるでキツネに摘まれた様に私は目をパチパチと瞬かせて身動きが取れなくなります。状況に脳が追きません。するとさっき連れてきた子猫がどうしたの?と言いたげに私の手を舐めてきてハッとしました。


「お、女の子いなくなちゃった」

『mi?』


 子猫は小首を傾げる。夢じゃないことは手に持っている袋と減った4万MONが教えてくれているけど、それでもなんだか化かされた様な気分。私はなんだかモヤモヤとも違うけどスッキリしない気持ちでいっぱいですが、卵が割れたら嫌だなという思いから袋をインベントリにいれました。これでひとまず安心です。とにかくここから出なくちゃ。


「バイバイ」

『miiii〜』


 可愛い子猫。お見送りする様に子猫は小道までついてきてくれました。頭をひと撫ですると、気持ちよさそうに目を細めている。思ったより人慣れしてるみたい。

 そして私は小道の方へ足を踏み出す。


「おっと!?」

「きゃっ!?ごめんなさい!」


 と思ったら人にぶつかってしまいました。

 あれ!?いつの間にか普通の道にいる!?少なくとも私以外にも人がいて、音が急に戻ってきた様に辺りが騒がしくなる。よ、良かった。卵をインベントリに入れておかなかったら割れていたかもしれません。


「あれ?君今どっからきた?」

「なになにどうしたん?」

「おっ、ねーちゃん可愛いじゃん。その装備見たことないけど初心者?」


 わっ、あっ、どうしよう。男の人たちに囲まれちゃった。えーっと、あーっと。


「1人なら俺らと組まない?魔法使いいなくってさぁ」

「かっこからして魔女っ子だよね?魔法使いでしょ?」


 人数は5人。大学生くらいかな。みんな剣とか槍とか持っています。顔は……日本人、かな?多分日本人。彼等の頭の上には逆三角形のアイコンが出ています。これって確かプレイヤーの証だっけ?


「あ、あの、私、友達と待ち合わせしてて……!」

「こらーーーーーーーーー!!」


 お誘いを断ろうとしていると、後ろから大きな声が聞こえて肩がビクッと跳ねた。

 後ろを振り返ると可愛らしい感じの女性がスコップを振り上げて凄い勢いでこっちに走ってきています。というか後ろにあるのは非常に大きな…………農場?なの?かな?なんか見たこともない植物が沢山生えた、植物園に栄養と水だけ与えて放置し続けたみたいな魔境が広がっています。本当に私何処から来たの?道どころか壁すらない?


「ここはナンパ、待ち合わせ禁止!ダメったらダメ!勧誘とかは広場でやってね!ここは私の農場なんだからね!看板にも書いておいたでしょ!」


「なんだよ……」

「別にナンパっつーわけじゃ」

「いいよ、いこーぜ」


 あぁ………なんか悪そうな人たちでは無かったんだけど、ごめんなさい…………。あっさり立ち去った辺り多分絶対悪い人達じゃないです……。

 あっ、確かに結構大きな看板があります。まるで幼稚園児のメッセージみたいな……ちょっとファンシーな看板です。


「どうしたの?迷子?」

「あ、えっと、そうなんです。変な道を通ってきて、気付いたらここに居て…………」

「…………?」


 男の人たちが立ち去ると、この魔境の主を名乗る女性が声をかけてきました。亜麻色の髪をセミロングにした髪型に、くりくりした桃色の目が可愛らしい人懐っこそうな感じの人です。混乱覚めぬ私は聞かれた事に対してすぐに答えるけど、これだけでは当然伝わるはずもなくスコップを持った女性は不思議そうに首を傾げます。

 なので私はもう少し詳しい話をしました。直感だけど、こんな大きな農園を持ってるってことは、この人はきっとALLFOを長くプレイしている人だと思ったからです。


 今日ALLFOを始めたこと。子猫を見つけた事。子猫を追いかけて変な小道に迷い込んだ事。子猫の隠れ家と不思議な少女。気付いたらここに居た話。

 義兄さんの話は省きましたが―――――――私の話を黙って聞いてくれた女性はウンウンと頷いていて、大きな声で言いました。


「卵詐欺だ!まだ居たんだ!?逆にレアだ!」

「卵、詐欺?」


 詐欺…………。えっ?


 私がポカンとしていると女性は説明してくれました。

 

 ————————時は遡る事半年以上前。まだプレイヤーの殆どが右も左もわからない迷走期と呼ばれていた時代に、遂にシナリオボス討伐イベントなるサーバー規模の大きなイベントがあった。詳しい話は省くけど、そのシナリオボスと呼ばれる特別なモンスターを倒すとポイントが貰えた。そしてイベントが終わるとそのポイントを教会が用意していた商品と交換する事が出来た。その交換品の中に『卵』があった。

 なぜ卵なのか。一切説明はない。ただ、調教師というモンスターを仲間として使役する人の使い魔は、自然にいるモンスターを手なづけるだけでなく卵から孵す事でも手に入ることは知られていた。そんな情報が広がり、少なくないプレイヤーがポイントを卵と交換した。

 けど実際に手に入った卵は本当にただの鶏の卵。それでもまだ何かあるはずだと頑張って孵したプレイヤーはひよこを見て途方に暮れたらしい。今この街にある大きな養鶏場の鶏の殆どがその時卵から孵ってプレイヤーが手放したひよこが育った物らしい。

 けど一部のプレイヤーは卵を孵させずに持っていて、それを少数のプレイヤーが買い集めた。そうしてこの様な文言で売ったらしい。この卵からはドラゴンの雛が生まれる事があるらしい、と。女性曰く真っ赤な嘘らしいけど、その人達はゲームをよく知らない初心者を捕まえては言葉巧みに横暴な額で卵を売りつけたらしい。そうした一連の流れを卵詐欺と呼んで今はプレイヤーの大半が知る詐欺となって殆どひっかかる人がいなくなり最近はめっきり見なくなったとの事。


 私が4万MONで卵を5つ買ったことを正直に告げたら女性は「あちゃーー」と言いたげな顔で天を見上げました。やっぱり卵5つで4万MONっておかしかったんですね…………。


「あ、今更だけど私、100fbって名前なんだ。みんなからは百ちゃんって呼ばれてるよ」


「あ、ご丁寧にどうも。私はユズ・イリオモテヤマネコと申します」


「あははは、いいよそんな硬くならなくてー。けど猫に会うなんてラッキーだね?このゲームだと猫ってちょっと特別扱いみたいなんだよ!」


「そうなんですか?」


「そうそう。猫連れてるとお店の人が割引してくれたりねー!」


 やっぱり百ちゃん……百さんはALLFOに詳しい人でした。聞けば最初期の抽選枠50万に当たったプレイヤーの1人、つまり初日組と呼ばれるプレイヤーの1人らしいです。わぁ……すごい。あれすごい倍率だったのに。

 思わず百さんの話を聞いていると、百さんを呼ぶ声が聞こえました。1人はちょっと勝気そうな小柄な女性。1人は…………すごい目立つ。周囲もその人に視線を向けているから私だけが変って感じているわけではないはず。

 格好は、えーっと、陰陽師の人が着ていそうな服です。あとでネットで調べたら狩衣というらしいですね。周囲が西洋ファンタジーテイストの中で完全に和です。ただ、それ以上に口から上を隠す奇妙な仮面が気になります。なんて言えばいいんでしょう。ピンクの渦巻みたいな。鮮やかな色のミミズを円を描く様に並べて敷き詰めたみたいなとても変な仮面をしている。…………何故だろう。昔義兄さんの部屋でこれと似た頭をしたヘンテコなフィギュアを見た気がします。宇宙人みたいな感じのフィギュアだった様な。


「百ちゃん何してんだ。そろそろ定例会だぞ」

 

「あ、デビちゃん。あのね、この子卵詐欺にあっちゃったみたいでね」

「卵詐欺ぃ?今時かぁ?」


「ほら、でも卵持ってるよ。5つで4万も取られたんだって!私も騙されかけたけど、こんな暴利聞いたことないよ!」

「はぁ!?」


 …………なんだかとても恥ずかしい。本当に5つで4万MONっておかしかったんですね。

 勝気そうな女性、デビちゃんと呼ばれた女性から見るに、とんでもない取引なんでしょう。推定デビちゃんは私を見て気の毒そうな顔をします。


「4万かぁ………。えっと、初心者か?」

「はい。今日始めたばっかで」

 

「ん?じゃあなんで4万なんて……ああ、紹介特典みたいなの貰ったのか」

「はい、その通りです」

 

 Devilmaskさんはかなり察しの良いタイプで、話がとんとん拍子で進みます。

 

「なら紹介したやつが注意してやらないと……って流石に今時卵詐欺の事なんか言わないか。その紹介した人はいないのか?」

「はい……一体何処にいるのかもわからなくて」

「なんじゃそりゃ」

 

 デビちゃん、デビさんは結構グイグイ聞いてくるけど、今はそれがちょっとありがたいです。話すのが得意というわけではないのでデビさんみたいに色々聞いてくれた方が私としては話し易いです。


 気になるのはデビさんと一緒に来た狩衣の人。綺麗な黒髪の長髪やスラリとした体格から女性なのは間違いないと思います。口元だけでも綺麗な人だとわかる雰囲気があります。仮面で目元は見えないけど、その女性がジッと私を観察している様に感じました。


「あの、一ついいですか?その卵を拝見させていただいても?」

「ど、どうぞ」


 紹介コード貰ったのに何処で何してるかわからないってどういうこと?とデビさんが食いついてきて、私は何処まで話していいのか困っていると、そこで助け舟を出す様に今まで私を観察していた陰陽師の女性が話しかけてきました。声だけでしっかりしてそうな雰囲気を感じます。

 これ幸いと狩衣の人の話に飛びついた私はインベントリから袋を取り出し、これを渡す。陰陽師の女性は袋の中を覗き、卵を手に取り、何か思案する様な表情を少しして次いで私を再び見つめました。


「百ファンさん、DevilMaskさん、これ恐らく卵詐欺では無いですよ。二度手間かもしれないですが、もう一度最初からこの卵を手に入れた経緯を聞いてもいいですか?」

「いいですよ。まず私はログインして――――」


 私は百さんにした話をもう一度しました。2度目だったし最初よりは格段に整理してわかりやすく伝えられたと思います。


「――――その卵売りは何かしらの特殊なNPCでしょうね。トリガーが子猫の保護というのも何か意味がありそうです。無いはずの小道。気付いたらここに居た。普通ではあり得ません。この卵も2つは本当に普通の鶏の卵だと思いますけど、他3つは孵してみないとわかりませんね」


 なんだかこの人は凄くALLFOに詳しそうです。不思議な格好して目立つけど、その奇抜な格好が許されるだけの人なのかな?よく見ればこっちを見るプレイヤーは彼女を見て時たま驚いた様な顔をしている様な。


「申し遅れました。私はフラ≠ミゴと申します。貴重な情報を頂いた代わりと言っては少々傲慢な提案かもしれないですけど、良ければフレンド登録しませんか?ユズさん」

「あ、私で良いのなら…………」


 これが私が今後ずっとお世話になるフラ≠ミゴさんとの出会いでした。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] フラミゴネキェ! [一言] 数少ないノート特効持ってるから勇者ポジになれそう
[良い点] 百ちゃんは圧倒的某フロンティア感ありますねぇ……! [一言] 『街』サイドだからって一般プレイヤーとは限らないんだよなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ