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18:ペット


「こんばんは。君が…………ユズちゃん、かな?」


「あ、こ、こんばんは」


 私達の前に人影が止まり、私は慌てて顔を上げて立ち上がります。   

 目の前に立つのは白いフードを深くかぶった女性。すっぽりと頭からかぶっているので性別すらもわからないけれど、声で女性というのはわかります。声に聞き覚えはないけど、話し方は私の知る人です。


「えっと、こちらではなんてお呼びすれば。あ、えっと、隣に座ってるのが私の友達で!」


「ユズちゃん、ちょっと落ち着いて」

「そうだよ~。挨拶くらい自分でするよぉ。こんばんは、ユズちゃんの友達のトマ党ともうします」

「こんばんは。ユズさんの職場で先輩してるクーシェン・ツォウと申します。クーシェンって呼んでね」

「ご丁寧にどうも~クーシェンさん。ユズちゃんがいつもにお世話になってます~」

「あははは。お世話してます」   


「ちょ、ちょっと、やめてください。はずかしいです」  

  

 知り合い同士が私のことを話しているのを目の前で聞くのはなんだか気恥ずかしくて、急に顔が熱くなります。声こそ違いますが、間違いありません。この方は鶴喰先輩ですね。


「リアルよりちょっと声低めにしてるんだ。あとこんな格好なのはちょっと理由があるだけど、あとでね」


 黒尽くめでしたら怪しい事この上ないですが、今の先輩は白尽くめって感じですね。ローブの下からのぞくブーツも白を基調としています。ただ、先輩のイメージとは異なる感じです。先輩はもっと自信にあふれていて、顔を隠すような人だと思っていたので。

 ただ、辺りを少し見渡せば同じようにローブをすっぽりかぶった人はチラホラいる。顔がほぼ現実のものと同じなので顔を隠したい人が多いのかもしれません。今思えば、ミゴさんが仮面で顔を隠していたのも、その為なのかもしれません。


「色々話したいことはあるけど、まずは私の知り合いのところへ案内するよ」 

「はい。お願いします」


 とりあえず、合流出来て良かったです。これで卵のことももう少しわかればいいのですが。





「へー、そうなんだ。それは良い事聞いちゃった」

「えへへへ、わたしも職場のユズちゃんのようすをきけて楽しいですー」

「もう、2人とも…………」


 私の好きな人達同士が仲の良いことはとてもいい事なのですが、予想よりも話が盛り上がっているといいますか、その話題のチョイスが私の事ばかりなのでとても恥ずかしいです。2人の共通項が今のところ私しかないので仕方のない事ではあるのですが…………。


 先輩の歩きには澱みがなく、人があまり通らない様な小道もなんどか通っています。この辺はかなり慣れているといった感じでしょうか。

      

「これからちょっと外出るよ」

「外?」

「ギルドの出している乗合馬車に乗ってナショナルシティに行くんだよ」


 ナショナルシティ。確か真ん中の『街』でしたでしょうか。 

 今、私が居る場所は『ファストシティ』です。日本サーバーには12の街がありまして、丸時計の様に街が円形に配置されています。そしてその真ん中にあるのが『ナショナルシティ』です。ナショナルシティというのは国ごとの中心となる街で、ここには他国のサーバーに移動するための『転移門』があるそうです。

 生産組組合があるのも、日本のナショナルシティだとか。


 ナショナルシティは他の街と違ってNPCの数が少ない代わりに、他の街にはないような施設やギルドが多く、プレイヤー主体の街という顔が強いようですね。


「実は街同士の移動も転移門で移動はできるんだけど、初めて行く街は自分の足で訪れないといけないからね。今日は付き合うよ」

「お、お手数おかけします」


 先輩の案内でギルドの出している馬車に乗った私達は、日本サーバーの中心であるナショナルシティに向かいます。ナショナルシティは他の街に比べてもかなり大きいみたいですね。馬車に乗っているのも私達と同じ初心者っぽい感じの人が多いような気がしますね。私も含めておのぼりさんみたいにキョロキョロと落ち着かない感じです。


「前はここ徒歩で移動したり、テイマーの使い魔にのって移動してたんだよね。便利になったなぁ」


 そこそこ距離がありますが、これを徒歩でなるとちょっとした冒険ですね。馬車の周りには護衛をするプレイヤーも居て、チラホラと寄ってくる魔物達を退治しているのが見えます。


「戦闘って、手伝った方がいいのでしょうか?」


「ん~、あんまり手を出さない方がいいよ。彼らもボランティアじゃなくて、ちゃんとクエストを受けてやってるからね。こんな護衛系のクエストは信頼度が高くないと発行されない割に拘束時間が長かったりと手間な面が多いけれど、その代わりにギルドの評価は高くなりやすいし、評価に応じてリターンも大きく上がりやすい。その評価に関わるから求めらない限り助力は控えた方がいいよ」


「出来るからと言って、人の仕事に勝手に手を出すのは良くないってことですね~」


 護衛を行っている方たちはしっかりとしたチームワークがあり、魔物を危なげなく倒しています。気になるのは、大半の人が馬っぽい生物に跨っている事ですね。どこかで飼育しているのでしょうか?いえ、どちらかと言えば生物に跨らず、走って馬車に追従できている人たちのスタミナもかなり気になるのですが。


「あれは『I・ペット』ってものだね。私も使えるよ」


「『I・ペット』?」


 聞くに、プレイヤーは一人につき一匹、好きなペットを製作できるみたいです。ただし、そのペットを作るには一つ条件があるようです。それは第一章シナリオボスを自力で倒すこと。そのボスを倒すことで『I・ペット』機能が解放されるみたいです。他にも今までのシナリオボスを倒すことで、プレイヤーの使える機能が色々と増えるとか。いつかは私も、強い敵と戦う必要があるみたいですね。


「猫みたいなペットとかも作れるんですか~?あ、グリフォンみたいな強いペットとかもいいなぁ」


「うん。作れるには作れるけど、猫はあんまりおススメはしないかなぁ。あとグリフォンも作れるには作れるだろうけど、難しいと思うし、思ったようなメリットは得られないよ。ペットって基本的にプレイヤーの移動を手助けする為のもので、結構脆いんだよね。戦闘にはほとんど使えないの。勿論、それは大半の意見というだけで、猫を作って本当にペットの様に扱っている人もいるけどね。それに、どんな形状にしてもペットのインベントリ機能はついているし」


「インベントリって、私達が使える?」


「そうそう。ペットはある種、プレイヤーの拡張インベントリみたいな側面もあるんだ。だから強くなったらシナリオボスは早めに倒しておいた方がいいよ。非戦闘系プレイヤーですら、シナリオボスは必ず倒すように勧められているからね」


 義兄さんから話を聞いた時ですら覚えることが多くて大変だと思ったのですが、今思うとかなり重要な情報だけに絞ってくれていたのだと今はわかります。また覚えることが増えてしまいました。


 その後も私達は先輩のアドバイスなどをメモしながら、のんびりとナショナルシティに向かいました。


 

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