17:サイケデリック
「どうしたの~?」
「鑑定をお願いしていた先輩からメールが着まして」
「ほうほう?」
メールによれば、鑑定を依頼しようとしていた知り合いにも話がついてたので今晩会えないか、という話でした。
「じゃあ会いに行こうよー」
「私の要件だけど、いいんですか?」
「水臭いなー。ユズちゃんとわたしの仲だよー?それにわたしも卵は気になるからねー」
「ありがとうございます」
トマちゃんがOKを出してくれたので、先輩に………ってALLFOの中では返信ができないんでしたね。えっと、こうなると一時ログアウトするしかない?
仕方がないので一度ベンチに座り、私はログアウトします。肉体を放置するのはちょっと怖いですが、トマちゃんがいるので安心です。えっと、完全にログアウトしなくても、ログイン/アウト用の移行用空間に移動すれば返信はできるみたいですね。
私はUIを操作しメールに返信。合流できる旨と、自分の一時合流コードを記して再度ログインしました。仮ログアウトなので戻るのが速いですね。
「よし、それじゃまってよーか」
「そうですね」
街の中にいるならそのまま待っててくれれば先輩の方から迎えに行く、とのことなので私達は先輩のコードを入力してそのままギルド広場で待つことにしました。
「どこもかしこも、人が多いですね」
「初心者用エリアだからじゃないかなぁ?学祭を思い出すよねぇ」
「そうですね。大学の学祭もこんな感じでしたね」
ALLFO時間で20分はかからないとのことでしたが、先輩はどこからこちらに向かっているのでしょうか。
ただボーっとするのも悪くない時間ですね。
「そういえばさー、掲示板ってみたことあるー?」
「掲示板?…………ああ、はい。ありますよ」
「あれ?意外だ」
「先輩と話した時に話の流れで少し」
確かアレは職業に関してのお話しでしたね。
ALLFOには専用の電子掲示板があって、非常に沢山のスレッドがあるそうです。このスレッドというのは掲示板の単位ですね。話題1つにつき1つスレッドがあり、そこで皆で話すようです。SNSで言えばルームの様なものですね。
そして自分でルーム、つまりスレッドを作る事を、スレッドを建てる、と言うそうです。
「掲示板みてみない?」
「いいですね。どんなスレッドを見ますか?」
「んーなにがいいかな?」
2人でメニューから掲示板をタップ。するとずらりとリストが表示され、ソートや検索のUIなども出現します。今ホーム画面で見えているのは閲覧者の多いスレッドですね。アメリカの騒動に関して、というスレッドがかなり多いような?
アメリカと言えば今朝何か聞いたような気がします。確か、アサイラムがなんとかって。今朝の人の多さもそれによるものとか。
それ以外だと全体的に雑談系のスレッドが伸びていますね。というより雑談が圧倒的に多いです。
「あ、見てみて、これおもしろそう」
トマちゃんが見つけたのはバレンタインイベントに関するスレッドでした。バレンタインイベント?そういえば、MMOだと季節ごとにイベントがあるそうですね。
スレッドを開いてみると、生産に関する書き込みが多いですね。バレンタインイベントは贈答などがメインになりそうなので、チョコや花束、アクセサリーを今の内から作るのが生産系プレイヤーのトレンド、と。チョコ、作れるんですね。カカオパウダーがあるんでしょうか?
読んでみると、カカオは海外で発見されているそうですね。とある植物の種を『下位化錬金』すると手に入る、と。下位化錬金?知らない用語です。
それ以外にも代用品は幾つも見つかっているようですね。料理に関する書き込みは料理好きがちょっと書き込んでいるというよりは、もっと職人的な方たちが集まって話あっている印象を受けます。時たま掲載される試作品と思われるチョコ菓子のスクリーンショットがいいですね。
「アクセサリーも手が込んでいますね」
「そうだねー。リアルでも凄い値段しそうだよー」
戦闘の為の補正が付くアクセサリーは丈夫さを優先した武骨な感じですが、イベント用のアクセサリーは丈夫さではなく芸術性が求められるのだろうという予測でかなり華美なデザインをしているようです。
ひと際目を引いたのは、ピンク色の宝石を花形にカットしたモノを使ったシンプルなネックレスですね。よく見たら知り合いの方でした。
Devilmask……デビさん、アクセサリーが専門というのは間違いないようですね。他の方のスクリーンショットと見比べても別格な気がします。しかも、恐らくこれはまだ試作品なのでしょう。完成品への期待が高まります。
そう言えば、デビさんからは指輪を頂いていました。あの時のお礼を改めてフレンドチャットでしておかなければ。まだ食べてはいませんが、お菓子のお礼もしましょう。
チャットでお礼をした後、昨日インベントリにしまった指輪を取り出します。
「なぁに?それ?」
「昨日知り合った方からいただいた指輪です。このスレの、Devilmaskという名前のプレイヤーですね」
「この花の形のカットの宝石がついたネックレスの?」
「そうです」
「へー、見して見してー」
ベースはシルバーですね。少し幅広でリングにひし形のカットを施したカットリングで、小さな宝石が幾つも付いています。シンプルで綺麗で、ゴテゴテギラギラしてない感じが私は好きです。
よく見ると、内側の方には魔法使いの帽子と杖を象った様なマークも付いています。それと、デビさんのサインらしきものも彫り込まれていますね。一見すると模様のようで指輪の美しさを損なわないように気を使っているのがわかります。初心者でも付けられる実験的な作品との事ですが、それにしてはかなり手が込んでいるような………。
「いいねぇ。かわいいねー。付けてみたら?」
「そうですね」
貰ったものを付けないのも失礼ですし、付けてみましょう。サイズは…………中指がいいですかね?左手中指に付けてみると、スッとフィットするような感覚がありました。これはもともとのサイズが奇跡的にピッタリだったというよりは、自動で調整されたような感じがします。
同時にピコンと音が聞こえました。
これは?メニューを見てみると指輪に付いていた効果が反映されたようです。精神安定、スタミナ回復速度強化、感覚補整………ゲームに詳しくはないですが、強い事しか書いてない様な気がします。
「なにか、身不相応のものを頂いてしまったような…………」
「お礼沢山いわなきゃねぇ。それと使ってみて感想を詳しく伝えるのも、お礼代わりになるんじゃないかなぁ?」
「そうですね。そうします」
折角のご厚意を突き返すよりは、しっかりと実のある感謝を述べることがの方がデビさんのような方は喜んで下さる気がしますからね。
「そういえばクッキーも貰ったとか言ってたよね?」
「はい、これなんですけど」
「わぁ」
料理を見た反応が、語尾の音が上がる「わー!」という感じではなく、逆に音がしりすぼみになる「わぁ」という反応。トマちゃんの反応としてはとても珍しい感じの反応です。
「とても、不思議な色………だね」
「はい………」
何度見ても、サイケデリックと形容するしかない色合い。食いしん坊、とまでは言いませんが、基本的になんでも食べるトマちゃんが、特に好きなお菓子を前にしてこの反応からして、相当なのでしょう。
「これは……逆にどうやって作ったんだろね………?ワザとやろうとしても難しい気がする…………」
「そうですよね」
果たして本当に食べていいのでしょうか。
トマちゃんと顔を見合わせているとこちらに向かって走ってくるような音が聞こえました。
わぁ⤵︎




