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12/18

12:探検


 仕事を終えた私は、また一駅分歩いて帰ります。座りっぱなしの仕事なので歩くことは大事です。

 面白いことですが、第七世代が発売されてからはむしろ運動している人を外で多く見かけるようになった気がします。運動ノルマによって皆が意識的に運動するようになっているみたいですね。


 帰りの電車に乗られている間、私は義兄さんに例の卵の事についてメッセージで相談してみました。義兄さんには全てを包み隠さず、私が思い出せる限り詳しく。義兄さんは仕事柄いつお仕事をしているかわからないので電話を掛けにくいのです。なのでメッセージでのやり取りになります。

 前はメッセージでも送るのに勇気が必要だったのですが、ALLFOの事だと少し話やすい気がします。今回は先輩を参考にして、ALLFOのステータスも義兄さんに送付してみました。


 暫くすると義兄さんから返信が着ました。

 音声入力でメッセージを作成したのでしょう。書き言葉と言うより話し言葉の文章です。


「(リアルで連絡とれて信頼をおける人なら、依頼してみるのも一つの手。確かにそうですね)」 

 

 義兄さんからのメッセージはかなり長かったです。

 卵に纏わる話と考察。例のNPCについての話。鑑定の話。生産組組合の話。幹部の話。更には『街』の中の地図のデータもALLFOの中に取り込む手順もご丁寧に添えて添付してありました。

 凡そ私が聞きたい事全てに詳しい説明がありました。昔から義兄さんは人の心を読むことに長けていて、私が言葉に詰まると優しく続きを引き出してくれていました。やはり頼りになります。

 義兄さん曰く、私が接触した幹部はそこそこ信頼がおける、との事でした。知り合いなのでしょうか?義兄さんも初日組と聞いていますし、何かしらで接点があっても不思議ではないのでしょうか?

 

 そんな義兄さんでも私が最初に貰った特典アイテムについてはよくわからないそうです。卵以上に慎重に、下手に鑑定するのは絶対にやめてた方がいいとかなり強めの忠告が記載されていました。見た目からしてちょっと怖い感じのアイテムだったので私もそれには同意です。


 私は鶴喰先輩に鑑定を依頼する旨を記したメッセージを送付。

 駅から歩いて家に到着。夕食など一通りの事を済ませます。


 普段はこの後はのんびりと本を読んだりするのですが、今日はトマちゃんと待ち合わせがあるのでログインします。


 



 ログインするとまた最初にログインした時の待機部屋で目を覚ましました。

 これはログインするたびに起きる処理のようですね。脳の感覚とアバターの感覚を合致させる処理が行われているのですが、その待ち時間の間にここで運営からお知らせを見ることができたり、課金してアイテムを購入する事も出来るようです。

 独りぼっち。サポートAIさんは居ないみたいですね。


 準備が整ったという通知が来たので私は二段階目のログインをします。  

 目を覚ますと、そこは今朝ログアウトする時に横たわった宿の簡易ベッドの上。今朝は横でトマちゃんも寝ころんでいてログアウトしていたはずなのですが…………。ふと影に気づき視線を横に目を向けると間近で目が合いました。


「きゃ!?な、んんッ、トマちゃん、ビックリしました……」

「おはよー。あれ?こんばんは?」

「どっちなんでしょう。外は少し明るくなってきているような?」


 目が合ったのはトマちゃんでした。トマちゃんが至近距離で私のアバターの顔をジーッと見ていたのです。トマちゃんとは何度か一緒に旅行をしたこともあるのですが、そのたびにいつもこうして寝顔を見つめられていたような気がします。トマちゃん曰く、癖らしいです。

 身体を起こして窓から外を見れば、暗くはありますが、薄っすら明るくなりつつあるような?ALLFO時間がリアルに対して約2.2倍速で進むのでちょうど朝に差し掛かっている感じでしょうか。


「これからどーする?」

「ナツ……テルちゃんはまだ居ないんですよね」


 辺りを見ると、今朝ログインした時に居た人たちが相変わらずベッドで寝ていました。いえ、数人減っているような?寝ている人達にはログアウト中を示すマーカーが出ています。この人たちがテルちゃんのパーティーメンバーなんでしょう。今寝ているのは人数にしてテルちゃん含めて5人ですね。

 メッセージを確認してみましたが、鶴喰先輩から返信が着ていました。今日はジムで運動してから帰るから、これから会うにしてもちょっと待ってほしい、と。

 

「『街』の中の見学でもしてみますか?殆ど見てまわれてないですし」

「おー、いいねー」

「あ、ちょっと待ってください。そう言えば頼まれてい事が………」

「ん?」

 

 義兄さんのメッセージの中には、もう一度今朝迷い込んだ路地に行くのはどうか、という提案がありました。確かに、今朝見た時は元気でしたけれど、子猫は母猫に合えていなかったみたいですし、様子を見に行きたいですね。


「あの、今朝メッセージで話した猫のことで」

「ああ、あれねー。猫いいよねー」


 今朝はドタバタしていて話す時間がなかったのでトマちゃんには合流までに起きた事をメッセージで軽く伝えておきましたが、トマちゃんは軽い反応です。   

 

「街を探索する傍ら、例の路地に行ってみたいと思うんです」

「いいね!わたしも猫に会ってみたいよ!」

「道があるかどうかはわからないんですけどね」

「あー……ユズちゃん…………」


 トマちゃんが凄く生暖かい目で私を見ています。私の方向音痴さは家族を除けば一番の被害者はトマちゃんかもしれないので私としても申し訳なくなります。方向音痴に加えて道を覚えるのも凄く苦手なんですよね。観光地に行くと、私はいつの間にか迷っているし、トマちゃんは興味があるものを見つけると立ち止まっちゃうしで、毎回1度以上は2人で迷子になるんです。


「だ、大丈夫ですよ。大体の道は流石に覚えてます。教会から辿ればいいんですから」

「辿らなくても地図みたらいいと思う気がするなー」


 そういうとトマちゃんはメニュー画面を操作し画像データを表示しました。私が義兄さんからもらった地図のデータと同じようです。どうやらこの地図は生産組組合が製作し無料で公開している地図のようで定期的に更新をされるそうです。

 

「今朝最初に目を覚ました場所が都市のど真ん中のこの大教会でしょ~?そこから出ると凄い大きな広場があるでしょー。ここからどっちに歩いたの?」


「えーっと、人の流れにそってとりあえず歩いたんです。た、たぶん、右に向かったような………」

「右に………」


 大教会前の大広場は円形に広がっていて、その外周を基本的に人は移動します。恐らく私はここを出て右に曲がったような。画面を見える状態にしたトマちゃんが地図の道を指でなぞる。


「それから、どの道に入ったの?」


 大広間に面する太い道は右側だけも幾つもあります。その中のどれに入ったのか。

 思い出そうとする私の顔を見てトマちゃんはフッと笑いました。


「やっぱり一から追った方がよさそう?」

「ご、ごめんなさい………」

「あやまることはないさー。覚えるつもりで歩いていたわけじゃないしね」


 たぶん、相当しかめっ面になっていたのでしょうか。やれやれ困ったぜーと肩をすくめて立ち上がったトマちゃんと共に私は宿を出ました。

 因みにカウンターには『宿番睡眠中。緊急時以外起こすな』と荒々しい文字で書かれた立て板と共に少し錆びたベルが置いてありました。あのおばちゃんを起こしたら怖そうなので静かに外に出ます。

 

 トマちゃんは今朝の反省を生かしたのか今は鎧を着ていません。そうですよね。今朝人ごみの中で凄い動きづらそうでしたもんね。トマちゃんに手を引かれてわざわざ大教会前まで行き、私は今朝の道順をなんとか思い出そうとします。けど、今朝より人の量が減っているので全てが別の道に見えてきます。

 人ごみの中だと周りの道なんて良く見えてなかったので余計に道が思い出せません。


「見つからなかったときは仕方ないし、とりあえずどこか歩いてみようよ。探検もしたいし」

「そうですね。そうします」


 私達は右側の外周路に面した道の中で一番人通りが多くて太い道を進みます。     


「えっと、確か、最初に子猫に会った時は右に薄暗くて小さな脇道があったんです」

「あれとか?」 

「いえ、もっと細くて、人一人通れる程度の細い道だった気がします」   


 トマちゃんが指さした先には確かに脇道がありましたが、普通に人通りのある道で、車一台なら余裕をもって通れる程度の大きさです。道を覚えるのは苦手ですが流石にこれではない気がします。

 私達は周囲の人に謝りながら通路の一番右によって壁伝いを進みました。



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― 新着の感想 ―
[一言] >>凡そ私が聞きたい事全てに詳しい説明がありました。昔から義兄さんは人の心を読むことに長けていて、私が言葉に詰まると優しく続きを引き出してくれていました。 やっぱり、面倒見がいいな >…
[一言] なるほど義兄さんはこうして関わってくるんですね。
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