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11:副職業



「今送ったのは私のALLFOでのステータス画面だね。柚木ちゃんを信頼してみせているから悪用はしないでおくれよ。注目すべきは職業スロットだね。戦闘に関わる職業をセットできる主職業が3つ、生産に関わる職業をセットできる副職業が1つ。これがALLFOの基本だ。そして先ほど話題に上がった鑑定師は副職業の枠に属す生産型職業だ。では、柚木ちゃんが今からALLFOを始めるとして、ここで『鑑定師』を最初に副職業をセットしよう。さてあとはどうなる?」


 副職業が決まっているなら、主職業を決めるだけ。3つ埋めずに1つ残すのがセオリーを聞いている。実際私もそうしました。戦闘型職業2つ、それと鑑定師。

 戦闘職は確か、街の外に出て、魔物を狩って、その魔物から入手できる『ドロップ品』というものを買い取ってもらい、お金(MON)をもらう。そうしたらそのお金で食料やポーションを補充して、お金に余裕ができてきたら新しい装備をお店で買ったり、貴重なドロップ品は貯めておいて鍛冶師などにドロップ品を使った装備の作成を依頼する事になる。そうして強くなったらもっと強い敵に挑む。敵が強くなればドロップ品の買い取り額も増加するので、もっといいペースで稼げるようになる。

 これの繰り返しが戦闘職の基本だとサポートAIのネフォリャさんは言っていました。


 けどこのサイクルの途中で『ドロップ品を売る前に鑑定すると買い取り額が上がる』というのが先ほどの話でした。最初は鑑定料を支払って鑑定してもらっても赤字か収支±0だそうですが、慣れてくれば黒字になってくるので少し長期で見ると鑑定をしてから売却する方にメリットが発生します。もしドロップ品の状態が良ければ新しい装備を作る時に使えるかもしれないですし、それを知らないまま売却するのは非常に勿体ない事です。

 やはり戦闘職が鑑定師を選択するメリットはあるような?

 

 あ、でも鑑定の精度で更に買い取り額が変動するから、大器晩成型の鑑定師で、NPCのギルド職員の精度の高さで鑑定をできるようになるにはかなりの数を鑑定を繰り返す必要があるのかもしれません。

 職員さんは仕事なのでずっと鑑定をしていますが、戦闘職を基本とする人は戦闘の傍らなので試行回数も大して稼げないし、鑑定した対象のバラエティーも自分の活動範囲に依存するので成長性が悪い。


 そうなると、鑑定師を効率よく鍛えたいなら、自分で一々戦闘するよりも周囲からの依頼を受け手専業した方が効率が良いですね。けど自分の活動圏外で得られる物を鑑定させてもらうには自分より強い人に頼むしかない。しかし強い人は精度の低い鑑定師にわざわざ鑑定を依頼するメリットがない。かと言ってタダで鑑定をさせてください、と頼んでも鑑定自体にも情報と言う価値があるという話がありました。無料でさせてくれる人はいないでしょう。むしろ鑑定する側がお金を払う必要が出てくるかもしれません。

 けれどそれだと鑑定が成長するまではずっと赤字…………。


「あれ?鑑定師って難しいですね?」


「そうなんだよね。本当は鍛冶師や錬金術師など生産職が持つべき技能なんだけど、生産職に関する職業スロットは一つしかない。だから鍛冶師は他の生産職と組んだりするケースが多い。そうすれば生産職としても生産物に関する情報の秘匿もしやすいからね。お互いWin-Winだ。そこでまた話題に上がるのが生産組組合だ。あそこは鑑定師を育てるメソッドを完成させている。鑑定を鍛えるためのサンプルアイテムを大量にため込んでいるんだ。試行回数と種類によって技能が成長することは判明しているなら、回数と試行回数を稼げる教育体制と教材を作ればいい。だから生産組組合の鑑定事業は他の追従を許していない。そして更に問題はある」


 かなり初期の話になるんだけどね、そう前置きして先輩はとあるURLを私に送付しました。ALLFO内独自のインターネット掲示板の様です。

 そこには『【あ~お客様!お客様!】職業について語るスレPart64【曲芸師/舞踏家/吟遊詩人/道化師ハラスメントはおやめください!】』という題のついたスレッドがありました。


「副職業の中にはね、戦闘職と強いシナジーを持っている職業があるんだよ。ここに上がっている曲芸師、舞踏家、吟遊詩人、道化師は鉄板でね、昔はこれを選んでない戦闘職は情報弱者として軽視する時期すらあったよ」


 『曲芸師』はジャンプなどのアクロバットな動き、更には投擲の命中率に大きく補整がかかり、『舞踏家』は素早さと器用さに補正がかかる。私の選んだ『吟遊詩人』だと魔法の効果が大きくなったり、魔法を使用中に攻撃を受けた時の強制キャンセル確率が減ったり魔法が覚えやすくなったりする魔法使いタイプには嬉しい補整。『道化師』だと曲芸師に近いところはあるけど、こちらはどちらかというと器用さに大きく補正が偏っている。

 スレを見てみると、『大工』という職業も筋力補正がかかるみたいで近接攻撃タイプのプレイヤーには好まれるようです。


 確かに、どれくらい補正が乗るかは具体的には不明ではありますが、このように補正が乗るのであれば戦闘は有利になるでしょう。 

  

 けど、大工を除いてそれ以外の職業は生産職と聞くと違和感が強いよな?

 私がそう疑問を呈すると、鶴喰先輩はクスクス笑いました。

  

「ALLFOもそうツッコみを入れることを予想していたのだろう。だから生産職スロットと呼ばず、『副職業』というスロットにしたわけだ。解釈については諸説あるけど、我々プレイヤーは基本的には戦闘職の人間なんだ。だから戦闘系の職業は『主』となり、一方で副職業は戦闘には直結しないもの。つまり『副』業に近いんだろうね。ほら、曲芸師や舞踏家って、それそのものは戦闘とは無関係の職業だろう?」


「言われてみれば………」


 つまり、鑑定師も『副業』扱い。

 本業ではなく副業で本業以上に稼ぐには、副業に専念するほかない。けど鑑定は他の生産的な職業と違って個性が出しにくい。知識がモノをいう世界で、先駆者がただただ圧倒的なアドバンテージを持つ。料理とかならセンスなりで時間を覆す手段はあるけれど、鑑定はとにかく経験を積むしかないと聞いている。ネームバリューがあり鑑定能力のある鑑定師に依頼が集まるのは当然で、余計に先駆者は後続を突き放していく。

 こんな状態で、鑑定師が食い扶持を稼げるほどに技能を成長させるのは現実味がない。

  

 しかもこれだけ専念しても、最終的な目標がMONを稼ぐことならば、戦闘に補正のかかる副職業を選んだほうが多くの魔物をスムーズに倒すことができて、更に強い魔物にチャレンジできるようになり…………副職業は当然早いうちからセットしておいたほうが成長も早いし、戦闘と噛み合っているので戦闘をしながら同時に同じ成長させることができる。と考えると確かに無駄がない。いよいよ鑑定師を選択したプレイヤーと比較して圧倒的にこちらの方が効率的にMONを稼ぐことができるようになる。


 なるほど。こうなると鑑定師が敬遠される理由が分かります。 


「ALLFOはこのようによく考えて動かないと困る事が多いんだよ。と、鑑定師についてつい色々と話してしまったけど本題からズレすぎていたね」


「あ、そうでしたね」


 つい私も聞き入ってしまいましたが、本来は卵についての相談でした。


「柚木ちゃんは始めたばかりだし、知り合いの鑑定師なんて当然いないだろう。もしかしたら、先行してプレイしているお友達にはお得意様がいるかもしれないけど、物が物だけに相当慎重になった方がいい。ギルドに頼るのが一番いいんだけど、あそこはかなり待つし他の人の視線もあるからなぁ。かと言って生産組組合を頼ればカモにされるだろうね。幹部クラスも目を付けた物だから、下手すると買い取りすら提案してくるだろう。つくづく、柚木ちゃんが話しかけた幹部が初心者に優しい人で良かったね。幹部クラスなら無知な新人プレイヤーなんてどうとでもできただろうに。かと言って、ここで私の知り合いを紹介するのもなぁ…………」


「えっと、なにか問題があるんですか?職人気質(カタギ)で、自分の認めたプレイヤーの物しか鑑定しない!みたいな感じの人だとか…………?」


「ぷっ、アハハハ、違う違う。むしろあの子は職人気質なんて言葉とは真逆の人間だよ。そうじゃなくて、私が君を利用したりする可能性だってあるんだぞ?という話だよ。ま、君のその反応を見るに、私は大分信頼されているのだろうね」


 そうか。確かに、私が今持っている卵がレアなアイテムであれば、それを鑑定し、その情報を知ること自体にも鑑定師側には大きな価値があります。この考え方は、捕らぬ狸の皮算用ではありますけどね。    


「まーね。お互いリアルで身柄の割れている人間だ。もし私が君を騙したりしても私がこの仕事を辞めたりしない限りは逃げ切る事はできない。それを信頼の元手に私の知り合いに鑑定を頼むのも一つの手だね。勿論、君に損はさせない。例の鑑定師とは仲間ってわけじゃないんだ。私が交渉の仲立ちをしてもいい。ま、この条件を飲むとなると柚木ちゃんからすれば結局ALLFO内で職場の上司と顔を合わせる羽目になるんだけどね。さ、そろそろ休憩も終わりだよ。なに、焦る事はないよ。信頼できる人に相談してみるのも一つの手だと思う。もし頼りたかったらいつでも言ってね。さ、お仕事お仕事~」


「はい、相談に乗ってくださりありがとうございました。って、本当に時間が!?」


 いつの間にか昼休憩が終わりそう。なのに私の前には丸々残ったゼリーが。先輩はいつの間にか食べ終えており、トレーを片付け始めています。

 私は飲む様にデザートを腹に流し込み、慌てながらトレーを返却口に戻して昼休憩を終えました。 

    

  


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