1:初めてのVRMMO
初めましての方は初めまして、ミニ丸語と申します。
誤字脱字が多くてほんとにすみません。
ブクマ・感想・レビュー・評価点をいただけると非常にうれしいです。
※感想クレクレ妖怪なのでリアタイじゃなくても感想は大歓迎!質問があればできるだけお答えします
※誤字脱字報告は明らかな誤りだった時のみでお願いします
※本編既読勢はネタバレ感想は避けていただけると助かります
「おねーちゃん、卵買わない?」
「た、卵、ですか?」
白い、汚れているので白くは見えないけどおそらく元々は白かったであろうローブを深く被っているのでよく見えないですけど、小さな女の子が私に言いました。
卵…………卵?どうして?何故?
ああ、いやな癖が出てしまった。予想もしれないことが起きると上手く頭が回らなくなる癖。
どうしてこんな事になっているか。私は現実逃避する様に少し前の事を思い出す。
◆
『次のステップで最後です』
「(えーっと、これで、こうして)」
1月下旬。正月のちょっと特別な気分が完全に終わる様な頃、私は家に届いたVRセットをAIインストラクターの説明に従うままセッティングした。
第七世代VR機器。
これまでもVR機器は世にあったけど、この七世代機器は五感の全てを電子世界に適応させる事が可能な機器として発売されました。
その新たな機器と一緒に発売されたゲームが『ALLFO』というオンラインゲームです。サービス開始から既に9ヶ月経過していますが、その人気は依然として衰えずまだ抽選式で販売しています。私も友人に誘われて何度かエントリーはしていたのですが、私もようやく当選しました。ただ、リアルでちょっと忙しいこともありスタートを延期していたのですが、ようやく始める算段が付いたのです。
「(――――――よし、端末との同期も完了っと)」
私は腕時計型の端末から仮想電子タブを開きメモに目を通します。それはALLFOについて色々と記されたメモです。なんの変哲もないメモですが、私からするととても大事なメモです。自分でもたくさん調べて事前準備はしましたけど、このメモは大事です。きちんと端末とVR機器をリンクさせてVR内でもメモを見れる様にします。
水分補給良し。トイレ良し。バイタルチェッククリア。
ヘルメットの様なギアを被りベッドに横たわります。
『接続開始』
接続先はALLFO。事前にメールで伝えられたコードを入力。同意書にサイン。それと招待コードにとっちゃん……義兄さんからもらった招待コードを入力。
ログインの同意ボタンを押して目を閉じると、頭の中に響く声。まるで半分寝ぼけているかの様に体の感覚が薄くなり、意識に空白が浮かんでいく。
VR自体は一般に広く普及している四世代型などを授業で利用したりした事がありますが、七世代はなんだか今まで以上に機械が自分の奥に深く入り込んでくる様な不思議な感覚がして――――――
『おはようございます』
「!?…………えっと、貴方は?」
いつに間にか眠っていた様な感覚。声をかけられてハッと目を覚まし体を起こすと、すぐ近くにスーツに身を包んだとてもとても綺麗な女性がいました。まるでこの世の物とは思えないほどの美貌、とはまさにこの事を言うのかもしれません。
『初めまして。ALLFOサポートAIのネフォリャタルトと申します。AIサポートのご利用との事で参上致しました』
「あ、そうなんですね。よろしくお願いします」
『はい、よろしくお願いします』
とても耳触りの良い声。美しい一つ一つの動きは丁寧で自信に満ち溢れたキャリアウーマン、といった感じでしょうか。頭を下げる動作一つとっても綺麗な人です。
ゲーム自体は一応やった事はあります。落ちものパズルとか、何かを育成するシミュレーションとか。けどそれらは携帯端末でできる様な物で、VRMMOというのは初めて。義兄さんの勧め通りAIサポートを申請していたけれどこんな感じなんでしょうか。
普通のAIガイドとかはなんかもっと無機質なイメージがあったけれど、ネフォ……なんとかさんは人間らしいです。
「ネフォリャタルトです」
「!?あ、えと、口に出していましたか?」
「いえ、覚えにくいと言われることが多いので」
ビックリした。まるで心を読まれてるみたいです。ってそう言えば、義兄さんも感覚が完全にリンクしてるから思考くらい読まれても不思議ではないって言ってたっけ。
ちょっと驚きはしたけど、ネフォリャタルトさんの説明はとても丁寧でわかりやすかったです。
ALLFOで使われる基本的な用語。例えば、パラメータ、ステータス、ランク、スキル、魔法、職業インベントリ、ギルド、イベント、アナウンスとか。事前予習で理解はしていたけど実際に自分で操作したり見たりすると全然違います。
『それでは実際にスキルや魔法を使ってみましょう。同時に申請のあった適性テストも実施致します。ご安心ください。適性テストで提示された職業はあくまでテスト時の動きや思考パターンからその方に合った物を勧めさせていただきますが、それは他の職業が不向きという事だったり選択できないという事ではありません。気楽に、思うままにチャレンジしてみてください。もちろん、適性テストの後でも御相談は受け付けておりますよ』
――――それでは初めてみましょう。
ネフォリャタルトさんが指をパチンと鳴らすと、光が溢れる不思議な空間が運動場の様に一瞬で変化した。
その後私はネフォリャタルトさんに従って色んな事をしてみました。剣を振ったり槍で突いたり魔法を放ったり。武器はやっぱりちょっと重かったし、あまりしっくりこなかった。けど魔法は楽しかったです。構えた杖の先から火の玉が飛んでいく様は昔何度も見た映画の様でした。
最終的にネフォリャタルトさんから提示された適性は主職業は『魔法使い』『調教師』、副職業は『吟遊詩人』『鑑定師』でした。義兄さんの予想が完全に的中していてちょっと笑ってしまいました。
ALLFOはちょっと変わったゲームらしくて、最初から戦闘に関わるメインの職業を3つと生産などに関わる副職業を1つ選ぶことができます。けど義兄さん曰く、公式でもアナウンスされている様にメインは最初から3つ埋めずに1つ残しておくほうがいいらしいです。らしいとしか言えないのは他のこんなゲームをした事がなくて勝手がわからないからです。
でも…………調教師は、どうしよう。モンスターを仲間にするジョブだって説明を受けたけれど、義兄さんもこれはお金がかかるしゲーム慣れしてないと難しいしで後回しにして良いって言っていたから後回しにしようかな。初期から選べる職業は後から選べるって聞いてるし大丈夫、だよね?最初は魔法使いだけにして、副職業はそれと相性の良い吟遊詩人にしましょう。歌うのも好きだし、こっちの方が個人的にも好きな気がします。
「魔法使いだけでよろしいのですか?」
「兄から、魔法使いから僧侶になることを進められたので、それをまずは進めようかな…………と。私、僧侶の適正ってあるのでしょうか?」
適性テストにおススメされる職業は初期から選べる職業だけ。それ以外の職業に関してはその限りではないので職業として表示されることはない、と義兄さんは言っていました。だから素直に聞いてみることにします。
「そうですね、どれほどハッキリとお伝えしてよろしいのでしょうか?」
「その言い回しの時点でもはやないと言っているような…………あ、でも聞かないままなのもモヤモヤするし…………で、できるだけ優し目にしていただけると……………………」
「承知致しました」
ニコリと笑うネフォリャタルトさんの目には感情がない。AIなんだから、と言えばそれまでなんだけど、今まではもっと人間らしさがありました。けど、今はそれを敢えて無機質にしているように思えます。まるでこちらの内面の奥の奥まで見定める様な目をしています。
「そうですね、才能はおありだと思いますよ。僧侶には視野の広さ、気配りの上手さ、空気を読む力が必要です。貴方にはその能力が備わっている。しかし、僧侶はただ後ろに突っ立っているだけでなく、ある程度全体の様子を見て声をかけたり、状態のコントロール、誰を回復させて誰を後回しにするか、という冷静な判断が求められることもありますけど、貴方は苛烈な戦場に於ける指揮官としての僧侶には向いてはいないでしょう。しかしそれを恥じることはありません。貴方の心からの優しさはなによりの美徳です。優しさも親切さも取り繕う事はできますが、心からの優しさを培う事は極めて困難な事です。優しさは才能なのです。そして貴方は優しさと甘えの区別をつけることはできる。大事な事です」
AIガイド、サポートと言えば、もっと無機質で客観的なものなイメージが私にはありました。けれど、ネフォリャタルトさんは無機質なのに人間らしさを持ってます。まるで、なんというか、神様、みたいな。
「ですが、肝心な時にも、冷静に思考し、優しさと甘えを混同しないかどうか。これはあくまで全てシミュレーション。実戦で見誤れば、全てを失いますよ」
その言葉は、予言のようで。
「――――――などとは言いましたが、これは今日の貴方が示した適性。たった一日でも人は変わる事も有ります。先ほど実戦と述べましたが、裏を返せば実戦では思いもよらぬ才能を開花させる方もいらっしゃいます。運動能力が急に変わる事はないですけど、考え方や性格は変わります。その可能性を閉ざすことなく自分の才能を追求してみてくださいね。ALLFOはそのお手伝いを惜しみませんよ」
ネフォリャタルトさんは無機質さを消し、聖母の様な優しさをにじませながらニッコリと笑いました。
◆
「それでは最後に、何か特典のコードをお持ちですか?」
少しずつ話は進んでいき、ALLFOに大分馴染むことができました。GMコールの使い方に関しては一番確認しました。
GMコール。ゲームマスターコール。どうしようもないトラブルに見舞われた時の最後の手段。運営さんが24時間対応してくれるというのはとても安心です。ちょっとした事はAIチャットに聞けば答えてくれるらしいし、本当に初心者には助かることばかりですね。
「あ、えっと、兄さんから招待コードを貰っています。これで、割引と、初心者用パックがもらえるはずだから使いな、と」
「ええ、そうですね。コード認証を致しました。プレイヤー[NOTO]…………からの招待ですね」
ALLFOは抽選式のゲームではあるけれど、今このウィンター枠のプレイヤー以降にはこのように先んじて参加しているプレイヤーからコードを貰う事で色々な事がお得になる、と義兄さんは言っていました。
N、O、T、O。ノート。これが兄さんのプレイヤーネーム?
それに何か、その名前を告げる時にネフォリャタルトさんがうっすらと今まではとは少し違った笑みを浮かべたように見えました。その笑みの種類はなんだか、嫌な感じの笑みです。ただの気のせいかもしれないけど。
「では、こちらのパックを贈与致します。貴方――――――ユズ・イリオモテヤマネコ様には、純魔法使いタイプなのでこちらのパックをおススメ致します」
一番この案内で時間がかかったのは、プレイヤーネームの決定かもしれないですね。ALLFOでは他のプレイヤーの人と同じ名前にすることができないし、プレイヤーネームとは別に実際に読んでほしいニックネームを登録する事も出来る為、割り切ってちょっと奇をてらったような名前もあるらしいけど、私はできるだけシンプルであると同時に何か自分らしさをいれてみたかったんです。自分の名前である柚木の柚からユズという音を入れるのは決めてたんだけど、その後は他の方と被ることが多くて散々悩んだ挙句にこの名前になりました。ちょっと長くなっちゃったけど、分かりやすくていいですよね。
ネフォリャさんがくれたアイテムパックには、魔女の様な黒いローブ、黒くて長い杖、命のエネルギーであるHPを回復するポーション、魔法を使うためのエネルギーであるMPを回復するポーション、焼き固めた長方形のクッキーみたいな戦闘糧食、金属の筒状の水筒、テントなど色々な物がありました。ファンタジーの世界らしさもあるけど、どこかキャンプ道具一式に近いかも。
「ここで装備していきますか?武器や防具は持っているだけでは意味がありませんよ」
「はい、していきます」
「では」
因みに七世代は全ての感覚を高度に電子の世界に映している都合上、私が実際にのALLFOの世界で動かすアバターの造形はリアルから大きく変えることはできません。特に骨格は弄る事ができません。主にできるのは化粧や入れ墨、メイクですね。私は基本セットのパターンから一番綺麗に見える化粧を施して、髪色をリアルよりかなり明るい茶色にしてみました。目の色も綺麗な緑にしてみます。ちょっと冒険です。リアルだと髪の色を変えたりコラコンを使った事なんてないのでなにかわるいことをしてるみたいでワクワクします。
パチン、とネフォリャタルトさんが指を鳴らすと、簡易な衣装を着ているだけの私に光が走って魔女らしい格好になりました。でもちょっと明るい感じにしたからコスプレっぽく見えるかもしれません。うん、なんか、けど、ちょっといいかも。
「あの、そういえば、この特典パックの中にあるこれって―――――――」
そういえば、これは何だろう。
とても不安だったので、ネフォリャタルトさんには街で売っているアイテムの殆どについても解説して頂いたので特典パックの中に或るアイテムがどんなものかも大体はわかるのだけれど、その中でも使い道が全く分からない物が1つ混じっていました。明らかに他のアイテムとは毛色の違う代物です。ゲームに不慣れな私でも、一目で特別なアイテムだと思う程度には。
「特典パックはですね、ご紹介して頂いたプレイヤーの方、ユズ・イリオモテヤマネコ様で言えばNOTO様を参考にしたちょっとしたアイテムをサプライズで提供させて頂いております。ユズ・イリオモテヤマネコ様がお気になさっているアイテムはそのサプライズアイテムです。使い方はALLFOの世界でごっゆくり模索してくださいませ。ああ、ただ、一つだけ。ユズ・イリオモテヤマネコ様。貴方に授与されるそのアイテムは招待コードを授与したNOTO様の影響で通常のサプライズアイテムとは比較にならないほど極めて強力にして危険な物となっております。くれぐれもお気をつけて」
「えっ」
それってどういうことですか、なんで義兄さんの影響を受けるとそんな事に。
ネフォリャタルトさんにはまた聞きたいことが増えたのにネフォリャタルトさんは手続きを進めていく。
「それでは、全ての工程が終了致しました。ALLFOの世界を心行くまでお楽しみくださいませ」
「あ、待って!」
しかしその私の声は空しく、世界は白い光に包まれていき、最後にネフォリャタルトさんが笑っている顔だけが見えて視界が暗転しました。