頭スライム爆誕
「クソ!一体どうやって寝ている人を起こさずにベットの天蓋の埃を掃除すればいいんだ。そんなの無理だろ。あれか?理由をつけて俺を殴りたいだけなのか?」
俺は教務課にエリザベスの手紙を出してから部屋に戻る途中でぼやいた。
「大体からなんだあの部屋のデカさは。アレと比べたら俺の部屋なんて犬小屋じゃないか。それにあの散らかりっぷり。一日でできる散らかしようじゃないぞ」
そんなことを言っているうちにエリザベスの部屋の前まで来てしまった。どうやって彼女から出された問題を解決するべきか悩んだ末一つの妙案を閃いた。
スライムだ。スライムを使おう。スライムは擬態機能の他にも自分の体の中に入った物を溶かす性質や狭い所を好む性質がある。この性質を利用して掃除やトイレに使われることがある。それゆえに疎まれたりもするのだが。
「俺が召喚したスライムなら自由に操れるしな」
俺は念のため部屋の扉を二度ノックした。返事はない。寝ているエリザベスを起こさないようにそおっと扉を開けた。
「すー・・・・・・すー・・・・・・」
「しゃべらなきゃかわいいんだけどな。性格がゴミすぎる」
俺は手を天蓋にかざしてスライムを召喚した。ちゃんと狙ったところにスライムは召喚された。魔力経路を通じて“その辺のゴミを消化しろ”という命令を与えた。
「よし、俺はこの散乱した服をどうにかするか」
そうして俺は床に散乱した服をクローゼットにしまうために手近に落ちていた服を拾った。俺が拾ったドレスは白い布地に肩のところに青いバラを模した物がついている高そうなドレスだった。
「こんなの無造作に投げ捨てるなんてまったくいい生活してるぜ」
もっとエリザベスがまともなら媚を売って取り入ったのに。まあ今俺はあいつの専属召使い。見方によっては案外いい感じでお近づきになれたのかもしれない。あいつの言う“召使い”が“いつでもどこでも殴れる人”という意味じゃなければの話だが。
「すー・・・・・・すー・・・・・・う~ん、パパ・・・・・・」
夢でも見ているのだろうかパジャマ姿のエリザベスは寝返りをうちながら寝言を言っている。できれば一生そのまま眠っていてくれ!そう思っていたらエリザベスの頭にスライムが落ちてきた!
「ヤバい!」
落ちたのはエリザベスの頭の側面、耳の近く。さっき寝返りをうったから右耳が上を向いている。スライムは狭い場所を好む習性がある。
「ヤバい!ヤバい!ヤバい!」
俺はスライムに魔力経路を通じて『こっちにこい』と命令したがなぜかスライムは従わずエリザベスの耳の穴に入っていく。
俺は魔力経路を切ればいいことを忘れてスライムを掴んで捕まえようとしたがスライムはツルツルっと俺の指を滑ってエリザベスの耳の中にすべて入った。わあっスライムってすごいすべるんだー、こりゃつかまえられないや。てへっ☆
「あ~なんかうるさいわね~。起きちゃったじゃない・・・・・・これはお仕置きね」
俺が現実逃避している間におそらく耳から脳にかけてスライムに侵されつつある貴族令嬢エリザベス・スノー・ダニ・アードラースヘルムは昼寝から起床した。
「何ともないんですか?」
「・・・・・・気分悪いわ。吐き気がする。あと悪寒が止まらないわ。なんだか汗が止まらない・・・・・・まあいいわあんた殴ればスッキリ爽快なのよね」
「ひっ・・・・・・」
やはりこの女俺の事を“召使い”ではなく“いつどこでも殴れる人”と見なしていた!俺はエリザベスの頭の中に入ったスライムの事を忘れて思わず後ずさりした。当然エリザベスは俺に迫って来ると思ったがどうも様子がおかしい。
「はあ、はあ、なにこれ吐き気が・・・・・・うぅ・・・・・・ヴォエエエエ」
エリザベスはいきなり床に盛大に嘔吐した。
「たぶんスライムのせいだ・・・・・・」
どうやら俺の召喚したかわいいかわいいスライム君はエリザベスの脳をゆっくりと溶かすことにしたらしい。ベットの上に吐かなかったのはまだ脳の大部分が残っていて理性を総動員して回避した結果だろう。
「なに?あんたなんか言った?てか耳鳴りが酷くてなにもきこえない・・・・・・」
俺はそのまま壁まで後ろに下がった。
「ひゃんたほーしてほんなにうしろにひゃがるの?こっちにひなさい」
エリザベスは肩で息をしながらよく分からない言葉をしゃべった。もうダメだ。エリザベスの脳は確実に損傷している。もう魔力経路を切っても彼女は助からない。
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・ひゃほうがうてない・・・・・・あたし・・・・・・いったいどうなって・・・・・・」
そして唐突にエリザベスの終わりの時が来た。
「んぎっ・・・・・・ギギギ・・・・・・あ゛びん!」
そうして彼女は自分が吐いた汚物の中に倒れこんだ。彼女の顔にはいつものクールさはなく目を剥き、鼻血を出しながら口から泡を吹いている。きれいなロングヘアの金髪は汚物で汚れていた。
「お、おわった・・・・・・俺の人生・・・・・・」
完全にエリザベスはスライムに脳を食われた。だから彼女は醜態をさらしている。そしてそのスライムを召喚、使役していたのは俺。一体どんな罪に問われるのだろうか?一つ確実に言えるのは俺が公爵令嬢エリザベス・スノー・ダニ・アードラースヘルムを殺したという事。整理したら急に吐き気が込み上げてきた。
「いっそ俺がドレスを着てエリザベスに成りすませばなんとかなるか?」
錯乱した考えが錯乱した言動を生む。もうかくなる上は俺がエリザベスになるしか・・・・・・
「はっ・・・・・・待てよ。スライムには擬態機能があったな!」
俺はエリザベスの振りをするためドレスを着ようと服を全部脱いで全裸になった時に気づいた。
そうだ。スライムには擬態機能がある。脳なんて擬態させたことなかったがエリザベスの脳に擬態すれば彼女は起動するんじゃないか?
俺は素っ裸のままスライムに魔力経路を経由して『エリザベスの脳に擬態しろ』という命令を送った。魔力経路を経由することでいつもの様な軽い感じで擬態させるのではなく厳格に実行させる。といっても強制力があるわけではないのだが。
「どうだ・・・・・・やったか・・・・・・」
俺は服を着るのも忘れてエリザベスを見守った。するとエリザベスはゆっくりと立ち上がった!やった!成功だ!エリザベスの蘇生に成功したぞ!
だが次の瞬間俺は震えあがった。
「ってことは俺制裁されるじゃん!」
エリザベスの不興を買い、エリザベスの髪や服を汚し、エリザベスの脳を破壊した。これだけやって無罪なわけない。ランメルツさんはちょっとの陰口で顔の皮を剥がされた。
エリザベスは無言でこちらに近づいてくる。
「アードラースヘルム様これには深いわけがありまして・・・・・・」
全裸でかしこまって言い訳する俺にエリザベスは無表情で近づいてきてそして・・・・・・
「ごしゅじんさま~いっぱい好き~」
「へ?」
抱きしめられた。っていうかすっぱ!俺の鼻を刺激臭がくすぐる。吐しゃ物が髪にくっついているせいだ。なので美少女との初抱擁は最悪だった。俺がフリーズしているとエリザベスはもっときつく俺に抱き着いてきた。すっぱい匂いは加速する。
「ごしゅじんさま、変な臭いしない?っていうかなんで裸なの?」
「ちょっと待って、気分悪くなってきた。アードラースヘルム様いったん離れ・・・・・・オロロロロ」
俺は盛大にもらいゲロをした。エリザベスは紙一重でそれを避ける。
「あはは、こりゃすごいね。とりあえず体洗おっか」