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エリザベスの趣味

あたしはあくびをした。

翌日の一限目歴史の時間。あたしはなんとかパパに出す手紙をしたためることができたものの徹夜になってしまった。だからかもしれない。あくびが出たのは。

あたしの目の前にはラクガキがたくさんされた椅子と机がある。あたしが使うことになっていたものだ。それが“死ね”とか“消えろ“という文字で埋め尽くされている。

回りくどい事をするなとあくびをかみ殺しながら思った。

「あの・・・・・・アードラースヘルムさん?今すぐ教務課に言って予備の椅子と机を持って来させるから・・・・・・」

あたしは歴史の教師の言葉を無視してあの子の目の前にいった。昨日顔の皮を剥いだ子。この教室にあたしが入った瞬間背筋がビクッってした子。かわいそうでかわいい子。

「ねえ・・・・・・あんたそこ、あたしの席じゃない?」

「・・・・・・え?」

そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。またしても背筋が一瞬ビクつく。

あたしが剥がした左のほっぺたは治癒魔法できれいに治してもらってあったのでなんだか気に入らなかった。

「ほっぺた治してもらえたのね。良かったじゃない」

あたしはまた左のほっぺたに触った。

「ひいっ!」

昨日の事を思い出したのだろう。唇のわずかな間から悲鳴が漏れた。いいわね。サイコー。

「ねえあんたの座っているそこあたしの席だったわよね?」

「じゃ、じゃあ私の席は・・・・・・」

「あそこにあるじゃない。惨めな負け犬にお似合いの席が」

あたしはあの落書きだらけの惨めな席を指さした。

「でも・・・・・・」

「いいから変わんな!早くそこをどきなよ!」

「ひうぅ・・・・・・」

そう言って昨日顔の皮を剥がした子は渋々とあたしが座るはずだった席に移動した。

見かねた歴史の教師は

「ランメルツさん大丈夫。すぐに新しい机と椅子を持ってくるから」

と言って授業を中断しようとした。楽しみを減らすな。くそが。

「ちょっと待ってよ。先生、授業をしなくちゃ。一日目からこれじゃあ期日までに指導要領が終わらないんじゃない?」

「大丈夫です。一日遅れただけなら問題ありません」

チッ。ならこれはどうだ。

「先生。あたし父に定期的に手紙を送るように言われているんです」

あたしの家、アードラースヘルム家はチリホッパーズ大陸有数の裕福な州の領主でありここ(セントアーレス)のスポンサーでもあった。

「きっとあたしは手紙の中に書いてしまうでしょうね。“父へ 学校には初日から授業を放棄する不良教師がいます。歴史の先生です”ってね」

「くっ、ごめんなさい。ランメルツさん・・・・・・では授業を始めます・・・・・・」

「・・・・・・」

ランメルツとかいう子が落書きだらけの机と椅子に座ってがっくり肩を落とした。あたしは素早くあたしのものになった席に座ってサイコーの瞬間を見逃さないようにした。

もうすぐ・・・

「えーそもそも皆さん。この勇者(タケル)暦がどうして始まったのか知っていますか?」

もうちょっと・・・・・・

「そうですね。第四紀の終わりにこの世界に長年続いていた『第一次人魔大戦』を転生者勇者タケルが平定したところから始まります。ここで王国軍と魔王軍の講和が実現しました」

あとすこし・・・・・・

「勇者タケルは戦いのみならずこの世界の技術の発展にも・・・・・・」

その時ランメルツの肩が小刻みに上下し始めた。

「泣いてる」

あたしは思わずつぶやいた。肩を震わせて、声を押し殺し、顔を上げずに泣く。

誰にも見られたくないから。

そう思った瞬間あたしは口元を手で覆った。口角が上がるのを抑えきれない。ランメルツの涙が落書きされた机に落ちれば落ちるほどあたしの口角が上がっていった。

きっとあの子が考えていた学校生活はこんなものではなかったのだろう。

きっとあの子が自ら選んだ選択ではなかったのだろう。

きっとあの子があたしと会わなければこんな事にはならなかったのだろう。

「ああ・・・・・・サイコー」

あたしは弱いものを踏みにじる快楽に身を浸した。


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