散々な入学式だったぜ・・・・・・
それからは俺は明日に始まる授業の予習とこれからどうやってあの暴君に取り入るか色々考えた。普通はあれだけやれば退学ものだが公爵家パワーでそれを防ぐだろう。
「といっても初日からやりすぎだろ、アレは」
入学初日に同級生を殴る、顔の皮を剥ぐ。
「最悪すぎる」
出来れば二度と関わりたくない。エリザベス・スノー・ダニ・アードラースヘルム。まさかここまでとは・・・・・・
「クソっ!めちゃくちゃ媚びてパシリにでもなろうとしたのに!あれじゃあ近づくことすらままならないじゃないか!」
俺は乱れた心を鎮めるためにスライムを召喚した。そしていろいろな形に擬態させて遊ぶ。
本
コップ
カバン
「ふう・・・・・・落ち着いてきたぞ」
しかし、俺も魔法で召喚したスライムの扱いが上手くなったものだ。俺の実家は生活魔法に特化した家柄で主にスライム関連の魔法の販売・普及に一役買った商家だ。俺も父上に魔法【スライム召喚】を幼いころに教えてもらった。それ以来俺は時間が出来た時にはスライムをいろいろなものに擬態させて遊んでいる。
「まあ擬態ってよりは変身っぽいんだよな。質量がある程度無視できるし・・・」
俺が召喚できるスライムは拳より少し大きいくらいだがそれよりも大きいものにも擬態することが最近できるようになってきた。
「俺の能力も段々と成長してきた気がする。今度ショア神殿に行って能力を鑑定してもらうついでに〈レベル〉も見てもらおう。レベルを見る魔法が封じられた巻物は高いからな・・・」
〈レベル〉は遥か昔異世界から召喚された勇者タケル様がこの世界に持ち込んだ概念で上限が百レベルまであるらしい。それ以前は数値でなく銅・銀・金という大雑把な基準で強さを表していたとか。
「一般人には高く売るくせに冒険者には安く売るんだもんな。やんなっちゃうよ」
俺はスライムをカバンから元の丸い形に戻して頭の上に載せた。そこがこいつのお気に入りの場所だった。俺はスライムを頭の上にのせたままベットに寝ころんでこれからの事を考えた。スライムは器用に頭の上に張り付いている。
「う~んどうしよう。今のままじゃアイツ(エリザベス)に取り入る隙がないぞ。これからも問題を起こしてその度に公爵家の娘パワーでうやむやにするだろうし・・・」
今日は入学して早々に派手に周りを痛めつけていた。なにか気に入らないことでもあったのだろうか。あれだけやれば周囲からは恐れと反感を買うだろう。
「もしかして逆にいじめられたりして・・・ないない」
かぶりを振ってそんな浅い考えを追い出す。今日あれだけ暴力をふるったのだ。それにあの女は嫌がらせされてめそめそ泣くタイプの女じゃない。むしろ嬉々として犯人をボコボコにするタイプの女だ。
俺は最初に話しかけた時を思い出した。
こっちは丁寧に挨拶したのに向こうはいきなり拳でアンサーしてきたのだった。社交界のルールなんて関係ない。人に最低限の礼儀もかけない女。エリザベス・スノー・ダニ・アードラースヘルム。
「めんどうくさいな~」
俺は上体を起こしてスライムを手の上にのせた。そのままスライムとの魔力経路を切った。するとスライムは小さくなって消えていった。
使い魔は基本的には召喚者と魔力的に繋がっていて召喚者が魔力を使い魔に補給し続ける限り使い魔はこの世界に顕現し続ける。補給がなくなればやがて消滅するのが理だった。
「とりあえず食堂に行ってメシ食ってくるか」
ちょうど夕食の時間になったため俺は寮の食堂へと移動するのだった。