暴君エリザベス
「ひぃ・・・・・・もうやめてください、アードラースヘルム様」
「ああっ?それじゃああたしか兄上の事か分からないわよ!」
俺はどうせ言ったら殴られるだろうなと思いつつも言わざるを得なかった。
「エリザベス・スノー・ダニ・アードラースヘルム様どうか気を静めてください」
「ド三流貴族があたしの名前勝手に呼んでんじゃあないわよ!」
鈍い音がして俺の腹に氷の塊がめり込んだ。エリザベスは氷魔法の扱いがとてもうまく拳に氷をまとわせて俺を殴って来る。氷は固く冷たくて痛い。
自分が呼べと言っておいてこの仕打ちは理不尽すぎる。ちなみに今日が初対面だ。
周りの人達はそれを遠巻きに見ていてこちらを助けようともしない。
「見て入学して間もないのに早速エリザベスお嬢様がやってるわ」
「曰くアードラースのお屋敷でも使用人に似たようなことをするとか・・・げっ!こっち来た!」
「なになに~?内緒話ならあたしもまぜてよ~」
どうやらターゲットが俺からひそひそ話していた女生徒二人組に移った。
「ふ~んあんた中々かわいいじゃない名前は?」
「わ・・・・・・私はカトリン・ランメルツといいます」
「私はジル・・・・・・」
「アンタはいいわ。ねぇカトリンあなた中々いい顔してるじゃない」
エリザベスはジルなんとかさんのカーテシーをキャンセルさせるとランメルツさんの顔に手を当てて頬を撫でた。質の悪いことにエリザベスは末子とはいえ公爵家の娘、対してここ(セントアーレス貴族学校)に通う者は良くて伯爵までの子息が多くそれが彼女の絶対王政に拍車をかけていた。
「ひっ・・・・・・つめた!」
なぜかエリザベスはランメルツさんの頬に手を置いたままだった。そしてそのまま頬をぐにゃぐにゃ引っ張って遊んだ。
「わたひのほっへから手をはなしてください」
ランメルツさんの懇願にエリザベスは忠告した。
「あなた知ってる?凍った鉄とかに地肌で触ると肌が鉄とくっつくんだけど・・・・・・今あたしの手とあなたのほっぺたで同じ現象が起きてるの。これがどういうことか分かる?」
つまりエリザベスのランメルツさんに添えている手はほっぺたと癒合しているということか。そしてそれを引き剝がすことが彼女のメリットになるということは・・・・・・俺は想像して寒気がした。冷たい鉄に触って皮膚がくっついた時に無理矢理はがせば皮膚もはがれる。
「やめてく・・・・・・」
「もう遅いわよ!離せってっていったのはあんたなんだからね」
そうしてエリザベスは無理矢理ランメルツさんの左の頬から手を剥がすと鮮血が飛んだ。
「ぎゃ!」
どうやら思いっきり力を込めたようで肉も少しえぐれたらしい。
「うぅ・・・・・・いたい・・・・・・」
「これに懲りたらもっと悪口はあたしの見えないところでしなさい。いいわね。ほら野次馬も解散しなさい。この子と同じ目に遭いたいならまだあたしを見物してもいいけどね」
そうして集まっていた人だかりはサッといなくなった。
エリザベスは頬を押さえてうずくまるランメルツさんとそれを介抱するジルなんとかさんを冷たく見下した後
「興が冷めたわ」
といってその場をあとにした。今この場にいるのはすすり泣きを慰める声とエリザベスに殴られた腹をさする俺だけだ。
「全くあのお嬢様は加減を知らないよな」
俺はそう一人愚痴ってから立ち上がっていそいそと自分の宿舎に戻った。