血がチョコですが渡します
血のチョコをつくりました。受け取ってください。
いや絶対ダメでしょ!
夕暮れ時のすこし騒がしい教室。
帰宅の準備を進める者が多い中、私はすみっこの席で頭を抱える。
2月14日。バレンタインデーだ。
意中の人にチョコを渡すついでに告白しちゃう的なあれ。
そんななか、私もチョコを渡したい人がいるのだ。
木道ユウキくん。
私の初恋の人。
猫のような赤い瞳に、蒼白ともとれる肌。
しかも好きな物はチョコ!
学校でも結構な人気者で、今もチョコを貰っている。なんか愛想笑いしてる。
そんなユウキくん、いたずらっぽい笑みが私は好きです。
高校に入学してすぐ、仲良くなれた。
そして高校に入ってからもうそろ1年。
ついに今日、彼に私は想いを伝える。
私みたいな地味な子でも仲良く話せた……話してくれたともいえるかな。
勇気を絞って伝えたい……けど。
うーん……。
チョコ、どう言って渡そう……。
そう思いながら、手元を見る。
長方形の箱にリボンが十字にあしらっている。
十字を指でなぞりながら、中身を思う。
実は中に、私の血でつくったチョコが入っている。
違うよ? そういうガチでやばい感じのじゃないよ?
実は私、血がチョコでできているんです。
自分でもびっくり。しかもおいしい。
1年ほどまえに突然、血がチョコと化したのだ。
まだ誰にも言ってない秘密。
そんな血がチョコになっている私はめんどい思いを抱えている。
好きという気持ちも伝えたいし、もし……もしも、付き合えたら……この秘密も伝えたい。
そんなめんどくさいことを、今日までずっと悶々と考えていた。
うむーでも今日までには伝えたいしうぬー……。
机に頬杖つき、うーんとうなっていると。
「どうしたの?」
「!? ユ、ユウキぐん!」
意中の彼が声をかけてきた。私は変な声がでた。
びっくりしたし勢いで手元にあったチョコを机の下にさっと隠してしまう。
それがよかったのかいけなかったのか。
「? なんか隠したなー?」
「いー……や? べつになんにも……?」
彼のからかうような問いに、私は苦しくも隠そうとする。
まだ気持ちがまとまってないしというか今この状況のせいで頭真っ白だ。
でも渡したいし伝えたいし逆にこれはチャンスなんじゃ……。
そう思っていると。
「僕に渡したいものでもあるんじゃないかなって思ってたんだけどなー」
ユウキくんはもう諦めたかのように、わざとらしく言う。
「えっ違うよ! あ、えっと違くないというか……えーっと、えーっと……」
私はあくせくと弁論するがろくな事が言えない。
そんな私を見てか、ユウキくんはくすっと笑い優しく言う。
「大丈夫。言ってごらん」
そんな簡素な言葉。
それだけでも、私は一歩ふみだせるほどだった。
「じ、実はね! チョコ……つくったの! 受け取ってくれるかな……? そ、それと好きです!」
ざわざわとしている教室のなか、ユウキくんにだけ聞こえるように私は言った。
勢いで好きまで言っちゃったけど大丈夫かな!?
それを聞いた彼は、
「あ、ありがと……」
めっちゃ苦い顔された。
え!? え!? なんで!? そんなイヤだった!?
この手元のチョコめっちゃ出しづらいじゃん!
たしかにそうか! たくさん貰ってたもんねそんなたくさんちょっと仲良くしただけの子のはいらないかも!?
それに……
「血でつくったやつだし……」
そんなボソッと言った私の一言。
ユウキくんは聞き逃さなかった。
「……血で?」
「あ、えっといやそのね? べつにそういう悪い意味があるわけじゃなくて」
「もうちょい詳しく」
「え、え、え」
「詳しく」
血相変えたユウキくんに圧され、私は自分の血がチョコだということを伝えた。
こんなあっさりと秘密を言うことになるとは……。
もうダメそうだしいっかと若干、自暴自棄になっていた。
しかしユウキくんの返答は意外だった。
「ぜ、是非そのチョコ、くれないかな!?」
「え、ええっ!?」
ユウキくんの圧が強い。赤い瞳が爛々と輝いているように感じる。
肩を掴まれ、顔が近く私は心臓ドキドキ。
「あっ、と、ゴメンね?」
「う、うん……」
ハッと我に返ったユウキくん。
コホンと咳払いし、話し始めた。
「実は僕、吸血鬼なんだ」
「ええっ!?」
ユウキくんは吸血鬼だった。
生まれてから今日まで吸血鬼。
「血がチョコだったなんて! どうりで会った時から甘い匂いがしてたわけだ!」
彼は興奮気味に言う。
甘党らしいがただ甘い血が好きという。
人間がつくった甘味は吸血鬼には合わないという。
だからチョコを貰っても微妙な顔をしていたらしい。
「ぜひ付き合おうよ! 血がチョコなんて最高じゃないか!」
私なんかと仲良くしてくれたのも、彼から見たらずっと甘美な匂いを私が発してたからで。
私を受け入れてくれたのはよかったけど、この複雑な気持ち、どうすれば……。
なんか、体目当てで付き合ってるみたい……。
「たまにでいいから吸わしてほしいな! 君の血! いやチョコかな!?」
頭がクラクラする。
私の思いが放出と同時に霧散していく気がする。
呆然としていた私に、彼は言う。
「それで、チョコは?」
「あ、ここに……」
「あ、さっき隠したのやっぱチョコかぁ」
私は頭真っ白な中、手元にあったチョコを彼に渡す。
もうどうにでもなれ……、そんな気持ちだった。
そんな時、彼にチョコを渡した瞬間だった。
「これが……血でできたチョこ……え、うわっ、ぁぁぁぁぁ!!!!!」
「えぇ!?」
彼がチョコを見せた瞬間に、叫びながらばたりと倒れた。
真っ白な頭に疑問が浮かび、彼とチョコを交互に見る。
あっ……血のチョコ、包装が十字架……。