07_斬風
東風谷はあふれでる力を刀身に宿し、光を放っています。そんな東風谷を、レイブは、片手でしっかりと握り、黒色のドラゴンにめがけて、横に振ります。
【斬風】ー風
レイブが、刀を横に振った瞬間、剣技が発動し、斬撃が風に乗って、ドラゴンの首まで伝わると、一刀両断します。
首が、地面に落ち、ドラゴンの巨体が地面に倒れ込みます。あまりの一瞬の出来事に、ドラゴンは、切られたことを認識しておらず、痛みを感じることなく、あの世に行きました。
「すまない。被害を拡大するのを防ぐには、こうする他なかった。自由を求めて、幻獣園から抜け出したのじゃろう。次は、よい世界に、生まれ変わることを願う」
レイブは、ドラゴンに、慈愛の心を込めて合掌し、祈りを捧げます。
《俺も、祈っておこう》
東風谷も、合掌はできませんが、心のなかで、祈りを捧げます。
「さすがですね。レイブさん、剣神と呼ばれただけのことはある」
魔法使いの使いのティルが、先程のドラゴンとの戦いを見ていたようで、言います。さすがと言っておきながら、若干、上から目線な物言いです。
レイブはティルに向かって言います。
「なに、この刀のおかげじゃ。ワシの見立て通り、いい刀じゃった」
ティルは、錆び付いた東風谷を、蔑んだ目で見ています。
「ご謙遜を。僕が見たところ、その刀には、たいした魅力を感じませんね。レイブさん、あなた自身の実力でしょう」
東風谷は、レイブに片手で握られながら、ティルの魅力を感じない発言に苛立ちを覚えます。
《魅力を感じないだって!?随分な物言いじゃないか》
ですが、東風谷の声は、ティルには、届いていません。レイブのように、東風谷の声を聞こえるのは、かなりのレアケースです。いくら、東風谷が叫んでも、届くことはないのは、なんだか悲しいですね。
「見た目は、錆び付いた刀じゃが、目には見えない力強さを秘めておる。わしだけの力では、決してないのう」
「ふーん、僕には、その刀の価値が分かりませんね。魔法使いには、刀は全く縁がないですから。おそらく、これからも触ることすらないでしょうね」
そう言い残すと、ティルは、去っていきました。市場は、突然のドラゴンの乱入で、人気がなくなり、地面に食べ物や、壊れた樽などが散乱しています。後片付けが、大変そうです。