05_謎の老人
東風谷は、ティルの圧倒的な強さを目の当たりにし、驚きが隠せません。茫然と眺めていると、近くから声が聞こえます。
「さすがだのー。ティルは。ティルのような魔法使いがいれば、この国も安泰じゃな。わしらは、もう必要ないのかもしれん」
《だ、誰!?いつの間にかじいさんが、近くにいるんだけど。魔法使いとドラゴンの戦いを見てたから、全然、気づかなかったな》
いつの間にか現れたこの老人はレイブ。70才は越えているが、まだまだ元気な老人です。一見、ごく普通の老人ですが、実は、すごい人。
「昔は、剣士の時代だったのにのう。剣士は廃れ、すっかり魔法使いの時代になってしもうた。お前さんの需要もなくなってるんじゃないかのう?」
レイブは、武器屋に置かれた東風谷に話しかけます。東風谷は、最初、自分に話しかけられているとは思わず、黙っていましたが、老人がこちらを見て話しかけていることに気づいて言います。
《じいさん、もしかして、俺の声が聞こえてたりするのか?》
「そうじゃよ。話ができる人間がいるとは、思わなかったようじゃの。まあ、実際、武器と会話できることが、できるのは、ごく限られた人間じゃがのう」
レイブは、武器と会話ができるようです。ようやく、刀になってしまった東風谷にも、話し相手ができました。
《まじか!?ずっと話し相手がいなくて寂しかったんだよ。お願いがあるんだが、俺を拾ってくれないか。このまま、ここにいるのは、正直、つらい。じいさんみたいに、話ができる人が現れるのもいつになるか分からないし》
東風谷は、この絶好のチャンスを逃すまいと、じいさんに頼み込みます。武器と話せる特殊な人物と今後、出会える可能性は、限りなく低いので、ここで、拾われたいところですね。じいさんにフラれないことを切に願います。
「わしが、お前さんをか......。まあ、いいじゃろ。持ち主がいないと、寂しかろう。お前さんを買うとしよう。ただ、条件があるがのう」
レイブは、何か条件ありで東風谷を拾ってくれるようです。いち早く持ち主がほしい東風谷ですが、条件と言われると、それが何なのか気になります。
《ちなみに、その条件って何?》
「わしには、クスカという孫がおってな。孫は、剣士を目指しておるんじゃがのう。なかなか芽が出ずに、悩んでおって、どうやら、自分には、才能がないじゃないかと落ち込んでおる。そこで、お前さんに、クスカの面倒を見てもらえんかのう」
突然のレイブの返答に、東風谷は、思ってもみない答えに、少し戸惑います。まさか、孫の面倒を見る羽目になるとは、一ミリも考えに浮かんでいませんでした。