03_竜
日は沈めば、また上る。あっという間に、再び、一日が始まります。まだ、朝と言うこともあって、市場には、人が少ないようです。
暇なので、東風谷は、街の様子を観察してみることにしました。街の建物は、レンガ作りで、ヨーロッパの町並みに似ています。行き交う人々の中には、一般庶民の他に、魔法使い、剣士の姿がありました。まさに、異世界ファンタジーな世界観が、眼前に広がっています。コスプレとかではありませんので、ご安心ください。
《おっ、魔法使いらしき人もいるな。さては、この世界では、魔法というものが存在するのかもしれない。一度、この目で、魔法を使うところを見てみたいな。誰か、魔法使ってくれないかな》
東風谷が、そんなことを考えていると、タイミングよく誰かが、叫び声を上げます。
「幻獣園から、ドラゴンが逃げ出した!みんな、逃げろ!」
鬼気迫る叫び声から、ホラ吹き男ではなさそうです。男の言葉を聞いて、先程まで静寂に包まれていた市場が、急に騒然となります。
《ド、ドラゴンだって!?まさか、こっちに、来るのか。それってヤバくない》
ドラゴンと聞いて、東風谷は、焦りと不安を抱きます。それは、市場にいる人も、同じようで、一斉に、遠くの方へ逃げ出します。
すると、地面が激しく揺れたかと思うと、赤色のドラゴンが、鋭い牙を覗かせながら、背中の両翼を使って派手に、登場します。充血した鋭い眼からして、かなり、ご機嫌ななめです。逆鱗を触れたのは誰だと問い質したくなりますが、それどころではありません。気持ちが収まるまで、ドラゴンは破壊の限りを尽くすことでしょう。
《マジで、ドラゴン出てきちゃったよ!俺、動けないんだけど、どうしたらいいの?そうだ、武器屋のおじさん......てっ!?もう、逃げてるし!》
武器屋の商人は、市場が騒然になった時に、躊躇なく、一目散に逃げ出していました。
「仕方がないな。僕の出番かな。面倒だけど、やるか」
魔法使いの少年ティルが、ドラゴンの威圧的な体躯にも動じずに、言いました。少年以外の魔法使いは、怯えているにもかかわらず、彼の表情は余裕すら感じます。
《おっ!?凄そうな奴が出てきたぞ。魔法使いの格好をしているな。もしかして、魔法であの凶暴なドラゴンと渡り合うつもりなのか》
実はこの少年、ティルは、神童と呼ばれるほどの魔術の天才です。見た目も爽やかなイケメンであるため、多くの女性の味方と多くの男性の敵がいます。
ドラゴンは、市場のお店や荷物を、押し倒しながら、ティルの方に、ものすごい勢いで迫っています。なんと言う迫力。普通の人なら、圧倒的な威圧感で冷静ではいられません。逃げの一択です。