02_落胆
《や、やったぞ!手に取ってくれた!ここで、お眼鏡に叶えば、ここから抜け出すことができる。早く、ここから旅立たせてくれ》
ですが、やはり簡単には東風谷の思っている通りにはなりません。騎士団の一人は、嫌らしい笑みを浮かべて、周りの騎士団に錆び付いた東風谷を見せました。
「おい、この剣みろよ。刀だぜ。異国の剣だ。すっかり錆び付いてる。使い物にならないね。細くて、すぐに折れるんじゃないのか」
刀の東風谷は、表情がないので、何も見た目は変わりませんが、内心は、落胆と苛立ちが、入り混じって、最悪の気分です。
「ほんとだな。錆び付いてる。そんな刀、どこの誰が買うんだよ」
「言えてるぜ。この店には、ろくなものが無さそうだな。他の店に行こうぜ」
「そうだな」
騎士団たちは、散々悪口を言った挙げ句、東風谷を投げ捨てるように、台の上に置いて去っていきました。態度の悪い客ですが、武器屋の商売人は、相変わらず、新聞を読んでいて、騎士団が来たことにも気づいていません。老眼なのか、顔が新聞に引っ付くか引っ付かないかの距離にあります。
《なんだ、なんだ、あいつら。俺の悪口ばかり、言ってたな。あんなやつらに拾われても、ろくなことにならないだろうから、よしとするか。そういえば、俺のことを刀って言うてたな。俺は、どうやら刀に生まれ変わったらしい。生まれ変わったばっかりのほやほやなのに、すでに錆び付いてるって一体どういうことなの!》
騎士団が去ってからは、お店に来る客すら現れません。次第に、活気に溢れていた市場の人通りも少なくなっていき、日が沈んでいきます。商売人も、あくびをすると、お店を閉めようと、椅子から立ち上がります。
《はあー、結局、今日は、誰にも拾ってもらえなかったな。明日、拾ってもらえれば、いいのだが。なかなか厳しいだろうな。まあ、まだ始まったばかりだ。心配するのは、まだ早いだろう。いつかは、俺の持ち主が見つかると思って頑張ろう。いつになるか知らないけれど......》
結局、この日は、お店は閉まり、ただ、台の上に置かれるだけの一日でした。何かすることがたくさんあるのも辛いですが、何もすることがないのも、なかなかに、しんどいものですからね。今日みたいな日が続けば、東風谷の精神は、鋼のように固くなるでしょう。
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