06_守るべきもの
キリナが、男性が多い騎士団に入ったのには、理由がありました。幼い頃に、母親を魔族に殺され、母親が亡くなってからは父親に育てられています。自分と同じように苦しむ人をこれ以上、増やさないために、騎士となって、魔族と戦う道を歩むことになったのです。
彼女は、キリナには、守りたいものがある。自らの信念を持って、今を生きている。それに比べて、俺はどうだ。
騎士団の仲間と、仕事終わりに、酒場で、飲むことになり、盛り上がっている中、カラドは、一人だけ、下を見てそんなことを考えていました。
「どうしたの?そんな悲しい顔をして」
心配そうにキリナが、カラドに話しかけます。キリナが騎士団に入ってから、顔は合わせることはあっても、まともに面と向かって話したことがありませんでした。
まさか、キリナの方から話しかけて来るとは思っていなかったので、カラドは、驚きとともに喜びを感じました。
「何でもない。気にしないでくれ」
「そう、私には、何か悩んでいるように見えたけれど」
キリナの心配そうに見つめるつぶらな瞳に、カラドは、恥ずかしくなり、顔を赤らめます。しかも、かなりの至近距離で、見つめられてなくても、緊張してドキドキしてしまいそうです。
「俺には、守るべきものがない。何のために剣を振るのか分からないんだ。なんとなく、剣士ってかっこいいから、なっただけで、君のように、何か目的があるわけじゃない」
内心、ドキドキしながらも、落ち着いた口調で平静を装い、カラドは答えました。
「守るべきがないか......剣士失格ね」
キリナの思わぬ言葉に、カラドは、心が揺らぎます。剣士失格なんて言葉は、誰からも言われたことがありません。心を金づちで打たれたような、衝撃が走ります。
「はっ、そこまで言うことはねーだろ!俺は、剣士に確かに向いてないかもしれねーがな」
「冗談よ。あなたには、ちゃんと、守るべきものがあるじゃない」
キリナは、酒場で、楽しそうに何気ない会話をし、お酒を飲み頬を赤らめた仲間の姿を見ます。カラドも、そんな仲間たちの様子を、見て、自分の大切なものに気づきます。
そうか。俺が、守りたいものはこいつらだ。ないと思っていたが、ずっと、近くにあったんだな。
次回は、7月29日に投稿予定です!




