02_異世界転生
自分の意識が残る限り、握り続けてやる。
絶対に。
何度も、蹴られ、意識がいつ途切れてもおかしくないにも関わらず、手首を握り続ける東風谷の執念と気迫に、男は、動揺します。
「ど、どうしてお前は、誰かのために、そこまで頑張れるんだ。お前のような人間もいるんだな」
「あそこだ。人があそこで襲われてる」
どこからか、誰かの叫び声が響きます。
「何をしているお前!!!」
警察の格好をした人たちが、ナイフ男に向かって言います。
「や、やばい。警察がくる」
実は、周囲の人が、男がナイフで襲うところを目撃しており、警察に連絡していたのでした。
「ち、近づくな!!!う、うああああああ!!!」
ナイフ男は、何人か駆けつけた警察に、ナイフを突き立てて抵抗しますが、警察の一人が拳銃を取り出し、男の足を撃ちます。
「い、痛いいいいいいい!!!」
「捕まえろ」
ナイフ男が、銃に打たれ、正気を失っている間に、警察の人たちが、抑え込みます。
「う、ううううううう」
叫び声を上げるナイフ男を警察の人たちが捕まえたのを確認すると、東風谷は、意識が朦朧とし、視界がせばまっていきます。そこに、何度も話しかける明日乃の声が響きます。
「東風谷くん、東風谷くん」
東風谷は、明日乃に、返事を変えそうとしますが、体の力が全く入らず、口を動かすことすらできなくなっていました。明日乃の声を聞くことしかできない辛い状況です。東風谷は、視界が狭まる中、明日乃が傷ひとつついていない様子を見て安心します。
良かった......あいつに傷つけられてなくて。
もう疲れたよ。
かっこよく、終われたし、まあ、いいか。
死んだら、小説みたいな展開にならないかな。
そして、視界は真っ暗になり、鼓動を続けていた心臓も、完全に止まってしまいます。
東風谷将明。彼の物語は、これで終わった訳ではありません。これから、始まるのです。彼の新しい物語がーー。