01_不穏な屋敷
数年前ーー。
クアルスター帝国郊外にある荒れ地に、空を覆う曇天から驟雨が零れ落ちます。
荒れ地には、力尽きてもなお剣を握り続ける屈強な剣士たちの亡骸が横たわり、一人の少年が、虚ろな目で、曇天を眺めます。
「うああああ!!!どうして、俺は何も守れないんだ。俺が、俺が、今までやって来たことは、一体、なんだったんだ!!」
血に染まった、両手を顔に押し当てたせいで、少年の顔には、べっとりと、血がこびりついています。少年の名は、カラド。
彼の目の前には、かつて自分を愛してくれた女性剣士の亡骸が転がっていました。
「お前がやって来たことは、すべて無駄なことだったのだ。どんなに努力しても、どれだけ神に祈っても、圧倒的な力の前では、すべてが無意味。気づけ、カラドよ。お前が求めるものは破壊の先にある」
カラドの目の前に、突然、現れたフード姿の男は、カラドにじんわりとした声で話しかけました。
「そうだ、努力したって、結局は報われない......」
「壊してしまえ」
「何もかもめちゃくちゃにしたい。この世界の理不尽ごと壊してしまいたい......」
「今から生まれ変わるのだ!」
「俺は、生まれ変わる。今までの俺なんていらない。弱い俺なんて、消えてしまえ!」
フード姿の男は、聖剣ボルグを片手で、構えると、横に振り、カラドの首を切り落とします。亡骸から、零れ出た血液を曇天から降り注ぐ驟雨が、優しく流していきます。
「お前さんは、妖刀じゃからのう。普通の刀は、魔力や意思をもたぬが、お前さんのように、魂が宿った刀には、力が宿るんじゃよ。ちなみに、人に宿る力を魔力、ものに宿る力を霊力と呼んでおる」
レイブは、カゼキリに、言います。
《俺、妖刀だったのか。ただの刀じゃない感じがいいな》
カゼキリとレイブが話していると、村の子供たちが、元気な声で楽しそうな声をあげて遊んでいる声が聞こえました。
「わぁ、蝶々だ!蝶々!」
「ほんとだ!きれいな蝶だな」
子供たちは、どうやら優雅に宙を踊る蝶を追って走り回っているようです。和やかな雰囲気に、カゼキリとレイブは、心に温みを感じて眺めています。すると、子供たちの母親がやって来て子供たちに言います。
「あんまり騒がないの。 周りに、迷惑がかかるから」
母親の優しくて力強い一言に、子供たちは二人揃って、言いました。
「はーい」
「はーい」
子供たちの母親は、レイブたちが見ていることに気付き、軽くお辞儀をして子供たちと手を繋いで、どこかに去っていきました。
《いい村だな、じいさん》
「ああ、ずっとこんな平和が続いてほしいものじゃのう」
レイブは、笑顔を浮かべながら、カゼキリにそう言うと、再び歩き出します。その時、カゼキリは、先ほど舞っていた蝶がクモの巣に引っ掛かっているのが見えました。脱け出そうと羽ばたいていますが、抜け出せないでいます。
《あっ!?蝶々が......》
カゼキリは、気づくも、レイブは、蝶々に気づかず、そのまま、歩いて、家に向かいます。
「ようやく、着いたぞ。ここがわしのうちじゃ」
しばらくして、レイブは、立ち止まりました。目の前には、大きな和風の屋敷が、立っていて、周りは、壁に囲まれています。正面にはひとつ、出入り可能な大きな門があります。羽振りのよさを感じる、なかなか広い敷地面積です。
《ここが、じいさんの家なのか!!立派な屋敷だな。ここで、住まわせてもらえるなんて、ありがたやー、ありがたやー》
レイブは、屋敷の門のとなりの小さな扉を開き、入ります。大きな門があったので、そこから入ると思わせておいて、実は小さな扉が入り口というフェイクを、入れてきます。
「どうした!!クスカ」
屋敷の敷地に入ると、レイブの叫び声が響き渡ります。彼は、血相を変えて、いつもの冷静な様子と変わって、とても当惑しているように見えます。
レイブの視線の先には、木陰に地を流しながら、もたれかかっている少女の姿が、ありました。何者かに襲われたようです。息はあります。辛うじて生きています。折れた剣を、抱き抱えて、悔し涙を浮かべています。
《これは、なにがなんだか分からないが、大変な事態になっているみたいだな》
あわてて、もたれかかるクスカのもとに、レイブは、近寄ります。すると、クスカは、口を開き話始めます。
「あいつが来たの。生きていたみたい。お母さんが危ない。助けにいかないと」
そう言って、クスカは、折れた剣を使って立ち上がろうとしますが、ぼろぼろになった体では、立ち上がることも一苦労です。このような状態では、剣を振ることすら、ままなりません。
「あいつとは、誰のことじゃ......」
次話は6月4日に投稿予定です!一難去ってまた一難。レイブの孫のクスカを襲ったのは、何者なのか。今後も、物騒な異世界ライフが続きます。




