08_記憶の欠落
《やっぱり、俺の声は、じいさん以外には、届かないんだな。あのティルとかいう生意気な魔法使いにも、俺の声は届かなかったし》
東風谷は、意志疎通を図ることができる人物が、少ない現実を改めて思い知らされて、悲しくなります。転生する前は、当たり前のように、人と話をしていたので、無理もない話です。転生した後でも、大切な家族や友達、恋人のことが頭によぎります。ちなみに刀の頭は、どこなのかは知りません。想像にお任せします。
「落ち込むことはない。わしが、いつだって、話に相手になってなるわい。それに、クスカもいるしのう」
レイブが、笑みを浮かべ、東風谷を慰めます。
《ありがとう!!その言葉だけで救われたよ。孫のクスカは、俺の声、聞こえるのかな》
レイブの申し出を受け入れて、孫のクスカの刀になれば、東風谷はクスカとともに過ごす日々は、必然的に多くなります。クスカと話ができるのは、気になるところですよ。
「うーん、それなんじゃが、おそらく、クスカには、お前さんの声は聞こえんだろうな。まだ、刀の声が聞こえるほど、実力が伴っておらんのじゃ」
《そうか......話ができたらなと、期待したんだけどな。そんなに現実は甘くないか》
「そう、落ち込むでない。クスカが話ができないのは、今の話じゃ。クスカには、素質があるんじゃ。きっと、いつか、お前さんの声を聞けるまで実力をつけると期待しておる」
《早く会ってみたいな。じいさんの孫、クスカに。気が合えばいいんだけどな》
「そうか、そうか。早く孫に会いたいか。クスカは、ワシのうちにおる。今から、お前さんを持っていこうかのう」
レイブは、東風谷を片手に持って、村の郊外にある彼の家に向かいます。
《おっ!?ここから、やっと動けるのか。助かるよ。じいさん》
武器屋のなかで、ずっと過ごすことになると思われた東風谷ですが、やっと、市場から移動することができます。持ち主もできて、なかなか順調な様子。
「そういえば、お前さんに自己紹介がまだだったな。ワシの名はレイブ。昔は剣士をやっとたが、今は剣士を止めて、村の郊外で娘や、孫たちと過ごしておる」
レイブは、村の郊外にある家に歩きながら、東風谷に話します。
《そうだった。俺も自己紹介しないといけないな。俺の名前は.....あれ、どうしたんだろう、思い出せない......俺の名前ってなんだったかな》
東風谷は、自分の名前を思い出せなくなっていることに気づきました。自分の名前だけでなく、前世の記憶が、ぼんやりとなって、生まれ変わってすぐは、鮮明に思い出すことができた、大切な人たちの顔すらも、今では、思い出すことができません。
《おかしいな。俺は、俺は何者なんだっけ?》




