4話 水曜日
「藤宮君……えっと……あの……」
「こんにちは。土師さん」
「あっ……こんにちは。藤宮君。ごめんね、昨日は変な事言っちゃって……きっと藤宮君も気になったよね……私が同じことされたら、絶対気になって眠れなくなっちゃうと思う……ごめんね。でも、私、どうしても言うのに勇気がいる事で……昨日、『明日絶対話す』って約束したから、今日は話せるけど……うん。私、約束は守れるんだ。出来ない約束は守れないけど……あっ……ごめんね。早速……話すけど、えっと、嫌だったら断っていいからね。……実はね、昨日学校の七不思議を話して、その中に……自習室に深夜幽霊が出るって奴があったけど……それを私、今日検証してみようと思っててね。自習室でずっと夜まで待ってて……それでもし自習室に幽霊が出たら、藤宮君も不死身になってる可能性が高いと思って……内側からカギ閉めとけば多分バレないと思うし……でも私やっぱり幽霊とか怖くて……だから、藤宮君も一緒にいてくれないかなって思って……藤宮君が一緒にいてくれたら、怖くない気がして。ああ、嫌だったら大丈夫だよ。ごめんね。こんな事言っちゃって……」
「面白そうだね。実は俺……最近、土師さんの影響なのか、色んなことが気になるようになって……勉強もちゃんとするようになったんだ。それと、自分の事も……俺が不死身なのかどうかも気になって来たんだ。だから今日は俺も自習室にずっといるよ」
「ほんと!? 良かった……あのね、私カロリーメイトも持って来たし、あと水もいっぱい持って来たし、ウェットティッシュも持って来たんだよ。これで体を拭いたら、一日くらいお風呂に入らなくても大丈夫だと思って……もちろん藤宮君の分もあるよ。あと、好きな本とかもいっぱい持って来たんだよ。ほら、カバンがパンパンになってるでしょ? 楽しみだなあ……藤宮君といつもよりずっと一緒にいられて……幽霊も出るかも知れないし……それに夜だから暗いんだよね……すごく楽しみだよ……ただね、お母さんには怒られちゃうかも知れないね。友達の家に泊まるとは言ってあるけど……藤宮君は大丈夫?」
「大丈夫」
「そっか……良かった……あとね、タオルケットも持って来たんだ。この紙袋に入ってるよ……でもね、ごめんね……一枚しか入らなくて……一枚しかないの。だから……あの……これは、後で言うね。……ごめんね。なんか、ドキドキしちゃうね……こんなにドキドキしちゃうって事は、やっぱりクオリアってあるんだよね。クオリアがなかったら、きっとこんなにドキドキしないと思うから。藤宮君は……どうかな? やっぱりドキドキしてるの?」
「してるよ。すごく楽しみだよ」
「そっか……そうなんだ……良かった……。藤宮君は……あっ……これは聞かない方がいいかな……でも……えっと、藤宮君もドキドキしてるって言ってくれて、私すごく嬉しくて……。あっ、そうだ。カロリーメイト食べる? クリーム玄米ビスケットもあるよ。本当は自習室で食べたらダメなんだけど……でも今日くらいなら大丈夫だよね……本当はダメだけど、明日ちゃんと掃除すればいいよね。でも……なんか、ものすごく悪い事してる気がするね。でも、その感じが逆にいいって言う気もするよ。私って、悪い子なのかな? あっ……藤宮君は悪くないよ。藤宮君は私に頼まれただけだから……見つかっても私が無理やり頼んだって言うから……だから藤宮君のせいじゃないよ」
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「藤宮君……夜になっちゃったね……すごく怖いけど……でも藤宮君が傍にいてくれてるからそんなに怖くないよ。……でもね……私……藤宮君にどうしても言っておかなければならない事があって……。本当は言いたくないし、藤宮君も聞きたくないと思うけど……でももしかしたら……あの……とにかく……いつか……バレるかもしれないし……だから……今の内に話しておいた方がいい事だと思って……藤宮君はこの話聞いたら……私の事嫌いになっちゃうかも知れないけど、でも……今のうちに絶対言っておきたくて……あの……藤宮君はどう思う? 言ってもいい? 私が今から話す事、聞きたい?」
「聞きたいな。俺も土師さんの事が気になるから」
「……そっか。そうなんだ……うん。やっぱり気になっちゃうよね。こんないい方したら。私だって、そんな言い方されたら気になっちゃうし……。じゃあ、言うね……。あのね……ごめん。ちょっとドキドキしちゃって……あのね……じゃあ、言うね……私ね……あの……実はね……処女じゃないんだ……。ごめんね。こんな話、聞きたくないよね。藤宮君にとってはどうでもいいよね。でも、どうしても藤宮君には話しておきたくて……あのね、中学生の時に、私ね、どうしても気になっちゃって、その……セックスがどういう感じかって……。でも私なんかとセックスしてくれる人なんか絶対いないと思って……困ってて……そしたら……公園にね……浮浪者のおじさんがいて……そのおじさんがお爺ちゃんに似てて……それで私、カロリーメイトをあげたりして、仲良くして……おじさんも優しくしてくれて……それでね、勇気を出して……言っちゃったんだ。おじさんとセックスがしたいって……そしたら、おじさんが……涙を流しながらすごく喜んでくれて……私も嬉しくなっちゃって……ごめんね……こんな話聞きたくないよね? それで……それでね……ちゃんとコンドームはつけて貰ったけど、おじさんとセックスしちゃって……ちょっと臭かったし……痛かったし……あんまり気持ち良くなかったけど、おじさんがすごく嬉しそうにしてくれて……優しくしてくれて……それで……私は処女じゃなくなったの。それから恥ずかしくなって……おじさんとは会わなくなっちゃったけど……。……ごめん。……なんでこんな話しちゃったんだっけ。でも藤宮君にはどうしても言っておきたくて。私暗いし……可愛くないし……やっぱり……藤宮君は私の事処女だと思ってるかなと思って……もしそうだったら、ガッカリしちゃうかもしれないと思って……ごめん……私の事嫌いになった?」
「嫌いになってないよ。でも、あんまりそういう事はしない方がいいと思う」
「……そうだよね。ごめんね。でも良かった。ありがとう。私の事嫌いにならないでくれて……でも……どうしよう……」
「土師さん。約束しよう」
「……あっ……うん。そうだね、約束すればいいよね。分かった。私ね、あの時みたいに……いきなりセックスしたりとか……そういう事はもうしないから……セックスは……するかもしれないけど……でも……ちゃんと……何だろう……その時は……ちゃんと好きで……その……優しい人とするから……うん。約束するね。えっと……どうしよう……私こんな話しちゃって……恥ずかしくなっちゃって……えっと……」
「土師さん。今白い影が見えたかも」
「えっ? 本当? どこ?」
「あの奥の机の下に……もう見えなくなったけど」
「本当? 私は全然気づかなかったな。……でもちゃんと見てなかったし、藤宮君には見えたのかもしれないね。……すごいね……じゃあ、本当に幽霊がいたって事だよね……ごめん……ちょっと怖くなって来ちゃって……手を握ってていい? ごめん、嫌だったらいいけど……あっ……ありがとう……藤宮君の手とっても温かいね……ごめんね私の手冷たくて……。でも、すごいよね。本当に幽霊がいたって事は、学校の七不思議はやっぱり正しくて……藤宮君も不死身って事になるのかな? もしそうだったらすごいよね。藤宮君はどう思う?」
「幽霊じゃなくて、俺の見間違いかも知れないし。それに幽霊の七不思議が正しくても、俺が不死身になる七不思議が正しいとは限らないよ」
「そっか……そうだよね。でも、可能性でいったら、やっぱり藤宮君は不死身になっている可能性が高くなったと思うんだ」
「そうかもね」
「どうしよう……藤宮君が不死身だったら……もしそうだったらすごいね……あっ……今何時かな? あっ、もう10時だね。そろそろ眠らないと、明日も学校だしね。眠れるか分からないけど……あっ……それと……一つね、一つ藤宮君の事で気になる事があって……言ったらダメかもしれないけど……どうしても気になっちゃって……それで……あの……藤宮君って私を……オカズにした事あるのかなって……思って……ごめんね。嫌だったら答えなくていいけど……」
「あるよ」
「そう……なんだ。へぇ……。うん。ごめんね変な事聞いちゃって……どうしても気になっちゃって……何か……ごめんね私なんか……ごめん。でも、その……うん……えっと……もう、寝ないとね。そうだ、藤宮君は幽霊怖くないの? 私は、何でか知らないけど、変なんだけど、今はあんまり怖くないんだ。藤宮君がいてくれるからかも知れないけど。あっ……ごめんね。そろそろ、眠ろっか。私も、あんまり怖くないお陰で、眠れるかもしれないし」
「うん。おやすみ。土師さん」
「おやすみなさい。藤宮君」