3話 火曜日
「あの……藤宮君……その……えっと……あっ…………」
「土師さん。昨日はありがとね。今日は土師さんがくれた埴輪のストラップをかばんに付けて来たよ」
「あっ……すごい……ありがとう。良かった……これでお揃いだね。でも、私の方が何種類もついててずるいね……今度、犬の埴輪とかもあげるから……もしよかったらそれも付けてね……そしたら完全にお揃いになっていいと思うから……。あとね、さっき藤宮君に話しかけようって思って、すごく思ったんだけど、時間がね、すごく中途半端で、今って……えっと……3時半くらいだけど、この時間だと『こんにちは』っていうのも変な気がして……そもそも学校で『こんにちは』って言うのも変な気がするし……だから藤宮君になんて声かければいいか分からなくて……英語だったら何時でも『ハーイ』とか『ハロー』とかでいいのにね。これが6時くらいになったらもっと大変で、近所の人と会った時に、『こんにちは』って言うのも、『こんばんは』っていうのも完全に変な時間になっちゃって、私何て言えばいいか分からなくて、すごく困っちゃうって事がよくあって……その点藤宮君とかみんなは、うまい事話しかけたりして……すごいなって思うんだ」
「俺も、6時くらいは困る事があるよ」
「そうなんだ……そっか、藤宮君も色々と大変な事が沢山あるよね……ああ、それでね、今日は藤宮君にとっても話したい事があって、あのね……藤宮君はクオリアって知ってる? 中学生の時本で読んだんだけど……クオリアっていうのは、要するに感情とか感覚とかの事なんだけど……このクオリアっていうのはね、実は今の科学では何なのか良く分かっていないんだって。もちろん脳がクオリアに関わっているのは間違いないんだろうけど、どういう原理でクオリアが発生しているのかは分かっていないんだよ。例えばさ、人間そっくりなロボットを作って、叩いたら悲しむようにプログラムしたとして、そのロボットを叩いて、ロボットが悲しんでも、可哀そうだけど、ロボットが本当に悲しんでる訳じゃないよね。でも、人間が叩かれたら、クオリアも痛いって思って、それで本当に悲しくなっちゃうよね。これって当たり前の事なんだけど、科学で解明できないすごく不思議な事なんだよ。私ね、ずっとオカルトとか大好きで、あとファンタジーとかも大好きなんだけど、でも小学生の時……テレビに偉い教授の人が出てきて、怪奇現象とか有り得ないとか、科学で何でも解明できるとか言ってきて……それで私すごく悔しくなっちゃって……そんな事ないって思いたかったんだけど、でも心の底ではやっぱりそうなのかなって思っちゃって……それからあんまりオカルト番組とかも楽しめなくなっちゃって……でもね、科学で解明できないオカルト現象が、私達の一番身近なところにあるんだよ。それがクオリアなんだよ。灯台下暗しだよね。……すごいよね。科学ではとりあえず『クオリアみたいな怪奇現象はあるかもしれないけど、現実世界に影響を及ぼす事はない』って事にしているんだって。なんかちょっと無理がある気がするよね。私すごく嬉しくなって……やっぱりオカルト現象はあるんだって思ったらすごく嬉しくて……嫌いになってた勉強とかも好きになったんだ。でも、いずれはクオリアの正体も証明されちゃうかも知れないよね。そう考えたらちょっと寂しいけど、でもそうなった時の為に、私もっと科学で説明でき無さそうな事知りたいなって思って……それで沢山勉強してるんだ。でもちょっとおかしいよね。科学を勉強してる人って、普通分からない事を解明する為に科学を勉強しているのに、私は科学で分からない事を見つける為に科学を勉強しているんだよ」
「土師さんは偉いね。たくさん勉強出来て。俺も最近頑張って勉強しているけど、中々ついて行けなくて」
「あっ……ごめんね……藤宮君……なんか偉そうな事言っちゃって……あのね、私、出来たら藤宮君に勉強教えてあげたりしたいんだけど……人に教えるの、すごく苦手で……ごめんね……そうだ……あのね、勉強についていけないと思ったら、先生の話を聞かないで、自分の興味がある事勉強したり、ちょっと前の所を勉強しちゃうのもいいかもしれないと思うよ……駄目だったらごめんね。でも、ちゃんと勉強してる人あんまりいないし……こっそりスマホとかやってる人もいるし……だから前の所を勉強してても先生は怒らないと思うから……怖い先生だったら駄目だけど……鮫渕先生とか……怖くて私ちょっと苦手で……その点山下先生は、優しくていいよね。でも、優し過ぎて怒らないから……みんないっぱい話しちゃって、それで授業があんまり聞こえなくて困っちゃう事もあるんだ……それとね……そうだ、藤宮君の事なんだけど、やっぱり私藤宮君の事が気になっちゃって……それでね、いい事考えたの。藤宮君の親戚とかで、滝高に通ってて……それで4組になった事ある人とかいない? もしそういう人がいて、その人が不死身だったら、藤宮って苗字の人が4組になったら不死身になるって言う噂が本当って事になると思って、それで聞いてみたんだけど……」
「俺は名古屋から引っ越して来たし、埼玉に親戚は居ないね」
「あっ……そっか……ごめんね。いいアイディアだと思ったんだけど。でももう一つすごい手がかりがあってね、実は私、最近木下さんと仲良くてね……話した事は無いんだけど、たまにお手紙を渡し合ってるんだよ。何でかって言うとね、木下さんが入学した時の自己紹介の時にオカルトが好きだって言ってたから、学校の七不思議にも詳しいかなと思って……それで七不思議の事木下さんに聞いてみようと思って……でも恥ずかしいし……ちょっと……失礼かもしれないけどちょっと怖いから……手紙を出して聞いてみる事にしたんだ。そしたら手紙を返してくれて、きれいな字だったよ。それで、木下さんが七不思議の事を色々教えてくれたの。なんで七不思議の事知りたかったかって言うと、あの……藤宮君が不死身かどうかは確認できないけど……でも他の七不思議が当たってたら藤宮君も不死身な可能性が高くなるかなって思って……それで七不思議を検証してみようと思ったんだ。いろんなのがあるんだよ。校庭の地下に怪しい施設があるっていうのと、封鎖されてる屋上に勝手に入ると9年後に死ぬのと、あと4組の藤宮君が不死身になる奴と……えっと……あと……そうだ。プールの水が年明けの瞬間に血みたいに赤くなる奴と……校庭の桜の木をわざと傷つけると20年後に死ぬのと、生徒手帳を人体模型に渡してお願いすると持ち主が死ぬ奴と……それとね……最後の奴がすごくて……この自習室に、深夜になると幽霊が出るんだって」
「それは怖いね」
「あっ……やっぱり藤宮君も幽霊とか怖いんだ……ごめんね、怖がらせちゃって……でも、私も怖いけど、やっぱり幽霊とかいて欲しいって思うんだ。何でか知らないけど、幽霊なんていないって言われたら……お母さんにもそういう事言われたんだけど……すごく嫌な気持ちになっちゃって……やっぱり、科学で解明できない事があって欲しいんだ。それでね……その……えっと……やっぱり……明日話すね。ごめんね、気になっちゃうよね藤宮君も。でも、今日はちょっと……えっと……ごめんね……明日は絶対話すから……」