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2話 月曜日

「土師さんは、埴輪が好きなの?」


「あっ……えっ……うん。……私ね、埴輪が好きなんだ。……あと、私、縄文時代とか弥生時代とか古墳時代とかが好きで……良く分からなくて、気になっちゃう所が好きで……気になったら好きになっちゃって……それで埴輪が特に好きで……可愛くて優しい感じするし……絶対優しい人が作ったと思う。縄文土器とかだと、何だか怖いのもあるけど、埴輪は絶対優しい人が作ったんだよ。……何となくだけど。そんな感じするよね。それでね、私、粘土の土に師匠の師でハジって読むっていう……珍しい苗字でしょ。これ何でかって言うとね、私のご先祖様はね、偉い人が亡くなってお墓を作るとき、一緒に殺されてた人がいたんだけど……その人が可哀そうだと思って、人の代わりに埴輪を埋める事を考えたんだって。それで埴輪を作る様になって、土師って名前を偉い人から貰ったんだって。最初はハニシって読みだったみたいだけど……今はハジとかハゼって読むんだよ。あとね、ハニっていうのは、埴輪を作るのに使う粘土の事なんだって。おじいちゃんが教えてくれたんだ。おばあちゃんはそんなの嘘だとか笑ってたけど、私はずっとその事信じてるの。……うん。私お爺ちゃんが大好きなの。海のおじいちゃんは苦手だけど……お父さんの方の……山のお爺ちゃんは大好きなの。でも……もう死んじゃって、すごく悲しくて、私沢山泣いちゃったの。お爺ちゃんが骨になっちゃって、それを見るのもすごく辛かった……でも私……あの骨がお爺ちゃんだとはどうしても思えなくて……だって全然似てないから……お爺ちゃんはもっと太ってたし……顔も全然違うし……本当はお爺ちゃんがどこかで生きてるんじゃないかって、ずっと思ってるの……えっと……ごめん何の話だったっけ……そうだ、埴輪の話だったよね。お爺ちゃんが、私にご先祖様の事教えてくれて……人を埋める代わりに埴輪を埋める事を考えたすごい人で……お爺ちゃんみたいに……とっても優しい人だと思うんだ。あと埴輪もね、埋められる人の代わりに頑張って埋められて、可哀そうだけど、すごく優しいと思う。だからあんなに優しい顔をしていると思うんだ。……あっ……ごめんね。私ばかり話しちゃって……普段は私殆ど話さないんだけど、話しだしたらこうやって沢山話しちゃうの。ごめんね。藤宮君はどう? あの……どう思う? えっと……埴輪の事だけど……」


「俺も埴輪好きだよ」


「そっか。……良かった。じゃあ一緒だね。……何だか嬉しいな。そうだ、あの、ずっと思ってたんだけど、藤宮君って名前に藤が付いてるから、中臣鎌足さんの子孫なんだよね。図書館の本で読んだよ。中臣鎌足さんは大化の改新をやって、蘇我入鹿を倒したんだよね。そして、中臣鎌足さんは偉い人に褒められて、ご褒美として藤原っていう苗字を貰って、藤原鎌足になったんだって。それでね、名前に藤が付いてる人は藤原鎌足さんの子孫なんだって。すごいよね。藤宮君もきっと藤原鎌足さんの子孫なんだよ。私のご先祖様も埴輪を作ったりしててすごいけど、藤宮君のご先祖様もすごいよね。宮がついてるから、神主さんだったのかも知れないね。……そうだ。あの……藤宮君はおじいちゃんとかから何か聞いたりしてない?」


「普通に農家だったみたいだけど」


「……そうなんだ。でも……あの、そっか。でもきっと、藤宮君の遠いご先祖様は、神主さんだったんだよ。宮がついてるから。きっと。烏帽子をかぶって、白い着物を着て、白い紙が付いた棒を振り回してお祓いしてたんだよ。きっと。そしてもっと遠いご先祖様は、中臣鎌足さんなんだよ。ああ、そうだ。藤原道長さんもだよね。藤原道長さんって知ってるよね? あの、朝廷を牛耳って……満月を見て偉そうな和歌読んだ……あっごめんね、藤宮君のご先祖様の悪口言っちゃって……ごめんね……でも、いい人もいっぱいいたと思うから……でも、そう考えたらすごいよね。……そういえばデンチュウ君も……デンチュウ君は自分の苗字が嫌いとか言って、みんなにデンチュウ君って呼ばせてるけど、田中って苗字もすごいよね。田んぼの中できっと一生懸命働いていたんだよ。だから田中って名前になったんだと思う。きっとデンチュウ君のご先祖様はすごく働き者だったんだよ。そう考えたらすごいし面白いよね。……えっと……別にデンチュウ君の事が好きって訳じゃないんだけど、あの……でもすごいと思って、私ね、こうやっていつも色々と気になる事考えちゃって……そうやって考えるのがとっても楽しいの。だから勉強も好きで、もっといろんな事知りたいなって思って……それで、藤宮君の事ももっと知りたくて、えっと……ああ……ごめんね……変な事言っちゃって……とにかくね、私、勉強が大好きなんだ。……でもね、私……テストが大嫌いで、本当に世界一大嫌いで……だって、私なんかテストでいい点取れても、全然ダメだし、お母さんもそう言ってたし、私って何やってもダメで……どんくさいし……可愛くないし……全然話したりもできなくて……今はちょっと出来てるけど……藤宮君は……その……特別で、とにかく私、家族と藤宮君以外とはうまく話せなくて……。そんなダメな私がテストでいい点とって、他の人を蹴落として、いい大学に入ったりいい会社に入ったりして、それで結局馴染めなくて辞めちゃって……そんな事になっても誰も得してないし……そんなのだけは絶対に嫌なの……でも、絶対そうなるに決まってるの……だから私ね、テストの時毎回わざと低い点取ってるの。補講は面倒だし、お母さんは怒るけど、ちゃんと補講受けたら赤点でも卒業させてくれるって先生言ってたし、多分大丈夫だと思う。あっ……そうだ……あの……えっと……藤宮君は……勉強好き?」


「俺はあんまり好きじゃないかな。でも、土師さんの話聞いてたら勉強の事好きになれる気がして来たよ。知らない事を知るのは楽しいからね」


「そうだよね。いろんな事知るの楽しいよね。私ね、宇宙の事も好きなんだ。宇宙っていっぱいいろんな星があって、殆どダイヤモンドで出来てる星とかもあるんだって。ダイヤモンドの基になる炭素が沢山あって、恒星の近くでとっても熱いから、熱さで炭素がダイヤモンドになっちゃって……それでダイヤモンドがいっぱいあるんだって。地球の二倍くらい大きの星なんだよ。すごいよね。私ね、ダイヤモンドも好きなんだ。だって、ダイヤモンドの基になってる炭素って、炭とか鉛筆の芯とか、黒っぽい感じなのに、ダイヤモンドはキラキラしてて全然炭とかと違っててすごいよね。分子構造が違うからそうなっちゃうんだって。あと、ダイヤモンドって光の屈折率がすごくて、ダイヤモンドの中でいっぱい反射して、それであんなにキラキラして見えるんだって。そうだ、光が何で屈折するか知ってる? 水とかに光が入ったら、光が遅くなっちゃうからなんだって。あとね、宇宙の話だったよね。宇宙には公転周期が1時間くらいの惑星とか、逆に3億日くらいの惑星とかもあるんだよ。地球の公転周期が1年くらいだから、そう考えたらすごいよね。1年が一時間になったり、3億日になったりしたら大変だよね。そんな感じで宇宙にはいろんな星があるから、きっと宇宙人もいるんだよね。うん。私は絶対いると思ってて……でも、宇宙人がいるならなんで地球に来てくれないんだろうね。それも動画で解説してあるの見たよ。宇宙人が地球に来てくれない理由には、いろんな説があるんだって。いるけど、来られないかも知れないんだって。うん。私、本読んだり、ネットでいろんな解説動画見たりしてるの。すごく楽しいんだよ。それ見てから勉強がもっと好きになって、授業も楽しくなったの。でも、学校はあんまり好きじゃないかな……あっ……でも……今は……あの……自習室の……えっと……今はすごく楽しいけど、でも、とにかく自習室はすごく好きで……あっ……そうだ、藤宮君は宇宙人っていると思う? あっ……でも宇宙人って言ったら失礼かも知れないよね。だって宇宙人からしたら私達の方が宇宙人だもん。かといって地球外生命体とかだったらちょっと硬い感じになっちゃうし……地球の外の人って言った方がいいかもしれないね」


「俺もいると思うよ。でも、地球人とは全然違う感じだと思う」


「そっか……そうだよね……私達とは、全然考え方とかも違うのかもしれないね……そもそも、生物じゃないかも知れないね。情報で出来てる生命体とかなのかも知れない……そういえば、藤宮君はどうやって生物が誕生したと思う? 不思議だよね。偶然とか言われてるけど、偶然生物が生まれるなんてちょっと信じられないよね……これね……別の星とか宇宙とかから、ウィルスの死骸とかが……ああウィルスは厳密には生物じゃないんだけど……とにかくそれが宇宙を流されて地球に飛んできて、それを基にどうにかして生物が生まれたとか言われてるんだって。それだったら、まだ可能性あるかなって思うんだ。別の宇宙とかなら永遠みたいな時間があって……すごい偶然が起きてもおかしくないもんね。でも、それだったら私達もやっぱり宇宙人って事になって、すごいよね。……あっ、もうこんな時間になっちゃった。そろそろ帰らないとお母さんに怒られるから帰るね……うん……お母さんはあんまり好きじゃないんだ……でも、好きなところもあるよ。お母さんが作ってくれるフレンチトースト、美味しいし。そうだ、あのね、えっと、この埴輪のキーホルダーなんだけど、一個あげてもいい?」


「ありがとう」


「うん……やった……あの……どういたしまして。ありがとう。藤宮君。あのね、私この踊ってるみたいなフニャフニャしたポーズの埴輪がすごく好きで……埼玉で出たやつなんだよ。……あとね、犬とか牛とか馬とかも好きで……ほら……見て、私のカバンに付いてるこれだよ。すっごく可愛いでしょ? あと、家にあって今は無いけど……鎧付けてる兵隊さんも好きで、みんなすごく優しそうで、絶対私のご先祖様が作ったんだよ。藤宮君にも一個持っていて欲しくて……ごめんね、迷惑だったら。でも、藤宮君も埴輪好きって言ってたよね。……あっ……でも、そんなに好きじゃ無かったらごめんね」


「普通に好きだよ。明日から、カバンに付けていくよ」


「ありがとう……藤宮君っていつもすごく優しくて……私いつも嬉しくなっちゃって……あっ……ごめんね、変な事言っちゃって、それで、私ずっと藤宮君の事がやっぱり気になってて、学校の七不思議で、藤宮って苗字の人が4組に入ったら不死身になるって話で……藤宮君が4組だから不死身なのかなっていう事なんだけど……それで思ったんだけど、藤宮君って4組に入ってから、怪我の治りがすごく速かったり、怪我しても血が出なかったりとか、そういう事は無かった? もしあったとしたら、藤宮君が不死身になってる証拠になるかも知れないって思って……」


「別にそんなことは無いよ」


「そっか……やっぱり関係ないかもね……でももしかしたら、一回死んでから別の場所で復活したりするのかもしれない。それか、死んだという結果自体を無くしてしまうのかもしれないね。私ね、ずっと藤宮君の事ばかり考えちゃって……ごめんね。藤宮君の事勝手に考えたら、藤宮君に悪いかなって思うんだけど、頭が勝手に藤宮君の事考えちゃって……あっ……そうだ……もう時間だった……えっと……」


「じゃあね、土師さん」


「あっ……うん。さようなら。また明日も会おうね。藤宮君」



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